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価格の心理テクニックまとめ(威光価格、アンカー効果、閾値、プロスペクト理論など)

初めて買う商品を選ぶ時に、無意識のうちに真ん中の価格のものを選んだ経験はないでしょうか?

また、198円や980円などの価格はよく存在しますが、わざとキリの悪い数字にするのはなぜでしょうか。

実は価格と心理学は密接に関係しています。そのため価格戦略を立てる際に、様々な心理効果を知っておくことはとても重要だと言えます。この記事では、価格に関係する心理効果やプライシングのノウハウについて、実際の事例を交えながら解説します。

価格は品質指標になる

価格は、顧客が商品を選ぶ際、品質指標になります。一般的に、価格と需要量は反比例し、価格が高くなるにつれ需要は減っていくと考えられています。

しかし家具や消費財などでまだ購入したことがない商品や、ほとんど購入しない商品を選ぶ際、この法則が通用しないことが多いのです。それは経験則により、価格は高いと品質が良いと考え、逆に低価格であることは品質への懸念を抱くように、価格が消費者にとって商品の品質を評価する基準になるからです。この場合では価格を上げると単位あたりの売上高も増える可能性があるのです。

プラシーボ効果とは

プラシーボ効果とは本来、商品の品質がそこまで高くないが、価格の高さによって相応の品質があるように錯覚する効果のことです。

ある研究では、同じパワードリンクで価格が値引きされているものと正規価格のものを飲んだ際、正規価格のものの方が効果が現れたとされています。このように価格の品質指標としての効果が時に認知レベルを超えることがあります。

威光効果とは

威光効果とは「一つの領域でのイメージが全体のイメージに影響を及ぼす現象」のことを言います。具体的にいうと、高価格というイメージが、その商品や企業の全体の品質やステータスとしての評価に良い影響を与えるということです。

例えばフェラーリのようなハイブランド商品は、価格が高くなるとむしろ需要上がりますが、その要因は価格が品質指標になっていること以外にもあります。

それは価格がステータスや社会的名声のシグナルになっているということです。高級ブランドでは商品を所有・サービスを享受すること自体がステータスとなります。

このように価格は買い手に付加的レベルの社会的心理効用を与えるため、価格戦略に役立てることができます。

威光価格

威光価格とは、威光効果を活用した際に設定される価格のことです。顧客に対して高品質な商品・サービスであることを示すために、あえて高く設定するという戦略で用いられます。

しかしブランド力が高くない状態で価格を高く設定するのは、顧客の支払い意欲が高くないため危険です。値上げは顧客の支払い意欲が上がってから、それに伴って行うというやり方が良いでしょう。

アンカー効果とは

価格のアンカー効果とは顧客が商品の品質について評価をする時に、アンカーという最初に目にした価格が購買判断に影響する心理効果のことです。

船の錨(アンカー)が語源となっており、最初に錨を海底に下ろして、その範囲内を動く船から名付けられました。

顧客は目の前にある情報が、正しいものか確かめることができない際にアンカー効果は働きます。アンカー効果を利用している例として次のようなものがあります。

松竹梅効果

松竹梅効果とは、松竹梅のように複数の価格帯が存在する時、真ん中の価格帯が一番売れるという現象のことです。

買い手は商品を選ぶ時できるだけ最善の意思決定をしようとするため、中間の価格帯である商品を選ぶことで、品質が劣るものを購入するリスクや、多く払い過ぎてしまうリスクを同時に軽減しようします。

この時、顧客にとって真ん中の価格帯は魅力的に見えるため、複数の適切な価格帯を揃えてアンカーを設置することで、意図的に一定の価格に誘導することができます。

誰も買わないのに収益に貢献する商品

たとえ誰も買わなかったとしてもアンカーとして品揃えに加えることで、収益に貢献する商品が存在します。

それは高額商品です。品揃えに加えることでアンカーとして機能させ、顧客の支払意欲を引き上げることができます。

例えばラグジュアリー店で、あらかじめ予算が決まっている顧客に対して、それをはるかに超える金額の商品を最初に提示すると、予算以上の商品を購入してもらえる可能性が高くなるのです。

アンカー効果を利用した価格戦略

アンカー効果を生かした価格戦略として、顧客に商品の情報や知識がなかったり、その価格帯に関する情報を持っていない場合に、アンカーを設置して、一定の価格に誘導したり、一回あたりの支払意欲を上げる手法が有効です。

しかし顧客には、「商品やサービスを購入したいと思う価格のレンジ」が存在するため、

アンカーを設置する前に、その価格レンジを理解しておく必要があります。

そして、その際のアプローチとして使われるのが、PSM分析です。PSM分析について詳しくはこちらをご覧ください。

また、アンカー効果について詳しい記事はこちらをご覧ください。

閾値とは

価格の閾値とは、それを超えると常に売上に顕著な変化が生じる境界線のことです。

通常100円、500円、1,000円、10,000円というキリのいい価格ポイントの近くで起こる傾向になります。

たった数円の価格改定でも、閾値を超えると大幅に売上が変化するため、売り手にとって、価格の閾値を知ることはとても重要だと言えます。

参考:端数価格とは

端数価格とは閾値を利用した価格戦略の一つで、198円や980円のように端数をつけて消費者に安さを印象づける価格のことを指します。

日本では「8」を端数とすることが多いですが、欧米では1.99ドルや199ドルのように「9」を端数とすることが多いです。スーパーマーケットなどの小売業で多く見られ、比較的低価格の商品に設定されます。

閾値を利用した価格戦略

閾値は値上げ時、値下げ時の両方で閾値を理解しておくことは重要です。

まず売り手が値下げを行う際は、閾値を超えるまで価格を下げないと効果が出にくいです。そのため、端数価格のように閾値を超えるまで価格を下げる手法が有効だと言えます。

逆に売り手が値上げをする場合は、価格が閾値を超えない必要があります。価格の閾値を超えてしまうと、売り上げの急落を招く恐れがあるため、その一歩手前で止める手法が有効だと言えます。特に、売り切り型ビジネスと違って、サブスクリプションビジネスの場合、一度顧客が離れた場合、売上の回復には非常に時間がかかります。閾値を超えたことで離脱した顧客は、価格を戻しても戻ってこない場合が多いためです。

サブスクリプションビジネスで顧客が感じる価値を上げながら、閾値直前まで値上げをしていき、増収する手法で成功を収めているのがNetflixです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

また閾値、端数価格について詳しい記事はこちらをご覧ください。

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論とは、利益や損失に関わる意思決定のメカニズムをモデル化した理論のことです。

この理論では効用という言葉がよく使われますがこれは「消費者が財やサービスを消費することによって得る主観的な満足の度合い」のことを言います。

この理論で大切なことは主に二つです。

1つ目は利得を感じると効用は確実に増えるが、その割合は減っていくということです。これは最初に1万円を得たときの高揚感は、さらに1万円を得たときの高揚感よりも大きくなることを指します。また、逆に損失の場合も同じことが言えます。

2つ目は利得と損失のインパクトが違うということです。1万円をもらった、直後に返さないといけなくなる場面があったとすると、金額的には損も得もしていないが、精神面で喪失感のようなものが残るというものです。

このように同じ大きさの利得と損失を感じたとしても、私たちが損失の際の効用の方が、利得の時の効用よりも大きくなるのです。

現金かクレジットカードか

顧客は現金で支払うよりクレジットカードで支払うことを好む傾向にあります。

その理由は、カード払いは現金払いと比べて、手元からお金が離れることによって生まれる負の効用を感じにくいからです。

カード払いの場合、署名やパスワードを打ち込むだけで決済が完了します。しかし現金払いの場合、財布の中のお金をレジの担当者に渡して、レジに収納される様子を見て初めて決済が完了します。つまり、カード払いは現金払いより、支払いをしているという「感覚」が薄いのです。

そのため同じ金額でも、現金払いの方がお金を支払うことによって生じる負の効用は大きく、顧客はクレジットカードで支払いをしたくなるのです。

プロスペクト理論を生かした価格戦略

プロスペクト理論を生かした価格戦略としてキャッシュバックやムーンプライスのように価格設定や見せ方によって顧客に新たな正の効用を生み出す仕組みを使用することが有効です。

キャッシュバック

キャッシュバックとは商品を購入してもらった後に一定の額を現金やギフトカード、ポイントなどで返すというものです。例えばPanasonicでは、2021年4月23日(金)からテレビやブルーレイレコーダー購入で最大9万円をキャッシュバックするキャンペーンを行っています。

何故最初から値引きをしないで、わざわざキャッシュバックをするのでしょうか。

それは本来ならお金を支払って生まれた負の効用が、商品を所持・消費することで生まれる正の効用によって帳尻が合うという仕組みになっています。

しかしキャッシュバックという仕組みを使うと、この一連のプロセスが終わった後にお金を少し返すので、追加で正の効用が生まれることになります。そのため、顧客の満足度はあらかじめ値引きをしている時より上がるのです。

ムーンプライス

ムーンプライスとは表示価格でも、誰も決して払うことがない価格のことです。180万円で売ることが決まっていても、200万円という価格を見せてから10%引きで180万円にするような手法のことです。

実際、ZOZOTOWNのサイトでは割引を行う時、値引きされた後の価格だけでなく、元々の価格と割引額を表示しています。

これは値引きされるということで普通の決済に加えて正の効用が生じるため、顧客は得をした気分になるというものです。しかしこの手法は大袈裟な価格を設定しすぎると、表示価格での信憑性を失うので注意が必要です。

キャッシュバックや、ムーンプライスに加えてキャッシュレスなどを導入すると、支払い時に負の効用が生まれにくいため購買意欲が上がるため有効だと言えます。

このプロスペクト理論は、多様化する顧客の購買意欲を上げるにはとても有効的な手段なため理解して置くことは大切です。

まとめ

この記事では行動経済学や神経経済学を元に、価格の心理テクニックを紹介しました。心理テクニックは鵜呑みにするのは危険ですが、知っておくことで価格戦略に大きく役立てることができます。

皆様の事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。

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価格の心理テクニック④(プロスペクト理論)

キャッシュバックという言葉を目にしたことはないでしょうか。商品を購入した後にいくらかのキャッシュバックを受け取れるという仕組みがあります。

あなたは支払いの場面で、ついついクレジットカードを使ってしまう経験はありませんか?

実際、買い手は現金払いより、クレジットカード払いを好むようです。それは実は「プロスペクト理論」という考え方によって説明できるのです。

この理論はマーケティング領域に様々な方法で利用されており、価格戦略を立てる際に、大きく役立てることができます。

この記事では、この理論を活用したプライシングのノウハウについて、実際の事例を交えながら解説します。

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論とは、利益や損失に関わる意思決定のメカニズムをモデル化したもので、KahnemanとTverskyによって1979年に提唱されました。

プロスペクト(prospect)は「予想」「見通し」という意味を持ちます。その名前の通り「不確実性を伴う状況において、ある事象が生じる確率やそこから得られる損得が分かっている場合にどのような意思決定を行うか」を表しています。

この理論はよくグラフにて表されます。次のグラフをご覧ください。

横軸は損得の度合い、縦軸は効用の度合いです。効用とは「人が財を消費することから得られる満足度」のことです。

このように参照点という真ん中の点を境に損失局面と利得局面とにわけられます。

このグラフからわかることは主に2つあります。

1つ目に利得を感じると効用は確実に増えますが、その割合は減っていくということです。これは最初に1万円を得たときの効用は、さらに1万円を得たときの効用よりも大きくなるということです。また、これは逆に損失の場合も言えます。

重要なのは2つ目です。それは利得と損失のインパクトが違うということです。グラフを見ると損失局面の曲線の方が、利得局面の曲線より角度が急になっています。

これは同じ大きさの利得と損失を感じたとしても、私たちが損失の際の効用の方が、利得の時の効用よりも大きくなるということです。

例えば、宝くじを購入したとします。インターネットで当選番号を確認したところ自分の番号があり、三億円が当たりました。しかし、その一時間後に電話がかかってきて「すいません。今回の抽選は無効となり、あなたはハズレとなりました」と告げられたとします。

すると「当選者」になったはずが突然奈落の底に突き落とされたように感じるはずです。損得だけを考えるとプラスマイナス0なのにも関わらず、このやり取りを終えた後では大きく損失による痛みを感じてしまうはずです。

この事例のように、等しい量の利益と損失があった場合、損失によって感じる痛みの方が利益によって感じる幸福より大きいのです。そのため、人間はあらゆる場面で、損失を回避する傾向にあります。

プロスペクト理論と価格の関係性

ここまでプロスペクト理論の概要についてお話ししたしましたが、これは価格設定と大きく関係があります。

それは、お金を払うという行為はプロスペクト理論の「損失」にあたり、商品やサービスを購入・利用することは「利得」を意味するからです。

故に価格設定をする際に、プロスペクト理論を知っていて損はないのです。次の項目では日常に起こる様々な現象をプロスペクト理論によって説明します。

事例紹介

無料か有料か

仮にあなたがサッカー日本代表戦のチケットを手に入れたとします。しかし当日、あいにくの雨天になりました。

その際、その試合を観に行く確率は、チケットをプレゼントされた時より、自腹で購入したときの時の方が圧倒的に高くなります。すでに自分の財布で支払ったならば元を取ろうという思いは遥かに強くなるのです。

現金かクレジットカードか

顧客は現金で支払うよりクレジットカードで支払うことを好む傾向にあります。

その理由は、カード払いは現金払いと比べて、手元からお金が離れることによって生まれる負の効用を感じにくいからです。

カード払いの場合、署名やパスワードを打ち込むだけで決済が完了します。しかし現金払いの場合、財布の中のお金をレジの担当者に渡して、レジに収納される様子を見て初めて決済が完了します。つまり、カード払いは現金払いより、支払いをしているという「感覚」が薄いのです。

そのため同じ金額でも、現金払いの方がお金を支払うことによって生じる負の効用は大きく、顧客はクレジットカードで支払いをしたくなるのです。

キャッシュバック

キャッシュバックとは商品を購入してもらった後に一定の額を現金やギフトカード、ポイントなどで返すというものです。例えばPanasonicでは、2021年4月23日(金)からテレビやブルーレイレコーダー購入で最大9万円をキャッシュバックするキャンペーンを行っています。

何故最初から値引きをしないで、わざわざキャッシュバックをするのでしょうか。

それは本来ならお金を支払って生まれた負の効用が、商品を所持・消費することで生まれる正の効用によって帳尻が合うという仕組みになっています。

しかしキャッシュバックという仕組みを使うと、この一連のプロセスが終わった後にお金を少し返すので、追加で正の効用が生まれることになります。そのため、顧客の満足度はあらかじめ値引きをしている時より上がるのです。

ムーンプライス

ムーンプライスとは表示価格でも、誰も決して払うことがない価格のことです。180万円で売ることが決まっていても、200万円という価格を見せてから10%引きで180万円にするような手法のことです。

実際、ZOZOTOWNのサイトでは割引を行う時、値引きされた後の価格だけでなく、元々の価格と割引額を表示しています。

これは値引きされるということで普通の決済に加えて正の効用が生じるため、顧客は得をした気分になるというものです。しかしこの手法は大袈裟な価格を設定しすぎると、表示価格での信憑性を失うので注意が必要です。

まとめ

今回の記事ではプロスペクト理論という顧客の意思決定のメカニズムについて解説しました。プロスペクト理論はマーケティング領域に様々な方法で利用されている為、価格戦略を立てる際に、この原理を知っておくことは大切です。

プライシング・価格戦略にお悩みの事業者様は、一度プライシングスタジオにお問い合わせください。

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BI(ビジネスインテリジェンス)ツール業界の料金体系比較まとめ調査・価格設定の考察

この記事では、BI(ビジネスインテリジェンス)ツール業界における各社の価格調査および価格設定に関する考察をおこないます。

BI(ビジネスインテリジェンス)ツールとは

BIツールとは、日々企業に蓄積されるデータを分析し、意思決定に活用することを助けるシステムです。BIは「Business Intelligence」の略語で、組織のデータを収集・蓄積・分析して可視化することで、経営上の意思決定に役立てる技術や手法を指します。

近年は「データドリブン経営」や「データドリブン・マーケティング」に注目が高まっており、BIツールは、こうしたデータを活用した経営やマーケティングを支援するツールです。BIツールは可視化・分析・計画までをツール上で可能にするため、次のような機能が備わっています。

機能 概要
レポーティング 必要なデータを抽出し、見やすいようにまとめて表示する
OLAP分析 蓄積したデータを分析処理し、データの要因を深堀り特定する
データマイニング 蓄積したデータに対して統計的な処理を行い、有益な情報を引き出す
プランニング 過去のデータをもとに、計画のシミュレーションを行う

BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの価格・料金体系の概要

BIツールは、主に月額制の利用料金を設定しています。その中でも「単一価格モデル」「複数価格モデル」という2つの価格体系が設定されています。さらに、無料でサービスを試用できる体系として、無料トライアルが設定されています。

BIツールと似た料金体系を採用している業界には、採用管理システムやMAが挙げられます。契約した企業ごとの価格になる理由として、一部の部署でしか利用しないシステムはユーザー数が増えることが見込みにくいからです。

BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの価格体系比較

現在、公開されているBIツールの価格一覧は以下の通りです。

サービス名 月額料金 価格体系 無料
トライアル
ボリューム
ディスカウント
Data Knowledge 500,000円〜 単一価格モデル(※1)
Canbus 10,000円〜 複数パッケージ価格モデル
GoodDate 40,000円〜 複数パッケージ価格モデル
Zoho Analytics 2,700円〜 複数パッケージ価格モデル

(※1)追加オプション機能は、従量課金モデル×複数価格モデル

(調査日:2021年4月2日)

BIツールでよく使われている価格体系

BIツールにおいては、従量課金モデルと複数パッケージ価格モデルの2種類の価格体系が採用されています。

単一価格モデル

概要

単一価格モデル(Flat rate pricing model)とは、サービスに対して料金体系が1つであるサブスクリプションモデルです。全てのユーザーに対して単一の製品・機能・価格を提供するため、SaaSの価格体系の中でも最もシンプルなものになります。例えば、ターゲットセグメントが画一的であったり、機能や価値が単一化されているシンプルなサービスで利用されます。

また、事業ニーズがあるかを仮説検証しやすいという観点から、PMFが優先されるシード(新規事業フェーズを含む)・アーリーステージなどで利用されることが多いです。

複数パッケージ価格モデル

概要

複数のパッケージ(いわゆる「プラン」のこと)を提示する、SaaSで広く取り入れられている価格体系です。さまざまなニーズに対応でき、顧客ごとの売上最適化に近づきます。また、質の高い機能や多くのストレージを提供する必要がある顧客に対して、価値に見合った金額を受け取ることができることから、利益を増加させることが可能です。一方で、選択肢が多すぎたり、プランの差が複雑だと顧客にとって検討事項が増えてしまい、購入障壁を高めることにつながるため、顧客ニーズに合致した選択肢を3つ程度に留めるように注意が必要です。

BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの価格体系に関する考察

BIツールのプライシングにあたっておすすめしたい価格体系は次のモデルです。

月額料金は複数パッケージ価格モデルを推奨

BIツールには、複数パッケージ価格モデルが推奨されます。複数パッケージ価格モデルは、複数の価格帯で提供することで、複数の顧客セグメントに対してのニーズを満たすことが可能です。例えば、個人向けのサービスであれば、ユーザーの利用頻度や利用量、法人向けのサービスであれば、大企業か中小企業かで、セグメントごとに価値と合う価格で提供できます。

また、貯めるデータ数が多いほど利用価値が高まるため、データ数や連携できるシステム数の上限をパッケージの区分とするのが推奨されます。

無料トライアルを推奨

無料トライアルを採用している企業が多く、無料トライアルを提供している企業に潜在的な顧客が流れてしまう恐れがあります。業界で確固たる地位がない限り、無料トライアルでまずは使ってもらうようにすることが大切でしょう。

無料トライアルとよく混同されるフリーミアムですが、BIツールにおけてフリーミアムは相性が悪いです。フリーミアムは、基本的な機能を無料で利用できるものの、機能や容量などを追加して利用する際に課金が発生します。多岐にわたる分析の過程で適切に制限をかけることは難しく、価値を正しく理解されない場合が多いためです。

プライシングを適正化するためには

ここまで、BIツールに最適な価格体系について考察してきました。最適なプライシングは、大きく3つの要素から決まります。

①顧客:顧客は誰か、顧客は自社の製品の何に価値を感じるか(ある機能、ユーザー体験、外部ツール連携など)、顧客セグメント(SMB、エンタープライズなど)によって支払意欲は大きく変わります。どんな顧客の課題を解決するために生まれたプロダクトか、現在の顧客はどのような属性かといった内容をプライシングに反映させる必要があります。

②競合:誰が競合なのか、競合はいくらで提供しているか、競合との価値の違いは何かを把握する必要があります。SaaSにとっては、同じSaaSの競合の他、買い切りソフトウェアや代替サービスも競合となるので注意が必要です。

③コスト:販売するほど生まれるコストはいくらか、販売量によってコスト構造は変わるかを検討します。SaaSにとっては、開発コストの他、カスタマーサクセスのコストを検討する必要があります。

これらの要素は、絶えず行われる機能アップデートや、大型ファイナンスによる積極的なマーケティング、組織拡大などから日々変化します。理想は四半期に一度、少なくとも半期に一度は、価格改定をするべきです。米国では約40%のSaaSスタートアップが少なくとも半期毎に価格を見直しているというデータもあります。

社内で画一化された分析手法を確立し、迅速な意思決定ができる体制を構築する必要があるでしょう。それには、プライシング分析の専任者を採用するか、プライシングの分析ツールを導入するのが最も効果的です。実際のところ、国内スタートアップでは、まだまだ価格分析におけるアプローチが浸透していないのが現状で、専任者の採用は困難を極めます。費用的にも圧倒的にお得なPricing Sprintなどのプライシングの分析ツールが最も手軽なアプローチといえるでしょう。

戦略的なSaaSプライシングを実践したい方は、プライシングスタジオまでお問い合わせください。

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T2D3とは?SaaS企業の成長指標・達成のための7つのフェーズとプライシング戦略

T2D3という用語は、2015年にベンチャーキャピタリストのNeeraj Agrawal氏によって提唱され、SaaS企業が急成長を遂げ、高い企業価値を実現させるために達成すべき数値として世界的に知られるようになりました。

この記事では、T2D3という用語の意味と定義、達成するために行うべき施策、さらには成長フェーズに応じたプライシング戦略の考え方についても解説します。

T2D3とは

「T2D3(ティーツー・ディースリー)とは、ARR(サブスクリプションの年間売上)が1億円を突破してから、3倍(Triple)で2年、2倍(Double)で3年というペースで売上が伸びる状態を示した、SaaSスタートアップの成長スピードをはかる指標のことです。

T2D3という用語は、SaaSに数多く投資するBattery VenturesのNeeraj Agrawal氏が提唱したとされ、2015年2月に同氏がTech Crunchのエントリを公開したことで有名になりました。

T2D3を達成するための7フェーズとプライシング戦略

Neeraj氏のエントリでは、SaaS企業が市場参入してから成功するまでの段階を7つのフェーズに分け、それぞれで行うべきことを解説しています。具体的には、次の7つです。

  • フェーズ1:PMFの確立
  • フェーズ2:ARR(年間経常収益)200万ドル達成
  • フェーズ3:ARR600万ドル達成(3倍)
  • フェーズ4:ARR1800万ドル達成(3倍)
  • フェーズ5:ARR3600万ドル達成(2倍)
  • フェーズ6:ARR7,200万ドル達成(2倍)
  • フェーズ7:ARR1億4400万ドル達成(2倍)

フェーズ1:優れたPMFの確立

フェーズ1では、まずプロダクトマーケットフィット(PMF:Product-Market Fit)と呼ばれる顧客の課題を満足させるSaaSを提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態の確立を目指します。事業化するための顧客セグメントを見つけ出し、顧客獲得を優先すべきフェーズです。

プライシング戦略のポイント
スタートアップのステージでいうと、いわゆるシード期にあたります。このフェーズでは、企業はすでに規模の大きくなっている企業のように、既存顧客のデータをもとにプライシングを行えません。プロダクトをローンチしたばかり、またはローンチできるかどうかという時期のため、価格設定に割く時間は最小限に抑えながらも、次のような複数の切り口からデータを集め、意思決定を行えると良いでしょう。

フェーズ2:ARR(年間経常収益)200万ドル達成

フェーズ2では、ARRで200万ドルを目指します。1社あたりの平均経常収益が3万〜8万ドルと仮定すると、30〜60社の顧客を獲得できている状態を意味します。

フェーズ3:ARR600万ドル(3倍)達成

フェーズ3では、ARRをフェーズ2の3倍である600万ドルを目指します。この「最初のトリプル:T1」を達成するために、Neeraj氏はセールスリーダーと、5〜10人のセールスを採用して計画を進めるべきだと説いています。

プライシング戦略のポイント
フェーズ2、3あたりのミドル期になるとプロダクトのMVPは完成していて、誰が顧客なのかといったデータは揃ってきます。シード期に一旦置いていた価格をリ・デザインし、既存・潜在顧客がフェアと感じるプライシングを「パッケージ」として完成させる必要があるでしょう。

フェーズ4:ARR1800万ドル(3倍)達成

フェーズ4では、ARRをフェーズ3の3倍である1,800万ドルを目指します。フェーズ3からさらに半分以上セールスを増員し、10〜20人程度で推進していき、CEOはマネージャー育成と大きなアカウント獲得について時間を費やします。

プライシングの戦略ポイント
このあたりはレイターステージといっていいでしょう。すでにプロダクトラインは拡大していて、より広い顧客ベースにサービスを提供しており、事業としての複雑性は増している状況です。ここでは、複雑さを適切に整理し、オンライン上での顧客への見せ方をどうするかによってレイターになっても成長速度を上げられます。料金ページを常にアップデートし続ける、価格プランごとのペルソナを設定する、などの施策を行いましょう。

フェーズ5:ARR3,600万ドル(2倍)達成

フェーズ5では、ARRをフェーズ4の2倍である3,600万ドルを目指します。約20〜30人のセールスと3〜5人のマネージャーの組織を編成します。Neeraj氏は、このフェーズでの課題として「グローバルでの販売展開」であると指摘します。CEOは、英国、フランス、ドイツなどのEMEA地域におけるセールスを機能させるためにも、英国に3〜5人、その他の国で1,2人のセールス担当を配置します。

フェーズ6:ARR7,200万ドル(2倍)達成

フェーズ6では、ARRをフェーズ5の2倍である7,200万ドルを目指します。ここで取り組むべきは、非線形成長を確立すること、またはリセラーやパートナーチャネルを機能させることです。Neeraj氏は、ARR5000万ドル達成前にこうしたチャネルを立ち上げるのは時期尚早であり、また数十社ではなく、1、2社のパートナーとの生産性を高めることが重要だと指摘します。

フェーズ7:ARR1億4,400万ドル(2倍)に到達

フェーズ7では、ARRをフェーズ6の2倍である1億4,400万ドルを目指しますが、ここまでくれば企業価値10億ドル、IPOが見えてきます。しかしこれがゴールではなく、IPO後にさらなる成長を目指していくことになります。

T2D3を達成した海外SaaS企業事例

前述したプロセスでARRが成長していけばT2D3となり、急成長を遂げているSaaSスタートアップとして世界的にも高く評価されます。しかし、これを達成することは簡単ではありません。次の7つの企業は、いずれもT2D3の指標を達成したSaaSですが、T2D3を達成したあともグローバルで高い成長を遂げている企業ばかりです。

  • Marketo
  • NetSuite
  • Omniture
  • Salesforce
  • ServiceNow
  • Workday
  • Zendesk

一方、日本のSaaS企業の中でT2D3を達成している企業はあるのでしょうか。

各SaaS企業の決算発表資料やメディアでの発言を調べたところ、SmartHR、プレイドといった企業がT2D3達成を目指していると発言していますが、2021年4月時点では、まだT2D3を達成しているとSaaS企業はないように思えます。もしT2D3を達成している企業があれば追記しますので、ぜひ編集部にお問い合わせください。

富士キメラ総研の調査によれば、日本国内SaaS市場は2024年に1兆円規模に達すると予測されており、今後ますますの成長が見込める領域です。国内からもグローバルで広く普及するSaaSが生まれることを期待したいです。

すべてのSaaS企業はT2D3を目指すべきか

T2D3は、投資家がSaaS企業の事業成功を予測するための指標として使用されますが、「T2D3を達成できない=SaaSとして失敗している」というわけではありません。日本のSaaS市場と米国とではマーケットの規模も異なるため、単純にT2D3の指標を当てはめるべきかどうかは議論の分かれるところです。

しかし、世界を見据えてグローバル市場をターゲットにしているSaaSであれば大いに参考にすべきでしょう。フェーズ5のARRを達成するにはドメスティック市場だけでは難しく、グローバルでの販売展開戦略がカギを握ります。

T2D3ペースで成長するためにプライシング戦略の見直しを

T2D3を達成している多くのグローバルSaaS企業で実践されているのが、プライシングの見直しです。2021年4月に開催されたセミナー「グローバルトレンドから考える サブスクビジネスのプライシング戦略」では、実際にグローバルSaaSが策定、実行しているプライシング戦略が解説されています。

プライシングを見直す企業のLTVは11倍を超える

セミナーに登壇したSTRIVE 四方智之氏によれば、「米国のスタートアップのじつに80%が年1回に価格の見直しをしており、そのうち40%は2回以上行っている」といいます。

また、計画的にプライシングを見直している企業とそうでない企業で、ユニットエコノミクス(LTV/CAC)に大きな差が出ており、継続的にレビューしている企業の11.1倍に対し、価格改定しない企業は1.7倍程度にとどまっています。

T2D3のスピードで成長したいSaaS企業、急成長をめざしたいサブスク事業者にとって、プライシングの課題に取り組むことは非常に大切です。

戦略的なSaaSプライシングを実践したい方は、プライシングスタジオにお問い合わせ下さい。

プライシングによって皆さまのSaaS事業成功のお手伝いができることを楽しみにしています。

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今こそ見直すSaaSのプライシング戦略 価格調査分析から決め方まで徹底解説

SaaSプライシングの要点を解説したセミナーが開催

SaaS/サブスクビジネスにおける価格戦略は、事業成長に影響する非常に重要な要素である一方で、設定や適正化、タイミングが難しい。こうした問題に頭を悩ませるSaaS事業者は多いことだろう。

2021年5月13日に開催されたPricing Studio x Zuora 特別共催セミナー「今こそ見直す!SAASプライシング戦略」では、SaaS成長へ向けた「プライシング戦略」をテーマに、基本的な考え方から、変更、タイミングの捉え方まで解説された。

最初に登壇したのはZuora Japan サブスクリプションエバンジェリスト 島本 永樹 氏だ。

2007年に創業したZuoraは、プロダクト販売モデルからサブスクリプションモデルへのビジネスモデル変革における収益向上、コスト削減などを支援する企業。グローバル1,000社以上の顧客を支援しているサブスク支援業界のリーダーだ。

国内SaaS企業は生き残れるか?

島本氏は冒頭、SaaSビジネスにおける厳しい現実をデータで提示した。

Zuora Japan サブスクリプションエバンジェリスト 島本 永樹 氏

「国内のSaaS市場規模は2024年には1兆円を超えると予測されていますが、SaaS企業が生き残るのは甘くありません。マッキンゼーの調査によれば、年間成長率が20%未満のソフトウェア企業は92%企業の確率で消えていってしまうと言われています」

近年注目されているSaaS企業の多くはサブスクリプションモデルを採用しており、プライシングに取り組むことが重要であると島本氏は力説する。

「サブスクリプションビジネスは一本調子ではなく、トライアンドエラーを繰り返して成長していくものです。ユーザーであるサブスクライバーを中心に置き、常にユーザーとつながりを持たねばなりません。刻一刻と変わる彼らのニーズを的確に把握し、製品やサービスを永遠のβ版としてアップデートしていく必要があるのです」(島本氏)

サブスクリプションビジネスで考えるべきポイント

つづいて島本氏は、サブスクリプションビジネスにおいて考えなければいけないこととして次の5つを挙げる。

1. 全体デザインのオファーリング

2. サブスクライバーの体験

3. ファイナンシャルモデル

4. ビジネスオペレーション

5. エンタープライズ・アーキテクチャ

限られたセッションの中で島本氏は「1. 全体デザインのオファーリング」について言及した。

全体デザインのオファーリングとは、「持続的な成長を実現するには、どのようにサブスクリプションサービスを設計し、価格を設定し、パッケージ化すればよいか」を考えることだ。

ここで島本氏は、典型的なサブスクリプション契約の例を図示して挙げた。

この図は、Zuoraの顧客(SaaS/サブスク企業)が提供するサブスクリプションの典型的な契約の流れだ。

「ベーシックプラン(トライアル)への申込み、アップデート、従量課金の導入、プランの休止から再開、ときにはダウングレードを提案する場合もあります。

重要なのは横軸の時間軸をみることです。金額と価値のレベルをアジャストさせて、横軸の顧客生涯価値、つまりライフタイムバリュー(LTV)を最大化させていくのが、成功する企業のベストプラクティスです」

契約変更とサブスク成長率の相関関係

実際、企業の戦略と成長率は大きな相関関係がある。

Zuoraの調査では、ユーザーに対して契約プランを複数用意して頻繁に変更ができている企業とそうでない企業とでは、成長率やチャーンに大きな違いがあるという。

「年に数回サブスクリプションエコノミーインデックスと合わせて調査していますが、プランを複数用意している企業はARPA/APRUの成長率が高く、チャーンも防げます」(島本氏)

ZuoraソリューションはCRMやERP/会計システムなどと連携し、価格設定や契約管理、回収、レポート、会計仕訳といったサブスクリプションビジネスに必要な機能をSaaS形式で提供されている。

島本氏はZuoraのソリューションについて説明したうえで、「Zuoraの価値は、収益向上と効率化を同時に実現できることです。既存の仕組みに加えて、新規顧客獲得の加速や収益化を支援していきます」と締めくくって次のセッションにつなげた。

なぜプライシングを見直すべきか?

続いて登壇したのは、プライシングSaaS「Pricing Sprint」の提供やコンサルティング事業を行うプライシングスタジオの取締役COO 相関集 氏だ。

プライシングスタジオ 取締役 COO 相関 集 氏

相関氏はまず「なぜプライシングを見直すべきか?」という疑問を投げかけ、価格を継続的に見直している企業とそうでない企業のユニットエコノミクス(LTV/CAC)には大きな差があることを図を用いて解説した。

「なぜセミナーを開催してまでプライシングを見直すべきかといえば、ユニットエコノミクスに大きな差が出るからです。

価格改定頻度ごとのユニットエコノミクスを比較すると、継続的にレビューして価格を見直す企業は11.1倍となっているのに対し、見直さない企業は1.7倍にとどまっています」(相関氏)

島本氏のセッションでも言及された通り、SaaSは永遠にアップデートが繰り返される前提でサービスが提供される。

「特にSaaSは機能追加が多く、値上げのタイミングがあります。この機会を見逃さずに値上げを行いLTVを増加させることは重要です。

また、定期的に価格をモニタリスングする見直すことで安すぎて不安に思われる、高すぎて検討に乗らないといったことを避ければ、CAC効率化にもつながります」

プライシングを見直す頻度はどうすべきか

では、どの程度の頻度でプライシングを見直すべきか。

相関氏は「結論からいえば、年に1、2回は確実に見直すべき」と強調する。

「海外では、価格を継続的に見直すことが当たり前になっており、米国では役80%のスタートアップが年1ペース、40%が2回見直しを実施しています」

価格戦略の考え方

価格戦略の考え方としては、プライシングによって成し遂げたい結果を逆算、アプローチを考えて、短期間でやりきることが大切だと相関氏は強調する。

「まず、短期間でやりきることが非常に重要です。数年単位の長い期間をかけてじっくりプライシングを見直そうとする方もいるが、これは従来のように、製品の価値が変化しない『売り切り型ビジネス』では通用した考え方です。

しかし、プロダクトそのものの価値がアップデートしたり、競合サービスの数や価格が変わったりするSaaS・サブスクにおいては、同じ価格のままではいけません。すぐ見直し、実行するという意味では、価格を変更する際にはデータ収集から価格決定まで、3か月でやりきることをおすすめします」

具体的には、価格変更の目的によってアプローチを変えていく必要がある。たとえば、売上/利益の増加が目的だった場合ひとつをとっても、さまざまなアプローチが考えられる。

「価格変更そのものが目的ではありません。戦略上のゴールは何か。価格をつかってどうギャップを埋めるかを考えることが重要です」(相関氏)

具体的な価格の決め方

では、具体的にどのようにして価格を決めたらいいのか。行うべき調査は大きく2つある。1つは支払い意欲調査で、2つ目は属性別調査だ。

支払い意欲調査の方法

支払い意欲調査は、顧客がいくらまでなら支払えるのかを調査するものだ。ここでは、次の4つのアンケート設問から分析を行う「PSM分析」を応用したものを使う。

PSM分析のアンケート項目

  • その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?

「SaaSは一般的なアンケート会社のパネル回答は得られない のでおすすめできません。パネルの方がイメージしづらいプロダクトではバイアスが強く出てしまい正確な回答が得られないので、SaaSは既存のユーザーからヒアリング調査するのがもっとも良い方法です。弊社の実績ベースでは、サンプルは50ほどあればある程度見えてきます」(相関氏)

一般的な価格感度分析では、アンケート結果をプロットした左図の交点を見ていくのだが、これだけでは不十分だという。

「大切なのは、安すぎて質が低いと考える顧客、高すぎて検討に乗らないと考える顧客を可視化することです。

これを実現するため、『顧客数を最大化させる価格』と『売上を最大化させる価格』を算出した『購買ポテンシャル』を推計する右図も作成していくことが重要です」(相関氏)

属性別調査の方法

ここまで説明してきた支払い意欲に加えて、さらに難易度が高いのが属性別調査だ。

これは「何が原因で支払い意欲が変わっているのか。支払い意欲の高い層、低い層がどんな属性なのか」を特定するための調査である。

ここでは、利用目的、機能、従業員規模などを設問として加えて質問していく。相関氏は「非常に難易度が高いが、どういう要素が支払い意欲に関わってくるのか仮説を立てて設問を追加していくのがポイント」と語る。

「ここで重要なのは、価格変更を許容する顧客の特徴と事業戦略上必要な顧客の属性が合致していることです。支払い意欲調査で売上が増える価格を決定するだけでなく、属性別調査で自分たちの戦略上ほしい顧客属性を確認していかねばなりません」

まとめ

そして相関氏は、価格を決める際に大切なこととして(1)短期間で決める、(2)的確に要件設計をする、(3)確実に実行するの3点を挙げて解説した。

「1つめに、価格変更プロジェクトは3か月以内と決めて実行すること。

2つめに、的確に要件設計することです。価格変更によって成し遂げたい目的を事業戦略ベースに考えましょう。

3つめに、確実に実行することです。たとえば、お客さまの中では、サービスの利用規約に定められている内容が原因で価格変更できないケースがたまに発生しています。

請求管理業務などのオペレーションに課題がある方は、Zuora社をはじめとしたサブスク管理システムを検討・導入するのをおすすめします」

最後に相関氏は、Pricing Sprintのソリューションや実績を紹介した。

Pricing Sprintは、成功企業のプライシングノウハウを体系化し、グローバルで活用されているバリューベースプライシングによるプライシングプロセスをSaaS化したものだ。

「ローンチから数か月ですが、SaaS/サブスク業界を中心にすでに多くの企業が導入してくださっています。目的の設計からアンケート調査、分析まで専門コンサルタントがサポートしますので、よろしければお気軽にご相談ください」

皆様のSaaS事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。

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その他・価格業界情報

価格の心理テクニック②(アンカー効果、松竹梅)

あなたは飲食店でワインを頼む時に、どの価格帯のワインを頼みますか?無意識に真ん中の価格帯の物を注文した経験がないでしょうか?

それは、実は「価格のアンカー効果」というものが働いているのです。

価格のアンカー効果とは、顧客が商品を選ぶ際に、商品の知識や価格帯に関する情報が不足していると、最初に目にした価格(アンカー)が判断に影響するという心理効果のことです。

アンカー効果は適切な分析を行うことで価格戦略に大きく役立てることができます。

この記事では、この理論を活用したプライシングのノウハウについて解説します。

価格アンカー効果とは

冒頭でもお伝えしましたが、価格アンカー効果とは顧客が商品の品質について評価をする時に、アンカーという最初に目にした価格が購買判断に影響する心理効果のことです。

アンカーという言葉の語源は、船の錨(アンカー)から来ています。最初に錨(アンカー)を海底に下ろすと、鎖は伸びる制限があるため、船を動かせる範囲に影響するということから名付けられました。

現在アクセサリーなどによく使われている「黒真珠」は、実はアンカー効果によって宝石という認識になったのです。

1970年頃、黒真珠はほとんど需要がありませんでした。そこで、イタリアのサルバドールアセールという商人は、黒真珠を最高級の宝石として世間にアンカーを刷り込んだのです。すると、そのアンカーは浸透し、宝石として流通しました。そして彼らは莫大な利益を築き上げました。

アンカー効果の例

松竹梅は、竹が売れる

アンカー効果の例として、「松竹梅は、竹が売れる」ことが挙げられます。

「真ん中のマジック」と呼ばれることもあり、松竹梅のように複数の価格帯が存在する時、真ん中の価格帯が一番売れる傾向にあるようです。

例えばコーヒーショップなどではTallサイズが売れやすいということになるのです。

(出典:タリーズコーヒージャパン)

他にもレストランでワインを注文するときでも同じようなことが起こるようです。

レストランでワインを選ぶ時、ほとんどの顧客はワインリストを見て中間の価格帯のワインを注文します。そして最も高価なワインや、最も安価なワインを選ぶ人はごく少数になります。

(出典:photoAC)

買い手は商品を選ぶ時できるだけ最善の意思決定をしようとします。そこで中間の価格帯の商品を選ぶことで、品質が劣るものを購入するリスクや、多く払い過ぎてしまうリスクを同時に軽減しようという思考が働くようです。

その際、買い手にとって真ん中の価格帯は魅力的に見え、他の商品でも現象が見られるのです。

そのため売り手は、複数の適切な価格帯を揃えアンカーを設置することで、意図的に一定の価格に誘導することが可能になるのです。

誰も買わないのに収益に貢献する商品

アンカー効果の二つ目の例として、「誰も買わないのに収益に貢献する商品」が挙げられます。

次のような事例が紹介されています。

ある販売員が、新しいスーツケースを買うために来店した客に対して予算を聞いたところ、200ドルと言いました。

そこで販売員は取扱商品の全体像を伝えたいと言い、900ドルのスーツケースを取り出してきて、品質やデザイン、ブランド名の点で最高級モデルであることを強調しました。その後、顧客が希望する価格帯の商品の設営に戻るがその際に250ドルから300ドルの価格帯の商品に客の注意を促しました。

すると250ドルから300ドルの価格帯の商品を購入する可能性がかなり高くなることがわかりました。

この事例のように明らかに買わないとわかっていたとしても、高額商品をアンカーとして品揃えに加えることで、顧客の支払意欲を引き上げるというやり方があるのです。

アンカー効果を生かした価格戦略

アンカー効果を生かした価格戦略として、顧客に商品の情報や知識がなかったり、その価格帯に関する情報を持っていない場合に、適切なアンカーを設置するという戦略が有効です。

アンカーがうまく機能すると、顧客を一定の価格に誘導したり、一回あたりの支払意欲を上げることが可能になります。

しかし、アンカー効果を価格戦略に活用するには注意が必要です。

理想の価格に誘導することを意識しすぎて、極端に高い価格や極端に安い価格をアンカーとして設置してしまうと、うまく機能しない場合があるのです。また、最悪の場合、顧客に対し極端なイメージ(中間価格帯のサービスなのに、高価格帯と勘違いされるなど)を植え付けることになってしまいます。

それは顧客が商品やサービスを購入する際、購入したいと思う価格のレンジが存在するからなのです。その為、アンカー効果を活用するためには、その価格レンジを理解しておく必要があります。

その際のアプローチとして使われるのが、PSM分析という分析手法です。詳しくは次の項目で紹介します。

PSM分析とは

PSM分析(価格感応度分析)とは、バリューベースの価格設定を実現するために、顧客の支払意欲を調査するために使われる手法です。

PSM分析を応用することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかを把握できます。

売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算できるのですが、顧客が高いと感じる価格や安いと感じる価格も可視化することが可能なため、適切なアンカー価格を設定することに役立てることが可能になります。

PSM分析に関する詳しい記事はこちら。

まとめ

今回は、「価格のアンカー効果」という初期値が判断に影響する心理効果について紹介しました。

使い方次第では価格戦略に大きく役立てることができますが、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかという価格レンジを把握してから活用すると良いでしょう。

プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

(参考:Confessions of the Pricing Man)

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SaaS・サブスク

サブスクリプションの成功事例解説|適した業界、成功要因は?

サブスクリプションは、近年さまざまな業界で段々と取り入れられています。目新しいもののように考えられることが多いですが、実は時価総額トップ企業30社のうち、14社がサブスクビジネスを事業の一部に導入しています。
今回はそのサブスクリプションで成功している企業の事例とその成功要因について解説します。

サブスクリプションビジネスの現状

世界トップ企業の約半分が導入

驚くべきことに時価総額トップ企業30社のうち、14社でサブスクビジネスが導入されています。(2021/5/6現在)

さらにトップ10社に絞れば8社が導入しており、今後は様々な業界で導入が進んでいくと予想されます。

事例紹介

Amazon

Amazonが導入しているサブスクサービスは、クラウド上にサーバーがあり、それをレンタルするAWSという企業向けのサービスと、書籍、動画が見放題、配送料が安くなるAmazon Primeという個人向けのサービスの2種類があります。

Apple

Appleの導入しているサブスクサービスは、音楽が聴き放題のApple Musicやゲームがプレイし放題のApple Arcadeのような個人に向けたサービスがメインになっています。

ネットフリックス

ネットフリックスは時価総額トップ30社の中に入ってはいませんが、サブスクリプションで成長し続けている企業です。こちらも動画見放題サービスを提供しています。

Google

Googleは企業向けにクラウド経由で共同作業がしやすい環境を構築するGoogle Workspaceやスマホアプリやwebサービスのサーバー、データベースを簡単に用意できるFarebaseの他に、個人向けに、広告なしでオフライン再生も可能になるYoutube Premiumや音楽聴き放題のGoogle Play Musicといった2種類のサービスを用意しています。

NVIDIA

NVIDIAは、クラウドを利用し、快適にゲームができるGeForce Nowというサブスクサービスを導入しています。ゲームに必要な処理をクラウド上でおこなうため、使用しているハードのスペックに依存せず、ゲームを楽しめるサービスです。

サブスク導入の多い業界

サブスクリプションは、ほとんどがデジタル系サービス(例:アマゾンプライムで音楽、映像、書籍の配信サービス)で導入されています。
デジタル系サービスでは、顧客が追加でサービスを得ようとする際に企業側にかかるコスト負担が低いため、導入がしやすいのです。例えばサブスクリプションの音楽配信サービスでは、顧客の購入時応じて製品を製作する必要がなく、需要に応じてコンテンツを配信するだけで良いので追加コストがほとんどかかりません。
このような背景があるため、デジタル系サービスでサブスクリプションが多く採用されています。

しかし、必ずしもデジタル系サービスでなければならない訳ではありません。国内ではキリンで生ビールのサブスクリプションがあるように、非デジタル系サービスでも導入が進んでいます。

成功要因

ここではネットフリックスを例にとって考えていきましょう。

ネットフリックスは元々ウェブサイトによるDVDレンタルサービスをやっている会社で、当初扱っていた作品数は925タイトルで、1週間レンタルにつき4ドル、送料・手数料として2ドル(追加でレンタルする場合はさらに1ドル)を支払う仕組みでした。月額15ドルでDVDを本数制限なしにレンタルできる定額制のレンタルサービス「マーキー・プログラム」を開始し、躍進しました。

サブスクリプションは、「顧客との継続的な付き合いから利益を拡大していこう」という考えを前提としているのはいうまでもなく、顧客との関係性強化がとても重要になります。

ネットフリックスは、この顧客との関係性強化のために、バリューベースプライシングを活用していると考えられます。

バリューベースプライシングとは、顧客が商品・サービスに感じている価値に基づいて価格を設定する手法で、コストに対してマークアップを乗せる従来の価格設定に、顧客の知覚価値を上乗せさることで単価をアップすることができます。


ネットフリックスはこのバリューベースプライシングをうまく活用しています。下図をご覧ください。

出典:Statista

これは、企業努力で顧客の支払い意欲が上がったタイミングで値上げをし、それを新たなコンテンツに投資しています。コンテンツの追加によって、ユーザーの満足度が上がり、支払い意欲が上がる、そして値上げする。このようなことを繰り返しているのです。
これによって実際の売上も着実に伸びています。

出典:Dazeinfo

このように、継続的な支払い意欲調査と積極的な値上げ、増加収益の投資を繰り返し、顧客との関係性強化をはかることが成功要因の一つと言えるでしょう。

プライスハックを運営するプライシングスタジオでは、バリューベースプライシングなどの手法を活用した戦略的なサブスクリプションプライシングを提案可能です。プライシングについてお悩みの方は、プライシングスタジオまでお問い合わせください。

まとめ

世界の時価総額トップ企業30社のうち、14社で導入されているサブスクビジネスの成功事例について解説しました。
サブスクビジネスで成功するには顧客との関係性強化が重要であり、定期的な調査と分析による価格の見直しがとても重要と言えます。