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日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説

(この記事は、『日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説』の続きの記事です。)

前回までの記事では、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財業界の動向と、価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介し、

「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

そのなかでも「STEP1」の戦略立案プロセスまでを実務ベースで解説いたしました。

価格戦略が固まれば、あとはその戦略を実際の「価格」に落とし込む工程です。しかし、ここで過去の経験や勘に基づいて価格を決定している企業も少なくありません。

今回は、実際の価格へ落とし込み「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」を解説いたします。

業界の動向や価格の戦略から知りたい方は、下記前回までの記事をお読みください。
・第1部:日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説
・第2部:日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説

プライシングの「良い分析」とは

そもそも「良い分析」とはどんな分析でしょうか。
プライシングという観点で言えば、「良い分析」とは「意思決定ができる分析が良い分析である」と考えています。

もし「高度かつ複雑な分析」を是とするのであれば注意が必要です。高度かつ複雑な分析方法は、分析工数が膨大になることから、調査・分析に時間を要し、意思決定が遅れる可能性があります。

また、分析結果の解釈が難しくなり、意思決定まで落とし込めなくなるリスクすらあります。あくまでも解きたい課題を解くために、どの分析手法を選ぶのが最短経路なのかを意識するといいでしょう。

適切な価格設定に有効な2つの分析手法

私たちがよく活用しているいくつかの分析手法のなかで、日用消費財業界の商材に適していると考える分析手法を2つご紹介します。

・プライスウォーターフォール分析(PWF分析)
・PSM分析

プライスウォーターフォール分析

プライスウォーターフォール分析(PWF分析)とは、コストから価格を設定するコストベースプライシングの手法の1つです。

↓コストベースプライシングについては下記ページをチェック

ウォーターフォール(英語:Waterfall)とは、日本語で直訳すると「滝」を表しますが、プライシングの業界では、価格から様々な取引で発生する各コストを差し引いて、各取引でどれくらい収益が得られているのか、どれくらいコストが発生しているのかといった要素を視覚的に分析するものです。

コスト改善の機会を特定するのに使われるケースもあります。

プライスウォーターフォール分析のやり方

プライスウォーターフォール分析の4つの価格とコスト

プライスウォーターフォール分析では、下記「4つの価格」を「各取引で発生するコスト」に基づいて把握していくことが必要です。

<4つの価格>

  • 希望小売価格(List Price)
  • 請求価格(Invoice Price)
    • 希望小売価格から値引きなどを差し引いた実際の請求価格。これは顧客が支払った価格であり、売り手が実際に受け取る価格ではない。
  • ポケットプライス(Pocket Price)
    • 請求価格から、払い戻し、手当、貨物費を差し引いた価格。売り手が受け取れる手取り価格。
  • ポケットマージン(Pocket Margin)
    • ポケットプライスから売上原価を差し引いた価格で、最終的に企業のポケットに入る利益。

自社の価格を考えていく指標として、下記の様な企業であれば、上述のポケットプライスが適切な価格指標となりえます。

  • 扱う商品・サービスが規格品である
  • かつ、販売コストや郵送費などがほとんど変化しない

しかし、競争が激しい市場では、多くの企業がなんとか差別化を図ろうと躍起になり、取引ごとにカスタマイズされた商品やサービス・パッケージ等を提供する他、特別な配送サービスやテクニカル・サポートを用意するなどの工夫も凝らしています。

そうなると、ポケットプライスでは、ある顧客に商品やサービスを提供するときの実際のコストを反映しきれないため、注文ごとに異なるコストを差し引いた後で、最終的に企業のポケットに入る利益、すなわち上述のポケットマージンが意味を持ちます。

また、「各取引で発生するコスト」の一例としては以下のようなものが挙げられます。

<各取引で発生するコストの一例>

  • 年間取引ボーナス:年間購入額が設定基準を上回った顧客に支払われるボーナス
  • 現金割引:短期間の支払いの場合、請求価格に適用される割引き
  • 委託販売費用:メーカーが販売店・卸売店の商品在庫を負担するためのコスト
  • 共同広告協賛金:地元の小売店や卸売店が商品を広告してくれた場合に支払う協賛金
  • 特別リベート:販売店が大口顧客や全国規模の顧客などの特定顧客に割引を適用した場合に払い戻すリベート
  • 運送料:顧客に納入するまでにかかる運送料
  • 新規市場開拓ボーナス:特定顧客セグメントを開拓するための適用する割引き
  • プロモーション・ディスカウント:キャンペーン期間中の売上に対するリベートなどの販売
  • 奨励金
  • オンライン割引:インターネット、イントラネット経由での注文に適用される値引き
  • ペナルティ:品質や配達時間などの約束が守られなかったときに適用される値引き
  • 売掛コスト:代金請求から回収までにかかる金利など
  • 販売枠確保のための費用:一定の商品スペースを確保してもらうために小売店に払う費用
  • 在庫ディスカウント:季節的な需要増などを見込んで大量在庫を抱えてもらうときに小売店・卸売店に適用する値引き

プライスウォーターフォール分析の手順

プライスウォーターフォール分析は本来、収益構造を視覚化するためのものですが、これを活用することで、コスト改善を起点として収益改善を図れる「価格設定の基準」をつくります。そのステップについて詳しく解説します。

  1. 希望小売価格を確定させます。
  2. 希望小売価格から、商品のボリュームや特定の顧客への呼び込みを行うために行った値引きを差し引いて、請求価格を求めます。
  3. 希望小売価格から販売時の値引きを行った価格が請求価格であるが、これは顧客が支払った価格であり、売り手が実際に受け取る価格ではありません。
  4. 請求価格には含まれない価格があります。これは「請求外価格」とも呼ばれ、適時支払に対する割引、マーケティングやパートナーシップに関する手当、流通経費に関するリベート、販売目標や数量目標などの業績インセンティブなどが含まれます。
  5. 4番で求めた請求外価格を請求価格から差し引いた価格がポケットプライスとよばれ、各値引きを行った後の企業が受け取る最終的な価格です。
  6. 売上原価は商品の価値に直接に寄与する費用です。
  7. ポケット価格から売上原価を差し引いたものが企業が直接受け取るポケットマージンです。
  8. これまでのステップで割り引かれた「コスト」を適正化させるために、各コストが「正しく実行されたコスト」なのか、「不当に実行されたコスト」なのかを分別します。分別するためのそれぞれのコストの違いは以下のとおりです。
    1. 正しく実行されたコスト:価値を創造し、プラスのROIを生み出すのに役立つものを正しく実行されたコストとし、適正化の対象からは外れます。それらは、「取引投資または特別価格」と呼ばれます。
    2. 不適切に実行されたコスト: 価値の破壊につながり、利益の増加を促進せず、利益を生み出さないものを不適切に実行されたコストとします。それらは、積極的に排除するか、最小限にとどめる必要があります。
  9. 8番で適正化したコストをもとに、値引きのルールやポケットプライスの基準を設け、これを基準に価格を設定します。

<ルールの一例>

  • 「不適切に実行されたコスト」として大幅な割引を受けている取引先に対しては、他社と釣り合う程度に価格を引き上げる、もしくは、取引を停止する。
  • ポケットプライスを顧客特性に合わせて是正する。例えば、各顧客の取引量や取引の種類、顧客セグメントに基づいてポケットプライスの目標圏を設定する。

PSM分析

PSM分析とは、「Pricing Sensitivity Meter」 の略であり、顧客が商品とサービスに感じる価値に基づいて価格を決定するバリューベース・プライシングの手法の1つです。

↓バリューベースプライシングについては、下記ページをチェック

顧客がある商品に対して、価格に関する4つの質問を行い、「どれくらいの範囲で価格を受け入れるのか」を調査し、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算することが可能です。

<PSM分析の4つの質問>

  • その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?

PSM分析のやり方

PSM分析の「4つの交点」に学術的根拠はない。

PSM分析についてご存じの方であれば、「PSM分析を活用した価格設定では、4つの交点を参考に価格を設定します」という話を聞いたことはないでしょうか?

PSM分析では、直接的に購入したい価格を尋ねるのではく、4つの項目をアンケートで聞き、製品・サービスの価格に対する顧客の感覚(支払い意欲)を把握するのが特徴です。

<PSM分析のアンケートで聞く価格>

  • 高すぎて検討に乗らない価格
  • 高く感じる価格
  • 安く感じる価格
  • 安すぎて品質が低いと感じる価格

そして、価格調査の結果を集計すると、下記4つの交点が現れます。この交点を参考に価格決定を行うという内容です。

<PSM分析の4つの交点の価格>

  • 理想価格:最も価格拒否感が少ないと見られる価格
  • 妥協価格:高い・安いの評価が分かれる価格
  • 最高価格:これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格
  • 最低品質保証価格:これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格

しかし実際のところ、このPSM分析の4つの交点について、学術的な側面からの根拠は提示されておりません。

実際、最高価格以上でも「購入が検討に乗る人」はいますし、同様に最低品質保証価格以下でも「品質が悪いと思わない人」が存在します。

理想価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は「安すぎて品質が低いと思う人」と、「高すぎて検討に乗らないと思う人」が最小となる価格であり、必ずしも交点と一致するとは限らないのです。

多くのステークホルダーに説明責任が存在するビジネスシーンでの価格の意思決定において、この交点の正確性は全くといっていいほど力不足です。

そのため、PSM分析を活用する際は、収集したデータをプロットし、交点を参照するのではなく、集計して価格ごとの購買人数と売上を推計した方が、説明責任を果たすのに十分な結果を出すことができます。

PSM分析を活用した適切な価格の求め方

①注目すべき価格

「高すぎて検討に乗らない価格」「安すぎて品質が低いと感じる価格」の2つに注目して、分析を行っていきます。

前者よりも高い価格で売ってしまえば、高すぎてお客さんに買ってもらえません。

同様に、後者よりも安い価格で売ってしまえば品質に不安を持たれてお客さんに買ってもらえません。

これらのことから逆に、この2つの価格の間の金額で売ればお客さんは買ってくれるだろうと考えられます。

PSM分析の結果を見るときは、この仮定を置くことが大切です。

②価格ごとの顧客数と売上を推計する

それぞれの価格にした場合、どのくらいのお客さんが買ってくれるか(顧客数の推計)、そこに単価をかけることで、どのくらいの売上でたつのか(売上の推計)がわかります。
推計したデータをグラフと表に整理すると下記のような図が出来上がります。

上記図を分析することで、価格に対して下記のような根拠をもった意思決定ができるはずです。

<価格決定の例>

  • まずは戦略上市場シェアを取っていく必要があるから、「顧客最大価格」に設定しよう。
  • 売上をより伸ばしていきたいから「売上最大価格」に設定しよう。
  • 顧客の離脱が最小限に収まる範囲内で、売上が上がるこの金額に設定しよう。

PSM分析の具体的な調査・分析プロセスについては、下記ページにて解説しています。

まとめ

今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP2の「金額を決める」ステップについて解説いたしました。
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

プライシングスタジオでは日用消費財業界の企業様の価格のコンサルティングを担当させていただいております。不明点やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説

(この記事は、『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説』の続きの記事です。)

「日用消費財業界の価格戦略とは?」
「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

前回の記事では、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財業界の動向と、
価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介しました。

<価格戦略の立案・実行の流れ>
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

今回は、そのうち「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」の戦略立案方法について、「実際にどのように戦略を立案していくべきなのか?」を実務ベースに解説いたします。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定「日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説」にて解説いたします。

全部で3部構成となっておりますので、まだ前回の記事をお読みでない方は、下記のリンクよりお読みください。

第1部:『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説

価格戦略の立案に欠かせない2つの分析手法

前回の記事でもご紹介した通り、野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果から、消費者の商品を買う際の判断基準の傾向に大きな変化があることが分かりました。

消費者の判断基準が「安さ重視」から「高くても自分が気に入った商品を買う(プレミアム消費)」へ変化してきている今、価格を考える上で、企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。

市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が有効です。

<価格戦略立案に欠かせない2つの分析手法>

  • STP分析
  • ロールポジション分析

STP分析

STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。

S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくことができます。

ロールポジション分析

ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し整理することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。

また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元にロールポジション分析上で並べて比較することで競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができます。

STP分析のやり方と手順

STP分析の目的

STP分析を実行していく目的としては、市場における、自社の顧客像や製品の立ち位置を把握することで、戦略を考える上で必要な土台を整えることです。

他社との競争に効果的に勝つためには、⾃社が狙っていくターゲットの標準を、自社が最も「満⾜」を提供する可能性が⾼い消費者に標準を合わせる必要があります。

その際に、誤って他の企業と同じ市場セグメントを追求してしまうと、もっと収益が上がるはずのセグメントを⾒逃してしまうことになります。 正しく市場を分析し、追求することで、自社の立ち位置を精度高く把握することができ、戦略を考える上で必要な土台ができるのです。

STP分析の3つのフレーム

次にSTP分析の実施に必要な下記3つのフレームについて理解を深めていきましょう。

セグメンテーション

市場を細分化するプロセスです。ニーズや選好の異なる購買者グループを特定し、その特徴を明らかにします。 
市場を細分化する軸としては、下記4つの軸が用いられます。

<市場を分類する4つの軸>
①地理軸:市場を国、州、地域、郡、地元エリアといった多様な地理的に単位で市場を細分化
②人口動態軸(デモグラフィック):年齢、世帯規模、家族のライフサイクル、性別、所得、職業、教育⽔準、宗教、⼈種、世 代、国籍、社会階層等によって、市場を細分化
③社会⼼理学軸(サイコグラフィック):⼼理⾯や性格の特徴、ライフスタイル、価値観に基づいて市場を細分化
④行動学軸:製品に対する知識、態度、使用法、反応に基づいて細分化

ターゲティング

参⼊する市場を選ぶプロセスです。 ⾃社にとって最も収益性や⽬的の実現に近づける市場を決定します。 
市場の決定方法としては、下記5パターンが挙げられます。

ポジショニング

参入市場に対して⾃社の市場提供物の明確なベネフィットを確⽴し、どのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくプロセスです。

取るべきポジショニングの戦略を判断する際には、先述したロールポジション分析を活用します。

ロールポジション分析で、商品ごとに自社と競合の立ち位置を把握し、後述する自社の競争地位に応じたとるべき戦略を検討します。

セグメンテーションのやり方

セグメンテーションをする際に持つべき5つの観点と評価方法

ただ闇雲に市場を細かく細分化するだけでは意味を成しません。
市場を細分化する際には、上述の4つの軸(地理軸・人口動態軸・社会⼼理学軸・行動学軸)を参考に切り分けつつ、以下の5つの観点を持って細分化することが大切です。

<5つの観点>
①測定可能性:セグメントの規模、購買力、特性を測定できるかどうかという視点です。
②利益確保可能性:セグメントが製品やサービスを提供するのに十分な規模と収益性を有しているのかどうかという視点です。
③接近可能性:セグメントに効果的に到達し、製品やサービスを提供できるのかという視点です。
④差別化可能性:セグメントが概念的に区別できるかどうかという視点です。
⑤実⾏可能性:セグメントを引き付けて製品とサービスを提供するのに、効果的な成果を出すことができるかどうかという視点です。
また、分けられた市場に対して、「どの市場を選ぶかを判断する」ための「評価」もセットで行う必要があります。
市場の細分化から評価を行う流れについては、市場リサーチャーのロジャー・ベストが推奨する「ニーズに基づいた市場細分化アプローチ」について解説します。
<ニーズに基づいた市場細分化アプローチ>
  1. ニーズに基づいた細分化を⾏う
    1. 特定の消費問題を解決する際に顧客が求める類似したニーズやベネフィットに基づき、顧客をセグメントにわけます。
  2. セグメントの「特徴」を特定する
    1. 分類したセグメントをどのような要因が特徴づけているのか判断する必要があります。
      具体的にセグメントを特徴づける要因としては、消費者のライフスタイルや、デモグラフィックス、使用行動などがあります。
  3. セグメントの「魅⼒」を判断する
    1. あらかじめ規定されたセグメントの魅力度の基準(市場成長性、競争の激しさ、市場アクセスなど)を使い、各セグメントの全体としての魅力を判断します。
  4. セグメントの「収益性」を判断する

ターゲティングのやり方

市場を細分化し、評価が完了したら、参⼊する市場を選んでいきます。

ターゲティングの5つのアプローチ方法

参入市場の選び方として、5つのアプローチ方法が存在します。
それぞれ見ていきましょう。

①単一セグメントへの集中

単一セグメントとは名前の通り、ある特定のセグメントに特化した商品やサービスを提供することです。

メリットは、特化したセグメントのニーズについてより多くの知識を得て、強力な存在感を持つことができます。
自動車会社のフォルクスワーゲンは、小型車市場に、ポルシェはスポーツカー市場に集中することで、成功しています。

デメリットとして、ある特定のセグメントに特化することは高いリスクを伴います。
特定の市場セグメントとの状況が悪化したり、競合会社がそのセグメントに参入してくる可能性もあります。

その事例としてポラロイド社が挙げられます。 ポロライド社はデジタルカメラ技術が生まれ、インスタント写真に特化していたポロライド社の売上は大きく落ちこみました。このように高いリスクが伴うため、多くの企業は複数の市場セグメントに事業を分散させることを好みます。

②選択的専⾨化

企業の目的に合わせて、魅力的かつ適切な複数のセグメントに絞り、対象とすることです。

メリットはそれぞれ自社の商品やサービスに適していると判断され、選ばれたセグメントなので、高い収益性が期待できます。またリスクを分散させる効果もあります。

事例としては、P&Gがクレスト・ホワイトストリップスを発売した際、標的セグメントには、結婚間近な女性に加え、同性愛者の男性も含まれていました。

③製品専⾨化

いくつかのセグメントに販売できる1種類の商品に特化することです。

メリットは、特定の製品エリアにおいて評価を得ることができることです。
事例として、顕微鏡メーカーは、顕微鏡という一つの製品に特化していますが、標的セグメントは大学の研究室や、政府の研究機関、企業の研究部門など複数のセグメントが存在しています。

デメリットとしては、その製品が画期的なテクノロジーにとってかわられるといったようなリスクが存在することです。

④市場専⾨家

特定の顧客グループの多数のニーズを満たすことに集中します。

メリットは、この顧客グループから高い評価が得られると、このグループに別の商品を売り込むことができることです。
事例としては、研究室にのみに多様な製品を販売する企業が挙げられます。

デメリットとしては、特定の顧客グループが予算を削ったり、財政が悪化したりすると、売上が落ちこむリスクがあることです。

⑤市場のフルカバレッジ

全ての顧客グループに彼らが求めるあらゆる製品を提供することです。巨大企業のみができる戦略です。

事例としては、コカ・コーラ(飲料メーカー)やIBM(コンピューター市場)、GM(自動車市場)などがあります。

この戦略の中にも「差別型マーケティング」「無差別型マーケティング」があります。

<無差別型マーケティング>

「無差別型マーケティング」は市場セグメントの違いを無視し、単一の製品やサービスで市場全体を対象とします。

メリットとしては、製品ラインが少ないため、研究開発、製造、在庫管理、輸送、マーケティング・リサーチ、広告、製品管理に関するコストを抑えることができます。

デメリットとしては、企業は最大多数の購買者にアピールする必要があるため、莫大な予算が必要となるので、大きな企業しかできない戦略ともいえるでしょう。

<差別型マーケティング>

「差別型マーケティング」は企業が複数のセグメントに事業を展開し、セグメントごとに異なる製品を設計します。

一般的に差別型マーケティングのほうが、無差別型マーケティングよりもコストがかかると言われています。

考慮する点としては、コスト面からは、「製品改良コスト」「製造コスト」「マーケティング管理コスト」「在庫管理コスト」「プロモーションコスト」があります。

ポジショニングのやり方

セグメンテーション、ターゲティングの操作が終わったら、どのような立ち位置で参入するのか、自社が取るべきポジショニング戦略を判断していきます。

ポジショニングは、4つのステップで進めていきます。

<ポジショニングの4つのステップ>

  1. POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。
  2. ⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。
  3. 競合製品も同じように整理する。
  4. 競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。

競争地位と取るべき戦略

4つのステップのご説明の前に、「競争地位の種類」と「地位ごとの取るべき戦略」を解説していきます。

競争地位①:リーダー

  • リーダーの特徴:関連製品の市場で最⼤の市場シェアを誇っています。そして通常、価格変更、新製品導⼊、 流通範囲、プロモーションの⾯で他社をリードしています。
  • リーダーの取るべき戦略基本方針としては、全方位戦略をとり、自社シェアの維持や市場の拡大をさせることが戦略的目標になります。

競争地位②:チャレンジャー

  • チェレンジャーの特徴:業界で第2位、第3位、あるいは更に低い地位にある企業はしばしば2番⼿企業もしくは追⾛企業と⾔われます。
  • チャレンジャーの取るべき戦略市場戦略による利益への影響を分析するPIMS研究によると、一般的にシェアが高まれば収益性が高まることがわかっています。そのため、基本方針としては差別化戦略を取り、攻撃対象を明確にして競合他社の弱点をつくなどしてシェアを高めることが戦略目標になります。

競争地位③:フォロワー

  • フォロワーの特徴:リーダーに挑戦するよりも、追随する傾向にあります。リーダーを追い越す可能性は低いですが、イノベーション費用を負担していないため、高い利益を挙げることができます。
  • フォロワーの取るべき戦略基本方針としては、模倣戦略を取り、製品開発コストを抑えて高収益を達成させることが戦略目標となります。

競争地位④:ニッチャー

  • ニッチャーの特徴:大規模市場でのシェア率が低くても、小規模市場すなわちニッチャーでリーダーになる道もあります。
  • ニッチャーの戦略基本方針としては、集中戦略を取り、扱い商品の価格帯や販売チャネルなどを限定して専門化することで収益を高めることが戦略目標になります。

ポジショニングの4つの実行ステップと戦略立案例

競争地位と取るべき戦略が理解できたら、早速実行ステップを進めていきましょう。

ステップ1:POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。

POSデータをバブルチャートに整理することで、

  • 自社がシェアを取れている商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?
  • 自社がシェアを取れていない・取っていくべき商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?

などを視覚的に明らかにすることが可能です。

例えば、こちらのバブルチャートをご覧ください。

各容量と各平均価格ごとにバルブが分布しており、オレンジ色は自社商品、グレー色は他社商品のバルブを表しています。

バルブの大きさは、その商品の当期売上金額に比例した大きさになっており、他社のバルブより大きければ大きいほど、その容量帯・価格帯で自社がシェアを取っていることを表しています。

この図からは、容量200~500gの層では、自社の売上が最も大きく「リーダー」のポジションが取れていることがわかります。

しかし、小容量100~200gと大容量500~700gの層では、他社商品は存在しているものの、自社製品はない状態となっております。小容量層と大容量層だけで考えるとシェアが取れていないことがわかり、自社は「チャレンジャー」的なポジションに居ることがわかります。

ステップ2:⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。

ロールポジション分析を用いて、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類・整理していきます。

<4つの役割>

  • エントリー:量単価(内容量1gあたりの値段など)は高いが、容量が少なく、価格を抑えた製品。商品カテゴリーに馴染みのない顧客が、手軽に購入してもらいやすくし、気に入った場合にはメインの商品の購入に繋げる導入の役割がある。
  • メイン:顧客に最も頻繁に購入される製品で、容量・価格・量単価すべてが商品ラインナップの中で「スタンダードな基準」となる製品。
  • アップサイズ:大容量サイズやセット商品など、容量が増え、価格も高くなるが、量単価が安くなることでお買い得に購入できる商品。
  • プレミアム:より高い価値を求めるターゲット層向けの、メイン商品の機能以外に高い付加価値が付いた商品。量単価が高いのが特徴。

ここで4つの役割に分類することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることが出来るだけでなく、他社と比較して「シェアが取れている商品が何か」「チャレンジャーとして対抗すべき商品が何か」「これからシェアを伸ばせる商品は何か」など、商品個別の価格戦略を考えていくことが可能です。

ステップ3:競合製品も同じように整理する。

競合商品のラインナップも自社商品と同様に4つの役割に分類していきます。

上記図は、「惣菜」を例に自社製品と競合製品を4つの役割に分類した図です。

加えて、POSデータ上でのシェア順位や割合も合わせて記載することで、メイン商品・アップサイズ商品ではシェアが取れているが、プレミアム商品では他社にシェアを取られているなど、自社と他社の状況を俯瞰的に把握することが可能です。

ステップ4:競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。

自社商品と他社商品を比較した後、事業方針に応じてどの商品で、どんなポジション戦略を取っていくかを個別に検討し判断していきます。

上記図は、「ヘアスプレー」を例に、競合他社(競争地位:リーダー)に追随している自社(競争地位:チャレンジャー)が検討している戦略の一例です。

競合他社は、メイン商品の市場シェアが1~3位の上位を独占しており、その他、エントリー・アップサイズ・プレミアム商品をそれぞれ展開しています。

チャレンジャーである自社は、アップサイズの一部の製品でシェア4位を取っているが、その他の商品ではシェアが取れていないため、下記の様な戦略を検討しています。

<戦略立案例>

  • エントリー:自社がエントリーとして認識している商品は、果たして新規顧客層にとってエントリーとしてのポジションにあるのだろうか?より小ぶりな商品が必要ではないか?など、容量・価格・量単価においてエントリー商品の役割をどう定義するのか、役割の見直しを検討する。
  • メイン:市場シェア1~3位を独占する競合製品と比較し、自社商品は容量が少ない割に価格が高く、量当たり単価も高くなっている。そこで、価格を下げるか、量単価を下げるなどの価格の見直しを検討する。
  • アップサイズ:一部の製品では市場シェア4位を取れているが、競合他社から追随されている状態。そこで競合の追随に対し、どの商品であれば、容量・価格・量単価で対抗できるか検討する。
  • プレミアム:自社にはプレミアムにあたる高付加価値製品がない。競合に追随すべく、プレミアム商品の開発を検討する。

まとめ

今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP1の戦略立案方法について解説いたしました。

「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」←本記事
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

戦略が固まったら、次は「金額を決める」ステップに移ります。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定『日用消費財業界の最適価格の求め方を徹底解説』にて解説いたします。

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日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説

「日用消費財業界の価格戦略とは?」
「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

そこで今回は、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財の価格戦略の概要や実施するまでの流れ、使える分析手法についてまとめました。

この記事は、以下のような方におすすめの記事です。

  • 日用消費財業界の価格の考え⽅や戦略を知りたい 
  • 日用消費財業界の具体的な戦略⽴案から調査・分析⽅法を知りたい

全部で3部構成となっており、第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、日用消費財業界での価格戦略の検討に必要な価格の考え⽅や、実務に活かせる戦略から分析の具体的な流れを習得することができます。

また、 流れに沿って分析を進めていただくと、⾃社の取るべき戦略が見え、価格決定のご参考になると思いますので、ぜひ最後までご一読ください!

<日用消費財業界の価格戦略の記事一覧>

  • 第1部(本記事):日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説
  • 第2部:日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説(5/22掲載予定)
  • 第3部:日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説(5/29掲載予定)

1.日用消費財業界の価格戦略とは

価格戦略の基本

業界問わずすべての商品には必ず価格が設定されています。

日用消費財業界の価格の考え⽅として、「この製品にいくらの価格を設定するのか」を考える際に、「自社商品の市場での⽴ち位置を把握してそれに基づいて価格を決めること」が重要なポイントです。

日用消費財業界の特徴や動向 

日用消費財業界の価格の⼤きな特徴として、コモディティ化が挙げられます。
コモディティ化した市場においては、戦略上「他社とどう差別化していくか」が重要です。

以前は消費者のスタイルとして、「品質は問わずとにかく安さを重視する」という傾向が強くありました。
そのため、企業努力でのコスト削減による低価格化やエブリデイ・ロープライス(EDLP)になどに代表される低価格戦略が優位性となり価格競争が行われてきました。

しかし近年では、これまでの傾向と大きく変化しつつあります。
野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果によると、その大きな傾向の変化が確認できました。

近年の動向としては、高付加価値商品への「プレミアム消費」スタイルが増加しています。
以前は、製品に対してこだわりがない人が多く、その中でも、「安さ重視」が大半でした。しかし、近年では、⾼くても⾃分が気に⼊った付加価値に対して対価を⽀払う「プレミアム消費」の割合がプラス11%向上し、これまでのとにかく安さを求める「安さ納得消費」がマイナス16%と減少しています。

このことから、他社との差別化を図っていくポイントとして「どう安くするか」よりも「高くてもいいからどう付加価値を提供するか」が重要となるのです。

このように消費者の商品を買う際の判断基準が変わっているため、価格を考える上でも企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。

2.価格戦略実行の2ステップ

自社の立ち位置を意識し、差別化するためのより練られた価格戦略は、どのように立案・実行すべきなのでしょうか。

日用消費財業界の価格戦略は下記の2ステップで立案・実行していくことが可能です。

【日用消費財業界の価格戦略】

  • 「STEP1:市場での自社の立ち位置を把握し、戦略を考える」

→市場の中で自社の⽴ち位置を整理し、競争優位性を取っているポジションと⾜りていないポジションを把握し、注⼒すべき商品を明確化する。

  • 「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

→注⼒すべき商品についての必要な価格の調査・分析を⾏い、最適価格を設定する。

それぞれのステップについてわかりやすく解説していきます。

「STEP1:市場での自社の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」

STEP1では、市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えることが目的です。

市場の中で、⾃社の⽴ち位置を把握し戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が役に立ちます。

  • STP分析
  • ロールポジション分析

⬛STP分析

STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。
S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していきます。

⬛ロールポジション分析

ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し分析する手法です。役割ごとの製品のありなしや、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。

また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元に、ロールポジション分析上で、並べて比較することで、競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができるのです。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

STEP2では、STEP1で明らかにした取るべき戦略や方針に基づいて、価格分析を行い適切な価格を見つけます。
価格分析の方法としては2つの手法があります。

  • プライスウォーターフォール分析(PWF分析)
  • PSM分析(価格感応度分析)

プライスウォーターフォール分析(PWF分析)

プライスウォーターフォール分析(PWF分析とは、企業が各取引から得る収益(=販売価格)とそこから種々の金額を差し引いたマージンを一覧化し、視覚的に分類したものです。

プライスウォーターフォール分析(PWF分析)では、メーカーが消費者に商品を届けるまで各取引でどれくらい収益が得られているのか、どれくらいマージンが引かれているのかを見直して、最適な価格を設定していくことが可能です。

PSM分析(価格感応度分析)

PSM分析(価格感応度分析)とは、顧客がある商品に対して、どれくらいの範囲で価格を受け入れるのかという顧客の支払い意欲の支払い意欲を調査する分析手法です。

PSM分析(価格感応度分析)では、商品に対して消費者が抱く支払い意欲を調査し、消費者が受け入れられる範囲の価格から、最も売上が上がりやすい価格や最も顧客数が伸びやすい価格を割り出していくことが可能な方法です。

以上の分析手法の具体的な進め方の手順は、

  • 日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説

第2部(5/22掲載予定)

  • 日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説

→第3部(5/29掲載予定)

にて詳しく解説していきます。

3.メーカーが抱える価格決定のよくある課題

実際に価格戦略の立案・実行を進めていくと、その中で課題にぶつかる時があります。
ここでは、メーカーが価格決定の際によく抱える課題と、それをどのように考慮すべきなのかを解説します。

①⼩売業者によって価格を決められてしまい、⾃由に価格決定ができない。

【回答】商品の価値と値段の根拠をPOSデータをもとに説明することで、⼩売業者に価格戦略の理解を促すことができ、価格変更の交渉材料にすることができます。

前提として、メーカーだけが儲かるプランではなく、お客様である⼩売店の成⻑をともに⽬指し、戦略の実⾏が将来的に小売店の売上向上や顧客数の向上につながり、また消費者のためにサービス開発への投資を行い、小売店・消費者・自社にとって三方良しとなる方針をめざしたプランである必要があります。

②営業担当から⼩売業者に対して、新しい値段を提⽰する際に納得いただける説明がしづらい。

【回答】正しい分析に基づいた価格を設定し、その背景と根拠を事業戦略上の意図も含めて説明することで、自社の営業担当も納得して考えられやすく、⼩売業者に対しても説明責任を果たすことが可能です。

4.まとめ

今回は日用消費財業界の価格戦略について、業界の特徴や動向・戦略の立案から実行方法まで解説しました。

プライシングスタジオでは、日用消費財業界の価格決定のコンサルティング支援を行っており、不明点や自社の最適な価格決定を実現したい事業者様は、お気軽にプライシングスタジオまでお問い合わせください。

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【ステルス値上げ】値段を変えずに内容量を減らすのはありなのか?

(この記事は、【ステルス値上げ】値段を変えずに内容量を減らすのはありなのか?の解説記事です)

【コメント】
値上げをしない企業は商品を小さくする策を取りますが騙された気分になります。
【返答】
そのような実質の値上げをステルス値上げと呼ぶことがあります。今回はステルス値上げの是非について説明します!

ステルス値上げはありなのか?

おすすめできる場合とおすすめできない場合の両方があります。一部のおすすめできる商品を除いて、基本的にはあまりおすすめできません

値段を上げない代わりに、商品を小さくしたり中身を減らしたりして利益を上げる方法をステルス値上げと呼ぶことがあります。ステルス値上げをおすすめできる場合について、例を用いて説明します。

ステルス値上げをおすすめできる例

「このサービスだったらこの金額」と価格がその商品の象徴になっているサービスではおすすめです。例えば、うまい棒がこれに該当します。

価格を訴求点として用いる場合や、サービスのブランディングに使用している場合は価格が非常に大事です。このような場合、安易な価格変更は良くないでしょう。利益向上の代替案としてステルス値上げを検討してみても良いと思います。
このような例として、うまい棒が挙げられます。先日10円から12円への値上げが発表されましたが、「うまい棒 = 10円」という認識をもっている方も多いのではないでしょうか。

ステルス値上げのデメリット

ステルス値上げにはお客さんの満足度が下がるというデメリットがあります。そのため、安易に行ってしまうのは良くないでしょう。

内容量が減ったことに対してポジティブな感情を抱くお客さんはほとんどいません。サービスのブランディングという観点でもこれは良くないと様々な研究で言われています。
なので、ステルス値上げをする前に支払い意欲調査を行うことを推奨しています。支払い意欲調査をした結果、値上げをしてもお客さんが買ってくれることが見込まれるのならば、サービスを変えずに値上げした方が受け入れられやすいです。
値上げに対してネガティブな印象を抱く経営者の方もいますが、お客さんが払える範囲での値上げであれば問題ないと私は考えます。値段を維持することに固執してサービスの質を下げても、お客さんの反感を買ってしまうリスクがあります。

まとめ

基本的にステルス値上げはおすすめできません。例外として、うまい棒のように価格がそのサービスの象徴となっている場合では検討してみる余地があります。ステルス値上げをする前に、まずは支払い意欲調査を行って本当に値上げできないのか検討してみましょう。

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キャプティブプライシングとは|ジレットのカミソリ事例からわかる価格戦略

カミソリ本体と替刃などの製品に用いられる主製品を低価格で、付属品を高価格で販売する価格戦略である「キャプティブプライシング」についてご紹介します。

キャプティブプライシングとは

キャプティブプライシングとは、カミソリ本体と替刃のように「主製品を低価格に設定し、付属品を高価格に設定する価格戦略」のことです。

高い価格に設定した付属品を定期的に購入してもらうことで、長期的なスパンで収益を得られます。

キャプティブプライシングのメリット

キャプティブプライシングのメリットは、以下のことがあげられます。

購入してもらいやすい

キャプティブプライシングを行なっている製品は付属品で収益をあげるため、本体価格を安く抑えて購入してもらいやすくなります。

初期費用が安く、どんな人でも製品が手にとりやすいため、新規顧客を獲得することが可能です。

高いLTV(顧客生涯価値)を見込める

キャプティブプライシングのメリットとして、高いLTV(顧客生涯価値)を見込めることがあげられます。

LTV(顧客生涯価値)とは、顧客から一生のうちに得られる利益のことを指します。

キャプティブプライシングでは、セットとなる付属品を定期的に購入することを前提としているため、収益を長期的にあげられるようになり、結果として高いLTVが見込めます。

キャプティブプライシングのデメリット

キャプティブプライシングのデメリットは、以下のことがあげられます。

付属品の価格設定が困難

主製品と付属品とそれぞれの価格設定が必要となるだけでなく、付属品の継続的に購買につながる価格設定が必要です。

付属品が高価格すぎると継続的な購買にいたらず、売上の損失に繋がる可能性があります。

顧客の購買意識を維持させるのが困難

キャプティブプライシングは顧客がサービスを活用し付属品を長期的に購買し続けることで収益化に繋がります。そのため、継続的に購買をしている間に他社の類似製品と比較されがちです。付属品の商品価値を上げるなどの手段で顧客が価格に納得感を持ち続けるようにする必要があります。

キャプティンブプライシングの実際の例

カミソリ本体と替刃

カミソリ本体と替刃の関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

実際に、ジレットでは「消耗品モデル」という名前で、キャプティブプライシングを行っています。カミソリ本体の値段は抑え、付属品である替刃の部分の価格を高く設定するというビジネスモデルを確立したので、このようなモデルは「ジレットモデル」とも言われています。

プリンターとインク

プリンターとインクの関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

ここでは、エプソンのプリンターの例をご紹介します。エプソンのプリンター本体価格は、6,000円から20,000円の間が相場となっています。

印刷する際に必要なプリンターのインクは、純正のエプソンプリンター専用のインクを使用することが推奨されており、1セット6,000円で販売されています。

プリンター会社が作っていない互換インクだとより安く購入することができますが、エプソンのプリンター自体が専門のインクを指定しているので、インクから安定して収益を得ることが可能です。

コーヒーメーカーとカプセル

コーヒーメーカーとカプセルの関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

主製品となるコーヒーメーカーは、比較的安い価格で販売している一方、コーヒーメーカーにいれるコーヒーカプセルを高い価格に設定することで利益を得られる仕組みになっています。

具体的な例として、ネスプレッソのコーヒーメーカーを見てみます。ネスプレッソのコーヒーメーカーは、12,000円から購入することができます。そこにいれるコーヒーカプセルは、1セット30カプセル約3,000円の値段がします。1日2回飲むとしたら、1ヶ月で6,000円12ヶ月で72,000円になります。付属のコーヒーカプセルを定期的に購入してもらうことでコーヒーメーカー以上の利益を出すことができます。

SaaS + a box

SaaS + a boxとは、近年話題になりつつある、最新のビジネスモデルです。ハードウェア製品に加えて、月額課金のオンラインサービス提供をすることで、満足度を高めることができるため、非常に注目が高まっています。

実は、このモデルは、キャプティブプライシングの例だと言えるのです。SaaS + a boxでは、ハードウェア製品を高い機能に対して比較的安く提供します。

lovotというサービスでは、ハードウェア自体は原価で販売する一方で、月額課金のオンラインサービスを提供し、収益をあげています。これは、キャプティブプライシングを利用しているといえるでしょう。

具体例としては、オンラインフィットネスのPelotonが挙げられます。現在アメリカで大流行しているサービスで、ランニングマシンやサイクリングマシンといったフィットネスマシンのハードウェアと、月額課金のレッスン動画などのフィットネスサービスを販売しています。

フィットネスマシンの効果を最大限発揮するには、月額課金のフィットネスサービスを利用する必要があるため、月額課金での安定した収益をあげられます。SaaS + a boxはキャプティブプライシングを使った画期的なビジネスモデルといえるでしょう。

まとめ

キャプティブプライシングとは、主製品を低価格に設定し、付属品を高価格に設定する価格戦略のことです。

主製品と付属品のビジネスモデルを確立した「ジレットモデル」を参考に、ネスカフェやネスプレッソなどのコーヒーメーカーの価格戦略が誕生したと言われています。このことから様々な製品に応用することができる価格戦略だということができるでしょう。

デメリットでも解説しましたが、主製品と付属品の価格の設定を適切に行うことが重要になってきます。キャプティブプライシングは、顧客の購買意欲を継続的に保つ価格で行うことが成功の鍵になってくるでしょう。

 

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自動販売機でのダイナミックプライシング事例を解説

ダイナミックプライシングは様々な業界に、新しい風を吹かせています。しかし、そんなダイナミックプライシングも導入が失敗に終わってしまったことがあります。

この記事では、失敗事例を1つ取り上げて事例を解説し、ダイナミックプライシング導入の失敗要因を見つけていきたいと思います。

そもそもダイナミックプライシングとは何かを知りたい方はこちらの記事をご覧ください。


ダイナミックプライシングの導入失敗

「ダイナミックプライシングを自動販売機に導入する」

アメリカの大手飲料メーカーのコカコーラ社は、20年ほど前に自動販売機でダイナミックプライシングの導入を検討したことがります。しかし、実際にそれが実装されることはありませんでした。先進的な取り組みだと思えた、コカコーラ社のダイナミックプライシング。なぜ失敗してしまったのでしょうか??

以下の記事に、コカコーラのダイナミックプライシングについての記載がございました。これらの情報をもとに、コカコーラ社のダイナミックプライシングの沿革と、失敗に終わる結果となった原因について迫っていきます。

参考記事
Variable-Price Coke Machine Being Tested
why variable pricing fails at the vending machine

コカコーラ社のダイナミックプライシング

ダイナミックプライシング導入の背景

アメリカ合衆国で、コカコーラ社が自動販売機でダイナミックプライシングを導入しようとしていたのは、1990年代後半でした。当時のCEOのダグラスイベスター氏は、喉が乾くような暑い日と、涼しい日だと飲み物の需要が変わると判断し、自動販売機で販売する商品の価格を、気温に応じて価格が変動するダイナミックプライシングにしようと思ったのです。

コカコーラ社のダイナミックプライシングの仕組み

主にダイナミックプライシングでは、変動する商品需要に合わせて価格変更を行うことで、収益最大化につながる値段での商品販売を可能にします。ここで鍵になるのが、変化する需要を予測することです。多くの場合、直前の販売状況や、季節、曜日などによってこの需要予測を行うケースが多いですが、コカコーラ社は、気温が需要予測の指標として利用できると判断したのです。当時の計画では、自動販売機に気温計をつけることで、それによって測った気温に応じて自動販売機の価格が変動するという形になっていました。日ごと、および1時間ごとの価格変更を行い、気温が高い夏の日、気温が高い真昼には価格が上昇する設計だったのです。

確かに、暑い日の方が冷たいジュースが飲みたくなりますよね。少し高くても購入してしまうかと思います。これだけでは、ダイナミックプライシングが失敗するとは思ません。なぜ導入は失敗してしまったのでしょうか?

コカコーラ社のダイナミックプライシング導入が失敗した理由

このコカコーラ社のダイナミックプライシングは、適切な需要予測モデルを利用しており、導入も拡大していけるかと思われました。しかし、実際に導入が拡大することはありませんでした。

その理由は、顧客離れのリスクが大きすぎたためだと考えられます。

とあるインタビューで、当時のCEOダグラス・イベスター氏が開発中だったダイナミックプライシングについて言及したところ、それは大きな波紋を呼びました。インターネット上や、マスコミ、そして競合のペプシなど、世間から大量の批判を浴びてしまったのです。その結果、自動販売機のダイナミックプライシングは、顧客離れを引き起こすと認識せざるを得なく、導入を中止したと考えられます。

それではなぜそのように批判が殺到してしまったのでしょうか?そこには三つ考えられる理由があります。

  1. ダイナミックプライシングによる値上げが顧客に価値を提示できていないこと
  2. 商品の価値自体は変わっていなかったこと
  3. 業界の常識から外れていたこと

批判の原因①ダイナミックプライシングによる値上げが、顧客に価値を提示できていないこと

一つ目の問題点は、コカコーラ社のダイナミックプライシングは、値上げによる顧客へのメリットを提示できなていない点です。そもそも需要の高まりに応じて価格を上げることは、「儲け主義」との不審をいだかれやすいです。欲しい時に商品の値段があげられたら、顧客からしたらムッとしますよね。そのため、ダイナミックプライシングを実施するときは、顧客に「自分たちの利益にもつながる」と納得してもらえるような設計をする必要があるのです。

例えば、配車サービスのUberは、需要が高まった地域、時間帯の価格を向上させるのですが、それによりドライバーの労働インセンティブを刺激し、需要に見合うだけの供給を確保するのです。これは、顧客のサービス満足度向上につながっているため、社会に受け入れられています。

コカコーラ社は、需要が多い時に値上げをすることで、買う人を減らし、自動販売機に並ぶ時間を減らすことができると主張していましたが、そこに魅力を感じる顧客は少なかったようであり、納得感を作ることはできませんでした。

批判の原因②商品の価値自体は変わっていなかったこと

たしかに、コーラの需要は気温によって変動しますが、商品そのものは変わっていません。そのため、「同じ商品を高く買わされる」という印象が強く、批判が起きてしまったと考えられます。

例えば、気温が高い日にはコーラを冷やして高く提供し、そうでない日にはあまり冷やさず安く提供するなど、商品の価値自体が変化したのなら、顧客の納得度は一定高まっていたでしょう。商品の価値の変動に納得感がないと、顧客が商品価格の変動に納得しにくいのです。

批判の原因③業界の常識から外れていたこと

当時、ダイナミックプライシングを導入する飲料メーカーはありませんでした。そのため、顧客が慣れの面から受け入れられなかったうえ、競合からの批判もあったのです。有力な競合他社であるペプシが、

「気候に応じたダイナミックプライシングは、暑い地域に住む消費者の搾取につながる」

「ペプシは、コーラを買いにくくするのではなく、革新を目指す」

といった声明を出していた中でダイナミックプライシングを実行すると、大きな顧客離れにつながりかねません。これはダイナミックプライシングを中止する大きな理由となったでしょう。このように、業界で最初にダイナミックプライシングを導入することはリスクを伴うのです。

 

ダイナミックプライシングには「顧客離れ」のリスクがあります。このケースは、導入した事実によって顧客離れが起きかけた、わかりやすい例です。ダイナミックプライシングが、「企業のもうけのためだけに行われる施策」だととられてしまうと、それを導入する事実によって顧客離れは発生してしまうのです。

このリスクもあり、コカコーラのダイナミックプライシング導入計画は失敗に終わったのです。

こちらの記事では、ダイナミックプライシングと「顧客離れ」という観点から、導入デメリットを解説しています。

まとめ

コカコーラ社のダイナミックプライシング導入計画は失敗に近い形で終わってしまいました。たしかに、コーラは需要に変動性があり、気温に応じて価格を上下させることは、収益最大化に繋がりそうなモデルです。しかし、それが顧客離れにつながってしまう場合、長期的な利益を失うことになってしまうのです。

ダイナミックプライシングは企業の収益最大化に有効な手段ですが、それが顧客の利益にもつながるのか、受け入れてもらえるのかどうかを考えることは不可欠です。今回の事例から得られる教訓を一言でまとめるとこのようになるでしょう

「ダイナミックプライシングは、顧客に価値を感じてもらえないと難しい」

そのため、ダイナミックプライシングに失敗するリスクを回避するには、事前にどんな企業ならダイナミックプライシングを失敗せず導入を成功させられるかを把握することが重要です。

こちらの記事では、ダイナミックプライシングを導入すべき企業の特徴を紹介しています。是非ご覧ください