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T2D3とは?SaaS企業の成長指標・達成のための7つのフェーズとプライシング戦略

T2D3という用語は、2015年にベンチャーキャピタリストのNeeraj Agrawal氏によって提唱され、SaaS企業が急成長を遂げ、高い企業価値を実現させるために達成すべき数値として世界的に知られるようになりました。

この記事では、T2D3という用語の意味と定義、達成するために行うべき施策、さらには成長フェーズに応じたプライシング戦略の考え方についても解説します。

T2D3とは

「T2D3(ティーツー・ディースリー)とは、ARR(サブスクリプションの年間売上)が1億円を突破してから、3倍(Triple)で2年、2倍(Double)で3年というペースで売上が伸びる状態を示した、SaaSスタートアップの成長スピードをはかる指標のことです。

T2D3という用語は、SaaSに数多く投資するBattery VenturesのNeeraj Agrawal氏が提唱したとされ、2015年2月に同氏がTech Crunchのエントリを公開したことで有名になりました。

T2D3を達成するための7フェーズとプライシング戦略

Neeraj氏のエントリでは、SaaS企業が市場参入してから成功するまでの段階を7つのフェーズに分け、それぞれで行うべきことを解説しています。具体的には、次の7つです。

  • フェーズ1:PMFの確立
  • フェーズ2:ARR(年間経常収益)200万ドル達成
  • フェーズ3:ARR600万ドル達成(3倍)
  • フェーズ4:ARR1800万ドル達成(3倍)
  • フェーズ5:ARR3600万ドル達成(2倍)
  • フェーズ6:ARR7,200万ドル達成(2倍)
  • フェーズ7:ARR1億4400万ドル達成(2倍)

フェーズ1:優れたPMFの確立

フェーズ1では、まずプロダクトマーケットフィット(PMF:Product-Market Fit)と呼ばれる顧客の課題を満足させるSaaSを提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態の確立を目指します。事業化するための顧客セグメントを見つけ出し、顧客獲得を優先すべきフェーズです。

プライシング戦略のポイント
スタートアップのステージでいうと、いわゆるシード期にあたります。このフェーズでは、企業はすでに規模の大きくなっている企業のように、既存顧客のデータをもとにプライシングを行えません。プロダクトをローンチしたばかり、またはローンチできるかどうかという時期のため、価格設定に割く時間は最小限に抑えながらも、次のような複数の切り口からデータを集め、意思決定を行えると良いでしょう。

フェーズ2:ARR(年間経常収益)200万ドル達成

フェーズ2では、ARRで200万ドルを目指します。1社あたりの平均経常収益が3万〜8万ドルと仮定すると、30〜60社の顧客を獲得できている状態を意味します。

フェーズ3:ARR600万ドル(3倍)達成

フェーズ3では、ARRをフェーズ2の3倍である600万ドルを目指します。この「最初のトリプル:T1」を達成するために、Neeraj氏はセールスリーダーと、5〜10人のセールスを採用して計画を進めるべきだと説いています。

プライシング戦略のポイント
フェーズ2、3あたりのミドル期になるとプロダクトのMVPは完成していて、誰が顧客なのかといったデータは揃ってきます。シード期に一旦置いていた価格をリ・デザインし、既存・潜在顧客がフェアと感じるプライシングを「パッケージ」として完成させる必要があるでしょう。

フェーズ4:ARR1800万ドル(3倍)達成

フェーズ4では、ARRをフェーズ3の3倍である1,800万ドルを目指します。フェーズ3からさらに半分以上セールスを増員し、10〜20人程度で推進していき、CEOはマネージャー育成と大きなアカウント獲得について時間を費やします。

プライシングの戦略ポイント
このあたりはレイターステージといっていいでしょう。すでにプロダクトラインは拡大していて、より広い顧客ベースにサービスを提供しており、事業としての複雑性は増している状況です。ここでは、複雑さを適切に整理し、オンライン上での顧客への見せ方をどうするかによってレイターになっても成長速度を上げられます。料金ページを常にアップデートし続ける、価格プランごとのペルソナを設定する、などの施策を行いましょう。

フェーズ5:ARR3,600万ドル(2倍)達成

フェーズ5では、ARRをフェーズ4の2倍である3,600万ドルを目指します。約20〜30人のセールスと3〜5人のマネージャーの組織を編成します。Neeraj氏は、このフェーズでの課題として「グローバルでの販売展開」であると指摘します。CEOは、英国、フランス、ドイツなどのEMEA地域におけるセールスを機能させるためにも、英国に3〜5人、その他の国で1,2人のセールス担当を配置します。

フェーズ6:ARR7,200万ドル(2倍)達成

フェーズ6では、ARRをフェーズ5の2倍である7,200万ドルを目指します。ここで取り組むべきは、非線形成長を確立すること、またはリセラーやパートナーチャネルを機能させることです。Neeraj氏は、ARR5000万ドル達成前にこうしたチャネルを立ち上げるのは時期尚早であり、また数十社ではなく、1、2社のパートナーとの生産性を高めることが重要だと指摘します。

フェーズ7:ARR1億4,400万ドル(2倍)に到達

フェーズ7では、ARRをフェーズ6の2倍である1億4,400万ドルを目指しますが、ここまでくれば企業価値10億ドル、IPOが見えてきます。しかしこれがゴールではなく、IPO後にさらなる成長を目指していくことになります。

T2D3を達成した海外SaaS企業事例

前述したプロセスでARRが成長していけばT2D3となり、急成長を遂げているSaaSスタートアップとして世界的にも高く評価されます。しかし、これを達成することは簡単ではありません。次の7つの企業は、いずれもT2D3の指標を達成したSaaSですが、T2D3を達成したあともグローバルで高い成長を遂げている企業ばかりです。

  • Marketo
  • NetSuite
  • Omniture
  • Salesforce
  • ServiceNow
  • Workday
  • Zendesk

一方、日本のSaaS企業の中でT2D3を達成している企業はあるのでしょうか。

各SaaS企業の決算発表資料やメディアでの発言を調べたところ、SmartHR、プレイドといった企業がT2D3達成を目指していると発言していますが、2021年4月時点では、まだT2D3を達成しているとSaaS企業はないように思えます。もしT2D3を達成している企業があれば追記しますので、ぜひ編集部にお問い合わせください。

富士キメラ総研の調査によれば、日本国内SaaS市場は2024年に1兆円規模に達すると予測されており、今後ますますの成長が見込める領域です。国内からもグローバルで広く普及するSaaSが生まれることを期待したいです。

すべてのSaaS企業はT2D3を目指すべきか

T2D3は、投資家がSaaS企業の事業成功を予測するための指標として使用されますが、「T2D3を達成できない=SaaSとして失敗している」というわけではありません。日本のSaaS市場と米国とではマーケットの規模も異なるため、単純にT2D3の指標を当てはめるべきかどうかは議論の分かれるところです。

しかし、世界を見据えてグローバル市場をターゲットにしているSaaSであれば大いに参考にすべきでしょう。フェーズ5のARRを達成するにはドメスティック市場だけでは難しく、グローバルでの販売展開戦略がカギを握ります。

T2D3ペースで成長するためにプライシング戦略の見直しを

T2D3を達成している多くのグローバルSaaS企業で実践されているのが、プライシングの見直しです。2021年4月に開催されたセミナー「グローバルトレンドから考える サブスクビジネスのプライシング戦略」では、実際にグローバルSaaSが策定、実行しているプライシング戦略が解説されています。

プライシングを見直す企業のLTVは11倍を超える

セミナーに登壇したSTRIVE 四方智之氏によれば、「米国のスタートアップのじつに80%が年1回に価格の見直しをしており、そのうち40%は2回以上行っている」といいます。

また、計画的にプライシングを見直している企業とそうでない企業で、ユニットエコノミクス(LTV/CAC)に大きな差が出ており、継続的にレビューしている企業の11.1倍に対し、価格改定しない企業は1.7倍程度にとどまっています。

T2D3のスピードで成長したいSaaS企業、急成長をめざしたいサブスク事業者にとって、プライシングの課題に取り組むことは非常に大切です。

戦略的なSaaSプライシングを実践したい方は、プライシングスタジオにお問い合わせ下さい。

プライシングによって皆さまのSaaS事業成功のお手伝いができることを楽しみにしています。

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今こそ見直すSaaSのプライシング戦略 価格調査分析から決め方まで徹底解説

SaaSプライシングの要点を解説したセミナーが開催

SaaS/サブスクビジネスにおける価格戦略は、事業成長に影響する非常に重要な要素である一方で、設定や適正化、タイミングが難しい。こうした問題に頭を悩ませるSaaS事業者は多いことだろう。

2021年5月13日に開催されたPricing Studio x Zuora 特別共催セミナー「今こそ見直す!SAASプライシング戦略」では、SaaS成長へ向けた「プライシング戦略」をテーマに、基本的な考え方から、変更、タイミングの捉え方まで解説された。

最初に登壇したのはZuora Japan サブスクリプションエバンジェリスト 島本 永樹 氏だ。

2007年に創業したZuoraは、プロダクト販売モデルからサブスクリプションモデルへのビジネスモデル変革における収益向上、コスト削減などを支援する企業。グローバル1,000社以上の顧客を支援しているサブスク支援業界のリーダーだ。

国内SaaS企業は生き残れるか?

島本氏は冒頭、SaaSビジネスにおける厳しい現実をデータで提示した。

Zuora Japan サブスクリプションエバンジェリスト 島本 永樹 氏

「国内のSaaS市場規模は2024年には1兆円を超えると予測されていますが、SaaS企業が生き残るのは甘くありません。マッキンゼーの調査によれば、年間成長率が20%未満のソフトウェア企業は92%企業の確率で消えていってしまうと言われています」

近年注目されているSaaS企業の多くはサブスクリプションモデルを採用しており、プライシングに取り組むことが重要であると島本氏は力説する。

「サブスクリプションビジネスは一本調子ではなく、トライアンドエラーを繰り返して成長していくものです。ユーザーであるサブスクライバーを中心に置き、常にユーザーとつながりを持たねばなりません。刻一刻と変わる彼らのニーズを的確に把握し、製品やサービスを永遠のβ版としてアップデートしていく必要があるのです」(島本氏)

サブスクリプションビジネスで考えるべきポイント

つづいて島本氏は、サブスクリプションビジネスにおいて考えなければいけないこととして次の5つを挙げる。

1. 全体デザインのオファーリング

2. サブスクライバーの体験

3. ファイナンシャルモデル

4. ビジネスオペレーション

5. エンタープライズ・アーキテクチャ

限られたセッションの中で島本氏は「1. 全体デザインのオファーリング」について言及した。

全体デザインのオファーリングとは、「持続的な成長を実現するには、どのようにサブスクリプションサービスを設計し、価格を設定し、パッケージ化すればよいか」を考えることだ。

ここで島本氏は、典型的なサブスクリプション契約の例を図示して挙げた。

この図は、Zuoraの顧客(SaaS/サブスク企業)が提供するサブスクリプションの典型的な契約の流れだ。

「ベーシックプラン(トライアル)への申込み、アップデート、従量課金の導入、プランの休止から再開、ときにはダウングレードを提案する場合もあります。

重要なのは横軸の時間軸をみることです。金額と価値のレベルをアジャストさせて、横軸の顧客生涯価値、つまりライフタイムバリュー(LTV)を最大化させていくのが、成功する企業のベストプラクティスです」

契約変更とサブスク成長率の相関関係

実際、企業の戦略と成長率は大きな相関関係がある。

Zuoraの調査では、ユーザーに対して契約プランを複数用意して頻繁に変更ができている企業とそうでない企業とでは、成長率やチャーンに大きな違いがあるという。

「年に数回サブスクリプションエコノミーインデックスと合わせて調査していますが、プランを複数用意している企業はARPA/APRUの成長率が高く、チャーンも防げます」(島本氏)

ZuoraソリューションはCRMやERP/会計システムなどと連携し、価格設定や契約管理、回収、レポート、会計仕訳といったサブスクリプションビジネスに必要な機能をSaaS形式で提供されている。

島本氏はZuoraのソリューションについて説明したうえで、「Zuoraの価値は、収益向上と効率化を同時に実現できることです。既存の仕組みに加えて、新規顧客獲得の加速や収益化を支援していきます」と締めくくって次のセッションにつなげた。

なぜプライシングを見直すべきか?

続いて登壇したのは、プライシングSaaS「Pricing Sprint」の提供やコンサルティング事業を行うプライシングスタジオの取締役COO 相関集 氏だ。

プライシングスタジオ 取締役 COO 相関 集 氏

相関氏はまず「なぜプライシングを見直すべきか?」という疑問を投げかけ、価格を継続的に見直している企業とそうでない企業のユニットエコノミクス(LTV/CAC)には大きな差があることを図を用いて解説した。

「なぜセミナーを開催してまでプライシングを見直すべきかといえば、ユニットエコノミクスに大きな差が出るからです。

価格改定頻度ごとのユニットエコノミクスを比較すると、継続的にレビューして価格を見直す企業は11.1倍となっているのに対し、見直さない企業は1.7倍にとどまっています」(相関氏)

島本氏のセッションでも言及された通り、SaaSは永遠にアップデートが繰り返される前提でサービスが提供される。

「特にSaaSは機能追加が多く、値上げのタイミングがあります。この機会を見逃さずに値上げを行いLTVを増加させることは重要です。

また、定期的に価格をモニタリスングする見直すことで安すぎて不安に思われる、高すぎて検討に乗らないといったことを避ければ、CAC効率化にもつながります」

プライシングを見直す頻度はどうすべきか

では、どの程度の頻度でプライシングを見直すべきか。

相関氏は「結論からいえば、年に1、2回は確実に見直すべき」と強調する。

「海外では、価格を継続的に見直すことが当たり前になっており、米国では役80%のスタートアップが年1ペース、40%が2回見直しを実施しています」

価格戦略の考え方

価格戦略の考え方としては、プライシングによって成し遂げたい結果を逆算、アプローチを考えて、短期間でやりきることが大切だと相関氏は強調する。

「まず、短期間でやりきることが非常に重要です。数年単位の長い期間をかけてじっくりプライシングを見直そうとする方もいるが、これは従来のように、製品の価値が変化しない『売り切り型ビジネス』では通用した考え方です。

しかし、プロダクトそのものの価値がアップデートしたり、競合サービスの数や価格が変わったりするSaaS・サブスクにおいては、同じ価格のままではいけません。すぐ見直し、実行するという意味では、価格を変更する際にはデータ収集から価格決定まで、3か月でやりきることをおすすめします」

具体的には、価格変更の目的によってアプローチを変えていく必要がある。たとえば、売上/利益の増加が目的だった場合ひとつをとっても、さまざまなアプローチが考えられる。

「価格変更そのものが目的ではありません。戦略上のゴールは何か。価格をつかってどうギャップを埋めるかを考えることが重要です」(相関氏)

具体的な価格の決め方

では、具体的にどのようにして価格を決めたらいいのか。行うべき調査は大きく2つある。1つは支払い意欲調査で、2つ目は属性別調査だ。

支払い意欲調査の方法

支払い意欲調査は、顧客がいくらまでなら支払えるのかを調査するものだ。ここでは、次の4つのアンケート設問から分析を行う「PSM分析」を応用したものを使う。

PSM分析のアンケート項目

  • その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?

「SaaSは一般的なアンケート会社のパネル回答は得られない のでおすすめできません。パネルの方がイメージしづらいプロダクトではバイアスが強く出てしまい正確な回答が得られないので、SaaSは既存のユーザーからヒアリング調査するのがもっとも良い方法です。弊社の実績ベースでは、サンプルは50ほどあればある程度見えてきます」(相関氏)

一般的な価格感度分析では、アンケート結果をプロットした左図の交点を見ていくのだが、これだけでは不十分だという。

「大切なのは、安すぎて質が低いと考える顧客、高すぎて検討に乗らないと考える顧客を可視化することです。

これを実現するため、『顧客数を最大化させる価格』と『売上を最大化させる価格』を算出した『購買ポテンシャル』を推計する右図も作成していくことが重要です」(相関氏)

属性別調査の方法

ここまで説明してきた支払い意欲に加えて、さらに難易度が高いのが属性別調査だ。

これは「何が原因で支払い意欲が変わっているのか。支払い意欲の高い層、低い層がどんな属性なのか」を特定するための調査である。

ここでは、利用目的、機能、従業員規模などを設問として加えて質問していく。相関氏は「非常に難易度が高いが、どういう要素が支払い意欲に関わってくるのか仮説を立てて設問を追加していくのがポイント」と語る。

「ここで重要なのは、価格変更を許容する顧客の特徴と事業戦略上必要な顧客の属性が合致していることです。支払い意欲調査で売上が増える価格を決定するだけでなく、属性別調査で自分たちの戦略上ほしい顧客属性を確認していかねばなりません」

まとめ

そして相関氏は、価格を決める際に大切なこととして(1)短期間で決める、(2)的確に要件設計をする、(3)確実に実行するの3点を挙げて解説した。

「1つめに、価格変更プロジェクトは3か月以内と決めて実行すること。

2つめに、的確に要件設計することです。価格変更によって成し遂げたい目的を事業戦略ベースに考えましょう。

3つめに、確実に実行することです。たとえば、お客さまの中では、サービスの利用規約に定められている内容が原因で価格変更できないケースがたまに発生しています。

請求管理業務などのオペレーションに課題がある方は、Zuora社をはじめとしたサブスク管理システムを検討・導入するのをおすすめします」

最後に相関氏は、Pricing Sprintのソリューションや実績を紹介した。

Pricing Sprintは、成功企業のプライシングノウハウを体系化し、グローバルで活用されているバリューベースプライシングによるプライシングプロセスをSaaS化したものだ。

「ローンチから数か月ですが、SaaS/サブスク業界を中心にすでに多くの企業が導入してくださっています。目的の設計からアンケート調査、分析まで専門コンサルタントがサポートしますので、よろしければお気軽にご相談ください」

皆様のSaaS事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。