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Netflix値上げの意図は?-ガチ考察してみた

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)
2021年2月5日、Netflixが最大13%の値上げを発表しました。日本での料金変更は2018年8月に次いで2度目となるようです。

巣ごもり消費が需要拡大への追い風となり、さらに「愛の不時着」、「梨泰院クラス」などのオリジナルコンテンツが多数追加され、ユーザー満足度が高まりました。それらによって、絶好の値上げ機会となっていたのではないでしょうか。

ネットでは様々な意見がみられますが、どういう背景でこの値上げは行われたのでしょうか。その意図を徹底解剖することにしましたので、是非お付き合いください。

この記事の結論

・バリューベースプライシングを用いており、今後とも定期的に値上げを行なっていくと推測

・顧客数を維持できる範囲内で、売上が最大化する価格を選択している

値上げの狙い

まず、どういう意図でこの値上げは行われたのでしょうか。

Yahoo!ニュースでは以下のように解説がなされています。

“値上げの理由としてNetflixは、「素晴らしいエンターテイメントへ投資を継続し、映画やドラマの作品数を着実に増やしていけるよう、サービス料金の見直しを適宜行なっている。日本のメンバーにより多くの選択肢を提供し、継続的にNetflixの価値を高めていくことが不可欠であり、同時に、メンバーに手頃な価格でご利用いただけることが重要であると考えている」とコメント。”
このコメントと真意に間違いはないように思えます。

『コンテンツの追加⇨ユーザー満足度の向上(支払い意欲の増加)⇨値上げ⇨収益拡大⇨コンテンツへの投資⇨ユーザー満足度の向上(支払い意欲の増加)⇨値上げ⇨収益拡大⇨コンテンツへの投資…』の様な循環をプライシングにより実現させようということでしょう。

この考え方の根底にあるのは、バリューベースプライシングの概念です。

バリューベースプライシングとは、顧客が商品・サービスに感じている価値に基づいて価格を設定することです。バリューベースプライシングは他のプライシングと異なり、販売数、売上の推計をおこなうことができ、計画性をもった事業運営が可能になります。このことからも、グローバルでは非常に頻繁に使われている手法になります。

余談になりますが、東京ディズニーランドのプライシングも同じような方法がとられており、アトラクションの追加やパフォーマンスの向上に伴って、過去13回の値上げが行われています。

このようにNetflixでも、定期的に価格を見直し、値上げ可能なタイミングで積極的な値上げを行い、コンテンツに投資していくスタンスで経営をしていくのではないかと予想します。

なぜこの価格になったのか

次になぜこの価格になったのかを突き止めるため、普段弊社で実践している価格分析のほんの一部ではありますが、PSM分析をはじめとするプライシング分析に用いられるアンケート調査や分析を実施してみました。

細かい調査・分析内容の詳細は長くなるので、結果だけ書きます。

分析に用いたアンケートデータ

Pricing Sprintのアンケート機能を用いて、およそ100名の「実際にお金を支払って利用している」ユーザーにアンケートを収集しました。

アンケート対象:実際にお金を支払って利用しているNetflixユーザー
アンケート実施期間:2021/02/06~2021/02/07
サンプル数:106件
価格感度設問:現行のプランの月額料金
顧客属性設問:性別、年齢、居住人数、など
利用動態設問:オリジナル作品の視聴有無、月間視聴時間、視聴デバイス、など
サンプルの内訳は以下の通りで、ある程度は年齢や性別などに偏りがないようになっています。

分析をしてわかったこと

上記のデータを用いてシミュレーションを行い、料金プランごとに各価格の許容ユーザー比率を可視化しました。

結論からお話しすると、今回の値上げは、各プランそれぞれのユーザー数を維持できる範囲内で売上を最大にできる価格を選択していました。

ベーシックプラン(880円→990円)から見ていきましょう。このグラフを見ると、ベーシックプランの値上げ前価格(880円)に対する価格の許容ユーザー比率が94%ということがわかります。これが値上げ後価格(990円)にあげたとしても、許容ユーザー比率が92%とほとんどユーザーが離脱することなく値上げを実現することが可能になります。

ちなみに、さらに100円あげた1,090円にすると許容ユーザー比率が82%と10%も減少してしまいます。このようにある一点を超えたら大幅に顧客が離れるポイント(価格の閾値)の限界を攻め、ユーザー数を維持できる範囲内で売上を最大にできる価格にしています。

スタンダードプラン(1,320円→1,490円)でも同じことが言えました。


値上げ後価格である1,490円の場合の許容ユーザー比率91%が、1,590円にしてしまうと77%となってしまいます。スタンダードプランでも価格の閾値の限界を攻めた価格を選んだと言えるでしょう。

プレミアムプラン(1,980円を維持)はどうでしょうか。


プレミアムプランの場合、現在の価格が許容ユーザー比率およそ90%のラインです。しかし、2,080円に値上げをしてしまうと、78%と大幅な顧客離脱(またはプランのダウングレード)が起こってしまいます。値上げをしなかったというより値上げができなかったと言えるでしょう。

さらに細かく分析しましたが、20円の値上げも、どうやら許容されないようです。

このように価格に対するアンケート調査を行い、それを用いたシミュレーションを実施することができれば、「顧客数が最大化する価格」と「売上が最大化する価格」、「顧客数を維持しつつ売上増加が可能になる価格」などを発見することが可能になります。

値上げ実行の際に行われていた工夫

いざ最適な価格がわかっても、いきなり価格変更を強行するとユーザーの強い反感を買うことになります。ではNetflixではどういう工夫がされているか見ていきたいと思います。

Yahoo!ニュースの記事ではこのような記載がありました。

5日以降、Netflixに新規で登録する際には新たな料金体系が適用される。既存メンバーは来週以降、順次サービス内のポップアップやメールで料金改定を案内。翌月以降の支払い時から新しい料金が適用される。パートナー経由で加入している場合は、今後順次適用される予定で、適用のタイミングはパートナー毎に異なるという。

公式サイトのQAにもしっかり記載があります。

Q:自分のプラン料金が変更されるかどうかはどうやってわかりますか?
A:お客様のプラン料金が変更される場合には、変更された料金が適用される請求日の1ヵ月前にNetflixからメールをお送りすると共に、Netflixへのログイン時にメッセージを表示することでプラン料金の変更をお知らせいたします。

このように値上げの際は、新規ユーザーのみ新規価格を適応し、既存ユーザーに対する値上げは事前通知をし、後ほど実施することで反感を買わないような工夫をしています。定期的な値上げを実行可能にするためには、このようにQAページで事前に説明たり、利用規約に明記しておくのが好ましいいと言えます。

余談ですが、このようなケースの他に、値上げが実行されても、既存ユーザーは同じ価格で利用することができる「GRANDFATHERED PRICING」を実施する企業もあります。

まとめ

Netflixは、バリューベースプライシングを実施し、値上げによる収益増加分をコンテンツへ投資し、さらなる顧客満足度の向上を狙っているといえるでしょう。そして今回の値上げは、ユーザー数を維持できる範囲内で、売上を最大にできる価格を選択したのではないでしょうか。

このように、グローバルで圧倒的な成長を実現する企業は定期的な価格の見直しを行い、収益の増分をコンテンツへの投資にまわしています。定期的な価格の見直しをご検討されている方はぜひ一度、弊社にご相談ください。

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サブスク/SaaS 値上げのための重要論点

2021年10月28日、サブスク、SaaS領域におけるプライシングをテーマに、価格を決める際に考えるべき観点や実際のユースケースについて、プライシングの成功企業、失敗企業を元に解説するオンラインセミナーが開催された。

本セミナーには、プライシングコンサルティングおよびプロダクト開発を通じて、顧客の価格成功を支援してきた経験を持ち、現在プライシングスタジオ取締役COOを務めている相関集氏が登壇した。

前回開催されたプライシングセミナーの記事はこちら

プライシングの実例

本セミナーでは、Netflixの成功事例、米国のスタートアップを失敗事例として紹介した。

 

また、成功している企業では、年単位の定期的なプライシングが売上成長に貢献したとし、失敗している企業のうち15%が「価格と費用」が理由で失敗していると解説。

 

サブスクリプションによって変わったこと

旧来のビジネスモデルからサブスクリプションに変わったことで、企業が売るものは「モノ」から「サービス」に移行した。それによって、価格も単一から複雑になったとしている。

 

また、サービスに移行したことで、顧客への提供に並行し、そのバックによってサービスのアップデートが行えるのも、サブスクリプションによる変化である。

加えて、そのサービスの価値に見合った価格に変動させていくことが必要だと相関氏は語る。

 

プライシングにおいて考える論点

プライシングの検討の2レイヤー

相関氏はプライシングを検討するのに、「プライシング戦略」と「プライシング実行」の2つのレイヤーがあると述べた。

中でもプライシング実行観点の検討が特に重要であるとし、目的や、値上げをする際の段階などについて細かく解説した。

 

値上げにおけるリスク

プライシングを行うにあたり、想定されるリスクとして、新規・既存顧客の双方に対する影響や、社内の各部署からの反発が予想される。

セミナー内ではこうしたリスクを最小化していくための方法や要点が解説された。

ユースケース

相関氏は、本セミナーのまとめとして、価格変更を実行するためには、「リアルな計画に落とすこと」が重要だと述べた。

セミナー内では実際の計画を例にとり、価格変更の際のスケジュール感や、進め方について事細かに解説した。

価格体系の検討から調査まで行えるPricing Sprint

Pricing Sprintは、戦略部分から、実行部分まで、プロフェッショナルなコンサルがつき、SaaS、サブスクの価格改訂のために開発された専門ツールの2つを持っているサービスです。

価格体系の確定から価格の検証、分析、妥当性の検証を行い、価格改定の実行、運用を支援させていただいております。

 

まとめ

皆様のサブスクリプション事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。