カテゴリー
コラム

値上げを成功させるプライシング戦略|事例から学ぶ効果的に売上を伸ばす考え方

事業者の皆様は普段値上げにどのように取り組まれているでしょうか?

値上げはうまく行えれば大きな効果をあげられますが、一歩間違えると大きな損失を巻き起こす可能性の高い諸刃の剣のようなものです。

この記事では「値上げ」を様々な方面から解説します。


プライシングスプリント

値上げ戦略の重要性

値上げ戦略を成功させた場合、想像以上のインパクトをもたらします。
1%の値上げを行い、顧客離れが起きなかった場合、最大12.8%の収益改善効果があると言われているのです。

しかし、値上げにはメリットがあることを承知でも、事業者にとって実際に実行するのは怖いものです。

単純に購買数が減るかもしれない…。
もしかしたら値上げの事実によって顧客からの印象が悪くなるかもしれない…。
なのに、どの商品を何円値上げすれば良いのかわかない…。

など様々な懸念点があげられると思います。

そんな値上げを成功させるためには、「顧客離れを防ぐ」ことが重要です。

そのため、企業は顧客離れを防ぐための値上げ戦略を考えなければいけません。

今回は値上げ戦略を3つ具体的なテクニック・事例とともに紹介します。

値上げを成功させる戦略1.支払意欲の把握

支払意欲の把握とは

消費者は、1つの製品に対して、「XX円までなら払える」という、いわゆる「支払意欲」を持っています。例えば、1つ牛丼があったとして、そこに対してターゲット顧客は390円までなら払って良いと思っている、のようなかたちです。

この支払意欲を理解することで、無駄に安く価格設定してしまうことや、高く設定しすぎて顧客が離れてしまうことを防げます。

「支払意欲の把握」の価格戦略

支払意欲を把握した場合、「支払意欲内での値付け」「安すぎる価格からの脱却」「価値の向上に応じた値上げ」という観点から、プライシングの決定が可能です。

1.支払意欲内での値付け

支払意欲を把握することで、適切な値上げが可能になります。
例として、10000人の顧客が牛丼を購入するときの支払意欲で解説します。

牛丼の価格(円) 支払意欲のある人数
(10,000人中)
合計売上(円)
case.1 350 9,200 3,220,000
case.2 390 9,000 3,510,000
case.3 400 7,000 2,800,000

上記の例の場合、支払意欲を把握することで、牛丼の価格が390円のときの「case2」が1番売上が最大になることがわかります。

仮に350円から390円という40円の値上げなら、ほとんど顧客離れが起きずに、100人あたりの売上も3000円近く上昇します。一方、400円まで値上げをすると、極端に支払意欲のある人数が減少するために、売上を下げてしまう恐れがあるのも事実です。「case2」と「case3」では10円の差しかないにも関わらず、売上が大幅に変わってしまいます。

値上げを実施する前に、顧客の支払意欲を事前に把握しておくことで、値上げ幅を確定させて大きな利益があげられます。

2.安すぎる価格からの脱却

顧客の支払意欲は、実は安ければ安いほど高まるわけではありません。実際に複数の分析結果から、顧客にとって「安すぎて買うのをためらう価格」があることがわかっています。

例えば、牛丼の料金が80円で販売されていたらどうでしょうか?もし、品質や業態が他で販売されているものと同じであったとしても、価格が安すぎて、怪しさを感じると思います。

そのため、価格を安くしすぎた結果、顧客の購買意欲を削がないようにしなければなりません。

3.価値の向上に応じた値上げ

商品が同じでも、顧客の支払意欲は不変ではなく、時間とともに変化することがあります。

例えば、SaaSなどのサブスクリプションサービスの場合、新しい機能やコンテンツの追加をした際に、顧客の支払意欲が変動します。

機能・コンテンツの追加が利用者にとって魅力的な改善だと、顧客の支払意欲は向上します。そのタイミングで支払意欲を分析し向上していれば値上げを成功させられるチャンスです。

「支払意欲の把握」事例:東京ディズニーランド

東京ディズニーランドのチケット価格は、なんと開園以来13回もの値上げがされてきました。しかし、ディズニーランドが値上がりしても、来場者数は減ることはなく、むしろ増加しています。

これは、ディズニーランドがその時々の来場者の支払意欲を把握し、それに応じて値上げをした結果です。度重なるコンテンツの追加や、人気の向上は、来場者の支払意欲を高め、そしてディズニーは顧客の支払意欲を把握して値上げを実施しています。

値上げを成功させる戦略2.安値と高値の共存

安値と高値の共存とは

安値と高値の共存とは、値下げと値上げをともに実施する価格戦略です。

値上げによる顧客離れは、単純に「高すぎて検討に乗らない」と感じさせてしまった時だけではなく、「手は出るが価格が不当に高い」と感じられた時にもおきます。つまり、支払う意欲があったとしても、値上げという行為自体が不誠実に捉えられる時があるのです。

ここで紹介する戦略が、そう感じさせないための「安値と高値の共存」です。

値上げをしても顧客のマイナスな感情を引き起こさないためには、値上げだけではなく、値下げも織り交ぜることで、顧客にとっての不利益を感じさせないことが重要なのです。

「安値と高値の共存」の価格戦略

1.顧客の気持ちに寄り添うプライシング

値上げを実施するときに、顧客のマイナスな感情を引き起こさないために、商品Aの値上げと商品Bの値下げを両方実施します。そうすることで、単純な値段引き上げではなく、「価格変更」という印象を顧客に与えることが可能です。

2.キャプティブプライシングの応用

キャプティブプライシングとは、メイン製品を低価格で、付属製品を高価格で販売する価格戦略です。この戦略を応用することで、一部の商品の値上げを成功させ、収益拡大が見込めます。

例えば、カミソリなどの商品は、本体の値段を下げ、何度も購入される刃の値段を上げる価格戦略が行われています。
長期的に買われる付属品を値上げしつつも、本体の値段を下げて購入を促進することで、通常の販売方法より長期的に高い収益が見込めます。さらに、この形式でも「安値と高値の共存」が実施できており、顧客が値上げを不当だと感じにくく、顧客離れが起きにくいのです。

3.ダイナミックプライシングの応用

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。主に需給の変動に合わせて価格変更を行うかたちで活用されており、企業の収益最大化や混雑緩和など、多くの価値を発揮しています。

ダイナミックプライシングを用いると、需要が高い時に価格を上げることで利益率をあげ、一方需要が低い時は価格を下げることで顧客の不信感は抑えられます。つまり、これは時による需要変動を利用した、「安値と高値の共存」です。

さらに、ダイナミックプライシングは、需要によって価格を変更するため、混雑緩和や在庫処分などの恩恵も受けられます。

ダイナミックプライシングについては詳しくこちらで解説しています。

「安値と高値の共存」事例:JR東日本

JR東日本は、コロナ禍によって収益に大きな打撃を受けた企業です。2020年の4月から6月の売り上げは、前年度比2640億円も落ちてしまっていました。

そんな中、収益改善のための値上げを実施しましたが、そこでJRはダイナミックプライシングを検討していることを発表しました。ラッシュ時の価格をあげるだけでなく、混雑しない時間帯の価格を下げることで、人々から反感を持たれずに値上げすることを可能にしています。

値上げを成功させる戦略3.適切な値上げのお知らせ

適切な値上げのお知らせとは

適切な値上げのお知らせとは、値上げの伝え方を工夫する戦略です。

ここまで解説してきた値上げ自体を工夫する方法もありますが、適切な値上げのお知らせも重要になります。

商品値上げをした際の取引先への文章や、世間に対しての説明を真摯に行うだけでも、値上げに対する印象は変わります。

適切なお知らせでの戦略

1.メールでの値上げのお知らせ

メールでの値上げのお知らせは、工夫次第で顧客の印象を高く保つことができます。

まず、心得として、早い通知を心がけましょう。出来る限り前もって通知することで、誠実な印象を与えられます。

ここに、値上げのお知らせの際に必要な項目をまとめました。ぜひご参考になさってください。

値上げ取引先をメールでメールで記載すべき項目

  • 値上げを実施する旨
  • 値上げの対象商品
  • 値上げ開始の日程
  • 値上げ前の価格と値上げ後の価格
  • 値上げに対する考え方の表明(必要に応じた謝罪)
  • 継続しての利用のお願い

2.営業チームへの値上げの浸透

値上げを直接対面で通知してやりとりをする営業チームとの協力は、「適切な値上げのお知らせ」のために重要です。

しかし、実際に販売数の増加が目的であることの多い営業チームは、値上げを嫌うこともあります。実際に売りにくくなる他、取引を行っている企業との関係悪化をもたらす危険性があるため、値上げに反感を持たれるかも知れません。

そのため、実際に営業を行う彼らに、値上げの必要性や、競合と比較した時の値段感、値上げの背景を強く理解しもらい、心から共感してもらうことが重要です。

「適切な値上げのお知らせ」事例:ともえ庵

ともえ庵は都内のたいやき屋です。

2018年1月に、定番商品のたいやきの価格を150円から180円に値上げを発表し、2月に実施したところ売り上げ増加を達成しました。

この価格変更の際にともえ庵は、ブログ上で、値上げの背景や値上げが必要な理由、値上げに関するお詫びなどを長文で行ったのです。顧客に対する真摯な態度が成功の秘訣の1つと言えます。このように値上げのお知らせを工夫することで、顧客離れを防ぐ方法もあります。

参考:エンタメウィークたいやき「ともえ庵」ブログ

まとめ

「値上げ」は大きなインパクトをもたらす一方、「顧客離れ」のリスクを持ちます。この記事では、そんなリスクを回避することで値上げを成功させる戦略を3つ紹介してきました。

しかし、値上げに関しては実際の実行に際して専門家の協力が必要になることは多くあります。値上げや価格に関してお悩みでしたら、ご気軽に一度プライスハックにご相談ください。

カテゴリー
コラム

スキミングプライシング(上層吸収価格)とは|iPhoneの事例からわかる価格戦略

この記事では、スキミングプライシングについてご紹介します。「スキミング」という言葉を聞くと、カードの情報を読み取って不正に使用することだと思っている人もいるかもしれません。

ですが、スキミングプライシングとは、価格設定における戦略の1つであり、不正利用とは全く別の概念になります。スキミングプライシングについて、メリットやデメリット、注意点などを分かりやすく解説します。


プライシングスプリント

スキミングプライシングとは

スキミングプライシングとは、「初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する価格戦略」です。

スキミングプライシングは、活用次第では製品をマーケットに浸透させることができます。スキミングプライシングを行い、マーケットに浸透させていくまでの流れの一例をご紹介します。

ステップ1:新しい製品を早期から受け入れてくれる顧客を探す。
ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、製品の改善する。
ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する。
ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する。

ステップ1:新しい製品を早期から受け入れてくれる顧客を探す

ステップ1の顧客とは、高価格でも買ってくれる層のことを指します。新しい製品に早期の段階から興味を持ち、受け入れてくれる人をターゲットにすることがポイントです。

このような顧客は市場での割合は少ないですが、固定化することが出来れば早期に投資資金の回収が可能になります。

ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、改善する

早い段階から受け入れてくれている顧客から評価を聞くことでより良い製品に改善することができます。

ステップ2では、価格と製品の質の満足度をあげた上で市場を拡大することを視野に入れて行動します。この段階をいかに効率的に進行できるかによって、競合の参入を防げます。

ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する

より良い製品に改善した後、徐々に価格を低下させることで、ターゲットを拡大します。

ステップ3でターゲットとする顧客は、製品を購買するかの意思決定に関しては慎重でありながらも新しい製品への関心が高い層です。

このような顧客は、口コミを信頼材料としているケースが多いため、早期から自社の製品を使用している顧客の評価をより一層重視する必要があります。

ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する

ターゲットを全市場に拡大するためには、製品が市場においてどの程度一般化されているかが重要になります。

全市場をターゲットにする場合、周囲を見て判断する顧客や保守的な顧客も入ってきます。信頼性の面でもステップ3の基盤を固められているかにかかっています。そのため、ターゲットを全市場に拡大する前に、ターゲットの中でどれだけ一般化できているかを確認する作業を行った方が良いでしょう。

スキミングプライシングのメリット

スキミングプライシングには、3つのメリットがあります。

1.資金の早期回収ができる

早期段階で顧客を獲得することで、顧客に企業側の希望する価格を提示することが可能です。そのため、早期の段階から高い収益をあげられ、研究費や宣伝費を早期に回収できます。さらに資金の早期回収をすることで、開発した製品の改善のための費用も確保できます。

2.ブランドイメージを確立することができる

顧客に初期段階で高価格な製品に興味を持ってもらうには、顧客側の立場になって考えてみることが必要です。高価格でも購入する製品は、分野において革新的な特性を持つことがあげられます。ステータスを求める顧客に対して、最先端の製品を高価格で提供することで、製品のブランディングに役立ちます。

3.ターゲットを拡大できる

早期の段階で新製品の顧客を獲得しておくことで、口コミによって実際に広い顧客層に対して宣伝することが可能になります。関心がある顧客だけでなく、興味を持っていない顧客層までを最終的に狙うことができるというのがスキミングプライシングの強みです。製品の機能や価格の面でどの層にも受け入れられる製品に仕上げることが必要になってきます。

スキミングプライシングのデメリット

一見、メリットが多い印象のスキミングプライシングですが、デメリットもあります。

競合が参入しやすい

スキミングプライシングにより、革新的な新製品を高価格で販売することに成功すると、競合が安い価格で参入してくる可能性が高いです。

スキミングプライシングの特徴として、初期段階からの支持層の評価にもとづいて、改善を行うことがあげられていました。より良い製品を提供できるようになる反面、より多くのターゲット層に浸透するまでに時間がかかるため、競合の参入を許してしまいがちになってしまいます。

代替商品が世に出回ると、顧客が選べる選択肢が増え、どうしても高い値段では買われにくくなってしまうことが問題点としてあげられます。そうならないために、類似品が出る前に独占的な利益を獲得する必要があります。

スキミングプライシングの注意点

メリットとデメリットを理解した所で、スキミングプライシングを導入する際に注意しなければいけないことについてご紹介したいと思います。

1.高い価格に見合う製品の質が求められる

スキミングプライシングでは、製品に高い価格を設定することになります。それにより独自のブランドを築くことができますが、それには初期段階での価格と製品の質が釣り合っていることが非常に重要です。

仮に製品の質が見合わないまま製品の価格だけを高く設定しても、顧客から信頼されるブランドは築けない上に、初期段階での顧客の集客は見込めません。そのため、まだ市場に競合がいない製品や分野において革新的な特性を持つ製品でないと、スキミングプライシングを行うのは難しいでしょう。

2.価格弾力性が大きい製品では難しい

スキミングプライシングを価格弾力性が大きい製品で活用することは非常に難しくなります。

価格弾力性とは、価格の変動によって製品の需要と供給が変化する度合いのことを言います。価格弾力性が小さい製品では、商品価格の差が購買意欲にあまり影響をおよぼしません。製品の価格を高く設定しても、高い製品価値を生み出すことができれば顧客に選んでもらえます。一方で、価格弾力性が大きい製品を高い価格に設定してしまうと、低価格で提供する競合に勝つことは難しいです。

スキミングプライシングと事業領域

スキミングプライシングの応用をしているのが、アップル社のiPhoneです。アップル社は、iPhoneを売り出す際にブランドイメージを重要視しました。

ブランドイメージを確立するため価格を高価格に設定することで、確固たるブランドイメージを植え付けるだけでなく、高価格の製品を早い段階から受け入れてくれる顧客の興味を引くことに成功しました。

それと同時に発売前からiPhoneの宣伝を積極的に行なうことで発売予定日が決まる頃には、顧客のiPhoneに対する関心を最大限まで高めました。当時の携帯電話よりiPhoneがどれだけ優れているかを比較するという手段を使うことで、価格と質の釣り合いも証明することが出来ました。

アップルの応用例をみても、スキミングプライシングは、特にハイテク産業と相性が良いと言えます。常に最先端を追求され、そのために莫大な資金を必要とする事業が向いていると考えられます。

まとめ

スキミングプライシングとは、初期段階の製品を高価格に設定し、早期に事業の投資資金を回収する価格戦略です。

主に初期段階の価格戦略であるため、導入後の戦略は様々です。スキミングプライシングの例として取り上げたアップル社は、その後も価格を変えずに市場を伸ばしています。

一方で、スキミングプライシングの流れの中で紹介した様にターゲット層を広げるために低価格にしていく価格戦略も考えられます。

「初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する」という本来の目的を達成するためには、初期段階での顧客の存在なしにはなし得ません。初期段階での顧客によって、その後の市場のターゲット層や価格が変わってくると考えられます。企業ごとにターゲットとしたい層を確認しながら、市場を広めることが必要になってくるでしょう。

カテゴリー
ダイナミックプライシングとは?

最新の飲食店のダイナミックプライシング事例【SNSで話題沸騰中】

現在、ある飲食店がダイナミックプライシングを導入したことが大きな反響を生んでいます。この記事では、その事例を元に、飲食店でのダイナミックプライシング活用の可能性を考察していきます。

ダイナミックプライシングについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください



プライシングスプリント

ダイナミックプライシングと飲食店

飲食店はダイナミックプライシングが入りにくい業態だと言われています。実際、国内で飲食店向けダイナミックプライシングツールを提供している企業はまだ存在していません。

しかし、近頃ダイナミックプライシングが飲食店に導入されたと話題になっているのです。

その事例を紐解きながら、飲食店のダイナミックプライシングについて考えていきます。

ニュースになった飲食店のダイナミックプライシング

6月の頭に投稿されたこちらのツイートがソーシャルバズを生んでいます。Kohei Katada(@kkatada)さんの、行きつけの定食屋さんがダイナミックプライシングを導入したというツイートです。 asatteについてのツイート

こちらで紹介されているのはasatteという表参道に店を構えている飲食店です。「3密」を回避することが飲食店にも求められる中、席数を減らさずに密集を回避することを目指してダイナミックプライシングを導入したようです。

密集回避に新しい観点から取り組んでいるとして、ネット上で話題になりました。さらにニュース番組でも取り上げられるほど注目度が高まっています。

ダイナミックプライシングが混雑緩和に対して果たす役割に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

ダイナミックプライシングがうまく機能する理由

国内ではダイナミックプライシングが飲食店に導入されている事例はあまり見ません。飲食店との相性が悪いと考えられますが、なぜこの飲食店ではうまく機能しているのでしょうか?

asatteのダイナミックプライシングの特徴

まずはasatteさんの事例を考えるにあたり、店舗の特徴を把握しておく必要があります。asatteさんの最大の特徴はそのメニュー構成でしょう、なんとメニューは日替わり定食のみなのです。

また、ウェブサイトを持たず、3,000人ほどのフォロワーが閲覧するinstagram上で、その日のメニューを告知していることも珍しい点かと思います。

こんなasatteさんですが、新型コロナウイルスの拡大を受け、お弁当のみの販売のみを行ってきました。6月から店舗の営業を再開したものの、席数を減らすことで密集度を減らすことも、経営を成り立たせるためには難しい状況だったのです。

ここでasatteさんは、時間帯によって価格を変動させることで消費者の需要を分散させようと考えました。基本的な考え方は他業種で使われるダイナミックプライシングと同じです。

  • 需要の集中する時間帯→価格を上げることで、需要を抑える。
  • 需要が小さな時間帯⇨価格を下げることで、需要がピークの時間帯の顧客を呼び寄せる。

1つの商品の価格を、時間帯に応じて複数の値段に変動させることで、混雑状況をコントロールしようとしているのです。asatteさんでは、30分ごとに商品の価格が変わるようで、最も高い時間と、最も安い時間では700円もの価格差があるようです。これにより、導入を開始してまだ間もないですが、これまでのピーク時間にお客さんが集中することはなくなったそうです。

また、価格の変動幅は、目標とする売り上げから逆算して設定しているそうなので、集客に問題を及ばさないでいれば、売り上げや利益率に対しても問題はなさそうです。

asatteで導入が順調な理由3点

まだ完全に成功したと言うわけではないと思いますが、asatteさんのダイナミックプライシングは順調なようです。飲食業界はダイナミックプライシングの導入が進んでいない業界です。その中でasatteさんのダイナミックプライシングが順調な理由を考えてみましょう。

1つは、顧客との強い関係が作られていると言う点です。
ダイナミックプライシング導入のリスクとして、導入した事実による不信感から顧客離れにつながりやすいことがあります。ダイナミックプライシングを導入した事実が顧客離れにつながり、利用者が減少して長期的な収益を減少させてしまった企業も存在しています。しかし、価格面以外でコアなファンを抱えている企業ではダイナミックプライシングの導入が受け入れられやすいです。独自の価値を顧客に提供している遊園地である、ユニバーサルスタジオジャパンはダイナミックプライシングを導入しましたが、顧客離れが起きることはありませんでした。

asatteさんは、

  1. 毎日日替わり定食を提供するというシステム
  2. 生活の一環で利用しやすいランチ飲みに絞っていること

など、日常で利用されることに注力したモデルとなっていたため、コアなファンがついていたと思われます。そのために導入しても顧客離れがあまり起きていないのでしょう。

また、顧客との強い関係性は、混雑緩和のダイナミックプライシングが商売として利益を上げるための前提になります。

そもそも客の集中を防ぐためにある時間帯に値上げをした結果、他の時間帯に利用してもらうのではなく、他店舗を利用されてしまうのでは、商売として成り立ちません。

強い選ばれる理由のない飲食店の場合、顧客は需要が小さい時間帯での利用ではなく、他のお店に流れてしまいます。しかし強い選ばれる理由がある場合、顧客は店を変えるのではなく、時間帯を変えて安くなる時間帯に利用していただけるでしょう。このように、顧客との関係性の強さが混雑緩和に経済性をもたらすのです。

そしてそもそも、ダイナミックプライシングは、時間帯ごとの価格を顧客に認知されないと混雑緩和の価値を発揮しません。「安い時間に商品を購入したい」という顧客の思いを利用して来店タイミングを分散させるのですから当然ですよね。顧客に時間帯ごとの価格を知らせるためには、どうすれば良いのでしょうか?ここでも顧客との関係性の強さが重要になるのです。

asatteさんは、Instagramで3,000人ほどのフォロワーを獲得しており、そこで毎日のメニューを投稿しているため、顧客とのつながりを強く持てています。そのアカウントでダイナミックプライシングの導入と、時間帯ごとの価格を知らせることができたため、顧客の来店時間をコントロールできているのです。

こちらasatteさんのInstagramアカウントです。

asatteのダイナミックプライシングについてのインスタグラムの写真

2つ目は、値上げが「密集回避」という顧客のメリットにつながることです。
ダイナミックプライシングの導入は「儲け主義」だとみなされてしまうことがあります。心理的に値上げの方が顧客にインパクトがあるためそう思われてしまいがちなのです。そこから顧客離れに繋がってしまうケースも少なくありません。

しかし、値上げに顧客のメリットに繋がるような理由を示せれば、納得感は向上し、顧客離れは起きにくくなります。asatteさんの事例だと、ダイナミックプライシングによる値上げには「顧客の集中を防ぎ、密集を回避する」という理由があります。これがダイナミックプライシングが好意的に受け入れられている理由でしょう。

3つ目は、販売している商品が少ないことです。
飲食店のダイナミックプライシングが難しいとされる理由の1つに、商品点数の多さがあります。多くのダイナミックプライシングでは、商品ごとの需要予測を行い、それを元に収益最大化につながる価格変更を行います。しかし飲食店の場合、商品点数が多く、一つの商品の価格が変わると別の商品の需要にまで影響を及ぼすことが多いため、価格変更が収益最大化につながるように管理するのが難しいのです。さらに、ただ多くの商品を販売するわけではなく、多くの飲食店はハンバーガーとポテトのように商品をセットで販売することがあります。単品ではなく、セットで購入されることで利益をあげるような計画も練っていますが、ダイナミックプライシングはそれに支障をきたしてしまうかもしれないのです。

そのため、通常の飲食店ではダイナミックプライシングの導入は難しいと考えられています。
しかし、asatteさんのような、1つのメニューしか存在しないお店では、商品の需要というよりも、店全体の需要を元にして価格設定を行えるため、来客数といわかりやすい変数を元に価格変更が実施できます。つまり、効果的なダイナミックプライシングを簡単に設計しやすいのです。この単純なプライシングモデルなために、特に機械学習や自動化のツールを用いずとも、人力でダイナミックプライシングを行えているのです。

実際に、海外でダイナミックプライシングが効果を発揮している飲食店の多くは、品数の少ない完全予約型のコース料理店となっています。

ダイナミックプライシングの成功につながったasatteさんの特徴

  • 顧客と強い関係性が作れていること
  • 顧客にメリットがあること
  • 品数の少なさ

ダイナミックプライシングが飲食店で効果を発揮することは簡単ではありません。まさに、このような特徴を持つasatteさんだから実行できるシステムなのです。

こちらの記事では、ダイナミックプライシング導入に適している企業の特徴をまとめております。

asatteが抱える課題と解決策

asatteさんはダイナミックプライシングによって、これまでのピーク時間に人が殺到することを防ぐことができました。

しかし、現在の価格設定の結果、値下げした時間に人が殺到するという状態ができてしまっています。このような状況は、下の画像でいうところの、「高くても買う層」が少なかったことが原因だと考えられます。その層には「一般的に都合の良い時間帯での購入」「密集回避」という価値を提供するはずなののですが、顧客にとっては値下げの魅力が強く、安く購入できる時間に人が殺到し過ぎてしまっているのでしょう。

ダイナミックプライシングでの販売

このような状況下では、混雑緩和も実現できないうえ、単価が安い商品の販売になるため収益拡大にもつながりません。この課題を解決するには、少し値下げの幅を小さくしたり、値上げの幅を小さくしたりする調整が有効だと考えられます。それにより、価格の安い時間帯に集中しすぎることを防ぐことができるのです。asatteさんは週に1度ほどのペースで価格改定を行っていくらしいので、徐々に調整していけるかと思います。

飲食店でのダイナミックプライシングの今後

asatteさんは

  1. 顧客と強い関係性が作れていること
  2. 顧客にメリットがあること
  3. 品数の少なさ

という特徴を持っていたために、ダイナミックプライシングが活用できました。それでは、飲食店にとってダイナミックプライシングは当然のものとなるのでしょうか?

結論としては、「前進していくが今は一般的には難しい」状況だと言えるかと思います。

そもそも、ダイナミックプライシングを行える飲食店向けツールがまだ存在しないため、科学的なアプローチでダイナミックプライシングを行うことが難しいです。科学的でない方法で無闇に価格を変動させると、多くの商品を扱う飲食店は、予測不可能な商品需要の変動が起きて、収益減退に繋がってしまう可能性もあります。

また、小売店のダイナミックプライシングのように、競合価格との価格競争に勝つための価格設定をすることも効果を発揮しません。小売店ほど、細かい価格差が客の購買意欲に影響を及ぼしにくいのです。

そして、商品価格の提示に紙のメニュー表を利用している場合、リアルタイムの価格変更を反映することもできません。

このような状況からも、現状飲食店がダイナミックプライシングを導入することは難しいと考えられます。

しかし、オンラインのレストラン予約サービス「TableCheck」でダイナミックプライシングの仕組みが導入されるなど、今後飲食業界にダイナミックプライシングの導入が広がっていく可能性はあるでしょう。

まとめ

飲食店にとって、集客数を減らすことは避けたいものです。withコロナで混雑回避が求められる中、asatteさんはダイナミックプライシングを活用して集客数を減らさずに密集を回避する店舗運営を可能にしています。

また密集を避ける目的以外にも、収益最大化のツールとしてもダイナミックプライシングは注目されるでしょう。しかし、現状飲食店ではダイナミックプライシングの導入により、収益最大化に対して高いパフォーマンスを発揮することは難しいと考えられます。

特に、飲食店のダイナミックプライシングはツール化もなされていないため、もしも導入をお考えの場合は、専門家へ相談することをおすすめします。

参考記事
Jタウンネット東京都
日本経済新聞