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CRM(顧客管理システム)業界の料金体系比較まとめ調査・価格設定の考察

この記事では、CRM(顧客管理システム)における各社の価格調査および価格設定に関する考察をおこないます。

CRMとは

CRMとは、Customer Relationship Management(顧客関係管理)の略で、顧客管理システムの意味で使われることが一般的です。

企業が獲得した顧客情報を一元管理し、見込み顧客および既存顧客を分析・抽出し効果的なセールス・マーケティングを可能にするシステムです。

CRMの主な機能は次のとおりです。

機能 概要
顧客情報の管理 顧客情報や購買履歴の一元管理
顧客対応履歴の管理 顧客とのコミュニケーション履歴を蓄積・管理
顧客の分析・抽出 顧客の傾向や確度の高い見込み顧客の抽出

CRMの市場規模

IT調査会社のIDC Japanによると、日本国内のCRM市場は2024年まで平均で5%以上の成長が見込まれています。顧客を獲得するだけでなく長期的な関係性を育み一顧客あたりの売上を向上すべく、CRMを導入する企業が増えているのです。

出典:IDC Japan

CRMの価格・料金体系の概要

CRMは、月額料金制で「ユーザーごとの従量課金」と「機能数によって値段が変動する複数パッケージモデル」とを組み合わせた価格体系が設定されています。

また、一部のサービスでは設定費用として初期費用を設定している場合がありますが、CRM業界の中では一般的ではありません。

無料でサービスを試用できる体系として、フリーミアム・無料トライアルが設定されています。

CRMと似た料金体系を採用している業界としては、経費精算システムなどがあげられます。従業員の業務効率化を図るシステムでは、ユーザーである従業員が増えるほど料金が発生するため、売上を作りやすいこの料金体系が設定されています。

CRM業界の価格体系比較

サービス名 月額料金 価格体系 初期費用 無料
トライアル
ボリューム
ディスカウント
Kintone 780円~ 従量課金(ユーザーごと)×複数価格  ー
FlexCRM 1,200円~  従量課金(ユーザーごと)×複数価格
フリーミアム
 ー
Zoho CRM 1,440円~  従量課金(ユーザーごと)×複数価格
フリーミアム
 ー
ちきゅう 1,480円~  従量課金(ユーザーごと)×複数価格  ー
Dynamics 365 Sales 2,170円~  従量課金(ユーザーごと)×複数価格  ー
Salesforce Sales Cloud 3,000円~  従量課金(ユーザーごと)×複数価格  ー
HubSpot CRM 5,400円~  従量課金(ユーザーごと)×複数価格
フリーミアム
 ー
eセールスマネージャー 6,000円~  従量課金(ユーザーごと)×複数価格  ー
Senses 5,000円〜 従量課金(ユーザーごと)×複数価格  ー
GEO CRM 1,800円~ 段階的ユーザー×複数価格 5万円

(調査日:2021年6月10日)

CRMでよく使われている価格体系

CRMにおいては、従量課金モデルと複数パッケージ価格モデルの2種類の価格体系が採用されています。

初期費用が設定されている理由

初期費用は一般的に初期費用はシステムを導入しても活用できなかった場合にも売上が回収できるようにするために設定されています。

フリーミアムと無料トライアル

CRM業界では、主に人数制限なくフル機能で2週間から1ヶ月ほどシステムを利用できる無料トライアルが設定されています。FlexCRMでは法人向けのサービスでは珍しい広告表示型のフリーミアムを設定しています。

月額料金でユーザーごとの従量課金が設定されている理由

利用ユーザー数に沿って、月額料金を支払い始めることで各パッケージで開放されている機能が利用可能になります。CRMに格納された顧客情報はセールスチームだけでなく、多岐にわたる部署の人が利用するためユーザーごとの従量課金を設定することで売上をたてやすい構造になっています。

ボリュームディスカウントのタイプ

Zoho CRM・Salesforce Sales Cloud・HubSpot CRMの3社では、「年間契約をおこなうことで割引される」タイプのボリュームディスカウントが設定されています。

CRMの価格体系に関する考察

初期費用は非推奨

CRMでは初期費用の設定は通例的ではなく、導入検討時にユーザーが割高に感じ足切りする可能性を高めるため、収益性を改善するには初期費用を設定するよりはその他の料金の値上げを推奨します。

フリーミアムを推奨

フリーミアムはリード獲得の他に、サービス価値を感じるまで利用して有料プランへアップセルさせるという重要な目的を持っています。そのため、無料トライアルでは有料プランへアップセルする前に離脱してしまう可能性があるため、フリーミアムが推奨されます。

月額料金はユーザーごとの従量課金が推奨

一般的にはユーザーごとの従量課金はユーザーからすると価格帯が分かりやすいというメリットがあるものの、アップセルしにくいというデメリットがあります。そのため、事業社には段階的パッケージにすることで多くの収益をあげやすくなります。しかし、階層が細かすぎると、ユーザーは混乱しアップセルしにくくなることが考えられます。

価格体系比較でも述べたようにCRMは1つの企業の中で多くの部署の人が利用するシステムです。そのため、顧客の企業に見合った収益をあげられるため、ユーザーが増えるごとの従量課金が推奨されます。

適切なボリュームディスカウントが設定されています

CRM業界で設定されている、1年分を一括で支払うことで毎月料金を支払うよりも割安になるボリュームディスカウントは事業者の収益性を向上する適切なボリュームディスカウントです。

プライシングを適正化するためには

これまで業界全体の価格体系について解説してきました。しかし、これはあくまで現在のトレンドであり、日々の変化に対応していく姿勢が大切になります。また、価格体系はあくまでプライシング戦略の表現方法です。

プライシングは、売上最大化や顧客数最大化などに最も効果的な手段です。自社のビジョンを考えた際、今何が必要なのかを適切に把握し、それに合わせた価格戦略を検討しましょう。

以下の記事を読めば、どんな価格戦略を実行すればいいかがわかると思います。それを踏まえて、価格戦略を策定し、この記事で解説した価格体系という表現方法を検討してみてください。驚くほど、数字に結びつくでしょう。

まとめ

CRMでは、月額料金で主にユーザーごとの従量課金制と複数パッケージモデルが組み合わせて設定されており、一部のサービスでは初期費用・無料トライアル・フリーミアム・ボリュームディスカウントが設定されています。

また、各料金体系に関しては下記のような設定が推奨されます。

  • 初期費用は設定せずその他の料金に反映
  • 月額料金はユーザーごとの従量課金制を設定
  • フリーミアムを設定
  • ボリュームディスカウントをおこなう場合は一定条件を付加する

価格に対して、お悩みの事業者様は一度、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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MRR(月間経常収益)とは?計算方法・SaaS・サブスクリプションビジネスで重要な理由

MRR(月間経常収益)とは、企業が毎月繰り返し得られる売上のことであり、SaaSをはじめとしたサブスクリプションサービスを展開する企業において成長率などを表すための重要な指標です。

MRR(月間経常収益)とは

MRR(Monthly Recurring Revenue/月間経常収益)とは、企業が毎月繰り返し得られる収益(売上)のことで、確実に予測できるものを指します。

MRRは、サブスクリプションモデルの場合、ビジネスの収益性とキャッシュフロー、成長率を把握するために欠かせない指標です。

MRR(月間経常収益)が重要な理由

サブスクリプション企業がMRRを測定・利用するのは、次の2点が主な理由です。

財務予測が可能になる

サブスクリプションモデルでは、毎月の売上を安定してあげられます。そのため、MRRを把握することで、より正確な財務予測が可能です。

毎月安定した収益を得られたら、ビジネスの状態や、それがどのように進展していくかの予測ができ、それに合わせたて事業計画を実行できます。

投資における判断材料になる

投資家からの支援を受ける場合、企業は自社の成長を示すために、MRRは重要な指標となります。

月毎の収益を表すMRRは、月によって比較することで、成長度合いを把握でき、投資家にサービスが非常に成長している段階なのか、それとも成長前なのかを示せます。

MRR(月間経常収益)の計算方法

MRRを計算する簡単な方法は、提供している月額料金プランごとに顧客数をかけて合計する方法です。

MRR = 提供している月額料金プラン×顧客数
※プランが複数ある場合は、それぞれのプランを合計

MRR(月間経常収益)を計算する際のよくある間違い

MRRは企業の内外の意思決定に用いられる指標であるため、計算を慎重に行う必要があります。主な間違える点としては、収益の時間的な偏りを是正しないことと、必要な分の収益を計上しないことなどの、次の5点があげられます。

・売り切りモデルの収益を計上してはいけない
・半年・年契約などの一括払いをそのまま収益として計上してはいけない
・トライアル期間を含めてはいけない
・割引額を差し引かないまま計上してはいけない
・取引手数料と延滞手数料を含めてはいけない

MRR(月間経常収益)の最適化が必要な理由

MRRを算出すると、会社やサービスの状態を把握できるうえ、それをもとに目標設定や目標達成方法を考えられます。ここでは、MRRを最適化するべき理由について4点解説します。

サービスの成長度合いを追う指標にできる

SaaSなど、サブスクリプションモデルのサービスにおいて、MRRは収益の度合いを直接的に表す指標です。月ごとの成長も測ることができるため、MRRはサービス成長の指標として活用できます。

プロダクトチームの動機付けができる

プロダクトの質の向上は、顧客の維持に繋がり、MRRの損失を防ぎます。

そのため、MRRを追うことで、プロダクトチームはMRRの減少を防ぐ機能の開発や顧客体験の創出に力を入れるように動機付けられます。

マーケティング・セールスチームへの動機付けができるため

マーケティング・セールスチームは、より質の高い顧客を獲得することで、MRRを向上させられます。そのため、新しく増えた顧客が解約することなく、毎月安定した売上をあげられるかが重要です。

財務指標として活用できる

サブスクリプションにおいて重要な財務指標であるMRRは、外部に対して企業の状況を表せます。MRRが成長していることは、サービスの成長を測ることが可能です。

まとめ

MRRは、内外にサービスの成長を表す簡単かつ重要な指標です。正しく計算することができれば、サブスクリプション企業に前向きな影響を与えることになるでしょう。

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モチベーション管理システム業界の料金体系比較まとめ調査・価格設定の考察

この記事では、モチベーション管理システムにおける各社の価格調査および価格設定に関する考察をおこないます。

モチベーション管理システムとは

モチベーション管理システムとは、従業員の仕事や会社に対するモチベーションを可視化し、生産性低下や離職を防ぐことを狙いとしたシステムです。
モチベーション管理システムで主に採用されている仕組みとして、従業員へアンケートを行い定点的にモチベーションを可視化しています。一部サービスではアンケートではなくSlackなどのチャットアプリの利用状況からモチベーションに関わるデータを収集・分析しています。

モチベーション管理システムは主にアンケートの作成から、その結果を分析するだけでなくアクションプランを提示まで一気通貫で可能にします。

機能 概要
アンケート作成・配信・集計 従業員のモチベーションを可視化するためのアンケートを作成から集計を可能にします
アンケート結果可視化 集計されたアンケート結果をスコアリングし、部署・職種・性別・年齢などの切り口でグラフ化して組織のモチベーションを可視化します
アンケート結果分析 アンケート結果を分析し、離職リスクが高い人へのサポートを提示するなど、
モチベーションに沿った人事のアクションプランを提示します

モチベーション管理システムの市場規模

モチベーション管理システムは、近年新しく生まれたシステムです。転職が一般化していくにつれ、事業社は人材の定着が経営課題化しており、その課題に対するソリューションとしてニーズが高まり、市場規模も大きくなっています。

(出典:ITR)

モチベーション管理システムの価格・料金体系の概要

モチベーション管理システムは、主に月額制の利用料金を設定しています。その中でも、1ユーザーごとに料金が発生する従量課金モデル、ユーザー数を5人・10人・20人といった単位でカウントし段階的に料金が発生する段階的なユーザーモデル、機能数によって値段が変動する複数パッケージモデルが設定されています。

モチベーション管理システムは、主に月額制の利用料金を設定しています。その中でも「1人ごとに料金が発生する従量課金制かつ単一価格モデル」「1人ごとに料金が発生する従量課金制かつ機能数によって値段が変動する機能別複数パッケージモデル」「ユーザー数を5人・10人といった単位でカウントし段階的に料金が発生する段階的なユーザーパッケージモデルかつ単一価格モデル」という3つの価格体系が設定されています。

多くのサービスでフリーミアムが設定され、そして一部のサービスでは初期費用や導入支援のオプション料金が設定されています。

一部のサービスでは設定費用として初期費用を設定している場合がありますが、モチベーション管理システム業界では一般的ではありません。

無料でサービスを試用できる体系として、フリーミアム、無料トライアルが設定されています。

モチベーション管理システムと似た料金体系を採用している業界としては、経費精算システムや勤怠管理システムがあげられます。従業員の業務効率化を図るシステムでは、ユーザーである従業員が増えるほど料金が発生するため、売上を作りやすいこの料金体系が設定されています。

モチベーション管理システムの価格体系比較

サービス名 月額料金 価格体系 初期費用 無料
トライアル
ボリューム
ディスカウント
jinjerワーク・バイタル 300円 従量課金 ◯(※1)
We. 600円 従量課金 ◯(※2)
HR OnBoard 833円 従量課金
フリーミアム
Geppo 20,000円〜 複数価格 ◯(※2)
Willysm 70,000円〜 複数価格 50,000円 ◯(※2)
webox 900円〜 従量課金×複数価格
MotifyHR 400円〜 従量課金×複数価格 300,000円 ◯(※1)

※1 他のシステムを買うと値引き
※2 ユーザー数が増えるごとに値引き

(調査日:2020年12月17日)

月額料金では主に何ができるようになるのか

ほとんどのシステムで、月額料金を支払い始めることでフル機能が利用可能になります。複数パッケージモデルを設定しているweboxとMotifyHRでは追加料金を払うことで、アドバイザーからの運用サポートなどが利用可能になります。

ボリュームディスカウントのタイプ

モチベーション管理システム業界のボリュームディスカウントでは「ユーザー数が増えるにつれて段階的に値引きされる」「事業者が提供している経費精算システムなど別のシステムも利用すると値引きされる」2つのタイプが設定されています。

一部サービスに初期費用が設定されている理由

一部のサービスでは設定費として初期費用を設定しています。一般的に初期費用はシステムを導入しても活用できなかった場合にも売上が回収できるように設定されています。

フリーミアムと無料トライアル

主なフリーミアムの体系として、時間制限なく限られた人数でフル機能でシステムを利用できる、人数制限なくフル機能で1ヶ月ほどシステムを利用できる、

HR OnBoardでは時間制限なく限られた人数でサービスを利用できるフリーミアムを設定し、jinjerワーク・バイタルとweboxでは人数制限なくサービスを一定期間利用できる無料トライアルを設定しています。

モチベーション管理システムの価格体系に関する考察

初期費用は非推奨

モチベーション管理システム業界で初期費用の設定は通例的ではなく、導入検討時にユーザーが割高に感じ足切りする可能性を高めるため、収益性を改善するには初期費用を設定するよりは月額料金を値上げすることを推奨します。

フリーミアムを推奨

フリーミアムはリード獲得の他に、有料プランへアップセルさせるという重要な目的を持っています。そのため、無料トライアルでは有料プランへアップセルする前に離脱してしまう可能性があるため、フリーミアムが推奨されます。

月額料金は段階的ユーザーパッケージを推奨

一般的にはユーザーごとの従量課金制はユーザーからすると価格帯が分かりやすいというメリットがあるものの、ユーザーが増えるまでアップセルしにくいというデメリットがあります。そのため、事業社は段階的ユーザーモデルにすることで多くの収益をあげやすくなります。しかし、階層が細かすぎると、ユーザーは混乱しアップセルしにくくなることが考えらるため、多くても4階層程度が推奨されます。

ボリュームディスカウントには条件をつけましょう

ディスカウントは、セールスしやすくなるという短期的なメリットがあるものの収益性が良くない価格で利用し続けてもらうことになります。契約時にボリュームディスカウントの代わりに2年間の利用を必須にして、2年分を一括払いにするなどの条件をつけて収益性の改善を図ることが推奨されます。

プライシングを適正化するためには

これまで業界全体の価格体系について解説してきました。しかし、これはあくまで現在のトレンドであり、日々の変化に対応していく姿勢が大切になります。また、価格体系はあくまでプライシング戦略の表現方法です。

プライシングは、売上最大化や顧客数最大化などに最も効果的な手段です。自社のビジョンを考えた際、今何が必要なのかを適切に把握し、それに合わせた価格戦略を検討しましょう。

以下の記事を読めば、どんな価格戦略を実行すればいいかがわかると思います。それを踏まえて、価格戦略を策定し、この記事で解説した価格体系という表現方法を検討してみてください。驚くほど、数字に結びつくでしょう。

まとめ

モチベーション管理システムでは、月額料金制の中でユーザーごとの従量課金制・段階的パッケージ・複数パッケージが設定されており、一部のサービスでは初期費用・フリーミアム・ボリュームディスカウントが設定されています。

また、各料金体系に関しては下記のような設定が推奨されます。

  • 初期費用は設定せず月額料金に反映
  • 月額料金はユーザーごとの従量課金制を設定
  • フリーミアムは人数制限つきの期限なしを設定
  • ボリュームディスカウントを行う場合は一定条件を付加する

価格に対して、お悩みの事業者様は一度、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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採用管理システム(ATS)業界の料金体系比較まとめ調査・価格設定の考察

この記事では、採用管理システム(ATS)業界における各社の価格調査および価格設定に関する考察をおこないます。

採用管理システムとは

採用管理システムとは、ATS(Applicant Tracking System)とも呼ばれ、採用業務を一元管理しスピーディに多くの人材を確保できるようにするシステムです。

採用管理システムは主に求人の作成から、内定した応募者のフォローアップまで一気通貫で可能にします。

機能 概要
求人案件の作成・管理 採用ページの作成・管理、求人案件の一括管理、求人媒体・求人検索との連携
応募者情報の管理 応募者情報・履歴書管理
選考フローの管理 面接の設定、面接評価、応募からの進捗状況管理
内定者の管理 内定者との連絡・フォローアップ

採用管理システムの市場規模

採用管理システムは、近年新しく生まれたシステムです。採用方法が多岐にわたるにつれ、管理にコストがかかるようになったためニーズが高まり、その市場規模も大きくなっています。

(出典:ミック経済研究所)

採用管理システムの価格・料金体系の概要

採用管理システムは、主に月額制のサブスクリプションモデルが利用され、ほとんどのサービスで、企業ごとに契約し、機能数によって値段が変動する複数パッケージモデルが設定されています。Zoho Recruitのみユーザーごとに料金が発生する従量課金制かつ機能数によって値段が変動する機能別複数パッケージモデルを設定しています。

また、一部のサービスでは設定費用として初期費用を設定している場合がありますが、採用管理システム業界では一般的ではありません。

無料でサービスを試用できる体系として、フリーミアム・、無料トライアルが設定されています。

採用管理システムと似た料金体系を採用している業界としては、モチベーション管理システムや勤怠管理システムがあげられます。ユーザーごとの従量課金制が設定されにくい理由として、一部の部署でしか利用しないシステムはユーザー数が増えることが見込みにくいためです。

採用管理システムの価格体系比較

サービス名 月額料金 価格体系 初期費用 無料
トライアル
ボリューム
ディスカウント
MOCHICA 5,000円〜(※1) 複数価格
ジョブカン採用管理 8,500円〜(※1) 複数価格
GoQ採用管理 19,800円〜(※1) 複数価格
TalentCloud 20,000円〜(※1) 複数価格
SONAR ATS 39,917円〜(※1) 複数価格 96,000円(※2)
採用一括かんりくん 20,000円〜 複数価格 100,000円
Jobギア採用管理 30,000円〜 複数価格
Catch bowl 50,000円〜 複数価格
Zoho Recruit 2,100円〜 従量課金×複数価格
フリーミアム

※1:候補者登録数の上限によりプランが区分されている
※2:年間支払いの場合はなし

(調査日:2020年12月21日)

一部サービスに初期費用が設定されている理由

一部のサービスでは設定費として初期費用を設定しています。一般的に初期費用はシステムを導入しても活用できなかった場合にも売上が回収できるように設定されています。

フリーミアムと無料トライアル

Zoho Recruitでは時間制限なく限られた機能でサービスを利用できるフリーミアムと最上位プランを一定期間利用できる無料トライアルの両方を設定しています。ジョブカン採用管理などはサービスを一定期間利用できる無料トライアルを設定しています。

月額料金では主に何ができるようになるのか

月額料金を支払い始めることでフル機能が利用可能になります。多くのサービスでは追加料金を支払うことで、顧客の手元に蓄積できる応募者の枠を増やすことが可能になります。これは蓄積できる応募者の枠が増えることにサービスの価値が増大すると想定されているため設定されています。

ボリュームディスカウントのタイプ

TalentCloudとSONAR ATSの2社では、「年間契約を行うことで割引される」タイプのボリュームディスカウントが設定されています。

採用管理システムの価格体系に関する考察

初期費用は非推奨

採用管理システム業界で初期費用の設定は通例的ではなく、導入検討時にユーザーが割高に感じ足切りする可能性を高めるため、収益性を改善するには初期費用を設定するよりはその他の料金に転換することを推奨します。

フリーミアムを推奨

フリーミアムはリード獲得の他に、サービス価値を感じるまで利用して有料プランへアップセルさせるという重要な目的を持っています。そのため、無料トライアルでは有料プランへアップセルする前に離脱してしまう可能性があるため、フリーミアムが推奨されます。

月額料金は企業ごとの複数パッケージモデルを推奨

採用管理システムのような一部の部署でしか利用しないシステムには企業ごとの複数パッケージモデルが推奨されます。
Zoho Recruitが格安で利用できるユーザーごとの従量課金制を設定しているのは、メインサービスであるZoho CRMへの導線として設定しているためと考えられます。

ボリュームディスカウントには条件をつけましょう

ディスカウントは、セールスしやすくなるという短期的なメリットがあるものの収益性が良くない価格で利用し続けてもらうことになります。TalentCloudとSONAR ATSで採用されているような年間契約の代わりに割引するようなかたちが推奨されます。

プライシングを適正化するためには

これまで業界全体の価格体系について解説してきました。しかし、これはあくまで現在のトレンドであり、日々の変化に対応していく姿勢が大切になります。また、価格体系はあくまでプライシング戦略の表現方法です。

プライシングは、売上最大化や顧客数最大化などに最も効果的な手段です。自社のビジョンを考えた際、今何が必要なのかを適切に把握し、それに合わせた価格戦略を検討しましょう。

以下の記事を読めば、どんな価格戦略を実行すればいいかがわかると思います。それを踏まえて、価格戦略を策定し、この記事で解説した価格体系という表現方法を検討してみてください。驚くほど、数字に結びつくでしょう。

まとめ

採用管理システムでは、月額料金制の中で企業ごとの複数パッケージモデル・ユーザーごとの複数パッケージが設定されており、一部のサービスでは初期費用・フリーミアム・ボリュームディスカウントが設定されています。

また、各料金体系に関しては下記のような設定が推奨されます。

  • 初期費用は設定せずその他の料金に反映
  • 月額料金は企業ごとの複数パッケージモデルを設定
  • 価値を感じるまでの期間が長いことからフリーミアムを推奨
  • ボリュームディスカウントを行う場合は一定条件を付加する

価格に対して、お悩みの事業者様は一度、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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ダイナミックプライシングの国内外の10の事例を解説

ダイナミックプライシングは、近年様々な業界で導入されています。この記事では、導入事例のある10の業界を取り上げ解説します。

【ダイナミックプライシング ニュース(2020年12月22日更新)】
「東京ディズニーランド・ディズニーシー」を運営するオリエンタルランドは、入場チケットのダイナミックプライシングを導入することを発表しました。2021年3月20日以降の入園チケットが対象です。入場チケットのダイナミックプライシングの導入は、時期による入園者数の変化などに対応するため、混雑緩和などを狙いとした導入と公表されています。

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。価格変更させることで、企業の収益を最大化させることや混雑を緩和させることが可能になります。

人々の需要が増加している商品や、供給不足な商品に対しては、価格を上げて利益を最大化します。一方、人々の需要が縮小している商品や、供給過多な商品に対しては、価格を下げることで、販売数を増やします

そんなダイナミックプライシングは、近年ますます多くの業界で導入されており、私たちの日常生活にも影響を与えています。この記事では、国内外の企業がダイナミックプライシングを導入した事例やその業界におけるダイナミックプライシングのサービスの提供事例をまとめています。

事例1.スキー場

スキー ダイナミックプライシング

ダイナミックプライシングを導入しているヨーロッパのスキー場の数は、2018年から2020年にかけて3倍に増加しています。導入した狙いは、

(1)収益の最大化、(2)早期予約する利用者の増加、(3)長期利用の顧客増加の3つです。

(1)収益の最大化
需要が集中する期間に値上げをして利益を増加させ、一方需要がない時間に値下げをして顧客を増加させることで、収益の最大化を図っています。

(2)早期予約数の増加
チケット価格を左右する変数として「実際にスキー場を訪れる日付」だけではなく「予約を行うタイミング」も取り入れて、早期予約の価格を低くする手法を取ることで達成を目指しています。

(3)長期利用の顧客増加突発的な予約で来場する人も早期予約の方が滞在日数が長い傾向にあります。そのため早期予約者数が増加すると長期利用の顧客が増加する結果となり得ます。

また、スキー場で扱われているプライシングモデルは3つのパターンがあります。

①天気に応じた割引モデル
天気予報に基づいて段階的な割引を顧客に提供することで、需要の減退が予測される天気の悪い日の集客を増やす施策です。

②予約時期に応じた割引モデル
予約が早ければ早いほどチケットが安くなる仕組みです。

③複合的な需要予測に基づく価格調整モデル
履歴データ、予約時間、季節、休暇期間をもとに需要予測を行い、それに合わせて値段を変動させる仕組みです。

現在はヨーロッパでのケースが主ですが、今後国内のスキー場でも導入されていくと考えられます。

事例2.配車サービス

配車サービス ダイナミックプライシング

移動手段として、個人の車やタクシーをその場に呼ぶことができる配車サービスでもダイナミックプライシングは広がっています。

アメリカの配車サービスUberは、個人がタクシーとして乗客を乗せることができるサービスです。乗客は行き先をアプリで入力し、近くにいるドライバーとマッチングする仕組みなのですが、マッチング時に提示される運賃がダイナミックプライシングによって調整されています。

需要が高い地域に適切に即座にドライバーを派遣するため、需要が高い地域の価格(=ドライバーにとっての収入)を高く設定することで、ドライバーが該当する地域に赴くインセンティブを作ることが可能です。それにより高い需要に応える供給を提供することができ、Uberの利益の最大化にも繋がります。

一方、乗客視点から見ると、需要が高い地域では値段も高いため、需要が低い(=ドライバーの供給が足りている)地域に移動して配車を行います。そのため需要過多の地域での需要が抑えられ、供給とのバランスが取れるのです。

ちなみに、Uberのダイナミックプライシングは、「surge pricing」という名称で、価格変更は需要が多くなった場合のみ(=値上げのみ)です。Uberはサービス供給者であるドライバーが自社社員ではなく第三者であるために、強制力を持って需要の多い地域に向かわせることができません。

そのため、それでもドライバーを動かそうと思うと、金銭的な報酬が上がるという動機付けが必要になってきます。Uberのダイナミックプライシングは値上げのみですが、自社の営利目的だけでなく、乗客のもとに十分な数のドライバーを届けるという、顧客利益もあるため、一定の納得感が得られています。

事例3.民泊サービス

民泊サービス ダイナミックプライシング

個人が所有する物件などをを宿泊施設として貸し出す民泊サービスでも、ダイナミックプライシングの導入は進んでいます。例として、ここ数年日本でも盛んに利用されているAirbnbが挙げられます。

Airbnbでは、宿泊施設のホストが自分で部屋の値段を決めることが可能です。しかし、宿泊施設の経営については素人であろうホストが、適切なプライシングを行うことは簡単ではありません。

そのためAirbnbでは、以下のような条件をもとに、最適価格を推奨するサービスが用意されています。

最適価格の提案の変数

  • 残り時間: チェックイン日が近づくにつれ、料金は安くなります
  • エリアの人気度: エリア全体の検索数が増えるにつれ、料金は高くなります
  • シーズン: 繁忙期や閑散期によって、料金が変わります
  • リスティングの人気度: ビュー数と予約が増えるにつれ、料金は高くなります
  • リスティングの記載情報: Wi-Fiなどのアメニティ·設備を増やすと、料金は高くなります
  • 予約履歴: 予約が入ると、成約段階の料金もその後の料金に影響を与えます。たとえばスマートプライシングの推奨料金より高い料金を手動で設定し、それで予約が入った場合には、アルゴリズムはそこから学習し、推奨料金に反映していきます。
  • レビュー履歴: 高評価レビューが増えるにつれ、料金は高くなります

参考:Airbnb「スマートプライシング」のメカニズム

事例4.駐車場

駐車場 ダイナミックプライシング

駐車場のダイナミックプライシングは、現在日本でも、海外でも導入が進んでいます。

PerfectPriceという企業では、空港駐車場におけるダイナミックプライシングが行われています。空港向けにのaaS「PerfectPrice」のサービスと空港の自社のデータを活用し、駐車場の需要の変化を予測し最適価格を導くことが可能です。

国内のCtoC駐車場予約サービスakippaでは、駐車場の近くでのイベントの有無や普段の利用状況から需要を予測し、それに応じた値段に価格を設定されています。

事例5.レンタカー

レンタカー ダイナミックプライシング

レンタカーのダイナミックプライシングは、ここ数年、大きな盛り上がりを見せた業界です。ダイナミックプライシングを利用するレンタカー業者や、ダイナミックプライシングを搭載したレンタカー管理プラットフォームが、国内外で生まれています。さらに、海外ではレンタカーのダイナミックプライシングを監視し、安くなったタイミングで消費者に知らせるウェブサイトが存在するほど広がっているのです。

ダイナミックプライシング導入以前から収益向上化のために、国外を中心にレンタカー業者は価格調査と徹底的な分析が行われていましたが、コストの高さが目立っていました。ただ近年におけるビックデータやAIの発達により、その時々の需要を予測し、リアルタイムに価格を設定し直すダイナミックプライシングが可能になったため、価格調査を行っていた頃よりも低いコストで高い収益拡大を実現することができるようになりました。

レンタカーのダイナミックプライシングは、企業が持つ販売実績などのデータや、時間・天気・周辺地域でのイベントの有無などの、商品の需要予測に扱える外部データをもとにその時の需要の大きさを予測します。また、そこに競合他社の情報を加えて、最大の収益が期待できる値段になるように常時価格を変動させる仕組みも使われています。

事例6.映画館

映画館 ダイナミックプライシング

映画館では昔から、需要が少なくなる曜日の値段を安くする取り組みが行われていたが、近年ダイナミックプライシングというかたちで価格変動を実施する企業が海外で増えてきています。その背景として、Netflixなどのビデオストリーミングサービスが普及したことで、映画館は価格戦略の再考を求められている点が挙げられます。

映画館は、座席数(=1度にサービスを供給できる量)が決まっている上、需要の変動が時間に応じて起きるため、ダイナミックプライシングとの親和性が高い領域と言えます。飛行機などに活用されるアルゴリズムを転用しやすいのです。

映画館がダイナミックプライシングを導入する場合は、ビックデータを元に需要予測を行い、予測される需要と映画館の容量に応じた値段に設定する、アルゴリズムが導入されている場合がほとんどです。

しかし、映画の料金に合わせてドリンクなどの値段も値上げしたところ、ダイナミックプライシングの名を借りた値上げだと批判を受けた映画館もあるようです。ダイナミックプライシングを導入する際は、その導入理由や変動要因を顧客に伝える、透明性の高さが求められるでしょう。

事例7.ライブ

ライブ ダイナミックプライシング

音楽ライブでのダイナミックプライシングは、昨年11月の音楽イベント「Yahoo!チケット EXPERIENCE VOL.1」にて日本で国内で初めて導入され、国内で話題になりました。

導入の最大の目的は、収益の最大化です。需要が多い場合、高価格で販売し利益を最大化し、一方需要が少ない場合、値下げして販売数を促進し、客数を最大化することを、AIを用いて行います。

同じ条件のライブが定期的に開催されることは少ないため、機械学習を導入する際に準備データが不十分となるリスクがあるものの、アーティストの収益改善に必要な施策として今後も導入は拡大していくと考えられます。

今後のライブ業界でのダイナミックプライシングは、大規模会場での活用から導入が拡大していくと予測できます。当然のことながら、アーティストによる大規模なライブイベントでないと導入は金銭的に難しいことも理由としては挙げられます。

ライブでのプライシングは、値上げ以上に値下げとの相性が良くなります。なぜなら、スポーツチケットや航空券の場合と同じく、在庫が余るリスクがあり値下げしてでも会場を満席にすることが利益につながりやすいためです。また、安くしてでも客数を増やすことは、それによって参加した顧客をファンにすることができる可能性があるうえ、アーティストのブランディングにおいて重要な、動員数ブランドの獲得につながります。また、顧客から不満が出るのは値上げのタイミングなので、業界内で利用されてまもないダイナミックプライシングは、値下げメインの方が受け入れられやすいです。そのため、その値下げを有効活用できる大規模会場を中心に導入は拡大していくでしょう。

事例8.オフライン小売

家電量販店 ダイナミックプライシング

EC小売業界もダイナミックプライシングが早くに導入された業界です。ここ数年はオフライン小売でも導入が拡大しております。電子タグとも呼ばれる、電子棚札の利用拡大により、日本国内でも大手家電量販店のノジマやビックカメラがダイナミックプライシングでの値付けを始めました。また、コンビニエンスストアのローソンでも、商品の賞味期限を基準に価格を変動させるダイナミックプライシングの導入実験が行われています。

もともとオフライン小売業界は、Amazonなどオンライン小売店やオフライン小売店同士の激しい競争環境のため、価格変更を頻繁に行う必要がありました。しかし、値札の張り替えを手動で行うことは、扱う商品点数が多い大手小売店において、非常にコストがかかるものでした。そこで電子棚札の実用化に伴い、ダイナミックプライシングの導入が拡大し、以前より高頻度の価格変更をスピーディーかつローコストに行えるようになりました。

参考:『mbaSwitch』小売店でも始まるダイナミックプライシング

オフライン小売のダイナミック事例として、こちらでビックカメラの事例を紹介しています。

事例9.遊園地

遊園地 ダイナミックプライシング

国内でダイナミックプライシングを導入した遊園地の事例として、ユニバーサルスタジオジャパンが挙げられます。ユニバーサルスタジオジャパンでは、2019年1月から3種類の価格を、時期や曜日によって分けて提供する価格体系を始めました。現在はまだ細かい価格変更は行っていませんが、徐々にさらにダイナミックに価格を変えるようにすることも検討しているようです。

遊園地は繁忙期と閑散期の需要差が大きいため、繁忙期のチケットは高い値段で販売し利益を上げ、閑散期のチケットは安い値段で販売することで販売量を増やし、収益を最大化することができます。遊園地は基本的に同じサービスを顧客に提供する業態であり、繁忙期と閑散期という形で需要の変動を予測することができるため、適正価格の算出が比較的容易なのです。

しかし、今後さらに細かく動的なダイナミックプライシングを行っていくのならば、天気や近隣のイベントの有無など、需要を予測する変数を増やしていくことも必要になると考えられます。実際に、海外の遊園地向けダイナミックプライシングを提供しているSMART PRICERは、天気などの変数も加味してプライシングを行っているようです。

参考:『日経トレンド』USJが始めた「価格変動制」の裏側

こちらの記事では、ダイナミックプライシングによる混雑緩和の例として、遊園地業界を解説しています。

事例10.化学工業

化学工業 ダイナミックプライシング

様々な製品の原料を作る化学工業でもダイナミックプライシングが導入されているケースがあります。化学工業で作成する商品の原料のもととなる化学品の価格は、基礎となる原油価格や需給バランスの変化によって変動することが多いです。
そのため、それらを自動で行えるダイナミックプライシングの導入が近年一部の会社で行われ始めています。化学工業は、あまりプライシングを工夫してこなかった業界であるため、収益性を高める有用な手段として注目されています。

ダイナミックプライシング化学工業データ

「ベイン・アンド・カンパニー」の調査によると、非常に高いパフォーマンスをあげている化学工業会社の50%がダイナミックプライシングを導入しています。80%は競合他社の価格の監視を行っているようで、化学工業におけるダイナミックプライシングの有用性がわかります。

参考:『ベイン・アンド・カンパニー』The Formula for Better Pricing in Chemicals

メジャーな業界事例

この記事では、貴重なダイナミックプライシングの事例をまとめました。
よりメジャーな事例である、EC小売、スポーツ、飲食店といった業界でのダイナミックプライシング導入事例は、以下の記事に専門的にまとめてあります。ぜひご覧ください!

EC小売

スポーツ

飲食店

高速道路、遊園地、銭湯

まとめ

ダイナミックプライシングは近年様々な業界で導入され始めています。イールドマネジメントという形で適用できる、映画館やライブなどの供給に限りのある業界が代表的ですが、化学工業などのBtoB業界や、airbnbやUberといったCtoCサービスでも導入は進んでいます。これからも導入される業界は増えていくでしょう。まさに、どこにでもダイナミックプライシングがある時代が近づいているのかもしれません。自社では導入は難しいと思っていたとしても、開発企業やツール提供企業にお声をかけてみますと、導入の実現につながる可能性は十分にあります。

ダイナミックプライシングを導入すべき企業の特徴をこちらの記事で解説しております。導入をお考えの方は、ぜひご覧ください!

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SaaS・サブスク

従量課金制とは?料金モデルの仕組み・メリット・デメリット【SaaS価格体系】

SaaSの課金体系のうちの1つ、従量課金制について、メリットとデメリット、事例も交えながら解説いたします。

従量課金制とは

従量課金制は、ユーザー数や使用時間などの利用した“量”に“従”って課金する、価格体系の1つです。顧客目線だと「使った分だけお金を支払う」仕組みといえます。

ユーザーの使用状況に応じて金額が確定し、請求されるため、金額に対する顧客の納得を得やすくなります。また、ユーザーの利用状況によっては、一定の金額で使い放題の場合と比べ、より多くの金額を請求できるため収益の最大化につながります。

超過従量課金

従量課金のシステムを部分的に取り入れる価格体系として、超過従量課金があげられます。

超過従量課金では、基本料金が設定されており、超過利用分に応じて料金が追加されます。そのため、特定のプランの制限から超過利用した場合にプランをアップグレードするのではなく、超過した分に従量課金をかけるモデルだといえます。

ただの従量課金では、多くの顧客が著しく利用を控えた場合、企業の収益が不安定になるリスクを孕んでいますが、超過従量課金を採用することで、最低限の収益は保証され、収益の拡大も見込めることから、非常に使い勝手がいいモデルです。

従量課金のメリット

従量課金制導入のメリットは次の2点あります。

金額に対する顧客の納得を得やすい

ユーザーが使えば使った分に応じて利用金額が確定されるため、顧客の納得を得やすくなります。また、機能制限がある課金モデルと異なり、全機能をとりあえず利用できたり、単価が上がる要因を事前に把握できているため、顧客にとっては非常にわかりやすいモデルとなります。

他にも、「サービスの価値は半信半疑なので、まずは安く使ってみたい」と考えている顧客は、利用頻度を抑えつつ低単価で、「サービスに対して、非常に価値を感じているためたくさん使いたい」と考えている顧客は、利用頻度が高く高単価になることから、購買のハードルを下げつつ、収益を最大化することが可能になります。

解約を回避できる場合がある

サービスによっては、利用する期間が一定期間に集中し、月ごとに利用量が大きく異なる場合があります。導入業績の業績によってもその傾向はあるでしょう。

そのようなサービスは、利用量が少ない期間にコストカットの対象と判断され、解約されてしまう可能性があります。しかし、従量課金制を採用していれば、利用量の少ない期間は低単価になるため、解約されにくくなります。

従量課金のデメリット

従量課金は、以下のようなデメリットも合わせ持ちます。

利用を控えられる

利用量やユーザー数が多ければ多いほど料金が高くなる従量課金制では、顧客が単価を抑えるために利用を控えてしまう可能性があります。そうなると、本来なら解決できた課題を解決できずに、顧客の満足度が低下してしまうかもしれません。

前払いしてもらえない

サブスクリプションビジネスでは、欠点である「顧客獲得コストの回収に時間がかかる」ことを解決するために、年間一括前払いなど事前に決裁を促す工夫がなされています。

収益予測ができない

多くのSaaSビジネスにおいて、サブスクリプションによる収益予測が容易な点は、非常に大きな強みとなりますが、単価が確定できない従量課金制ではそれができません。

収益の予測がしっかりできていればいるほど、顧客獲得などに投資できるため、中長期的に大きな差が生まれる可能性も孕んでしまいます。

従量課金制の種類

従量課金制は、主に「使用量による課金」「ユーザー数による課金」の2つがあげられます。

使用量課金

使用量課金とは、特定の機能を利用した回数や保存できるデータの量、アクセスできるストレージの量など、サービスの何かを利用・アクセスした量に応じて課金される仕組みです。

・使用量課金の事例
WAN-Sign pricing電子契約サービス「WAN-Sign」があげられます。このサービスは企業間の契約を行うごとに料金が発生する使用量課金となっています。

参考:「WAN-Sign

ユーザー数課金

ユーザー数課金とは、企業内でアカウントを持つユーザーの数に応じて価格が上がるモデルです。難点として、企業がなるべく登録ユーザー数を増やさないようにする結果、サービス満足度が低下してしまうことがあげられます。

この問題点を解決できる、ユーザー数課金を応用した「アクティブユーザー課金」モデルも存在しています。

このモデルでは、アカウント自体は好きな数登録できて、アクティブユーザーの数に応じて請求を行います。これにより、気軽に多くの社員にサービスを導入してもらい、サービス満足度の低下を防ぐことが可能です。

・ユーザー数課金の事例

ユーザ数課金を行っているSaaSサービスとして、株式会社ディー・エヌ・エーが運営するRPA(コンピューター上の業務用ロボット)サービス「Coopel」があげられます。1アカウントあたり5,400円で利用可能で、気軽に導入できることをサービスの強みにしており、価格の高さからRPAサービスを利用していなかった企業にもアプローチすることを可能にしています。

まとめ

従量課金制は、ユーザーの使用状況に応じて金額が確定し、請求されるため、金額に対する顧客の納得を得やすい価格体系です。

しかし、利用を抑制したり、キャッシュフローの鈍化、収益予測の難化など、多くのリスクを孕んでいます。

超過従量課金など応用的なモデルを組み合わせたりなどと様々な工夫をすることで、メリットを最大限活かすことが望ましいでしょう。

 

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日用消費財

キャプティブプライシングとは|ジレットのカミソリ事例からわかる価格戦略

カミソリ本体と替刃などの製品に用いられる主製品を低価格で、付属品を高価格で販売する価格戦略である「キャプティブプライシング」についてご紹介します。

キャプティブプライシングとは

キャプティブプライシングとは、カミソリ本体と替刃のように「主製品を低価格に設定し、付属品を高価格に設定する価格戦略」のことです。

高い価格に設定した付属品を定期的に購入してもらうことで、長期的なスパンで収益を得られます。

キャプティブプライシングのメリット

キャプティブプライシングのメリットは、以下のことがあげられます。

購入してもらいやすい

キャプティブプライシングを行なっている製品は付属品で収益をあげるため、本体価格を安く抑えて購入してもらいやすくなります。

初期費用が安く、どんな人でも製品が手にとりやすいため、新規顧客を獲得することが可能です。

高いLTV(顧客生涯価値)を見込める

キャプティブプライシングのメリットとして、高いLTV(顧客生涯価値)を見込めることがあげられます。

LTV(顧客生涯価値)とは、顧客から一生のうちに得られる利益のことを指します。

キャプティブプライシングでは、セットとなる付属品を定期的に購入することを前提としているため、収益を長期的にあげられるようになり、結果として高いLTVが見込めます。

キャプティブプライシングのデメリット

キャプティブプライシングのデメリットは、以下のことがあげられます。

付属品の価格設定が困難

主製品と付属品とそれぞれの価格設定が必要となるだけでなく、付属品の継続的に購買につながる価格設定が必要です。

付属品が高価格すぎると継続的な購買にいたらず、売上の損失に繋がる可能性があります。

顧客の購買意識を維持させるのが困難

キャプティブプライシングは顧客がサービスを活用し付属品を長期的に購買し続けることで収益化に繋がります。そのため、継続的に購買をしている間に他社の類似製品と比較されがちです。付属品の商品価値を上げるなどの手段で顧客が価格に納得感を持ち続けるようにする必要があります。

キャプティンブプライシングの実際の例

カミソリ本体と替刃

カミソリ本体と替刃の関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

実際に、ジレットでは「消耗品モデル」という名前で、キャプティブプライシングを行っています。カミソリ本体の値段は抑え、付属品である替刃の部分の価格を高く設定するというビジネスモデルを確立したので、このようなモデルは「ジレットモデル」とも言われています。

プリンターとインク

プリンターとインクの関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

ここでは、エプソンのプリンターの例をご紹介します。エプソンのプリンター本体価格は、6,000円から20,000円の間が相場となっています。

印刷する際に必要なプリンターのインクは、純正のエプソンプリンター専用のインクを使用することが推奨されており、1セット6,000円で販売されています。

プリンター会社が作っていない互換インクだとより安く購入することができますが、エプソンのプリンター自体が専門のインクを指定しているので、インクから安定して収益を得ることが可能です。

コーヒーメーカーとカプセル

コーヒーメーカーとカプセルの関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

主製品となるコーヒーメーカーは、比較的安い価格で販売している一方、コーヒーメーカーにいれるコーヒーカプセルを高い価格に設定することで利益を得られる仕組みになっています。

具体的な例として、ネスプレッソのコーヒーメーカーを見てみます。ネスプレッソのコーヒーメーカーは、12,000円から購入することができます。そこにいれるコーヒーカプセルは、1セット30カプセル約3,000円の値段がします。1日2回飲むとしたら、1ヶ月で6,000円12ヶ月で72,000円になります。付属のコーヒーカプセルを定期的に購入してもらうことでコーヒーメーカー以上の利益を出すことができます。

SaaS + a box

SaaS + a boxとは、近年話題になりつつある、最新のビジネスモデルです。ハードウェア製品に加えて、月額課金のオンラインサービス提供をすることで、満足度を高めることができるため、非常に注目が高まっています。

実は、このモデルは、キャプティブプライシングの例だと言えるのです。SaaS + a boxでは、ハードウェア製品を高い機能に対して比較的安く提供します。

lovotというサービスでは、ハードウェア自体は原価で販売する一方で、月額課金のオンラインサービスを提供し、収益をあげています。これは、キャプティブプライシングを利用しているといえるでしょう。

具体例としては、オンラインフィットネスのPelotonが挙げられます。現在アメリカで大流行しているサービスで、ランニングマシンやサイクリングマシンといったフィットネスマシンのハードウェアと、月額課金のレッスン動画などのフィットネスサービスを販売しています。

フィットネスマシンの効果を最大限発揮するには、月額課金のフィットネスサービスを利用する必要があるため、月額課金での安定した収益をあげられます。SaaS + a boxはキャプティブプライシングを使った画期的なビジネスモデルといえるでしょう。

まとめ

キャプティブプライシングとは、主製品を低価格に設定し、付属品を高価格に設定する価格戦略のことです。

主製品と付属品のビジネスモデルを確立した「ジレットモデル」を参考に、ネスカフェやネスプレッソなどのコーヒーメーカーの価格戦略が誕生したと言われています。このことから様々な製品に応用することができる価格戦略だということができるでしょう。

デメリットでも解説しましたが、主製品と付属品の価格の設定を適切に行うことが重要になってきます。キャプティブプライシングは、顧客の購買意欲を継続的に保つ価格で行うことが成功の鍵になってくるでしょう。

 

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その他・価格業界情報

ダイナミックプライシングとは?仕組み・事例をわかりやすく解説

近年注目を浴びているダイナミックプライシング(価格変動制)とはなにかについて、この記事では、定義・メリット・アルゴリズム・歴史・事例・導入方法など、様々な角度から解説します。

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは、高頻度で価格を変更する仕組みです。

言葉を分解し理解すると、「ダイナミック」とは英和辞典で「動的」と訳され、何かが時間とともに変動する状態を指します。一方、「プライシング」とは、商品やサービスの値付けのことを指し、マーケティングでは重要とされる「4P」のうちの1つの概念です。

日常生活で私たちは多くの場合、商品・サービスの価格は発売時当初から一定であるもの(一定価格制)を享受しています。一方、ダイナミックプライシングでは、ITやAIなどのツールを用い、高頻度での価格変更を実現させています。

ダイナミックプライシングの概念的理解

ダイナミックプライシングの概念を理解するには、そもそものプライシングの基本を知る必要があります。

商品・サービスの売上は、「価格」と「販売量」の2つが組み合わさり、決定される(売上曲線)のに対し、販売量は価格に応じて、反比例“的”に決まります(価格曲線)

この、価格曲線に価格を掛け合わせた「売上曲線」の最大化の実現がプライシングの基本です。

ダイナミックプライシングは、このプライシングの基本に需要と供給を組み合わせて、機会損失の最小化を実現を目的としています。

数量と価格による需要曲線を仮定したとき、一定価格での販売では機会損失(上図水色部分)が多く生まれます。

一方、ダイナミックプライシングの実現は、需要により価格を変動できるため、機会損失を減らせます。

ダイナミックプライシングでは、需要が多く、供給が間に合わない場合は、価格を高くし、それでも購入する顧客を絞りつつ、収益を最大化する。一方、供給が多く、在庫処分または機会損失が発生する場合は、価格を低くし、購入者数を増加し、売上向上を図る。といった戦略が可能です。

ダイナミックプライシングのメリット

ダイナミックプライシングの最大のメリットは、「収益最大化」です。先ほど紹介した図は、価格とその価格で販売できる数量を示した図です。この図を用い、改めて収益最大化のポイントを解説します。

左図が通常の価格設定、つまり一定価格での販売です。価格はA円に固定され、この価格での販売数の最大はaになります。そのため、最大売上はA円×a個で、売上は紺色の部分が該当します。

全ての状態において、予測する最大の販売数aが販売できるのであれば、問題はありません。しかし、実際に商品・サービスの需要は一定ではなく、変動するものです。

需要が大きいとき
→実際に得られたはずの収益を逃す。在庫不足が発生する。
需要が小さいとき
→販売数が減少する。在庫が余る。

つまり、通常の一定価格では、需要が大きい時には収益を、需要が小さい時には価格を下げれば獲得できたであろう顧客を逃してしまいます。一方、ダイナミックプライシングによる価格設定(右図)では、価格をA円だけでなく、B・C点のような値上げ、D・E点のような値下げを実施できるため、需要の変動や供給の状況に応じた収益最大化が可能になります。

需要が大きい、または供給不足と判断されるとき
→価格を上げ、その値段でも購入する層からより多くの利益を得られます。また、飛行機など供給が限られる場合は、需要の集中を抑え、需要が小さい時に購入するようにうながすことになり、全体の収益を最大化します。需要が小さい、または供給過多と判断されるとき
→値下げをおこない、新規顧客・見込み顧客を流入させ、販売数を増やせます。これには収益が増える、在庫処理をスピーディーにできるというメリットだけではなく、一定価格制では価格が高いゆえに商品に見向きもしなかった顧客に、自社製品を知ってもらえるというマーケティング的価値もあります。

ダイナミックプライシングでは、一定価格制のもとでは失っていた、本来需要変動により生まれる
「定価より高価での販売機会」
「販売する価格を下げれば獲得できたであろう販売機会」
を逃さず掴み、収益を最大化を実現しています。

他にもメリットとして、より深い顧客の理解・工数削減・安全な価格管理などがあります。

ダイナミックプライシングのデメリット

ダイナミックプライシングは、収益の最大化につながる一方、導入による顧客離れの危険性があります。ダイナミックプライシング導入への不信や高騰した価格による顧客離れが起こりえます。

ダイナミックプライシング導入への不信による顧客離れ

ダイナミックプライシングの導入は消費者からの不信を買うリスクがあります。

顧客は値上げに対して敏感であり、ダイナミックプライシングによる大幅な値上げは「この企業は、自社の儲けだけを追求している」と感じさせてしまいます。

また、値下げをする前に高値で購入した顧客は、損をした気分になり不満を抱いてしまうかもしれません。例えば、飛行機のチケットを7,000円で購入した顧客が、翌日に6,000円に値下げされたチケットを見た場合、1,000円分の損をした感覚になるとっいった感じです。

ダイナミックプライシングによる価格変動は、顧客の不信感を募らせ、それを理由に商品・サービスを購入しなくなるという、長期的な利益を失うというリスクがあります。

そのため、ダイナミックプライシングを導入するときは、顧客に適切な導入理由や価格変動の要因を納得感のあるかたちで顧客に伝えなければいけません。

高騰した価格による顧客離れ

ダイナミックプライシングによる値上げは、商品・サービスに対して価格が見合っているかに対して、顧客が不信感を抱く危険性もあります。

例えば、繁盛期のホテルでは、宿泊料が通常価格の何倍にもなることはよくありますが、提供されるサービスの質は変わらないので、消費者からすれば、値段に対してサービスの質が低いと判断されかねません。

ダイナミックプライシングを導入した事実を顧客が知らないとしても、値上げされた価格に対してサービスが見合っていないと判断し、顧客がサービスから離れてしまうリスクも持ちます。

顧客離反を生まないためにも、ダイナミックプライシングを導入する際には、導入理由や仕組みについて、顧客に詳しく説明することが重要です。

ダイナミックプライシングのアルゴリズム

ダイナミックプライシングの「需給に合わせた最適な価格決定」のアルゴリズムは、利用する技術ベースで次の3つに大別できます。

1.自動化
2.機械学習による予測
3.強化学習

1.自動化

自動化によるダイナミックプライシングは、既存の値付けルールをシステムで実現させたもので、一般的にルールベースと呼ばれます。

完全手動で作成したルール・機械学習を活用して作成したルールをシステムに置き換え、実装するというダイナミックプライシングです。

この仕組みはの利点は、実装に必要な技術の難易度がそこまで高くなく、実装が容易なことです。

通例業界としては、従来からの変動価格を利用していた航空・ホテル業界や競合価格のみを参照した価格変更をおこなうEC小売業界があります。

2.機械学習による予測

機械学習によるダイナミックプライシングは、需要を仮定し、需要予測から最適な値付けをおこなうものです。需要予測には、頻度論的回帰モデルやベイズ回帰モデルといった手法が使われます。

日付や曜日、天候や近隣イベントの有無など様々な変数をもとに、時々の需要予測を実施したプライシングが行われ、現在のダイナミックプライシングの主流と呼べるものです。

需要変動に売上が大きく影響を受けるテーマパーク業界やスポーツ観戦・コンサート・ライブなどといったエンタメ業界など、需要予測が必要な業界で多く採用されています。

3.強化学習

強化学習によるダイナミックプライシングは、特定の状態(天気など、需要と価格に関わる変数の特定の値)で、最も収益最大化につながる選択肢を、AIの経験から導き出す仕組みです。

強化学習によるダイナミックプライシングは、需要を仮定しないため、より収益最大化につながる可能性があるとされていますが、実装事例は、特に国内ではほとんど見受けられません。

原因としては、次のものが考えられます。

1.データ不足
2.精度に欠けている
3.AIの判断がブラックボックス化される恐れがある

現在、機械学習によるダイナミックプライシングは、論文レベルでは進行中であるが、プライシング領域での実用例はほぼなく、実用化は先の話になるでしょう。

ダイナミックプライシングの歴史

原始的なプライシング

歴史的に見ると、価格が一定だった期間は、値札が開発された1870年代からで、むしろ価格は変動的な方が主流だったと言っても過言ではありません。

値札が使われる以前は、消費者と店主の価格交渉で決定されることが当たり前でした。

19世紀後半(1870年代〜)

19世紀からの企業の大規模化の中で、この作業コストを軽減するために、値札を使い、一定価格で商品を販売するようになりました。

この後に続く大量生産の時代では一定価格制が一層社会に浸透していき、20世紀以降にに登場するサービス業などの新しい業態でも、一定価格でサービスを販売することが当然のようになりました。

20世紀後半(1980年代〜)

1980年代を皮切りに現代版ダイナミックプライシングがアメリカの航空産業で始まりました。

アメリカの航空会社は数百万ドルを投資して、季節などの座席需要に影響を与える要素にもとづいて価格を自動調整するコンピュータープログラムを開発したそうです。これが情報技術を使った初めてのダイナミックプライシングだと言われています。

その後、航空業界に続く形で、ホテルやクルーズなど、その他の旅行業界のプレイヤーもダイナミックプライシングを導入していきました。

2000年代〜

EC小売市場では同じ商品が乱立した結果、消費者にとって”価格”が主要な商品の選択要因となり、価格調整を自動化するソリューションとして、小売企業にもダイナミックプライシングツールが普及しました。

現在

現在では、商品・サービスごとの需要の変動や供給量の変化を予測できるEC小売向けSaaSや、需要変動が予測しにくいスポーツ業界での開発企業が登場しています。

この背景にはAIの発達があります。AIを用いることで、自社のデータだけではなく、大量のビッグデータを収集し、分析し、これまでには扱えなかった複雑な条件を需要予測に加味できるようになりました。

需要予測の可能性が広がり、多くの業界でダイナミックプライシングを活用できるようになった今、わたしたちの暮らしに影響を与えています。

ダイナミックプライシングが導入されている業界

ダイナミックプライシングは近年多くの業界に導入されています。AI、ビッグデータ、電子棚札といったテクノロジーの発展と共に活用できる業界は広がりました。その例をいくつか紹介していきます。

遊園地

遊園地 ダイナミックプライシング

「東京ディズニーランド・ディズニーシー」や「ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)」などを代表する遊園地で、入場チケットのダイナミックプライシングが導入されています。

入場チケットのダイナミックプライシングの導入は、時期による入園者数の変化などに対応するため、混雑緩和などを狙いとした導入と公表されています。

USJでは2019年1月より、ディズニーでは2021年3月より、土日・祝日・長期休暇期間・ゴールデンウイークなど、混雑時にチケット価格が基本料金より値上げされるダイナミックプライシングがおこなわれています。

参照
日経新聞「USJ、入場券に変動価格制 大手テーマパークで初」
東京ディズニーランド®/東京ディズニーシー® チケットの変動価格制導入について

駐車場

駐車場 ダイナミックプライシング
駐車場は、現在日本でも、海外でもダイナミックプライシングの導入が進んでいる領域です。需要予測をもとに、駐車場の値段を最適価格に変更します。

国内の駐車場予約サービスakippaでは、ダイナミックプライシングが適用されています。駐車場の近くでのイベントの有無や普段の利用状況から需要を予測し、それに応じた値段に価格を設定しているようです。

EC業界

消費者が特定の商品を購入する際、同じものを複数のサイトで販売しているEC業界では、商品そのものの価値より、販売価格が重視されます。

そのため、競合の価格や変動する需要に応じて価格を変動させることで収益を最大化できます。

オフライン小売業界

家電量販店 ダイナミックプライシング

ここ数年でオフライン小売でも導入が拡大しております。電子棚札の利用拡大により、日本国内でも大手家電量販店のノジマやビックカメラがダイナミックプライシングでの値付けを始めました。

また、コンビニエンスストアのローソンでも、商品の賞味期限を基準に価格を変動させるダイナミックプライシングの導入実験が行われています。

もともとオフライン小売業界は、Amazonなどオンライン小売店やオフライン小売店同士の激しい競争環境のため、価格変更を頻繁に行う必要がありました。しかし、値札の張り替えを手動でおこなうのは、扱う商品点数が多い大手小売店において、非常にコストがかかるものでした。

電子棚札の登場は、ダイナミックプライシングの導入を拡大させ、以前より高頻度の価格変更をスピーディーかつローコストにできるのを実現させました。

スポーツ業界

スポーツのチケットの需要は、試合ごとに大きく異なり、その需要はあらかじめ予測できるものではなく、試合状況や、天候などの環境要因に左右されます。

スポーツ業界でのダイナミックプライシングは、時間と共に変化する需要をAIを用いた機械学習で予測し、さらにスタジアムの残り席数という供給(在庫)状態も加味して、価格決定をしています。

ホテル業界

ホテルでは古くから使われてきた「レベニューマネジメント」という手法があり、予約状況をもとにした価格変更を手動で実施していました。

現在では、ダイナミックプライシングを自動化しおこなうことで、効率よく収益最大化を図っています。

飲食業界

コロナ禍における「3密」を回避するために、飲食店でダイナミックプライシングを導入されたのが、ネット上で話題となっていました。

コロナ禍でのダイナミックプライシング

コロナ禍の状況によりダイナミックプライシング導入が促進されています。
今回紹介した業界以外にも、電車・高速道路・旅行産業でもダイナミックプライシングが進んでいます。

ダイナミックプライシングの導入方法

ダイナミックプライシングの導入方法としては、自社開発・ツール利用・受託開発があげられます。
3つのパターンを検討する際に役に立つ、フローチャートを作成しました。

ダイナミックプライシング 導入方法フローチャート

導入を検討されている企業様は、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

まとめ

高頻度で価格を変動させる仕組みであるダイナミックプライシングは、需給に応じた価格に商品価格を変更し続けることによって、導入企業の収益最大化に貢献します。

しかし、導入には顧客離れにつながるリスクもあるため、導入を顧客に納得いただけるように、「導入理由」及び「価格変動要因」をしっかりと顧客に伝えることが重要です。

そして、このようなダイナミックプライシングは、技術の進歩とともに、様々な仕組みでの収益の最大化を目指せるようになり、様々な業界に適用されるようになりました。

この記事ではダイナミックプライシングについて、定義・メリット・デメリット・仕組み・導入事例など様々な観点から解説しました。この記事を通じてダイナミックプライシングとは何かを理解できたのならば幸いです。

プライスハックとは

プライスハックとは、「プライシングで事業成長を加速させる」をミッションとして掲げるプライシングスタジオ株式会社が運営する、プライシングメディアです。

価格を1%あげたことで、「12.8%」営業利益が改善されると言われているほど、企業・事業の成長にとってプライシングは重要なものになってきます。

しかし、実際にいくらで売ればいいのか、値上げしたら離反顧客が出てしまうのではないかという懸念から、自社での価格決定・価格変更を実施するのが難しいのが現状です。

私たちは、プライシングのプロフェッショナル集団として、企業のプライシングに関する課題を全力で解決したいと思っております。

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SaaS・サブスク

サブスクリプションが流行した理由・背景を消費者意識から解説

私たちの生活では当たり前になっているサブスクリプションサービスですが、実は時代の流れと共に流行り始めたビジネスモデルです。

この記事では、サブスクリプションサービスの時代背景について解説します。

サブスクリプションとは

サブスクリプションとは、「定額制で製品やサービスを利用者に提供するビジネスモデルのこと」です。通称「サブスク」という名で、2018年前後から世界中で注目されています。

サブスクという名前は真新しく感じられますが、ビジネスモデル自体は昔から存在していました。例えば、雑誌や新聞などを定期購読したり、保険料金やガス、電気などの公共料金などを定期的に支払ったりしているのもサブスクリプションの1つです。

一方で現代のサブスクリプションは、従来のものと違い、インターネットやITを活用したビジネスモデルのことを言います。
なぜ近年になって、サブスクリプションが注目を集めているのでしょうか。今回は、サブスクリプションの流行背景について解説します。

サブスクリプションの流行背景

現在、サブスクリプションが流行している背景は以下の3つのことがあげられます。

1.インターネットの普及

サブスクリプションの流行背景の理由の1つ目は、ITやインターネットの進化があげられます。

インターネットが普及する前、ソフトウェアはパッケージ販売されていました。そのため、バージョンアップや修正したソフトウェアを発売するのに1年半や2年といった長い期間が必要でした。

ですがITやインターネットが普及してくると、インターネットを使って大きなデータをやりとりすることができるようになり、ソフトウェアをインターネット上でダウンロードして直接購入することが可能になりました。インストールされたソフトウェアをインターネット上で修理できるようになったため、パッケージ化するためのコストが低減し、ソフトウェアの流通スピードが増加しました。

頻繁に改善したソフトウェアを消費者に提供するための手段として、手軽に契約できるサブスクリプションが導入されるようになりました。

2.消費者の意識の変化

サブスクリプションの流行背景の理由の2つ目は、消費者の意識の変化があげられます。

少子高齢化が進み、ターゲットとしていた若年層が減少していることはもちろんのこと、若者を中心として「消費離れ」「所有欲離れ」という意識の変化が見られます。

「消費者離れ」や「所有欲離れ」は、将来への不安や手取り収入の低下が原因だと言われています。
消費者は、物を所有することを評価するというお金の消費に対する考え方から体験や人間関係に価値を見出し、評価の対象とする考え方に移行しているのです。

この結果、旅行やレジャー、芸術鑑賞、習い事などのサービスにお金を使うようになりました。従来のように個人として所有するという形で商品が売れなくなってしまった今、契約期間でのみ商品やサービスを提供するビジネスモデルであるサブスクリプションは、非常に合理的だと言えます。

3.物流の進歩

サブスクリプションの流行背景の理由の3つ目は、物流の発達があげられます。

インターネットが発達したことによって、ネットショッピングなど電子上の取引が普及しました。その際、重要になってくるのが宅配便の存在です。配送した翌日には商品が届くスピーディーさだけでなく、複雑な宅配便にも適応できるという強みが、日本におけるサブスクリプションサービスの拡大に大きく貢献しました。

例えば、衣服をレンタル形式で提供するサブスク「airCloset」では、衣服を保管している倉庫から会員それぞれの衣服を送り、返送があれば修善やクリーニングに出し、一連の流れが終了したら保管場所に送るというような作業を繰り返し行っています。

このようなサブスクリプションサービスを展開するには、複雑な物流の仕組みを可能にできる物流の発達が必要不可欠です。

サブスクリプションが日本で流行ったきっかけ

サブスクリプションが日本で流行ったきっかけの事例を2つご紹介します。

最初に現代サブスクリプションサービスが日本で流行したきっかけは、NTTドコモの「パケホーダイ」。パケホーダイは、携帯電話が爆発的に普及した2004年6月に開始されたサービスです。

当時、携帯電話向けのコンテンツがインターネット上に次々と登場し、1人当たりが使用する通信量が増加傾向にありました。
ただし価格体系は、通信量を使用した分だけ料金が請求される従量課金制であったため、利用者の中には高額な料金に頭を抱える人も少なくありませんでした。

NTTドコモは、1ヶ月に決められた通信量が定額で使い放題になるサービスとして「パケホーダイ」を提供しました。高額な通信量の請求がこないという安心感から多くの利用者を獲得することに成功しました。

次にご紹介するのは、Spotifyの例です。
日本だけでなく、世界中でサブスクリプションサービスの火付け役となったSpotifyは、2008年から開始された音楽の定額聴き放題サービスです。約4000万曲以上の音楽が聴き放題だけでなく、大半の機能を無料会員でも利用できるといった点が他にはないサービスです。

通常、トライアル期間が過ぎると有料になることが多いですが、Spotifyは無料かつプレイリスト機能も無料で使用することができます。無料でも便利だが、有料会員になると更に便利という謙虚さが人気の理由と言えます。今では有料会員数が1億3000万人を超えるまでに拡大しています。

まとめ

サブスクリプションサービスは、これまでのIT産業の発展や物流の発展、経済状況の変化に大きく影響されているサービスであることが分かりました。

サブスクリプションは、ものを所有するのではなく、利用するという消費者意識の変化を表しています。
最近では、車のサブスクリプションや料理のサブスクリプションなど多種多様なサブスクリプションサービスが増えています。車を持っていることがステータスという概念や料理をするのが当然という従来の考え方も塗り替えられつつあります。

そう意味では、サブスクリプションサービスは時代を表す鏡のようなビジネスモデルだということができるでしょう。
消費者意識に対して合理的なビジネスモデルであるサブスクリプションサービスの背景を知った今、これからの発展も見逃せません!

 

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ダイナミックプライシングのアルゴリズム3種類を簡単に解説

ダイナミックプライシングは、変動する需給に合わせた最適な価格で商品/サービスをで販売することを可能にします。それでは、どのように需給に合わせた最適価格を導いているのでしょうか?

この記事では、ダイナミックプライシングのアルゴリズムについて簡潔に解説します。ダイナミックプライシングとは何かについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

はじめに

ダイナミックプライシングは、需給に合わせてその時の最適な価格に価格を変更することで収益を最大化します。この「需給に合わせた最適な価格決定」の仕組みは、利用する技術ベースで3つに大別できます。それではその仕組みについて解説していきます。

ダイナミックプライシングのアルゴリズム解説

1.自動化

ダッシュボード
第1のパターンは、既に定まっている価格決定のルールに基づき、人の手で行っている価格変更作業を、自動化する仕組みです。ダイナミックプライシングでは「収益の最大化を目指す際に把握したい需要の変動」をツールを用いて予測し、価格を決定するのが主流ですが(後述)、このパターンはツールを用いた需要の予測を行わない点で特徴的です。

その例として、

  1. 競合価格を監視し、競合価格に応じて価格を自動変更するツール
  2. 在庫数に応じて価格を自動変更するツール

が挙げられます。

1の場合、監視する競合価格から100円安くするなど、競合価格をもとに価格変更するルールを定め、自動で価格を変更します。
2の場合、現在の自社の供給(在庫)状況をもとに、できるだけ高い値段で売り切れるように、予め定めたルールに沿って段階的に商品価格を自動変更します。

これらのツール・手法は、実装に必要な技術の難易度がそこまで高くないため、実装が容易だという利点があるものの、価格決定がルール化されていないと適用できないという難点もあります。

このパターンはホテルや飛行機のチケットなどの業界で古くから利用されてきたアルゴリズムになります。

2.機械学習による予測

需要予測

ダイナミックプライシングの主流と呼べるものが、機械学習をもとに需要予測を行うパターンです。これは、天気や近隣のイベントの有無、曜日などの様々な変数をもとにその時々で需要予測を行い、それをもとにプライシングを行う仕組みとなります。この機械学習に分類されるダイナミックプライシングでは、需要予測をルールベースではなく機械学習といわれる手法で行い、プライシングをします。機械学習とは数理・統計による予測をコンピューターで行うアルゴリズムです。

例えば、EC小売ツールでも、競合価格に反応するだけではなく、過去の売れ行きからこれからの需要を予測する時系列分析という機械学習を利用して、需給に応じた価格決定を実現しています。機械学習を用いたダイナミックプライシングは、スポーツの試合やアーティストのライブのチケットや駐車場など、需要変動が頻繁に起こる業界で効果を発揮しやすい手法だと言えます。

このアルゴリズムが可能になってから、ダイナミックプライシングはホテルや飛行機などの特別な業界のソリューションではなく、一般的な収益最大化のツールとして検討されるようになったといえます。

3.強化学習

強化学習

このパターンは、上記の2つのパターンとは考え方が異なります。この仕組みでは、予測した需要をもとに価格変更を行うのではなく、特定の状態(天気など、需要と価格に関わる変数の特定の値)で、最も収益最大化につながる選択肢を、AIが経験から導き出します。価格を動かしていると、収益や利益への影響が発生します。この時の収益・利益の変動具合を”報酬”としてAIに与えると、より最適な価格を導き出す学習を行います。与えられる報酬を最大化するように、最適な価格の提案ができるように学習するのです。

強化学習は、AIが最適な価格を学習するまでに大量のデータと思考錯誤の期間が必要という特徴があります。また、どういう理屈で価格を変動させたかが不明瞭になってしまい、ブラックボックス化してしまうというリスクも抱えています。

また、この強化学習を利用したダイナミックプライシングを提供している企業はほとんどないのが現状です。理論上は可能なはずですが、データが足りていない精度にかけている顧客離れのリスクからブラックボックス化を避けている、などの理由から、このモデルの社会実装は進んでいないと考えられます。

顧客に不信をもたれるというリスクについてはこちらで詳しく解説しております。

まとめ

ダイナミックプライシングは、技術の発展とともに今回3つに分類したような仕組みが生まれました。現在の主流は、2番目に紹介した需要予測ベースの機械学習となりますが、他の2つの仕組みも活用できれば高い効果を発揮します。

この記事では、これらについて解説してまいりました。

ただし、今回の記事では、仕組みの大枠は説明しましたが、実際に必要となる数式やアルゴリズムの詳細までは言及しておりません。そのため、実際に導入を考えている場合は、アルゴリズムに関して豊富な知識を持つ、ダイナミックプライシングの開発企業へ相談することも選択肢の一つとして考えられます。ダイナミックプライシングを企業で導入しようと思った際に、その実現の仕方までは検討されないかもしれませんが、活用する仕組みを把握して導入することができると、失敗も少なくなるかと思います。

導入をお考えの方はこちらの記事をご覧ください。