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SaaSビジネスのサービス開始時は無料にすべきか、有料にすべきか?

(この記事は、SaaSビジネスのサービス開始時は無料にすべきか、有料にすべきか?の解説記事です)

【質問】
SaaSビジネスを始めようと思っています。無料と有料、どちらで始めるべきでしょうか?
【回答】
ケースバイケースですが、ほとんどの場合有料で始めるべきです。

無料で始める際の注意点

無料で始めた場合「お金を払う気は無いが、とりあえずやってみた」というユーザーが増えます。このようなユーザーからのフィードバックには注意が必要です。

無料で始めた場合「お金を払う気は無いが、とりあえずやってみた」というお客さんが増えます。このような「本来ユーザーにはならない人」からのフィードバックを基にサービスの改善を行うとサービスの方針を誤ってしまう恐れがあります。
サービスの方針を間違えないためにも、まずは有料でサービスを開始し、有料でも来てくれる少数のお客さんに徹底的に向き合いながらサービスを作っていくことをおすすめします

無料で始めてもよいサービス

「ユーザーがいないと価値を出せないサービス」では無料で始めてもよいと考えます。ビジネスマッチングアプリなどが例として挙げられます。

上述のビジネスマッチングアプリなどでは、そもそもユーザーがいないとサービスの価値が出せません。求人掲載企業が少なければサービスの価値が出せないでしょう。このようなサービスでは「どれだけ最初にユーザーを集められるか」が勝負になってくるので、無料でサービスを始めてユーザーを確保することも戦略の1つとして考えられます。無料で始めた後で、サービスの価値を高めてから有料化を検討してみましょう。

有料の場合の価格決定の考え方

有料ではじめる場合の価格は、正直なところ適当でいいと思っています。まずはシンプルな価格で販売して「このサービスは売れるんだ」ということを明らかにしましょう

サービスを始める段階では、ニーズがあるのか無いのか明らかではありません。この状態で複雑な価格設定にしてしまうと、売れなかった場合の原因が「ニーズが無いから」なのか「価格設定のミス」ないのか分かりにくくなってしまいます。お客さんが買ってくれる最低限の価格でも良いので、まずはシンプルな価格で販売しましょう。そして、サービスにニーズがあるのか無いのか明らかにしましょう。
誰でも買ってくれるシンプルな価格設定で始めると、そのうち様々なタイプのユーザーが得られると思います。同じサービスでも、個人と法人、中小企業と大企業など財布の大きさが異なるユーザーに対しては提供できる価値も異なるでしょう。ユーザーのタイプが増えてくると「大企業向けのプラン」「中小企業向けのプラン」「個人向けのプラン」など価格のテコ入れが必要になってきますが、それまでは割と適当な価格設定で大丈夫だと思います。
一方で例外もあります。既存ビジネスのお客さんに追加でクロスセル商材として新しいSaaSを始める場合や、大企業の新規事業で売り上げ目標が重要な場合、1年目から成果を要求される場合などが例外として挙げられます。このような場合はマーケットを慎重に選ばないといけないため、ターゲットの仮説を立てるときにプライシングも一緒に考えるときがあるでしょう。

まとめ

本日は「SaaSビジネスのサービス開始時は無料にすべきか、有料にすべきか?」について解説しました。ケースバイケースですが、ほとんどの場合有料で始めることをおすすめします。これからSaaSを始める方で、ニーズが不明な場合は適当な価格設定でまずは売りましょう。売れる価格で販売して、ニーズの有無を明らかにすることがまずは重要です。

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SaaSのプライシング成功事例について解説します

(この記事は、SaaSのプライシング成功事例について解説しますの解説記事です)

今回はSaaSのプライシングについて解説します。
成功している企業がどのように価格を決めていったのか、どのようにすればプライシングを成功できるのか、実際の事例を用いつつ説明していきます。

【この記事の結論】
・価格の耐用年数は非常に短いので定期的に価格を見直すことが重要!
・SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分!
・SaaSのプライシングは関係する部門が非常に多くて難しい!

SurveyMonkeyについて

今回紹介するSurveyMonkeyはアンケート配信ツールを提供していることで有名なSaaS会社です!

今回紹介するのはSurveyMonkeyの事例です。「なぜ彼らがうまくいったのか」や「どのように価格を決めていったのか」について、ネット上に公開されていた情報を整理して解説していきます。

価格改定を行った要因

彼らが価格改定を行った要因は以下の3つです。

【要因1】
競合他社が価格を変更しているにも関わらずSurveyMonkeyでは価格を変えていなかった。
【要因2】
プロダクトの開発速度が速くてお客さんがついて来れていなかった。
【要因3】
顧客の80%が個人的な目的ではなく法人のビジネスシーンで活用していた。

お客さんに「追加でお金を払ってでもこんな機能が欲しい!」と挙げられた機能が既に開発済みだったなんてこともあったそうです。

価格を変えてどうなったのか?

得られた効果を見てみると非常にインパクトがあった成功事例と言えるでしょう!

価格変更を行った結果、以下のような効果が得られたそうです。

【効果1】
年間プランの利用者が77%から85%まで大幅に増加した
【効果2】
ARPUが423ドルから483ドルへ104%増加した。
【効果3】
個人利用から法人利用へのスムーズなセルアップにつながり法人向けの売り上げが128%増加した。

(ARPUはAverage Revenue Per Unitの略であり、「ユーザー1人当たりの平均売上金額」を表す数値。)

なぜ価格を変えるのか?

価格の耐用年数は非常に短いです。そのため、1, 2年に1回は価格を見直す必要があります!

価格の耐用年数が短い理由の一つとして「開発スピードが非常に速い」というものが挙げられます。機能が追加されていくにつれてサービスの価値は上がっていきますし、使ってくれるお客さんの幅も広がっていきます。幅広いニーズに対応するため、また価格の機会損失を生まないようにするためにも定期的に価格を見直す必要があります
また、価格を見直すことでサービス提供側の意図通り使ってもらうことができます。今回の事例で言うと、価格を見直すことで個人利用から法人利用に移行してもらうことができました。

SurveyMonkeyも開発スピードが非常に速かったが故に価格改定を迫られることになりました。

なぜSurveyMonkeyは成功したのか?

SurveyMonkeyの成功要因は以下の3つであると分析しています!

【成功要因1】
全社を巻き込んだプロジェクトにした。
【成功要因2】
調査の手法が適切であった。
【成功要因3】
顧客対応を適切に行った。

以下で1つ1つ詳しく解説していきます。

成功要因1~全社を巻き込んだプロジェクト~

SurveyMonkeyでは、リサーチ・プロダクト・開発・営業など合計7つの部門が価格改定に関わりました。まさに全社を巻き込んだプロジェクトと言えるでしょう!

価格は様々な事業の至るところに影響を与えます。そのため全社を巻き込んだプロジェクトとして行い、価格に関わる多くの人が納得できる座組を作ることが重要です。
経営層だけで価格を決める場合はスムーズな意思決定を行うことができますが、この方法では価格に関わる多くの人が納得できる座組を作ることが難しいです。価格変更を全社を巻き込んだプロジェクトとして扱うことの難易度は高いですが、それが価格変更の成功に繋がります

成功要因2~調査手法~

SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分です。他のアプローチと併用しましょう。

SurveyMonkeyは調査として、以下の3つを行ったそうです。

【調査手法1】
顧客セグメンテーション
【調査手法2】
質的インタビュー
【調査手法3】
PSM分析

ここで注意が必要なのは、SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分ということです。SaaSは価格体系の選択肢が多岐に渡るので、PSM分析のみで価格を決めるのは非常に難しいです。PSM分析とあらゆるアプローチを組み合わせて考えていく必要があります。SurveyMonkeyの場合、顧客セグメンテーションと質的インタビューを行うことでPSM分析の精度を高めて価格を決めることに成功したと言えます。PSM分析については以下の記事で詳しく解説しています。

成功要因3~顧客対応~

SurveyMonkeyでは、値上げに対して既存の顧客がショックを受けないように段階的に新プランに移行し包括的にコミュニケーションを実施しました。この戦略によって、最終的にはほとんど解約が生まれなかったと言われています。

まとめ

今回は事例を交えつつ、SaaSのプライシングをどうやって決めるかについて解説しました。SaaSのプライシングは関係する部門が非常に多かったり従来のPSM分析だけでは通用しなかったりと非常に難易度が高いです。ですが、Survay Monkeyさんが注視した観点を参考に価格を決めていくと非常に優れたプライシング戦略を作ることができると思います。是非みなさんもプライシングに挑戦してみてください。

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サブスクの専門家中野賀通社長に聞くサブスクビジネスの要諦

(この記事は、サブスクの専門家中野賀通社長に聞く。サブスクにすべきビジネスとサブスクの成功条件は?の解説記事です)

今回は、ベンチャーでの上場経験があり、現在はAI企業の代表をされている中野賀通社長にお話を伺いました。サブスクの専門家である中野社長に自身のキャリアとサブスクについてのぶっちゃけを聞いてみました!

中野賀通社長の経歴

  • 学校の先生を4年間務めた後に複数のベンチャー企業で活躍。
  • 2015年にテモナ株式会社(以下テモナ)に入社し、2017年にマザーズ上場を経験。2019年には東証一部に鞍替え。
  • 2020年の12月にテモナの取締役CTOを退任。
  • テモナのAI研究開発期間であるオプスデータ株式会社をMBOという形で引き取り、現在はオプスデータの経営に従事。

どのようなサブスクの支援を行ってきた?

これまでどういったサブスクサービスを、どのくらいの期間支援されていたんですか?

ファーストキャリアでは株式会社エイジア(現 株式会社WOW WORLD)でマーケティングのコンサルをやっていました。そこではサブスクビジネスを含めた総合通販の国内案件をけっこう扱ってきました。テモナに移ってからはサブスクのプラットフォームを作りました。食品・化粧品の扱いが多く、現在では約1,700社が利用しています。

どういうビジネスがサブスクに向いている?

「おんぶ(O・N・B)」の3つの軸で考えられる商材が向いています!


おんぶ(O・N・B)とは次の3つのことを指します。

具体的には消耗品で、定期的に買うけど買いに行くことを忘れてしまうor買いに行くのが面倒くさいものが向いていると思います。最近だと完全食。あとはウォーターサーバーといった水関連や、学び放題みたいなデジタル商材も向いています。他にはairClosetがやっているような洋服をスタイリストが選んでくれるサービスだったり、子供の成長に合わせてベストな知育玩具を選んでくれるおもちゃのコンシェルジュも良いサービスだと思います。つまり、キュレーション系のサービスが良いと思います。

色々な市場で色々な商品があるから選ぶ労力がすごいかかる。そういうときにはサブスクがすごくいいと思います。

サブスクはぶっちゃけおすすめ?

すでに商材を持っている事業者さんはやったほうがいいと思います。


D2Cスタートアップっていう話になると、もはや当たり前の選択肢として入ってきますね。ただ業界の変化が過熱してきた分、色々な国からの規制とか迷惑防止条例とか法律も含めて勘案するべきことは多いです。法律関係含め市況の変化などの動向調査を行う必要はあります。

逆にそれさえできていれば大丈夫じゃないかと?

おっしゃるとおりですね!

サブスクは商いの根幹

サブスクは商いの根幹だと思います。サービスの価値を顧客が決め、サービスに満足してくれれば買い続ける。満足できなければやめるというだけなので。

サブスクは「サービスの価値を決めるのは顧客である」という当たり前の話をできるビジネスモデルであり、一極集中でお客さんを見れば良いというのが素晴らしい点だと思います。サブスクと言うと新しい概念に聞こえますが、昔からあるビジネスモデルであり本質は商いだと思います。例えば新聞配達や家賃もサブスクと捉えることができますし、定額支払いにしているものって昔からあって、それらも全部サブスクの一種と言えば一種かなと思います。

僕もこの「本来あるべき商いの姿である」みたいな話好きなんですよ。


なぜ今改めてサブスクが流行っているんだろうと考えると、様々なツールの発展でECがやりやすくなったことや、定額支払いのサービスに対するユーザーの認知度や親しみやすさの向上が関係しているのかと思います。特に、ユーザーの定期購入に対する慣れが大きいのかなと思います。

サブスクのプライシングについて

今度はプライシングスタジオさんに質問ですが、サブスクのプライシングってどうやっているんですか?

サブスクビジネスのプライシングは立ち上げ期とそうじゃない時期でけっこう変わってきます。立ち上げ期のプライシング観点は以下の3点です。

1.誰にどのお客さんに売っていくのか
2.その人に何を売るのか
3.その人お客さんはいくらまで払ってくれるのか

まず1.について。例えば、化粧品の場合1万円を超えるものと3千円のものだとお客さんがサービスに求めるものが変わってきます。3千円の化粧品が欲しい層と1万円の化粧品が欲しい層、どちらに対して売っていくのかをまず決めます。

次に2.について。その客層がどんな価値を欲しているのかをインタビューなどで訂正面から探っていって、ある程度ペルソナ像を設定します。

最後に3.について。そのペルソナに絞ってPSM分析をはじめとした支払い意欲調査を行います。様々なデータ分析結果を組合せていって、このお客さんだったらこの金額まで払ってくれるというのを特定します。例えば金額が5千円のときだったら何%のお客さん、3千円のときだったら何%のお客さんが買ってくれる。売上だったらこれくらいになるとか、LTVもこれぐらいになるというのを考えます。これらを踏まえて最終的に、ユーザー数を最大化していく価格を取るのか、最初から収益を上げていく価格にするのかを協議して価格に落とし込みます。

価格の驚き体験

コンサルをやっていた頃に、2,000円で売っていた化粧ブラシを8,000円に値上げしたらめちゃくちゃ売れたことがあって驚きました。これ面白いですよね!

2,000円が「安すぎて低品質と思われてしまう価格」になっていたってことですよね。2,000円だとこれで大丈夫かなと思われてしまっていたのが、8,000円にすることで品質安全だと感じてもらえた。しかもユーザーにとって高すぎない、お手頃な金額だったってことなんですよね。

機能的な価値は変わらないけど感情的な価値を付加できたのかなと思いました。安心安全を感じてくれたことはもちろん、「高いブラシを使っているから綺麗になれるに違いない」とユーザーがストーリーをくっつけて価値を見出してくれた。価格というバーを1つ変えるだけで、売れる売れないも変わってくるというのが衝撃的な体験でした。

実はプライシングスタジオも1年前に価格を10倍に引き上げているんですよ。


10倍に引き上げてから売れるようになりました。コンサルティングサービスなので数10万円でそれができてしまうと、「数10万円で価格のことを任せていいんだっけ」と不安に感じられてしまうことがありました。僕らも価格を上げて売れたという現体験がありますし、僕らのお客さんでもそういったケースがあるので、中野さんにすごく共感できます。経験したことない人だと
価格を10倍にして売れるのかとか2,000円を8,000円にして売れるのかとかなると思うんですけど、これめちゃくちゃ本当にある事例です。

企業努力をしてコストを下げ続けるという考えもありますが、お客様の期待に合わせて価格を上げた方がフィットする場合もあるので、それは専門家に相談したほうがいいと思います!

ありがとうございます。是非ご相談ください!

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EVC(Economic Value to the Customer)でSaaSプライシングを決めるには?

ここ1年、日本国内ではSaaS企業におけるプライシングの決定手法としてEVC Analysisが流行しています。筆者も、日々SaaS企業の経営者とプライシングについてディスカッションしていますが、EVC Analysisを実施している・検討している企業の割合が日に日に大きくなっているのを感じます。

本記事では、EVC Analysisとはそもそも何なのか、どうやって実施するのかについて解説していきたいと思います。

EVC(Economic Value to the Customer)とは

EVCとは、Economic Value to the Customerの略称で、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、その要素の価値を勘案した上で、販売する商品の価格決めをするための指標を指します。価格付けの際には、EVCから数%割り引いた値を販売価格とします。

そのため、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、有効な値付けの手法となります。

EVCを求める方法は二つあります。

EVCを求める方法①

方法①では、価格付けの際に参照にする競合商品(以下、参照商品)の価格に、販売しようとしている商品(以下、販売商品)の参照商品に対する追加的な価値を足すことでEVCを求めていきます。

プロセスは以下の4つです。

Step 1 付加価値の認識

参照商品にはない販売商品の要素のうち、顧客が長所あるいは短所だと認識する要素を列挙していきます。参照商品を使用する場合にはかかっていたコストを削減する要素、あるいはかかっていなかったコストがかかるようにする要素を列挙する方法もあります。

Step 2 付加価値の価格付け

Step 1で認識した要素について金銭的な価値を割り当て、その総和をTAV(total additional value)とします。

例: 現在販売しようとしている自動車の燃費は参照商品よりもよく(Step1で認識した付加価値)、その価値に割り当てる金銭的な価値は50万円だと見込んでいる。また、販売商品には参照商品にはない事故を防止する機能があり、その価値に割り当てる価値は30万円だと見込んでいる。この場合、TAVは80万円になる。

Step 3 EVCの算出

参照価格とTAVの総和をとってEVCを算出します。これが顧客が払える最大の価格になります。

例:TAVが80万円、参照商品の価格が300万円である時、EVCは380万円になる。

Step 4 販売価格の決定

TAVのある割合を割り引いて販売価格を決定します。この割引は、既存商品から販売商品に乗り換える際に顧客が認識するリスクを勘案したものになります。

例:今TAV80万円のうち30%を割引くとする。この場合、EVC(=380万円)からTAVの30%(80万円×30%=24万円)を差し引いた金額(=356万円)を販売価格とする。

整理すると以下の通りです。

参考までに、計算式もご紹介します。方法①の繰り返しになりますので、お急ぎの方は、方法②へお進みください。


EVCを求める方法②

方法①の場合、EVCは参照価格に合計追加価値を足したものと定義されますが、参照商品を利用する上でかかるトータルコストから販売商品を利用する上でかかる価格以外のコストを引き、参照商品に対する販売商品の利点を足して求める方法もあります。ただし、この方法で求まるEVCは、方法①のものと同じです。以下ではこの方法を説明します。

どれだけ割り引くべきか

EVCによって製品の価格を決定する方法を説明しましたが、実はEVCからどれだけ割引くかを考えることが非常に難易度が高いです。実際、筆者も、EVCはできたけど、価格は決められなかったというご相談を受けてます。

そもそも割引をする理由は、顧客が既に使っている製品から乗り換えるのをリスクに感じるため、その分を割り引いて埋め合わせをするためです。つまり、顧客が製品を信頼していればしているほど割引は少なくて済みますし、顧客が製品を信頼しているほど値段を変化させても販売量は減りにくくなります(=価格感度が低い)。この顧客の価格感度は、EVCで求めることができません。

そういった背景もあり、EVC Analysisは最終的にはアート的なプライシング決定手法といえるでしょう。

そこで本記事では、顧客の価格感度の高さの基準になる心理学的な指標を紹介します。

心理学的な指標

  1. ブランド性

製品にブランド性があれば、価格が高くても顧客はプレミア価格なのだと認識するため、より高い価格で販売することができます。 例えば、ナイキは他のスポーツシューズよりも高い値段で販売することができます。

  1. 競合商品の数

顧客が認識できる競合商品が多ければ多いほど、商品どうしの価格を比較してどの商品を購入するか決定できるため、顧客の価格感度は高まります。裏返せば、顧客に競合商品との価格比較すをさせないようにできれば、より高い価格で販売することができます。例えば、一つの商品のみを提示して、今だけなら安く購入できると宣伝すれば、競合製品と値段を比較することを妨げられます。

  1. 複雑性

競合製品との比較が可能な場合、商品の機能を難しく説明することで、競合製品との値段の違いがどのような機能に反映されているかわかりにくくし、競合商品との単純な比較がしにくくなります。また、説明の際も他の商品の説明と違う用語を使うことでも単純な比較がしにくくなります。

  1. 顧客のモチベーション

顧客が商品を購入するモチベーションが高いほど、顧客の価格感度は低く、より高い価格で販売することができます。

  1. 購入環境

商品の購入環境(ショッピングセンターやサイト)の質が高ければ高いほど、また、顧客サービスの質が高いほど、顧客の価格感度は低くなります。

  1. 価格表示

価格表示を小さくすることによって、顧客の価格感度は低くなります。また、体験版を使用することができることによっても、高い価格を提示した時の顧客の価格感度の高まりを抑制することができます。 

  1. コスト総額との関係

顧客が製品を他の商品と同時に購入するとき、同じ価格であっても同時に購入する商品の価格が高ければ高いほど、顧客の価格感度は低くなります。例えば、旅行中は観光施設の入場料が高くてもそれほど高く感じません。

  1. リスクの高さ

保険に加入していたり製品保証があったりする場合の方が、顧客の価格感度は低くなります。 

  1. 高品質への期待

弁護士費用やホテル料金など、価格が高いほどその製品(サービス)の質が高いだろうと思うような場合、顧客の価格感度は低くなります。

<本記事の参考文献>
“Principles of Pricing: An Analytical Approach”
“Value-Based Strategies for Industrial Products”

まとめ

本記事では、EVC Analysisを活用したプライシングの決定手法について解説しました。EVCは、容易に「顧客が払える最大の価格」を特定することができる一方で、そこからいくら値引きすればいいのかを理解するのが難しいのが特徴です。

そういった弱点も考慮し、自社に適したプライシングの決定手法を選択することが求められるでしょう。

プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

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米国のSaaS企業の料金表のトレンドは?

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

米国の主要なSaaS企業の料金表にはどういう戦略の上で、作成されているのでしょうか。今回、Salesforce、Slack、zoomなど、時価総額上位50社の企業を調べてみました。

調べてみたSaaS企業はこちら

ここからいくつかのことがわかったので、考察していこうと思います。

<この記事の結論>

・料金表を公開している企業のうち、プラン数が3-4プランになっている企業は76%

・料金表を公開している企業の100%が、無料トライアルを採用

・料金表を公開している企業のうち、82%が従量課金モデルを採用

料金表を公開していた企業は34%

米国の時価総額上位50社のSaaS企業の料金ページを調べたところ、具体的な料金表を公開している企業は全体の34%で、残りの66%の企業は、具体的な料金表を公開していませんでした。

また、料金表を公開している94%の企業が、PLG型ということがわかりました。PLG型とは?

PLGはProduct-Led Growthの略で「プロダクトがプロダクトの価値を伝える」戦略を用いている企業のことを指します。例えばzoomやslackなど、主に個人単位でサービスを展開しており、顧客自身が自由に登録できるようになっています。そのため他社と比べて、拡散が早く、成長速度が速いことが特徴です。

以降、料金表を公開しているPLG型の企業に絞って考察を進めていきます。

公開企業のうち、プラン数が3-4プランになっている企業は76%

料金表を公開している企業が提供するプラン数について調べたところ、3-4プランになっている企業が全体の76%を占めていました。

実際、米国のトップVCであるAndreessen Horowitz(a16z)がPLG型のSaaS企業向けに書いたプライシング記事によると、PLG型の場合、試行錯誤するうちに、だいたい3-4プランに収束していくようです。

この記事では、PLG型企業のプライシングにおいて、ユーザーが初めて製品に触れてから、その製品がユーザーの組織で使われるまでの段階である「ユーザージャーニー」を理解することがとても重要だと言われています。「ユーザージャーニー」は4段階に分かれており、それぞれ次のように説明されています。

(出典:Andreessen Horowitz)

TIER1で無料トライアルやフリーミアムでOrganicの母数を増やし、そこからTIER4へスムーズに移行してもらえるような導線を作ることが重要だそうです。

顧客にスムーズに移行してもらうには、このように3-4プランに設定し、導線を作るのが良いとされています。

公開企業の100%が、無料トライアルを採用

先ほど紹介したAndreessen Horowitzの記事では、PLG型のSaaS企業では、リードを獲得する為の方法として無料トライアルやフリーミアムを実施するのが一般的とされていました。

実際、料金表を公開している企業のうち100%が無料トライアルを採用していました。

無料トライアルとフリーミアムの違い

無料トライアルとは、「14日間無料」のように期間に制限をつける一方、機能には制限をつけずサービスを無料で体験することができる仕組みです。

それに対しフリーミアムとは、40分までなら無料で使えるzoom meetingのように、機能に制限をつける一方、期間には制限をつけないでサービスを無料で体験することができる仕組みです。

何故フリーミアムより無料トライアルの方が主流なのか

フリーミアムより無料トライアルの方が主流な理由として、無料トライアルの方がCVRが高く、比較的容易であることが考えられます。実際、PayPalの元創設COO兼製品リーダーであるDavid Sacksは、市場に口コミやバイラルでの広がりが期待できる場合はフリーミアム有効ですが、下記のようなデメリットもあると言い、無料トライアルを推奨しています。

デメリット

1.無料版を魅力的にしすぎると有料版を使ってもらえない

顧客が価値を感じるポイントをしっかりと理解し、顧客がさらに使いたいと思うように設計することが大切です。

2.機能面のペイウォールの作成と維持に多くのリソースを割く必要がある

新しい機能がリリースされるたびに、製品チームは何が無料で何が有料かを決定する必要があります。

3.収益化が難しい

有料版が無料版と比較して魅力的なプロダクトである必要があるため開発コストは高くなります。またリードが収益を生み出すアカウントに変換されるまでに、数か月または数年かかる可能性がある場合、このマーケティングのROIを評価することは困難です。

この点、無料トライアルではこれらの制限に悩む必要がないと言われています。無料トライアルは、期間を限定し有料版への移行の意思決定を、ユーザーに迫ることができため、CVRが比較的高くなります。(フリーミアムのCVRが3-5%なのに対し、無料トライアルは10-20%)

また、製品への実装、販売やマーケティングとの調整も比較的容易な為、David Sacksは無料トライアルを推奨しています。

公開企業のうち、82%が従量課金モデルを採用

料金表を公開している企業の価格体系を調べたところ、82%の企業が従量課金モデルの価格体系を用いていました。

従量課金モデルとは

ユーザー数や使用時間などの利用した“量”に“従”って課金する、価格体系です。顧客が「使った分だけお金を支払う」仕組みです。例えばDatadogでは料金表は次のように使用料に応じた料金が表示されています。

(出典:Datadog)

従量課金モデルがトレンドになっている理由

openviewは、従量課金がトレンドになっている理由として次のようなことをあげています。

1.NDRが高い

顧客の会社規模が、売り上げの天井になることがないため、仮に売上規模が上がったとしても、普通のSaaS企業よりNDRが高く、売上成長率が高くなりやすいといわれています。従量課金モデルではアップセルがしやすいため、NDRが平均的なSaaSより9%高いとされています。

2.高い成長を維持できる

従量課金モデルを採用するSaaS企業はNDRが高いため、上場後も高い成長を維持し、平均的なSaaSより8%高くなると言われています。

3.高いプレミアムがついている

1.2などのことから、マルチプルが平均的なSaaS企業より50%高くなっています。

まとめ

今回米国の主要サービス企業の料金ページをリサーチしてわかったことについて紹介しました。プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。

価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

 

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国内のサブスク200サービスの料金表/プライシングのトレンドについて調べてみた

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

料金表のトレンドを知っておくことは、自社の料金表を検討する際、非常に重要なことであると考えています。そこで、今回は国内のB2Cサブスクリプションサービスのトレンドをご紹介しようと思います。是非お付き合いください。

調査対象

今回は、国内サービスで、資本金3億円以上、ARR(年間経常収益)2億円以上の1つ以上にに該当する企業200社に絞って調査を行いました。主な領域は以下になります。

契約期間の状況

まず、契約期間についてです。

今回調査した企業のうち、80%の企業では1ヶ月契約のみのプランが採用されているようです。自動更新にしている場合がほとんどですが、年間契約が少ないのはB2Cサービスならではの傾向と言えるでしょう。

逆に年契約のみのサービスは、サービス利用にはモノが必要で製造原価が大きくかかり、長期間契約されないと利益が出ない構造になっているビジネスにおいて採用されていました。アプリケーションなどの、いわゆるインターネットサービスにおいては1ヶ月契約が主流となるようです。
Ex)キリン ホームタップ

(出典:キリンホームタップ)

料金プランの種類

料金プランの種類を見ていくと業界毎に傾向が別れました。そこで、料金プラン毎に考察していきます。

【単一プランが多い業界】
飲食、オンラインレッスン、ナビ、音楽、書籍、動画、ヘルスケア、レシピ、医療、見守り、専門家相談、ニュースなど
Ex)ディズニープラス

【段階利用量プラン X 機能別プランが多い業界】
ファッション、不動産
Ex)ブリスタ

(出典:Brista)

機能(今回の場合は借りられる服の数)に加え、ポイントの購入で追加利用ができるサービスがこれに該当します。このモデルはサブスクリプションのストック収益に加え、購買意欲の高い層からより多くの収益を得ることができるモデルのため、工夫次第では大きな武器になります。ただし、あくまでも通常のプランにユーザーが満足していることが大切になります。

他にも、年齢によって価格を変えたり(主に音楽業界)、性別によって変えたり(主にマッチングアプリ)、Netflixのようにアカウント数で料金を変えたりと、支払い意欲が異なるセグメント毎にプランを分けたり、顧客が価値を感じてくれている変数に基づいて価格を変えたりする企業も散見されました。
Ex)AWA

(出典:AWA)

このように、顧客のWTP(支払い意欲)が異なるセグメントの特定や、WTPに影響を与える変数を私たちはプライスレバーと呼んでいますが、これを特定することがサブスクリプションのプライシングを考える上で、非常に重要になります。

オプション課金の有無

次に課金オプションの有無について調べてみました。最初に採用率について調べたところ、次のようになりました。

驚くべきことは、91%の企業がオプションによる課金を採用していないことです。サブスクリプションビジネスは、価格体系がシンプルが故に、全ての顧客セグメントのニーズに対応できない場合が多いです。オプション課金は、多くのニーズに対応することができるかつ、客単価アップに繋がるため、多くの企業に検討の余地がありそうです。

Ex)AmazonPrime Video チャンネル内で月額499円支払うことで、1950~90年代の懐かしの特撮ヒーロー等の作品を視聴できる「マイ★ヒーロー」は、子ども向けのコンテンツを必要としており、そのためにはもっとお金を支払ってもいいと考えている顧客セグメントの単価アップに成功しました。これはオプション課金の好例と言えるでしょう。

一方、オプションを採用している9%の企業は新たな機能の追加による課金(以下、機能追加オプション)と、利用量による課金(以下、利用料追加オプション)の二種類となっていました。

利用量追加オプション

利用量追加オプションは、月額料金で決められた範囲内で利用し放題、範囲を超える分に対し、追加で課金が発生するオプションです。
Ex)港区自転車シェアリングの月額会員 延長料金

(出典:港区自転車シェアリング)

ちなみに、利用量追加オプションはモビリティサービスやマッチングサービスなどの業界に採用されていました。

機能追加オプション

機能追加オプションは、月額利用料に加え、追加で課金することで、他の会員が利用することができない機能を利用することが可能になるオプションです。アプリ内のアイテムが買えるポイントを購入する場合もこれに該当します。
Ex)Omiaiのポイント

(出典:Omiai)

機能追加オプションはマッチングサービスなどで採用されているようです。

ディスカウントの有無

最後に割引について調べて見ました。まずは採用率です。

割引は全体の30%の企業が採用しているようです。

期間で割引を行う企業は95%

割引は14日間無料といったような一定期間で割引が適応されるものと、連携サービスの利用をすることで適応されるものの二種類あるようです。
Ex)連携サービスによる割引の例 ウェザーニュース

(出典:ウェザーニュース)

ちなみに、ほとんどの場合において、一定期間での割引が採用されています。

ちなみに、期間で割引を行う企業は、どのくらいの期間で採用しているのでしょうか。次は期間ごとの割引の比率について調べてみました。

このように、割引を実施している企業のうち67%の企業が初月の割引を採用していました。最後に補足で、最初の2週間や2ヶ月など、初月以外の期間で割引を行う企業の割引日数の平均を出してみたところ、19.9日になりました。初月以外だと、2-3週間の割引が平均となるようです。

まとめ

今回は国内サブスクサービスの料金トレンドについて考察しました。実は、業界によって、面白い特徴もたくさんあるようです。

プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

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Netflix値上げの意図は?-ガチ考察してみた

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)
2021年2月5日、Netflixが最大13%の値上げを発表しました。日本での料金変更は2018年8月に次いで2度目となるようです。

巣ごもり消費が需要拡大への追い風となり、さらに「愛の不時着」、「梨泰院クラス」などのオリジナルコンテンツが多数追加され、ユーザー満足度が高まりました。それらによって、絶好の値上げ機会となっていたのではないでしょうか。

ネットでは様々な意見がみられますが、どういう背景でこの値上げは行われたのでしょうか。その意図を徹底解剖することにしましたので、是非お付き合いください。

この記事の結論

・バリューベースプライシングを用いており、今後とも定期的に値上げを行なっていくと推測

・顧客数を維持できる範囲内で、売上が最大化する価格を選択している

値上げの狙い

まず、どういう意図でこの値上げは行われたのでしょうか。

Yahoo!ニュースでは以下のように解説がなされています。

“値上げの理由としてNetflixは、「素晴らしいエンターテイメントへ投資を継続し、映画やドラマの作品数を着実に増やしていけるよう、サービス料金の見直しを適宜行なっている。日本のメンバーにより多くの選択肢を提供し、継続的にNetflixの価値を高めていくことが不可欠であり、同時に、メンバーに手頃な価格でご利用いただけることが重要であると考えている」とコメント。”
このコメントと真意に間違いはないように思えます。

『コンテンツの追加⇨ユーザー満足度の向上(支払い意欲の増加)⇨値上げ⇨収益拡大⇨コンテンツへの投資⇨ユーザー満足度の向上(支払い意欲の増加)⇨値上げ⇨収益拡大⇨コンテンツへの投資…』の様な循環をプライシングにより実現させようということでしょう。

この考え方の根底にあるのは、バリューベースプライシングの概念です。

バリューベースプライシングとは、顧客が商品・サービスに感じている価値に基づいて価格を設定することです。バリューベースプライシングは他のプライシングと異なり、販売数、売上の推計をおこなうことができ、計画性をもった事業運営が可能になります。このことからも、グローバルでは非常に頻繁に使われている手法になります。

余談になりますが、東京ディズニーランドのプライシングも同じような方法がとられており、アトラクションの追加やパフォーマンスの向上に伴って、過去13回の値上げが行われています。

このようにNetflixでも、定期的に価格を見直し、値上げ可能なタイミングで積極的な値上げを行い、コンテンツに投資していくスタンスで経営をしていくのではないかと予想します。

なぜこの価格になったのか

次になぜこの価格になったのかを突き止めるため、普段弊社で実践している価格分析のほんの一部ではありますが、PSM分析をはじめとするプライシング分析に用いられるアンケート調査や分析を実施してみました。

細かい調査・分析内容の詳細は長くなるので、結果だけ書きます。

分析に用いたアンケートデータ

Pricing Sprintのアンケート機能を用いて、およそ100名の「実際にお金を支払って利用している」ユーザーにアンケートを収集しました。

アンケート対象:実際にお金を支払って利用しているNetflixユーザー
アンケート実施期間:2021/02/06~2021/02/07
サンプル数:106件
価格感度設問:現行のプランの月額料金
顧客属性設問:性別、年齢、居住人数、など
利用動態設問:オリジナル作品の視聴有無、月間視聴時間、視聴デバイス、など
サンプルの内訳は以下の通りで、ある程度は年齢や性別などに偏りがないようになっています。

分析をしてわかったこと

上記のデータを用いてシミュレーションを行い、料金プランごとに各価格の許容ユーザー比率を可視化しました。

結論からお話しすると、今回の値上げは、各プランそれぞれのユーザー数を維持できる範囲内で売上を最大にできる価格を選択していました。

ベーシックプラン(880円→990円)から見ていきましょう。このグラフを見ると、ベーシックプランの値上げ前価格(880円)に対する価格の許容ユーザー比率が94%ということがわかります。これが値上げ後価格(990円)にあげたとしても、許容ユーザー比率が92%とほとんどユーザーが離脱することなく値上げを実現することが可能になります。

ちなみに、さらに100円あげた1,090円にすると許容ユーザー比率が82%と10%も減少してしまいます。このようにある一点を超えたら大幅に顧客が離れるポイント(価格の閾値)の限界を攻め、ユーザー数を維持できる範囲内で売上を最大にできる価格にしています。

スタンダードプラン(1,320円→1,490円)でも同じことが言えました。


値上げ後価格である1,490円の場合の許容ユーザー比率91%が、1,590円にしてしまうと77%となってしまいます。スタンダードプランでも価格の閾値の限界を攻めた価格を選んだと言えるでしょう。

プレミアムプラン(1,980円を維持)はどうでしょうか。


プレミアムプランの場合、現在の価格が許容ユーザー比率およそ90%のラインです。しかし、2,080円に値上げをしてしまうと、78%と大幅な顧客離脱(またはプランのダウングレード)が起こってしまいます。値上げをしなかったというより値上げができなかったと言えるでしょう。

さらに細かく分析しましたが、20円の値上げも、どうやら許容されないようです。

このように価格に対するアンケート調査を行い、それを用いたシミュレーションを実施することができれば、「顧客数が最大化する価格」と「売上が最大化する価格」、「顧客数を維持しつつ売上増加が可能になる価格」などを発見することが可能になります。

値上げ実行の際に行われていた工夫

いざ最適な価格がわかっても、いきなり価格変更を強行するとユーザーの強い反感を買うことになります。ではNetflixではどういう工夫がされているか見ていきたいと思います。

Yahoo!ニュースの記事ではこのような記載がありました。

5日以降、Netflixに新規で登録する際には新たな料金体系が適用される。既存メンバーは来週以降、順次サービス内のポップアップやメールで料金改定を案内。翌月以降の支払い時から新しい料金が適用される。パートナー経由で加入している場合は、今後順次適用される予定で、適用のタイミングはパートナー毎に異なるという。

公式サイトのQAにもしっかり記載があります。

Q:自分のプラン料金が変更されるかどうかはどうやってわかりますか?
A:お客様のプラン料金が変更される場合には、変更された料金が適用される請求日の1ヵ月前にNetflixからメールをお送りすると共に、Netflixへのログイン時にメッセージを表示することでプラン料金の変更をお知らせいたします。

このように値上げの際は、新規ユーザーのみ新規価格を適応し、既存ユーザーに対する値上げは事前通知をし、後ほど実施することで反感を買わないような工夫をしています。定期的な値上げを実行可能にするためには、このようにQAページで事前に説明たり、利用規約に明記しておくのが好ましいいと言えます。

余談ですが、このようなケースの他に、値上げが実行されても、既存ユーザーは同じ価格で利用することができる「GRANDFATHERED PRICING」を実施する企業もあります。

まとめ

Netflixは、バリューベースプライシングを実施し、値上げによる収益増加分をコンテンツへ投資し、さらなる顧客満足度の向上を狙っているといえるでしょう。そして今回の値上げは、ユーザー数を維持できる範囲内で、売上を最大にできる価格を選択したのではないでしょうか。

このように、グローバルで圧倒的な成長を実現する企業は定期的な価格の見直しを行い、収益の増分をコンテンツへの投資にまわしています。定期的な価格の見直しをご検討されている方はぜひ一度、弊社にご相談ください。

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サブスク/SaaS 値上げのための重要論点

2021年10月28日、サブスク、SaaS領域におけるプライシングをテーマに、価格を決める際に考えるべき観点や実際のユースケースについて、プライシングの成功企業、失敗企業を元に解説するオンラインセミナーが開催された。

本セミナーには、プライシングコンサルティングおよびプロダクト開発を通じて、顧客の価格成功を支援してきた経験を持ち、現在プライシングスタジオ取締役COOを務めている相関集氏が登壇した。

前回開催されたプライシングセミナーの記事はこちら

プライシングの実例

本セミナーでは、Netflixの成功事例、米国のスタートアップを失敗事例として紹介した。

 

また、成功している企業では、年単位の定期的なプライシングが売上成長に貢献したとし、失敗している企業のうち15%が「価格と費用」が理由で失敗していると解説。

 

サブスクリプションによって変わったこと

旧来のビジネスモデルからサブスクリプションに変わったことで、企業が売るものは「モノ」から「サービス」に移行した。それによって、価格も単一から複雑になったとしている。

 

また、サービスに移行したことで、顧客への提供に並行し、そのバックによってサービスのアップデートが行えるのも、サブスクリプションによる変化である。

加えて、そのサービスの価値に見合った価格に変動させていくことが必要だと相関氏は語る。

 

プライシングにおいて考える論点

プライシングの検討の2レイヤー

相関氏はプライシングを検討するのに、「プライシング戦略」と「プライシング実行」の2つのレイヤーがあると述べた。

中でもプライシング実行観点の検討が特に重要であるとし、目的や、値上げをする際の段階などについて細かく解説した。

 

値上げにおけるリスク

プライシングを行うにあたり、想定されるリスクとして、新規・既存顧客の双方に対する影響や、社内の各部署からの反発が予想される。

セミナー内ではこうしたリスクを最小化していくための方法や要点が解説された。

ユースケース

相関氏は、本セミナーのまとめとして、価格変更を実行するためには、「リアルな計画に落とすこと」が重要だと述べた。

セミナー内では実際の計画を例にとり、価格変更の際のスケジュール感や、進め方について事細かに解説した。

価格体系の検討から調査まで行えるPricing Sprint

Pricing Sprintは、戦略部分から、実行部分まで、プロフェッショナルなコンサルがつき、SaaS、サブスクの価格改訂のために開発された専門ツールの2つを持っているサービスです。

価格体系の確定から価格の検証、分析、妥当性の検証を行い、価格改定の実行、運用を支援させていただいております。

 

まとめ

皆様のサブスクリプション事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。

 

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実例から見る価格体系 本当に正しいSaaSプライシングとは

2021年9月8日、SaaS企業におけるプライシングについて、企業にあった価格体系の決め方や、具体的な価格の決め方について、サブスクリプションモデルの現状を元に解説するオンラインセミナーが開催された。

本セミナーには、プライシングコンサルティングおよびプロダクト開発を通じて、顧客の価格成功を支援してきた経験を持ち、現在プライシングスタジオ取締役COOを務めている相関集氏が登壇した。

前回開催されたプライシングセミナーの記事はこちら

実例からみるサブスクモデルの現状

プライシングの成功企業(Netflix)

相関氏はプライシングの成功企業としてNetflix (ネットフリックス)を例に挙げた。

(出典:Statista)

「Netflixでは1-2年に1度のペースで値上げが実施されています。それによって売上も上がっていることが左のグラフのMRRを見ていただければわかると思います。」

米国の失敗したスタートアップのうち15%は「価格と費用」が原因

プライシングで成功した企業がある一方、失敗した企業もあるという。

米国の111の失敗したスタートアップを調査して、失敗した理由をランキングにしたものが次のグラフである。

(出典:CBINSIGHT)

このグラフでいう失敗とは倒産だけでなく、実質倒産も含まれる。

「最も多いのは、キャッシュアウト資金切れで、次にマーケットのニーズがないというランキングですが、この7番目にプライシングとコストの問題がでてきます。

プライシングに難航している企業は多々ありますが、倒産の原因にまでなっている企業が15%もあるんですね。この違いは何から生まれるのでしょうか?この理由について価格体系という側面から、掘り下げていくのが本日のセミナーになります。」

そもそも価格体系とは?

相関氏は価格体系について「製品にいくら請求するか?の問いに答えるもの」と定義している。

「すごく単純なことですが、これがサブスクリプション型のビジネスであるSaaSだと非常に難しいです。なぜなら旧来ビジネスからの2つの大きな変化があるからです。」

サブスクリプションにより世の中の製品は、モノとしてではなく、サービスとして認識されるようになっている。モノからサービスに変化したことで価格体系に選択肢ができ、複雑化したという。

本来、一つの商品に対して単一価格が決められていたが、モノのサービス化により、月額料金のシステムや人数ごとに課金するシステム、利用料で課金するシステムなどが生まれ、価格体系に選択肢が増えたのである。

「また、製品価値がアップデートされていくだけでなく、それに伴い事業状態と提供価値、顧客も変化していきます。そのため、価格体系も一度決めたら終わりでなく合わせて変化が必要になります。

そもそも価格体系が複雑化している中、変化させていかなければいけないところにSaaSの価格体系の検討の難しさがあります。」

企業にあった価格体系の決め方

価格体系を決める観点

相関氏は価格体系を決める観点は、「顧客と価値」と「個別の価格体系」の2つであるという。「顧客と価値」とは誰に何を届けるか、「個別の価格体系」とは何にいくら請求するかということである。

顧客と価値

顧客属性の整理と提供価値の整理を行うことが必要である。

「顧客の整理で行うことは、業界、業種、企業規模(エンタープライズ等)、部署などで実際の顧客データベースを分類できるような、顧客分類を作成することが重要です。

また、価値の整理で行うことは、誰にどんな価値を与えているかなど、整理した顧客分類からサービス価値を整理することが重要です。」

個別の価格体系(代表となる価格体系4つ)

相関氏は代表的な価格体系四つとその特徴を説明した。

今回相関氏が解説したのは定額課金、アカウント別従量課金、利用従量課金、機能別料金の四つである。

定額料金の特徴

期間毎の定額料金を設定する

顧客が価格を理解しやすい

幅広いニーズに応える工夫が必要

・アカウント別従量課金の特徴

アカウント数毎の料金を設定する

利用ユーザーに比例して単価アップ

複数ユーザー前提サービスに向く

・利用従量課金の特徴

利用量毎の料金を設定する

利用に応じて自動で単価が増える

顧客が利用を控えるリスクあり

・機能別料金の特徴

利用ニーズに合わせてプランを設計

顧客分類に応じたプランが可能

プラン変更でアップセルが望める

価格体系の策定前提

相関氏は策定前提として価格体系は、価値が単一か複数かによって変化するということを説明した。

縦軸に顧客が感じる価値を表すものとして支払意欲を置いたものが次のグラフである。

事業の最初の段階であれば、一つの顧客セグメントに対して一つの価値を提供していることが多いため左側のグラフのように支払い意欲が揃ってくる。しかし実際のSaaS企業は、右側のグラフのように、顧客の支払い意欲のパターンが複数存在していることが多い。

「このグラフにおいて支払い意欲が高い人に合わせた金額設定にしてしまうと、支払い意欲の低い人たちは買えなくなってしまう。逆に支払い意欲が低い人たちに合わせた金額設定にしてしまうと、支払い意欲が高い人の分を損してしまうことになる。

そのため、顧客への価値が単一か複数かで、価格体系を組み合わせるべきかが決まります。」

価格体系の策定方法

次の画像のようにターゲットとターゲット毎の価値を列挙し、その上で価値毎の価格体系を整理するという。

「全ターゲットに対するコア価値を選定して、ベース部分の価格体系を決定して、一部ターゲットに対するサブ価値から、オプション及びアップセルおよび従量課金を選定するというやり方になります。

サービスのどのような価値を表すために、その価格体系にする必要があるのか、そこまで考慮して価格体系を決めないとせっかくの価値が伝わらず、なかなかお客様の支払いが生まれない、契約が生まれないということが発生してしまいます。そのため実際の価格体系策定では、価値と価格体系の整理・検討が重要になります。」

値付けの仕方(具体的に価格を決めるには)

価格体系決定後に具体的な価格を決める際、いきなり価格変更を行うのではなく検証を挟む必要がある。

価格体系変更は顧客影響が大きいため未検証での価格変更はリスクが高く、検証が必要だという。

「また、製品価値がアップデートされていくだけでなく、それに伴い事業状態と提供価値、顧客も変化していきます。そのため、価格体系も一度決めたら終わりでなく合わせて変化が必要になります。」

価格体系の検討から調査まで行えるPricing Sprint

「事業ビジョンを実現する価格体系策定から、調査・分析、そして価格改定実行し運用化までプライシングスプリントでは一気通貫で支援致します。

なかなか価格体系を見るのはかなり難しいかなと思うのですが、まさにSaaSサービスの中で一番大事なところになりますので、改めてこの機会に考えていただければと思います。皆様の事業の成長がプライシングによって、加速することを願っています。改めて皆様ありがとうございました。」と、相関氏は自身の公演を締めくくった。

まとめ

皆様のサブスクリプション事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

 

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サブスク事業を急成長に導くデータ活用とプライシング戦略

2021年7月1日、サブスクリプションビジネスの成長におけるデータ活用について、解約率(チャーンレート)を改善するための顧客データ活用方法や、適切な価格設定をするためのデータ収集方法について、様々な現場でデータ活用を支援してきた2社の代表と数々の企業を支援してきたベンチャーキャピタリストが、自らの体験をもとに解説をするオンラインセミナーが開催された。

前回開催されたプライシングセミナーの記事はこちら

本セミナーにはSTRIVEのベンチャーキャピタリスト古城巧氏や、プライシングSaaS「PricingSprint」を運営するプライシングスタジオの高橋嘉尋氏、カスタマーフィードバックを軸にしたディレクション事業とプラットフォーム「KiZUKAI」を運営する山田耕造氏が登壇した。

サブスクビジネスを成長させるには

1番手で登壇したSTRIVEの古城氏は、サブスクビジネスの急成長に必須な2つの要素について説明した。

この2つは、投資するときにも重視する尺度だという。

1.ネット新規MRRの成長

2.ユニットエコノミクスの成立

「1つ目の、新規MRRグロースには低チャーンが必須だと考えています。ネット新規MRRは次のように因数分解でき、この3つの足し算と引き算で成り立っています。

①新規MRR

②既存顧客のアップセル

③チャーン

ここで、 ①新規MRRと② 既存顧客のアップセルがいくら積みあがっても、③でチャーンしてしてしまっては、継続的な成長ができません。チャーンが鍵になると思っています。

2つ目は、ユニットエコノミクス(LTVをCACで割ったもの)が、3倍以上を保っていることです。うまく行っている会社とそうでない会社をみていると、目安として3倍以上が好ましいことがわかってきました。3倍以上を保ってくれるかどうかがサブスクビジネスが伸びる鍵になると思っています。」(古城氏)

サブスクリプション型の利益構造システム

続いて古城氏は、毎年同金額が積みあがる前提として、チャーンレートと売上高成長の関係について言及した。

そして、毎年同金額が積みあがることを前提として、チャーンレートを3%~35%の場合の売上高成長を可視化したグラフを説明した。

「グラフを見て分かる通り、チャーンが10%以上になると、継続的な成長が無いことがわかります。ここからも、いかにチャーンレートを下げることが、長期的成長のポイントとなるかがわかります。」(古城氏)

プライシングの見直し頻度とインパクト

最後に古城氏は、価格の見直し頻度と、見直し頻度ごとのユニットエコノミクスについて解説した。

米国のスタートアップでは、8割のスタートアップが年に1回以上の価格の見直を行っており、継続的に見直す企業のユニットエコノミクスは 11.1x に対して、見直さない企業は 1.7xと、価格の見直し頻度によってユニットエコノミクスに大きな差が生まれているという。適切な価格設計をすることがユニットエコノミクスをよくするための1つの鍵となっていると語った。

最後に、チャーンレートとプライシングの重要性を強調した上で、「チャーンレートとプライシングをより深ぼっていければとおもい、プライシングスタジオの高橋さんとKiZUKAIの山田さんからお話しいただければと思います。」と古城氏は自身の公演を締めくくった。

プライシング戦略、価格決定における価格分析方法

2番手で登場したのは、プライシングSaaS「Pricing Sprint」を開発・ 提供するプライシングスタジオのCEO、高橋氏だ。彼は、プライシング戦略 、価格決定するにあたり、どのように価格分析を行うべきかを解説した。

「価格を決める際に、既にある顧客データだけを分析して価格を決定するのはとても難しいことです。そこでプライシングスタジオでは、アンケートを用いた分析を行っています。本日は、どのようにアンケートを取り、その結果をどう分析すれば価格が決められるのか、お話したいと思います。」(高橋氏)

アンケートによるデータ収集

まず、アンケートによるデータ収集について、PSMを活用した価格感度設問と、支払意欲仮説を検証する属性設問を組み合わせることが大切だとした。

「価格感度設問はPSM(Price Sensitivity Measurementの略)という、4つの質問に答えてもらい、その結果から顧客の支払意欲がどの程度あるのか、分析を行う手法です。PSMを積極的に活用している価格のリテラシーが高い会社もありますが、PSMだけではなかなか価格を決め切ることができません。

例えば、PSMの結果 から、あるサービスを値上げした場合、20%の顧客が離脱するということが分かったとします。しかし、その20%が企業にとって切り捨てても良い顧客なのか、それともターゲットとして大切にしている顧客なのかによって、大きくリスクが異なります。

属性設問は、 ペルソナごとの支払意欲を特定するための設問で、BtoCのサービスの場合、例えば男性なら  許容 、女性は 離脱してしまうなど、ペルソナ毎に支払意欲がどのように違ってくるのかを特定するための設問です。」

また、  属性設問のポイントとして、プロダクトの価値を考え、支払意欲 との関係を検証 する設問作成を意識することが重要と高橋氏は語った。

価格決定におけるデータの活用方法

続いて、価格決定におけるデータの活用方法として具体的なシュミレーション手法について紹介した。左図の通り、価格感度設問を集計してグラフを作成します。一般的に、PSMでは高すぎて検討に乗らない金額と、安すぎて価格に乗らない金額が少なくなる金額の交点 になる価格を採用するとい言われていますが、実際はこれだけだと意思決定するには弱いです。

そこで、右図のように、いくらのときに何人が買ってくれて、売上はいくらになるかというシュミレーションを作成し、購買ポテンシャルを推計します。

また、お客様の中には従量課金などの課金体系を持つ企業もあります。その場合は、従量課金での利用量と支 払意欲の関係性をシュミレーションすることで、支払い意欲とペルソナの関係性が見られます。」(高橋氏)

価格決定に活用したデータから得られること

価格決定に活用したデータから得られることとして、以下の3つを挙げた。

1.カスタマーサクセスの向上

2.顧客起点の開発改善

3.マーケティングの施策実行

「1つ目のカスタマーサクセスの向上は、アンケートやインタビューを通してより深い関係構築につながり、継続的な関係が前提となるSaaS事業においては結果的にチャーン低下につながります。

2つ目の顧客起点 の開発改善は、機能Aを活用している顧客、導入目的が~な顧客は支払意欲が高い」といった観点 から 機能開発をすることができ、値上げの為に必要な機能を特定することができます。

3つ目はマーケティングの施策実行で、特定セグメントや、支払意欲が高いペルソナをターゲティングし、プロモーションができるようになります。」(高橋氏)

プライシングに感度の高い急成長企業の事例

最後に、プライシングに感度の高い急成長企業の事例としてNETFLIXやSmartHRなどを例に挙げ、優れた成長の売上成長の裏には定期的な価格の分析があることを強調した。

「企業の利益に億単位で影響 を与えた事例もあるので、プライシングの凄さを日々現場で感じている。」として、高橋氏は自身の公演を締めくくった。

解約率の差による成長曲線

最後に登壇したのは顧客ロイヤリティ改善ツール「KiZUKAI」を運営する、KiZUKAI代表 取締役の山田耕造氏だ。チャーンレートにフォーカスし、ユーザー獲得後にどのようにロイヤリティを高めていくか、またデータの活用について解説した。

はじめに、山田氏は以下の通り2つのグラフを示した。「先ほどSTRIVEの古城さんの方からもチャーンが高いとなかなかビジネスがグロースしないというお話がありましたが、いろいろな会社を見ていく中で、 実際 、本当に良く見る傾向です。」

左側のグラフは、毎月2%以下の解約率で健全な推移をしており、累計ユーザー数はあがっている。 一方で、右側のグラフはBtoCのサービスなどによくある例で、10%台から高い場合は20%の解約率があるので、成長曲線が描いてゆけない。

「こうしたデータを日々見ているので、解約率は非常に重要であると思っています。解約率の高い会社と低い会社の差は何かというと、社内データがきれいに管理 されていることや、データの活用度合いに比例しているので、機会があればまとめたいと思っています。」(山田氏)

顧客ステージ毎に解約率は見なければいけない

次に、BtoCのユーザー事例を紹介した。横軸が 契約期間で縦軸が 入会時期となっており、色の濃さが解約率の高さとなっている。1か月目の色が濃くなっており、契約期間が長くなれば長くなるほど解約率が下がることがわかる。

「解約率は一概に毎月のデータだけで追うだけでなく、顧客ステージごと、契約期間ごとなどいろいろな尺度からみなければいけません。」(山田氏)

全体最適のアクションをしようとしてもなかなかうまくいかないので、新規ユーザー、中堅ユーザー、ベテランユーザー等、ステージを定義し、各ステージごとの解約特性を把握してアクションを取ることが大事だとした。

運用面では、ステージごとのキーKPIを設定しており、分析していくとステージごとにキーKPIが全く異なるため、データを使って、解約しそうなユーザーに対して不足しているアクションを分析している。

活用すべきデータ

「よくどのようなデータを活用すべきかと聞かれるのですが、ユーザーによってまちまちです。冒頭 でお話しした、解約率の高い企業と低い企業の差として、社内で保有するデータのきれいさが関係あると話したのは、ここで活用することのできるデータの差のことです。」

よく使われるのは、契約情報データ、活用データ、行動データで、契約データはIDで紐づけられているかどうかが重要だ。ユーザーの活用データや行動データは変動 するデータなので、時系列でデータベース化していく。

もう一つ大事なのは、サクセスデータだ。サブスクはサービスを提 供しているので、顧客に対する貢献度( 例えば 英会話アプリなら英語の上達度など)時系列で獲得していくことも重要だと山田氏は語った。

KPI策定におけるデータ抽出の注意点

KPI策定におけるデータ抽出の注意点として、データの抽出条件をそろえることが非常に大事だという。例えば、5/15に解約したユーザーは4/15-5/15の期間、3/1に解約したユーザーはあ2/1-3/1の期間など、解約日を起点として、同じ条件の期間でKPIを分析する必要がある。

「データの抽出方法が間違っていたり、条件が揃っていないと、分析しても傾向が全くわからないことがよくあります。データの抽出を慎重に行うことがKPI策定においては非常 に大切です。」(山田氏)

解約への影響力を正確に把握

KiZUKAIでは新規ユーザー、中堅ユーザー、ベテランユーザーなどの顧客ステージとユーザー状態を管理して、適したコミュニケーションを行っている。

また、  機械学習や重回帰分析を行い、解約に影響する要因を特定するとともに、解約しそうな顧客のリストが算出されるので、今誰にアプローチするべきかを明確に知ることができるという。

データ活用によりサブスクを急成長に導いた事例として、年間解約率が31.2%改善し、年間1069万円の効果が上がった事例などをあげた。

「解約率を抑えると、解約率だけでもビジネスインパクトが出るのですが、ユニットエコノミクスが成立してくるので、マーケティングにや組織などに投資して、フォローアップを厚くするなど、さまざまな投資をできるようになるのが一番のメリットだと思います。」として、山田氏は自身の公演を締めくくった。

質疑応答

Q:アンケートを実際に行う際は何人くらいに行うのですか?

A:BtoBかBtoCによって異なりますが、BtoCは100サンプルくらいが理想です。BtoBは50サンプルくらいが理想です。BtoBは稟議 により意思決定プロセスの基準がしっかりと定まっているのでブレが少なく、少ないサンプル数でも大丈夫です。また、検証したい仮説の数が多い場合は、仮設の数×10くらいのサンプルを追加することをお勧めします。(プライシングスタジオ高橋氏)

Q: 価格改定の重要性は認識できたが、実行するには勇気がいります。値上げもしくは値下げの成功例、失敗例があれば教えてください。

A:おっしゃる通り、価格改定には相当な勇気がいると思います。失敗事例は、値下げしたら失敗した、という事例はよく聞きます。例えば、値段を25%下げたのに新規顧客が獲得できず、MRRが1/4減ってしまった、という事例です。

値上げの成功例は、月額を2倍にあげたら成約率が上がった事例があります。

成功要因は、価格を上げることにより、品質に対する安心感が高まったということと、製品を評価する人がかわったためです。

これまでは現場決済で済む金額だったために、現場の人しか向き合わなかった製品が、価格を上げることによって役員レベルが意思決定を行うようになり、役員レベルこそ、その価値を感じてもらいやすい製品だったために、成約率が上がったのです。

弊社の事例としても、お客様の値上げの要望に対し、顧客の離脱を防いで60%の値上げはが可能だという分析とシュミレーション結果をもとに値上げを行い、実際顧客が 離脱することなくシュミレーション通りの結果となっています。

意思決定が不安だからこそ、しっかりと分析してシュミレーションを行えば、安心して価格設定を行うことができます。(プライシングスタジオ高橋氏)

Q: プライシングの見直しは頻繁に行い続けるものという印象がないのですが、常にプライシングの 仮説は立て続けるべきなのでしょうか。もしくは、プライシングの仮説立て以外にプライシングスタジオを活用するケースがあればお聞きしたいです。

A: ディズニーランドは過去に14回値上げをしていて、昔は3800円くらいだった入場料が現在は8000円くらいになっています。ユーザーが離脱しない限界の金額までしっかり値上げしていくと、その分の収益をコンテンツに投資できます。そうすれば、コンテンツの魅力 とともにユーザー満足度も上がるので、支払い意欲も上ります。

グローバルで戦っている企業では、年に1-2回当たり前のように価格を見直しているので、日本にそういった文化がないだけです。そろそろそういう文化から脱却できればと思っています。

もう1つの質問、プライシングの仮説建て以外にプライシングスタジオを使う理由については、プライシングスタジオのお客様は、コンサルティング会社や事業会社でプライシングをやってきた方々が半数以上です。

彼らは、1つの仮説を検証するのに数か月から1年かかるという経験をしてきているのですが、プライシングスタジオのツールを利用することで、それが1~3か月くらいでできるようになり、 圧倒的な工数削減となります。そうしたプライシングの大変さを知っている方々に、多くの価値を感じてもらえているのだと思います。(プライシングスタジオ高橋氏)

まとめ

皆様のサブスクリプション事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。