カテゴリー
コラム

複数パッケージ価格モデルとは?メリット・デメリット・導入企業例【SaaS価格体系】

SaaSで広く取り入れられている複数パッケージの価格モデルについて、メリット・デメリット・事例を中心に解説していきます。


プライシングスプリント

複数パッケージ価格モデル(Tiered pricing model)とは

複数パッケージ価格モデルは、SaaSにおける主流な価格体系であり、提供するサービス内容の違いにより2つ以上の価格帯が提供されているもののことを指します。

複数の価格帯で提供することで、複数の顧客セグメントに対してのニーズを満たすことが可能です。例えば、個人向けのサービスであれば、ユーザーの利用頻度や利用量、法人向けのサービスであれば、大企業か中小企業かで、セグメントごとに価値と合う価格で提供することができます。

複数パッケージ価格モデルには、「段階的なユーザーモデル(Tired user)」「段階的なストレージモデル(Tired storage)」「機能別モデル(Feature-based pricing)」の3つがあげられます。

複数パッケージ価格モデルのメリット

複数パッケージ価格モデルのメリットは次の2つです。

幅広い顧客ニーズに対応できる

幅広い顧客セグメントが存在する場合、プロダクトの全ての機能を必要としない顧客セグメントは多数存在します。そういったセグメントの顧客は、全ての機能は必要ないからもっと安くして欲しいと考えるはずです。それが原因で、検討サービスから外れることも多々あります。

複数パッケージ価格モデルは、顧客が必要としている機能のみを提供し、それにもあった価格プランを用意することが可能なため、幅広い顧客ニーズに対応できます。

利益増につながる

質の高い機能や多くのストレージを提供する必要がある顧客に対して、単一価格しか存在しない場合、利益を出すことができない可能性があります。

一方複数パッケージ価格モデルは、提供する価値に見合った金額を受け取ることができることから、利益を増加させることが可能です。

複数パッケージ価格モデルのデメリット

複数パッケージ価格モデルのデメリットは次の2つです。

価格設定が難しい

複数の顧客セグメント毎の必要としている機能や人数を正確に予測し、適切に機能する価格設定をすることは困難を極めます。パッケージごとの機能や利用量が料金に見合っていない場合、失注や解約につながる恐れが高まります。

顧客の混乱を招く可能性がある

機能が複雑でパッケージ数が多すぎると、何にお金を支払っているか、料金が適切なのかの判断がつきにくくなります。顧客が理解しやすい内容で、多すぎない数のパッケージを用意する必要があります。

複数パッケージ価格モデルの注意点

複数パッケージ価格モデルでの価格戦略は、以下の2点が重要です。

LTVの最大化を考慮する

SaaSにおいてLTV(顧客生涯価値)を最大化させることは、最も大切な指標のうちの1つです。

例えば、利用ユーザー数に比例した課金パッケージを作ると、従業員規模が大きい企業ほどLTVは向上します。一方でユーザー数に応じた課金モデルにしても、企業内で1アカウントだけの利用で誰もが完結できるプロダクトではLTVは最大化されません。

そのため、価格を決める際には、LTVが上がる要素を特定し、それに合わせて課金モデルを作ることが大切です。

ネガティブチャーンを可能にする

「ネガティブチャーン」とは、解約によって減少した収益より、既存顧客のアップセルやクロスセルによって増加した収益が上回っている状態のことを指します。

SaaS企業が成長するためには、ネガティブチャーンを実現が欠かせません。チャーンレートを下げつつ、既存顧客からの収益獲得を可能にする要素を持った複数パッケージのモデルを作ることが重要です。

段階的なユーザーモデル(Tiered user model)とは

段階的なユーザーモデル(Tiered user model)とは、利用できるユーザー数の違いによって、価格を複数設定するモデルです。利用機能に違いを作りにくいが、1社で利用する人数が多いサービスで設定される場合が多いです。

段階的なユーザーモデルを導入している企業例

・Google Workspace

Google Workspaceでは、Meet 音声会議とビデオ会議の同時接続数によりプランを選択することが可能です。

段階的なストレージモデル(Tiered storage model) とは

段階的なストレージモデル(Tiered storage model)とは、利用できるストレージの量にもとづき、価格を複数設定するモデルです。

段階的なストレージモデルを導入している企業例

DirectCloud-BOX

DirectCloud-BOXでは、「100GB」「500GB」「3TB」「10TB」「30TB」と段階的にストレージが設定されています。

機能別モデル(Feature based model)とは

機能別モデル(Feature based pricing)とは、顧客が利用可能な機能に応じて、複数の料金プランを設定するモデルです。「顧客のペルソナ」と「必要とされる機能」の把握ができていると設定しやすく、使用できる機能の数が多くなるほど価格は高くなります。

機能別モデルを導入している企業例

・Slack

顧客の規模の大きさごとのニーズに適した機能が追加されていく、4段階のプランを提供しています。「フリー」は無料プランでslackを無期限で試してみたいチーム向け、「スタンダード」は中小規模の企業向け、「プラス」は大規模な企業や高度な管理ニーズを持っている企業向け、「Enterprise Grid」は規制業界や、非常に大規模で複雑な組織を持つ企業向けとわかれています。

まとめ

複数パッケージ価格モデルは2つ以上の料金プランを提供する価格体系です。

段階的ユーザーモデルはユーザーの人数ごとに異なるプラン、段階的ストレージモデルはストレージ容量の大きさごとに分けられているプラン、機能別モデルは利用できる機能の量、内容で分けられているプランです。

複数パッケージ価格モデルは収益向上が見込みやすい反面、価格決定の難易度が上がるというデメリットもあります。ただ、この価格体系は幅広い層に対応でき、収益向上できるという面から、多くの主流なSaaS企業が導入しています。

カテゴリー
コラム

単一価格モデルとは?メリット・デメリット・導入企業例【SaaS価格体系】

サービスを利用する時に1つのプランがある場合と複数のプランがある場合があるかと思います。
ここではSaaSの価格体系の中でも1つのプランを提供する単一価格モデルをご紹介します。


プライシングスプリント

単一価格モデル(Flat rate pricing model)とは

単一価格モデル(Flat rate pricing model)とは、サービスに対して料金体系が1つであるサブスクリプションモデルです。

全てのユーザーに対して単一の製品・機能・価格を提供するため、SaaSの価格体系の中でも最もシンプルなものになります。例えば、ターゲットセグメントが画一的であったり、機能や価値が単一化されているシンプルなサービスで利用されます。

また、事業ニーズがあるかを仮説検証しやすいという観点から、PMFが優先されるシード(新規事業フェーズを含む)・アーリーステージなどで利用されることが多いです。

一方で、幅の広い顧客層のニーズに1つのプランで応えるということは難しく、SaaSの価格体系としてあまり多くは見受けられません。

今回は、単一価格モデルのメリット・デメリット・導入企業例を解説していきます。

単一価格モデルのメリット

単一価格モデルの最大のメリットは1つのサービスに対して、1つの価格体系というシンプルさから「サービス価値を顧客に伝えやすく売りやすい」ということがあげられます。

サービスを購買する顧客は、複数のプランがある場合よりも意思決定が容易です。このことから、新規顧客の獲得の増加にも繋がりやすくなっています。

また、サービスを紹介するLPやWebページ作成も容易になります。複数の価格プランがある場合、価格帯により見栄えも複雑になり、見にくくなってしまうことがあります。

それに対して、単一価格モデルの場合、顧客に伝えたいことは1つであり明確なため、サイト自体もシンプルな構成にすることが可能です。これは企業側の負担削減に繋がると同時に、顧客にとってもそのサービスに対する理解がしやすいという点から両者にとっての利点となります。

単一価格モデルのデメリット

次に単一価格モデルのデメリットを3つ挙げます。

幅広いユーザーのニーズに応えることが困難

1つのプランしか用意されていないがため、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になる場合があります。それにより、顧客の層を狭めてしまい本来獲得できていたはずの収益を逃す可能性があります。

また、BtoBサービスの場合でも、価格とサービスともに大企業と中小企業に対して同一です。規模の違う企業のニーズは大きく異なるため、両者にとって魅力的な価格設定は難しくなります。

売上の向上が困難

幅広いニーズに応えられないことで、売上の向上が困難になります。SaaS業界では、顧客のニーズに合わせて戦略・価値・価格を変化させていくことが重要です。しかし、単一価格モデルでは実現不可能になります。

コストリソースが顧客ごとに変動する場合、それに応じて対応できないのは収益を上げる際に大きな欠点です。柔軟な対応と変化に迅速に適応する能力は、SaaS業界においては必須となります。プランごとに顧客を惹きつけるような違いを出したり、柔軟な料金展開ができないことは顧客獲得において大きな弊害です。

また、複数プランがないことは、顧客の単価を向上させるために、顧客に対し高額な上位モデルに乗り換えてもらうアップセルを行うことができません

顧客に心理的弊害をもたらす場合がある

単一価格モデルは、プランの選択肢がないため、一部の顧客にとって包括的な扱いをされていると感じる可能性があります。このように顧客が感じてしまった場合、顧客は企業の提供するサービスを享受することはなくなります。

幅広い顧客ニーズを満たせない場合、顧客に対して心理的に不満を感じさせてしまいます。

単一価格モデルを導入している企業例

現在、単一価格モデルを導入している企業はほとんどありません。幅の広い顧客層のニーズに1つのプランで応えるということは難しく、柔軟性の欠如、アップセルを期待できないため収益拡大が困難な点が主な理由と言えるでしょう。

その中でも成功例として挙げられるのはBasecampという企業です。

Basecampでは、複数のアプリケーションの機能を、1つに集約したサービスを展開しています。
例えば、リアルタイムチャットの機能を持つSlack、やることリストを管理するAsana Premium、ファイルストレージを管理するDropbox、ドキュメント・カレンダー機能のあるGsuiteなどの機能が搭載されています。

これらのアプリケーションサービスを全て別々に購入した場合莫大な月額料金となりますが、これら全ての機能を月額99ドルでサービスを受けることができるのがBasecampです。

この企業の有料プランは単一価格モデルに該当します。月額99ドルで固定料金なため、追加費用は一切かかりません。月額99ドルというのは一見高額に見えますが、ユーザー数が増えても追加料金が発生しないということは、多くのユーザーを持つ大企業などは結果的にお得になります。月額料金以上支払うことなく無制限の数のユーザーを招待できるという点はこの企業のセールスポイントです。

また、この企業が成功した要因として様々なサービスの工夫が設けられています。
・1年間前払いすると15%の割引が適用
・30日間の無料トライアル期間
・非営利団体は10%の割引が適用
・教育(幼稚園から大学までの高校と教師)は無料で利用可能

これらの要因から、Basecampは単一価格モデルでも成功した事例となります。

まとめ

価格体系の1つである単一価格モデルは1つの価格を提供するモデルです。シンプルであるため、サービス内容を顧客に伝えやすく売りやすいというメリットがある反面、幅広いユーザーのニーズにこたえることが困難売上の向上が困難顧客に心理的弊害をもたらす可能性があるなど3つのデメリットがあります。

単一価格単体を導入している企業は数少なくその他の価格体系追加導入したり移行する企業が多いです。その理由としては、単一価格モデルは柔軟性に欠ける、収益向上できないということが一番の要因としてあげられるでしょう。

カテゴリー
コラム

消費者心理を理解したプライシング・価格設定のコツ

消費者心理を理解した価格設定をすることで、顧客に対して自社の思惑に近い状態で商品を購入してもらうことが可能です。

人間の心理を用いると、消費者がモノを購入する際に行われる意思決定に影響を与えられます。

その結果、効率的に顧客の購買意欲を引き出すことができ、結果的に企業の利益向上を実現できます。

この記事では、消費者心理を利用したプライシング・価格設定について5つ紹介します。


プライシングスプリント

価値効果

価値効果とは、サービス・製品の詳細を文章や写真などを用い明確に顧客に提示することで、サービス・製品を購入した際の具体的な利点をイメージしやすくすることです。

具体的なイメージが湧くことで、顧客の購買意欲は高まります。例えば、Netflixなどの動画ストリーミングサービスの無料期間があげられます。無料期間は、無料で使えるというお得感だけでなく、実際に動画を視聴することで具体的に購入した後の体験が得られるため、無料期間以降の購買意欲を促すことが可能です。

結果として、無料期間を利用してもらうことで、企業の売上があがり、より多くの利益向上に繋がります。

センターステージ

センターステージとは3つの選択肢を与えられた時に、真ん中の選択肢が平均的であると捉え、それを選択するのが最も妥当であると考える消費者心理です。

例えば、コース料理やうな重を選択のときに、松竹梅の3つの値段がある場合、「竹」コースを選んでしまいがちになることです。

そのため、企業は選択させたい真ん中のコースの価格を調整し、利益率を上げることが可能です。

抱き合わせ

抱き合わせとは、ある商品を単品で購入するより、複数の商品をセットで購入すると安くなるように設定された価格です。

セット価格の方が消費者がお得感を感じることができるため、結果として客単価をあげることができ企業の利益に繋がります。

これはMicrosoftなどを例とすると、word・powerpoint・excelをセットで買った方がそれぞれを単品で購入するよりお得であることから顧客はセット価格を購入する傾向にあります。

アンカリング

アンカリングとは価格比較をする際に、はじめに提示された条件を基準として判断してしまう心理です。

消費者は、1番はじめに最も高いプランを見た後にそれよりも安いプランの存在を知ると、実質よりも安価な値段だと錯覚します。これにより、購入を促すことができます。

これは電化製品の希望小売価格を最初に提示して大幅な値引きを行うことによって安く感じることが例に挙げられます。

端数効果

端数効果とはキリの良い価格ではなく、端数にすることで価格差以上に安いイメージを植え付けることができる心理を利用した価格戦略です。

ガソリンスタンドの給油やスーパーで500円などキリのいい数字を提示するよりも498円などという端数を提示することによって購買意欲が上がります。

人間は498円は400円台で500円は500円台というイメージが構成されます。実質は1、2円しか変わらなくても顧客の体感は値段以上のものがあります。

まとめ

今回は価格設定に関わる消費者心理について紹介しました。

価値効果…商品・サービスの価値を知ってもらうことで、価格への理解を促進する効果
センターステージ…3つの選択肢がある場合に真ん中を選んでしまう心理
抱き合わせ…単品で売るよりもセット価格の方がお得に感じる心理
アンカリング…一番初めに提示された価格を基準として考える心理
端数効果…端数を価格に用いることによって実質は1.2円しか変わらなくても安く感じる心理

消費者心理を理解した上で価格設定することで、購買意欲を刺激でき、自社の商品・サービスをより多くの人に購入してもらうことが可能になります。

カテゴリー
コラム

値上げを成功させるプライシング戦略|事例から学ぶ効果的に売上を伸ばす考え方

事業者の皆様は普段値上げにどのように取り組まれているでしょうか?

値上げはうまく行えれば大きな効果をあげられますが、一歩間違えると大きな損失を巻き起こす可能性の高い諸刃の剣のようなものです。

この記事では「値上げ」を様々な方面から解説します。


プライシングスプリント

値上げ戦略の重要性

値上げ戦略を成功させた場合、想像以上のインパクトをもたらします。
1%の値上げを行い、顧客離れが起きなかった場合、最大12.8%の収益改善効果があると言われているのです。

しかし、値上げにはメリットがあることを承知でも、事業者にとって実際に実行するのは怖いものです。

単純に購買数が減るかもしれない…。
もしかしたら値上げの事実によって顧客からの印象が悪くなるかもしれない…。
なのに、どの商品を何円値上げすれば良いのかわかない…。

など様々な懸念点があげられると思います。

そんな値上げを成功させるためには、「顧客離れを防ぐ」ことが重要です。

そのため、企業は顧客離れを防ぐための値上げ戦略を考えなければいけません。

今回は値上げ戦略を3つ具体的なテクニック・事例とともに紹介します。

値上げを成功させる戦略1.支払意欲の把握

支払意欲の把握とは

消費者は、1つの製品に対して、「XX円までなら払える」という、いわゆる「支払意欲」を持っています。例えば、1つ牛丼があったとして、そこに対してターゲット顧客は390円までなら払って良いと思っている、のようなかたちです。

この支払意欲を理解することで、無駄に安く価格設定してしまうことや、高く設定しすぎて顧客が離れてしまうことを防げます。

「支払意欲の把握」の価格戦略

支払意欲を把握した場合、「支払意欲内での値付け」「安すぎる価格からの脱却」「価値の向上に応じた値上げ」という観点から、プライシングの決定が可能です。

1.支払意欲内での値付け

支払意欲を把握することで、適切な値上げが可能になります。
例として、10000人の顧客が牛丼を購入するときの支払意欲で解説します。

牛丼の価格(円) 支払意欲のある人数
(10,000人中)
合計売上(円)
case.1 350 9,200 3,220,000
case.2 390 9,000 3,510,000
case.3 400 7,000 2,800,000

上記の例の場合、支払意欲を把握することで、牛丼の価格が390円のときの「case2」が1番売上が最大になることがわかります。

仮に350円から390円という40円の値上げなら、ほとんど顧客離れが起きずに、100人あたりの売上も3000円近く上昇します。一方、400円まで値上げをすると、極端に支払意欲のある人数が減少するために、売上を下げてしまう恐れがあるのも事実です。「case2」と「case3」では10円の差しかないにも関わらず、売上が大幅に変わってしまいます。

値上げを実施する前に、顧客の支払意欲を事前に把握しておくことで、値上げ幅を確定させて大きな利益があげられます。

2.安すぎる価格からの脱却

顧客の支払意欲は、実は安ければ安いほど高まるわけではありません。実際に複数の分析結果から、顧客にとって「安すぎて買うのをためらう価格」があることがわかっています。

例えば、牛丼の料金が80円で販売されていたらどうでしょうか?もし、品質や業態が他で販売されているものと同じであったとしても、価格が安すぎて、怪しさを感じると思います。

そのため、価格を安くしすぎた結果、顧客の購買意欲を削がないようにしなければなりません。

3.価値の向上に応じた値上げ

商品が同じでも、顧客の支払意欲は不変ではなく、時間とともに変化することがあります。

例えば、SaaSなどのサブスクリプションサービスの場合、新しい機能やコンテンツの追加をした際に、顧客の支払意欲が変動します。

機能・コンテンツの追加が利用者にとって魅力的な改善だと、顧客の支払意欲は向上します。そのタイミングで支払意欲を分析し向上していれば値上げを成功させられるチャンスです。

「支払意欲の把握」事例:東京ディズニーランド

東京ディズニーランドのチケット価格は、なんと開園以来13回もの値上げがされてきました。しかし、ディズニーランドが値上がりしても、来場者数は減ることはなく、むしろ増加しています。

これは、ディズニーランドがその時々の来場者の支払意欲を把握し、それに応じて値上げをした結果です。度重なるコンテンツの追加や、人気の向上は、来場者の支払意欲を高め、そしてディズニーは顧客の支払意欲を把握して値上げを実施しています。

値上げを成功させる戦略2.安値と高値の共存

安値と高値の共存とは

安値と高値の共存とは、値下げと値上げをともに実施する価格戦略です。

値上げによる顧客離れは、単純に「高すぎて検討に乗らない」と感じさせてしまった時だけではなく、「手は出るが価格が不当に高い」と感じられた時にもおきます。つまり、支払う意欲があったとしても、値上げという行為自体が不誠実に捉えられる時があるのです。

ここで紹介する戦略が、そう感じさせないための「安値と高値の共存」です。

値上げをしても顧客のマイナスな感情を引き起こさないためには、値上げだけではなく、値下げも織り交ぜることで、顧客にとっての不利益を感じさせないことが重要なのです。

「安値と高値の共存」の価格戦略

1.顧客の気持ちに寄り添うプライシング

値上げを実施するときに、顧客のマイナスな感情を引き起こさないために、商品Aの値上げと商品Bの値下げを両方実施します。そうすることで、単純な値段引き上げではなく、「価格変更」という印象を顧客に与えることが可能です。

2.キャプティブプライシングの応用

キャプティブプライシングとは、メイン製品を低価格で、付属製品を高価格で販売する価格戦略です。この戦略を応用することで、一部の商品の値上げを成功させ、収益拡大が見込めます。

例えば、カミソリなどの商品は、本体の値段を下げ、何度も購入される刃の値段を上げる価格戦略が行われています。
長期的に買われる付属品を値上げしつつも、本体の値段を下げて購入を促進することで、通常の販売方法より長期的に高い収益が見込めます。さらに、この形式でも「安値と高値の共存」が実施できており、顧客が値上げを不当だと感じにくく、顧客離れが起きにくいのです。

3.ダイナミックプライシングの応用

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。主に需給の変動に合わせて価格変更を行うかたちで活用されており、企業の収益最大化や混雑緩和など、多くの価値を発揮しています。

ダイナミックプライシングを用いると、需要が高い時に価格を上げることで利益率をあげ、一方需要が低い時は価格を下げることで顧客の不信感は抑えられます。つまり、これは時による需要変動を利用した、「安値と高値の共存」です。

さらに、ダイナミックプライシングは、需要によって価格を変更するため、混雑緩和や在庫処分などの恩恵も受けられます。

ダイナミックプライシングについては詳しくこちらで解説しています。

「安値と高値の共存」事例:JR東日本

JR東日本は、コロナ禍によって収益に大きな打撃を受けた企業です。2020年の4月から6月の売り上げは、前年度比2640億円も落ちてしまっていました。

そんな中、収益改善のための値上げを実施しましたが、そこでJRはダイナミックプライシングを検討していることを発表しました。ラッシュ時の価格をあげるだけでなく、混雑しない時間帯の価格を下げることで、人々から反感を持たれずに値上げすることを可能にしています。

値上げを成功させる戦略3.適切な値上げのお知らせ

適切な値上げのお知らせとは

適切な値上げのお知らせとは、値上げの伝え方を工夫する戦略です。

ここまで解説してきた値上げ自体を工夫する方法もありますが、適切な値上げのお知らせも重要になります。

商品値上げをした際の取引先への文章や、世間に対しての説明を真摯に行うだけでも、値上げに対する印象は変わります。

適切なお知らせでの戦略

1.メールでの値上げのお知らせ

メールでの値上げのお知らせは、工夫次第で顧客の印象を高く保つことができます。

まず、心得として、早い通知を心がけましょう。出来る限り前もって通知することで、誠実な印象を与えられます。

ここに、値上げのお知らせの際に必要な項目をまとめました。ぜひご参考になさってください。

値上げ取引先をメールでメールで記載すべき項目

  • 値上げを実施する旨
  • 値上げの対象商品
  • 値上げ開始の日程
  • 値上げ前の価格と値上げ後の価格
  • 値上げに対する考え方の表明(必要に応じた謝罪)
  • 継続しての利用のお願い

2.営業チームへの値上げの浸透

値上げを直接対面で通知してやりとりをする営業チームとの協力は、「適切な値上げのお知らせ」のために重要です。

しかし、実際に販売数の増加が目的であることの多い営業チームは、値上げを嫌うこともあります。実際に売りにくくなる他、取引を行っている企業との関係悪化をもたらす危険性があるため、値上げに反感を持たれるかも知れません。

そのため、実際に営業を行う彼らに、値上げの必要性や、競合と比較した時の値段感、値上げの背景を強く理解しもらい、心から共感してもらうことが重要です。

「適切な値上げのお知らせ」事例:ともえ庵

ともえ庵は都内のたいやき屋です。

2018年1月に、定番商品のたいやきの価格を150円から180円に値上げを発表し、2月に実施したところ売り上げ増加を達成しました。

この価格変更の際にともえ庵は、ブログ上で、値上げの背景や値上げが必要な理由、値上げに関するお詫びなどを長文で行ったのです。顧客に対する真摯な態度が成功の秘訣の1つと言えます。このように値上げのお知らせを工夫することで、顧客離れを防ぐ方法もあります。

参考:エンタメウィークたいやき「ともえ庵」ブログ

まとめ

「値上げ」は大きなインパクトをもたらす一方、「顧客離れ」のリスクを持ちます。この記事では、そんなリスクを回避することで値上げを成功させる戦略を3つ紹介してきました。

しかし、値上げに関しては実際の実行に際して専門家の協力が必要になることは多くあります。値上げや価格に関してお悩みでしたら、ご気軽に一度プライスハックにご相談ください。

カテゴリー
コラム

スキミングプライシング(上層吸収価格)とは|iPhoneの事例からわかる価格戦略

この記事では、スキミングプライシングについてご紹介します。「スキミング」という言葉を聞くと、カードの情報を読み取って不正に使用することだと思っている人もいるかもしれません。

ですが、スキミングプライシングとは、価格設定における戦略の1つであり、不正利用とは全く別の概念になります。スキミングプライシングについて、メリットやデメリット、注意点などを分かりやすく解説します。


プライシングスプリント

スキミングプライシングとは

スキミングプライシングとは、「初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する価格戦略」です。

スキミングプライシングは、活用次第では製品をマーケットに浸透させることができます。スキミングプライシングを行い、マーケットに浸透させていくまでの流れの一例をご紹介します。

ステップ1:新しい製品を早期から受け入れてくれる顧客を探す。
ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、製品の改善する。
ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する。
ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する。

ステップ1:新しい製品を早期から受け入れてくれる顧客を探す

ステップ1の顧客とは、高価格でも買ってくれる層のことを指します。新しい製品に早期の段階から興味を持ち、受け入れてくれる人をターゲットにすることがポイントです。

このような顧客は市場での割合は少ないですが、固定化することが出来れば早期に投資資金の回収が可能になります。

ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、改善する

早い段階から受け入れてくれている顧客から評価を聞くことでより良い製品に改善することができます。

ステップ2では、価格と製品の質の満足度をあげた上で市場を拡大することを視野に入れて行動します。この段階をいかに効率的に進行できるかによって、競合の参入を防げます。

ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する

より良い製品に改善した後、徐々に価格を低下させることで、ターゲットを拡大します。

ステップ3でターゲットとする顧客は、製品を購買するかの意思決定に関しては慎重でありながらも新しい製品への関心が高い層です。

このような顧客は、口コミを信頼材料としているケースが多いため、早期から自社の製品を使用している顧客の評価をより一層重視する必要があります。

ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する

ターゲットを全市場に拡大するためには、製品が市場においてどの程度一般化されているかが重要になります。

全市場をターゲットにする場合、周囲を見て判断する顧客や保守的な顧客も入ってきます。信頼性の面でもステップ3の基盤を固められているかにかかっています。そのため、ターゲットを全市場に拡大する前に、ターゲットの中でどれだけ一般化できているかを確認する作業を行った方が良いでしょう。

スキミングプライシングのメリット

スキミングプライシングには、3つのメリットがあります。

1.資金の早期回収ができる

早期段階で顧客を獲得することで、顧客に企業側の希望する価格を提示することが可能です。そのため、早期の段階から高い収益をあげられ、研究費や宣伝費を早期に回収できます。さらに資金の早期回収をすることで、開発した製品の改善のための費用も確保できます。

2.ブランドイメージを確立することができる

顧客に初期段階で高価格な製品に興味を持ってもらうには、顧客側の立場になって考えてみることが必要です。高価格でも購入する製品は、分野において革新的な特性を持つことがあげられます。ステータスを求める顧客に対して、最先端の製品を高価格で提供することで、製品のブランディングに役立ちます。

3.ターゲットを拡大できる

早期の段階で新製品の顧客を獲得しておくことで、口コミによって実際に広い顧客層に対して宣伝することが可能になります。関心がある顧客だけでなく、興味を持っていない顧客層までを最終的に狙うことができるというのがスキミングプライシングの強みです。製品の機能や価格の面でどの層にも受け入れられる製品に仕上げることが必要になってきます。

スキミングプライシングのデメリット

一見、メリットが多い印象のスキミングプライシングですが、デメリットもあります。

競合が参入しやすい

スキミングプライシングにより、革新的な新製品を高価格で販売することに成功すると、競合が安い価格で参入してくる可能性が高いです。

スキミングプライシングの特徴として、初期段階からの支持層の評価にもとづいて、改善を行うことがあげられていました。より良い製品を提供できるようになる反面、より多くのターゲット層に浸透するまでに時間がかかるため、競合の参入を許してしまいがちになってしまいます。

代替商品が世に出回ると、顧客が選べる選択肢が増え、どうしても高い値段では買われにくくなってしまうことが問題点としてあげられます。そうならないために、類似品が出る前に独占的な利益を獲得する必要があります。

スキミングプライシングの注意点

メリットとデメリットを理解した所で、スキミングプライシングを導入する際に注意しなければいけないことについてご紹介したいと思います。

1.高い価格に見合う製品の質が求められる

スキミングプライシングでは、製品に高い価格を設定することになります。それにより独自のブランドを築くことができますが、それには初期段階での価格と製品の質が釣り合っていることが非常に重要です。

仮に製品の質が見合わないまま製品の価格だけを高く設定しても、顧客から信頼されるブランドは築けない上に、初期段階での顧客の集客は見込めません。そのため、まだ市場に競合がいない製品や分野において革新的な特性を持つ製品でないと、スキミングプライシングを行うのは難しいでしょう。

2.価格弾力性が大きい製品では難しい

スキミングプライシングを価格弾力性が大きい製品で活用することは非常に難しくなります。

価格弾力性とは、価格の変動によって製品の需要と供給が変化する度合いのことを言います。価格弾力性が小さい製品では、商品価格の差が購買意欲にあまり影響をおよぼしません。製品の価格を高く設定しても、高い製品価値を生み出すことができれば顧客に選んでもらえます。一方で、価格弾力性が大きい製品を高い価格に設定してしまうと、低価格で提供する競合に勝つことは難しいです。

スキミングプライシングと事業領域

スキミングプライシングの応用をしているのが、アップル社のiPhoneです。アップル社は、iPhoneを売り出す際にブランドイメージを重要視しました。

ブランドイメージを確立するため価格を高価格に設定することで、確固たるブランドイメージを植え付けるだけでなく、高価格の製品を早い段階から受け入れてくれる顧客の興味を引くことに成功しました。

それと同時に発売前からiPhoneの宣伝を積極的に行なうことで発売予定日が決まる頃には、顧客のiPhoneに対する関心を最大限まで高めました。当時の携帯電話よりiPhoneがどれだけ優れているかを比較するという手段を使うことで、価格と質の釣り合いも証明することが出来ました。

アップルの応用例をみても、スキミングプライシングは、特にハイテク産業と相性が良いと言えます。常に最先端を追求され、そのために莫大な資金を必要とする事業が向いていると考えられます。

まとめ

スキミングプライシングとは、初期段階の製品を高価格に設定し、早期に事業の投資資金を回収する価格戦略です。

主に初期段階の価格戦略であるため、導入後の戦略は様々です。スキミングプライシングの例として取り上げたアップル社は、その後も価格を変えずに市場を伸ばしています。

一方で、スキミングプライシングの流れの中で紹介した様にターゲット層を広げるために低価格にしていく価格戦略も考えられます。

「初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する」という本来の目的を達成するためには、初期段階での顧客の存在なしにはなし得ません。初期段階での顧客によって、その後の市場のターゲット層や価格が変わってくると考えられます。企業ごとにターゲットとしたい層を確認しながら、市場を広めることが必要になってくるでしょう。

カテゴリー
ダイナミックプライシングとは?

最新の飲食店のダイナミックプライシング事例【SNSで話題沸騰中】

現在、ある飲食店がダイナミックプライシングを導入したことが大きな反響を生んでいます。この記事では、その事例を元に、飲食店でのダイナミックプライシング活用の可能性を考察していきます。

ダイナミックプライシングについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください



プライシングスプリント

ダイナミックプライシングと飲食店

飲食店はダイナミックプライシングが入りにくい業態だと言われています。実際、国内で飲食店向けダイナミックプライシングツールを提供している企業はまだ存在していません。

しかし、近頃ダイナミックプライシングが飲食店に導入されたと話題になっているのです。

その事例を紐解きながら、飲食店のダイナミックプライシングについて考えていきます。

ニュースになった飲食店のダイナミックプライシング

6月の頭に投稿されたこちらのツイートがソーシャルバズを生んでいます。Kohei Katada(@kkatada)さんの、行きつけの定食屋さんがダイナミックプライシングを導入したというツイートです。 asatteについてのツイート

こちらで紹介されているのはasatteという表参道に店を構えている飲食店です。「3密」を回避することが飲食店にも求められる中、席数を減らさずに密集を回避することを目指してダイナミックプライシングを導入したようです。

密集回避に新しい観点から取り組んでいるとして、ネット上で話題になりました。さらにニュース番組でも取り上げられるほど注目度が高まっています。

ダイナミックプライシングが混雑緩和に対して果たす役割に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

ダイナミックプライシングがうまく機能する理由

国内ではダイナミックプライシングが飲食店に導入されている事例はあまり見ません。飲食店との相性が悪いと考えられますが、なぜこの飲食店ではうまく機能しているのでしょうか?

asatteのダイナミックプライシングの特徴

まずはasatteさんの事例を考えるにあたり、店舗の特徴を把握しておく必要があります。asatteさんの最大の特徴はそのメニュー構成でしょう、なんとメニューは日替わり定食のみなのです。

また、ウェブサイトを持たず、3,000人ほどのフォロワーが閲覧するinstagram上で、その日のメニューを告知していることも珍しい点かと思います。

こんなasatteさんですが、新型コロナウイルスの拡大を受け、お弁当のみの販売のみを行ってきました。6月から店舗の営業を再開したものの、席数を減らすことで密集度を減らすことも、経営を成り立たせるためには難しい状況だったのです。

ここでasatteさんは、時間帯によって価格を変動させることで消費者の需要を分散させようと考えました。基本的な考え方は他業種で使われるダイナミックプライシングと同じです。

  • 需要の集中する時間帯→価格を上げることで、需要を抑える。
  • 需要が小さな時間帯⇨価格を下げることで、需要がピークの時間帯の顧客を呼び寄せる。

1つの商品の価格を、時間帯に応じて複数の値段に変動させることで、混雑状況をコントロールしようとしているのです。asatteさんでは、30分ごとに商品の価格が変わるようで、最も高い時間と、最も安い時間では700円もの価格差があるようです。これにより、導入を開始してまだ間もないですが、これまでのピーク時間にお客さんが集中することはなくなったそうです。

また、価格の変動幅は、目標とする売り上げから逆算して設定しているそうなので、集客に問題を及ばさないでいれば、売り上げや利益率に対しても問題はなさそうです。

asatteで導入が順調な理由3点

まだ完全に成功したと言うわけではないと思いますが、asatteさんのダイナミックプライシングは順調なようです。飲食業界はダイナミックプライシングの導入が進んでいない業界です。その中でasatteさんのダイナミックプライシングが順調な理由を考えてみましょう。

1つは、顧客との強い関係が作られていると言う点です。
ダイナミックプライシング導入のリスクとして、導入した事実による不信感から顧客離れにつながりやすいことがあります。ダイナミックプライシングを導入した事実が顧客離れにつながり、利用者が減少して長期的な収益を減少させてしまった企業も存在しています。しかし、価格面以外でコアなファンを抱えている企業ではダイナミックプライシングの導入が受け入れられやすいです。独自の価値を顧客に提供している遊園地である、ユニバーサルスタジオジャパンはダイナミックプライシングを導入しましたが、顧客離れが起きることはありませんでした。

asatteさんは、

  1. 毎日日替わり定食を提供するというシステム
  2. 生活の一環で利用しやすいランチ飲みに絞っていること

など、日常で利用されることに注力したモデルとなっていたため、コアなファンがついていたと思われます。そのために導入しても顧客離れがあまり起きていないのでしょう。

また、顧客との強い関係性は、混雑緩和のダイナミックプライシングが商売として利益を上げるための前提になります。

そもそも客の集中を防ぐためにある時間帯に値上げをした結果、他の時間帯に利用してもらうのではなく、他店舗を利用されてしまうのでは、商売として成り立ちません。

強い選ばれる理由のない飲食店の場合、顧客は需要が小さい時間帯での利用ではなく、他のお店に流れてしまいます。しかし強い選ばれる理由がある場合、顧客は店を変えるのではなく、時間帯を変えて安くなる時間帯に利用していただけるでしょう。このように、顧客との関係性の強さが混雑緩和に経済性をもたらすのです。

そしてそもそも、ダイナミックプライシングは、時間帯ごとの価格を顧客に認知されないと混雑緩和の価値を発揮しません。「安い時間に商品を購入したい」という顧客の思いを利用して来店タイミングを分散させるのですから当然ですよね。顧客に時間帯ごとの価格を知らせるためには、どうすれば良いのでしょうか?ここでも顧客との関係性の強さが重要になるのです。

asatteさんは、Instagramで3,000人ほどのフォロワーを獲得しており、そこで毎日のメニューを投稿しているため、顧客とのつながりを強く持てています。そのアカウントでダイナミックプライシングの導入と、時間帯ごとの価格を知らせることができたため、顧客の来店時間をコントロールできているのです。

こちらasatteさんのInstagramアカウントです。

asatteのダイナミックプライシングについてのインスタグラムの写真

2つ目は、値上げが「密集回避」という顧客のメリットにつながることです。
ダイナミックプライシングの導入は「儲け主義」だとみなされてしまうことがあります。心理的に値上げの方が顧客にインパクトがあるためそう思われてしまいがちなのです。そこから顧客離れに繋がってしまうケースも少なくありません。

しかし、値上げに顧客のメリットに繋がるような理由を示せれば、納得感は向上し、顧客離れは起きにくくなります。asatteさんの事例だと、ダイナミックプライシングによる値上げには「顧客の集中を防ぎ、密集を回避する」という理由があります。これがダイナミックプライシングが好意的に受け入れられている理由でしょう。

3つ目は、販売している商品が少ないことです。
飲食店のダイナミックプライシングが難しいとされる理由の1つに、商品点数の多さがあります。多くのダイナミックプライシングでは、商品ごとの需要予測を行い、それを元に収益最大化につながる価格変更を行います。しかし飲食店の場合、商品点数が多く、一つの商品の価格が変わると別の商品の需要にまで影響を及ぼすことが多いため、価格変更が収益最大化につながるように管理するのが難しいのです。さらに、ただ多くの商品を販売するわけではなく、多くの飲食店はハンバーガーとポテトのように商品をセットで販売することがあります。単品ではなく、セットで購入されることで利益をあげるような計画も練っていますが、ダイナミックプライシングはそれに支障をきたしてしまうかもしれないのです。

そのため、通常の飲食店ではダイナミックプライシングの導入は難しいと考えられています。
しかし、asatteさんのような、1つのメニューしか存在しないお店では、商品の需要というよりも、店全体の需要を元にして価格設定を行えるため、来客数といわかりやすい変数を元に価格変更が実施できます。つまり、効果的なダイナミックプライシングを簡単に設計しやすいのです。この単純なプライシングモデルなために、特に機械学習や自動化のツールを用いずとも、人力でダイナミックプライシングを行えているのです。

実際に、海外でダイナミックプライシングが効果を発揮している飲食店の多くは、品数の少ない完全予約型のコース料理店となっています。

ダイナミックプライシングの成功につながったasatteさんの特徴

  • 顧客と強い関係性が作れていること
  • 顧客にメリットがあること
  • 品数の少なさ

ダイナミックプライシングが飲食店で効果を発揮することは簡単ではありません。まさに、このような特徴を持つasatteさんだから実行できるシステムなのです。

こちらの記事では、ダイナミックプライシング導入に適している企業の特徴をまとめております。

asatteが抱える課題と解決策

asatteさんはダイナミックプライシングによって、これまでのピーク時間に人が殺到することを防ぐことができました。

しかし、現在の価格設定の結果、値下げした時間に人が殺到するという状態ができてしまっています。このような状況は、下の画像でいうところの、「高くても買う層」が少なかったことが原因だと考えられます。その層には「一般的に都合の良い時間帯での購入」「密集回避」という価値を提供するはずなののですが、顧客にとっては値下げの魅力が強く、安く購入できる時間に人が殺到し過ぎてしまっているのでしょう。

ダイナミックプライシングでの販売

このような状況下では、混雑緩和も実現できないうえ、単価が安い商品の販売になるため収益拡大にもつながりません。この課題を解決するには、少し値下げの幅を小さくしたり、値上げの幅を小さくしたりする調整が有効だと考えられます。それにより、価格の安い時間帯に集中しすぎることを防ぐことができるのです。asatteさんは週に1度ほどのペースで価格改定を行っていくらしいので、徐々に調整していけるかと思います。

飲食店でのダイナミックプライシングの今後

asatteさんは

  1. 顧客と強い関係性が作れていること
  2. 顧客にメリットがあること
  3. 品数の少なさ

という特徴を持っていたために、ダイナミックプライシングが活用できました。それでは、飲食店にとってダイナミックプライシングは当然のものとなるのでしょうか?

結論としては、「前進していくが今は一般的には難しい」状況だと言えるかと思います。

そもそも、ダイナミックプライシングを行える飲食店向けツールがまだ存在しないため、科学的なアプローチでダイナミックプライシングを行うことが難しいです。科学的でない方法で無闇に価格を変動させると、多くの商品を扱う飲食店は、予測不可能な商品需要の変動が起きて、収益減退に繋がってしまう可能性もあります。

また、小売店のダイナミックプライシングのように、競合価格との価格競争に勝つための価格設定をすることも効果を発揮しません。小売店ほど、細かい価格差が客の購買意欲に影響を及ぼしにくいのです。

そして、商品価格の提示に紙のメニュー表を利用している場合、リアルタイムの価格変更を反映することもできません。

このような状況からも、現状飲食店がダイナミックプライシングを導入することは難しいと考えられます。

しかし、オンラインのレストラン予約サービス「TableCheck」でダイナミックプライシングの仕組みが導入されるなど、今後飲食業界にダイナミックプライシングの導入が広がっていく可能性はあるでしょう。

まとめ

飲食店にとって、集客数を減らすことは避けたいものです。withコロナで混雑回避が求められる中、asatteさんはダイナミックプライシングを活用して集客数を減らさずに密集を回避する店舗運営を可能にしています。

また密集を避ける目的以外にも、収益最大化のツールとしてもダイナミックプライシングは注目されるでしょう。しかし、現状飲食店ではダイナミックプライシングの導入により、収益最大化に対して高いパフォーマンスを発揮することは難しいと考えられます。

特に、飲食店のダイナミックプライシングはツール化もなされていないため、もしも導入をお考えの場合は、専門家へ相談することをおすすめします。

参考記事
Jタウンネット東京都
日本経済新聞

カテゴリー
インタビュー

ダイナミックプライシング企業インタビュー01 akippa株式会社

ダイナミックプライシングは現在国内でも話題性が増してきています。情報を耳に入れる機会も増えてきているかと思います。しかし、実際に導入した企業の声を聞く機会はないのでしょうか。

プライスハックでは、ダイナミックプライシングを導入している企業や提供している企業に、直接インタビューをはじめました。

今回はその第一弾、akippa株式会社さんの記事です。

ダイナミックプライシングとは何かを知りたい方は、こちらの記事をご覧ください!


プライシングスプリント

「akippa」とは?

–こんにちは。本日はakippa株式会社様がダイナミックプライシングの導入に至った経緯や、導入してみて感じたこと、そしてダイナミックプライシングの未来についてお聞かせいただけたら、と思います。早速なのですが、ダイナミックプライシングを導入したサービスであるakippaとはどんなサービスなのかについてご紹介ください。

田中:こんにちは。akippa株式会社でサービス運用全般の責任者をしている田中と申します。

さて、弊社のサービスであるakippaとは、「契約の無い月極駐車場」や「マンションの空き駐車場」など、様々なスペースを15分単位又は、1日単位で駐車場として貸し借りできるサービスです。

ビジネスモデルは非常にシンプルで、ドライバー様には会員登録頂き、一方で、駐車場オーナー様にはスペースを登録頂きます。初期費用・月額費用はそれぞれ、完全に無料で、予約が入った際のみにドライバーが駐車料金を支払う仕組みで収益が発生し、akippaは手数料を頂く形となります。akippaのサービスはおかげ様で、それぞれ累計で会員数は190万人、拠点数は39,000箇所と非常に利用されてきております。

akippaのビジネスモデル
akippaのビジネスモデル。ドライバーが駐車場を利用する際に支払いが発生し、その後akippaから駐車場オーナーに、報酬として貸し出し料金のおよそ50%が支払われる

–ご説明ありがとうございます。田中様は、どのようなお仕事に取り組まれているのでしょうか?

田中:先ほど申し上げたように、現在はサービス運用全般の責任者をしています。akippa株式会社への入社後の経歴としては、まず営業マネージャーとして大阪のドミナント戦略の成立に従事した後、社内のプライシングチームを立ち上げ、チームマネージャーとしてダイナミックプライシングをakippaのスタンダードにする業務に従事しました。

現在は、「ダイナミックプライシング」の他に、「カスタマーサクセス」「駐車場の掲載」「事業全体の売上の最大化」の4つを主な領域として日々、事業の成長と向き合いっています。

ダイナミックプライシング導入の経緯

–ありがとうございます。それではダイナミックプライシングの話にうつらせていただきます。まず、そもそもダイナミックプライシングは、akippaの中でどのように活用されているのでしょうか?

田中:「駐車場拠点の一部以外全て」をダイナミックプライシングを利用して、akippaがサービスプラットフォーマーとして値付けしています。

まず、前提としてakippaでの駐車場の値付けは二つに分かれています。日常生活での駐車場利用を想定した「定常料金」と、イベント等での駐車場利用を想定した「イベント料金」の2つです。これらの料金をダイナミックに変動させることで、駐車場単位の売上(単価×稼働率)を最大化させようとしています。例えば、「定常料金」の場合、平日の通勤需要では周辺コインパーキングよりやや低い金額で駐車場料金を設定し、「イベント料金」は休日の有名アーティストのコンサートがある日には、大きく価格を上げるといったイメージです。

–なるほど、それでは何故このダイナミックプライシングを導入しようと思ったのでしょうか?

田中: 結論から申し上げますと、駐車場オーナー様の収益と自社の業績を最大化するのに最適なソリューションだったからです。

akippaでは約3年前に、登録駐車場数とユーザー様の数の大幅な増加に伴い、全国で需給のバランスに応じた料金設定がやりきれていない点が事業課題としてあがってきました。この課題を解決し、需給に応じて収益を最大化する駐車場貸し出しを行える様に、本格的にダイナミックプライシングを開始しました。実は、akippaではサービス開始して間もないころから一部、ダイナミックプライシングによる値付けを導入していました。例えば、「阪神甲子園球場」で「阪神タイガース」の試合がある際には、球場周辺の駐車場料金を値上げするような形です。この実績があったため、3年前に価格戦略を再考した際に、一律料金やオークション価格などの他の価格戦略ではなく、ダイナミックプライシングを信頼でき、導入を決められました。

–本格導入を決めてから、どのように進めていったのでしょうか?

田中:まず、社内に「ダイナミックプライシングチーム」を立ち上げて国内事例等を探しました。しかし、コインパーキングは、看板での価格通知や精算機の設定上の課題があり、細かい料金変更をすることは難しいようで、私の調べた範囲では、しっかりと「ダイナミックプライシング」を導入している事業者様は無さそうでした。また、ホテル等他業界のアルゴリズムを利用しても一定効果は発揮しそうでしたが、やはり自社のデータと完全にマッチするイメージは無さそうでした。これらを踏まえ、「マーケットリーダーとして、しっかりダイナミックプライシングの概念を取り入れ、成立させる必要があるな」と感じたのを覚えています。

そして実際に、以前から行っていたダイナミックプライシングをアップデートして、より需要と供給に応じた価格設定ができるように仕組みを作っていきました。主には、「イベント料金」で参照するイベントや要素の範囲を広げることで、正確に需給に応じた価格設定ができるようにしてきました。

そうした結果、需給ギャップを最小限に抑え、ユーザー様にとってはご納得頂ける価格オーナー様にとっては収益が最大化する価格での運用をしていけるようになりました。もちろん、「全国全ての駐車場で完全に需給バランスを取り切れている」という状況では無いですので、今も料金設定におけるアルゴリズムの調整はし続けていて、日々、PDCAを回している状況です。多くのPDCAを回し、アップデートさせてきたため、今では「akippa」のダイナミックプライシングは日本の駐車場業界ではかなり先行していると感じています。

ダイナミックプライシング導入のメリットとデメリット

–それでは、ダイナミックプライシングを実際に活用してきた中でどんなメリットを感じられましたか?

田中:メリットは何と言っても「売上」が目に見えて上がっていく点です。ユーザー様は様々な要素から「この駐車場を予約しよう」と判断しますが、中でも「場所(立地)」と「価格」は最重要な項目だと考えています。その最重要な項目である「価格」を変更し続けることで、ユーザー様が納得し、かつオーナー様の利益を最大化できる価格で販売することや、利用されていなかった時間帯や場所の駐車場を販売することができていたのです。

これにより駐車場の売上があがることで、駐車場オーナー様や、駐車場を獲得して下さるパートナー様の収益にも繋がるため、ダイナミックプライシングはユーザー様もオーナー様も満足する素晴らしい仕組みだと思っています。

また、ダイナミックプライシングによる自動値付けは、全国の駐車場の価格を正確にかつ素早く決定していくことにも役立ちました。

–ありがとうございます。逆にダイナミックプライシング導入の際に感じた注意点や、気をつけていたことはございましたか?

田中:もちろん、ダイナミックプライシングを活用する中で、注意しないとといけないと感じることもありました。過去に経験したことのない状況で値付けを行う際に、値段を適切に設定することができず、ユーザー様がakippaとは違う駐車場に流れてしまうことが少なからず起きてしまうのです。例えば、新型コロナウイルスの影響で、イベントの集客上限が5,000人とされる、といったケースがありましたが、こういったケースが、過去に経験したことがなく、値付けが難しい状況だったといえます。

このような注意点があったため、akippaとして気をつけたのは、顧客離れを起こさない価格設定と、PDCAの徹底です。ダイナミックプライシングだとしても、ユーザー様に不審に思われる様な価格設定を避けることや、仮に一時的に利用されない価格設定をしてしまったとしても、即時にダイナミックプライシングで価格を設定し直すというPDCAを行いました。

ダイナミックプライシングの未来

–ありがとうございます。近日話題を読んでいるダイナミックプライシングですが、導入企業の目線から、ダイナミックプライシングが世に広がっていくことについてどう思われますか?

田中:我々は「駐車場」の専門家であり、それ以外の産業について構造的に理解しきれている訳では無い前提ですが、多くの産業においてこのダイナミックプライシングは導入されるべきだと感じています。「価格が需給に応じて変更される」という考え方は、社会的に効率的であり、合理性が高いという背景は間違いなくそうだと思います。ただ、価格を決定するプラットフォーマー側の責任は重く、消費者の方に不信感を与えないような設定を常に模索しつづける必要があると感じています。

 まだ多くの産業においてダイナミックプライシングの仕組みは構築されていなくて手探りの状況だと思いますが、関係者で協力して、しっかりとこの概念・市場を成立させていきたいです。どの産業でもオンライン化は進んでいるものの、そこに適応していく企業ばかりではありません。だからこそ、プライシングスタジオさんのようなプライステック事業者様や、実際に導入している我々akippaのような企業がそれぞれの役割を果たしていくことが重要だと思っています。

また別の背景として、akippaは「あなたの”あいたい”をつなぐ」というビジョンを掲げています。このビジョンに対して「駐車場の値段が高くて使えない」といった理由で、会いたい人に会えないという課題を解決する手法としてダイナミックプライシングは収益面だけではなく、ビジョンに沿った手段だと感じています。ビジョンに沿った手段であり、社会的な意義も大きいダイナミックプライシングの概念の浸透には今後も積極的に協力していきたいと考えています。

まとめ

以上がakippa株式会社の田中様に行ったインタビューの内容となります。

ダイナミックプライシングの導入を進める経緯、ダイナミックプライシングが事業に与えるインパクトの大きさ、そしてダイナミックプライシングの未来について、実際にダイナミックプライシング導入企業のお話を届けられたのは、大きな価値があったと感じています。

ダイナミックプライシングに関する高い解像度での理解を促進するため、これからもダイナミックプライシング導入のリアルを、インタビューを通じてお届けします!ご注目ください。

今回インタビューでも取り上げていた、ダイナミックプライシングのメリットデメリット導入に適している企業についてまとめた記事は以下のリンクからご覧になられます。



カテゴリー
ダイナミックプライシングとは?

ダイナミックプライシング失敗!?自動販売機でのダイナミックプライシング事例に迫る!

ダイナミックプライシングは様々な業界に、新しい風を吹かせています。しかし、そんなダイナミックプライシングも導入が失敗に終わってしまったことがあります。

この記事では、失敗事例を1つ取り上げて事例を解説し、ダイナミックプライシング導入の失敗要因を見つけていきたいと思います。

そもそもダイナミックプライシングとは何かを知りたい方はこちらの記事をご覧ください。



プライシングスプリント

ダイナミックプライシングの導入失敗

「ダイナミックプライシングを自動販売機に導入する」

アメリカの大手飲料メーカーのコカコーラ社は、20年ほど前に自動販売機でダイナミックプライシングの導入を検討したことがります。しかし、実際にそれが実装されることはありませんでした。先進的な取り組みだと思えた、コカコーラ社のダイナミックプライシング。なぜ失敗してしまったのでしょうか??

以下の記事に、コカコーラのダイナミックプライシングについての記載がございました。これらの情報をもとに、コカコーラ社のダイナミックプライシングの沿革と、失敗に終わる結果となった原因について迫っていきます。

参考記事
Variable-Price Coke Machine Being Tested
why variable pricing fails at the vending machine

コカコーラ社のダイナミックプライシング

ダイナミックプライシング導入の背景

アメリカ合衆国で、コカコーラ社が自動販売機でダイナミックプライシングを導入しようとしていたのは、1990年代後半でした。当時のCEOのダグラスイベスター氏は、喉が乾くような暑い日と、涼しい日だと飲み物の需要が変わると判断し、自動販売機で販売する商品の価格を、気温に応じて価格が変動するダイナミックプライシングにしようと思ったのです。

コカコーラ社のダイナミックプライシングの仕組み

主にダイナミックプライシングでは、変動する商品需要に合わせて価格変更を行うことで、収益最大化につながる値段での商品販売を可能にします。ここで鍵になるのが、変化する需要を予測することです。多くの場合、直前の販売状況や、季節、曜日などによってこの需要予測を行うケースが多いですが、コカコーラ社は、気温が需要予測の指標として利用できると判断したのです。当時の計画では、自動販売機に気温計をつけることで、それによって測った気温に応じて自動販売機の価格が変動するという形になっていました。日ごと、および1時間ごとの価格変更を行い、気温が高い夏の日、気温が高い真昼には価格が上昇する設計だったのです。

確かに、暑い日の方が冷たいジュースが飲みたくなりますよね。少し高くても購入してしまうかと思います。これだけでは、ダイナミックプライシングが失敗するとは思ません。なぜ導入は失敗してしまったのでしょうか?

コカコーラ社のダイナミックプライシング導入が失敗した理由

このコカコーラ社のダイナミックプライシングは、適切な需要予測モデルを利用しており、導入も拡大していけるかと思われました。しかし、実際に導入が拡大することはありませんでした。

その理由は、顧客離れのリスクが大きすぎたためだと考えられます。

とあるインタビューで、当時のCEOダグラス・イベスター氏が開発中だったダイナミックプライシングについて言及したところ、それは大きな波紋を呼びました。インターネット上や、マスコミ、そして競合のペプシなど、世間から大量の批判を浴びてしまったのです。その結果、自動販売機のダイナミックプライシングは、顧客離れを引き起こすと認識せざるを得なく、導入を中止したと考えられます。

それではなぜそのように批判が殺到してしまったのでしょうか?そこには三つ考えられる理由があります。

  1. ダイナミックプライシングによる値上げが顧客に価値を提示できていないこと
  2. 商品の価値自体は変わっていなかったこと
  3. 業界の常識から外れていたこと

批判の原因①ダイナミックプライシングによる値上げが、顧客に価値を提示できていないこと

一つ目の問題点は、コカコーラ社のダイナミックプライシングは、値上げによる顧客へのメリットを提示できなていない点です。そもそも需要の高まりに応じて価格を上げることは、「儲け主義」との不審をいだかれやすいです。欲しい時に商品の値段があげられたら、顧客からしたらムッとしますよね。そのため、ダイナミックプライシングを実施するときは、顧客に「自分たちの利益にもつながる」と納得してもらえるような設計をする必要があるのです。

例えば、配車サービスのUberは、需要が高まった地域、時間帯の価格を向上させるのですが、それによりドライバーの労働インセンティブを刺激し、需要に見合うだけの供給を確保するのです。これは、顧客のサービス満足度向上につながっているため、社会に受け入れられています。

コカコーラ社は、需要が多い時に値上げをすることで、買う人を減らし、自動販売機に並ぶ時間を減らすことができると主張していましたが、そこに魅力を感じる顧客は少なかったようであり、納得感を作ることはできませんでした。

批判の原因②商品の価値自体は変わっていなかったこと

たしかに、コーラの需要は気温によって変動しますが、商品そのものは変わっていません。そのため、「同じ商品を高く買わされる」という印象が強く、批判が起きてしまったと考えられます。

例えば、気温が高い日にはコーラを冷やして高く提供し、そうでない日にはあまり冷やさず安く提供するなど、商品の価値自体が変化したのなら、顧客の納得度は一定高まっていたでしょう。商品の価値の変動に納得感がないと、顧客が商品価格の変動に納得しにくいのです。

批判の原因③業界の常識から外れていたこと

当時、ダイナミックプライシングを導入する飲料メーカーはありませんでした。そのため、顧客が慣れの面から受け入れられなかったうえ、競合からの批判もあったのです。有力な競合他社であるペプシが、

「気候に応じたダイナミックプライシングは、暑い地域に住む消費者の搾取につながる」

「ペプシは、コーラを買いにくくするのではなく、革新を目指す」

といった声明を出していた中でダイナミックプライシングを実行すると、大きな顧客離れにつながりかねません。これはダイナミックプライシングを中止する大きな理由となったでしょう。このように、業界で最初にダイナミックプライシングを導入することはリスクを伴うのです。

 

ダイナミックプライシングには「顧客離れ」のリスクがあります。このケースは、導入した事実によって顧客離れが起きかけた、わかりやすい例です。ダイナミックプライシングが、「企業のもうけのためだけに行われる施策」だととられてしまうと、それを導入する事実によって顧客離れは発生してしまうのです。

このリスクもあり、コカコーラのダイナミックプライシング導入計画は失敗に終わったのです。

こちらの記事では、ダイナミックプライシングと「顧客離れ」という観点から、導入デメリットを解説しています。

まとめ

コカコーラ社のダイナミックプライシング導入計画は失敗に近い形で終わってしまいました。たしかに、コーラは需要に変動性があり、気温に応じて価格を上下させることは、収益最大化に繋がりそうなモデルです。しかし、それが顧客離れにつながってしまう場合、長期的な利益を失うことになってしまうのです。

ダイナミックプライシングは企業の収益最大化に有効な手段ですが、それが顧客の利益にもつながるのか、受け入れてもらえるのかどうかを考えることは不可欠です。今回の事例から得られる教訓を一言でまとめるとこのようになるでしょう

「ダイナミックプライシングは、顧客に価値を感じてもらえないと難しい」

そのため、ダイナミックプライシングに失敗するリスクを回避するには、事前にどんな企業ならダイナミックプライシングを失敗せず導入を成功させられるかを把握することが重要です。

こちらの記事では、ダイナミックプライシングを導入すべき企業の特徴を紹介しています。是非ご覧ください

カテゴリー
ダイナミックプライシングとは?

コロナ禍でダイナミックプライシングが大幅促進!?ニュースと事例を総まとめ!

新型コロナウイルスの脅威が続く中、ダイナミックプライシングが様々な業界でニュースになっています。

この記事は、コロナ禍で耳にしたダイナミックプライシングに関わるニュースをまとめ、五つの業界のダイナミックプライシングについて解説しています。是非ご覧ください。

ダイナミックプライシングとは何かを詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください



プライシングスプリント

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。主に需給の変動に合わせて価格変更を行う形で活用されており、企業の収益最大化や混雑緩和など、多くの価値を発揮しています。

人々の需要が高まった商品や、供給が足りていない商品に対しては、価格を上げて利益を最大化します

一方、人々の需要が小さくなった商品や、供給過多な商品に対しては、価格を下げることで、販売数を増やします
これがダイナミックプライシングの基本です。

新型コロナウイルス拡大によってダイナミックプライシングの浸透が進んだ!?

そんなダイナミックプライシングは、withコロナの現在、導入が拡大されているのです。

これから、3月ごろから7月現在までの、国内のダイナミックプライシングにまつわる話題をまとめて紹介いたします。そして、新型コロナウイルスの脅威がダイナミックプライシングの拡大にどのように影響したのかを解説していきたいと思います。

電車のダイナミックプライシング

電車 ダイナミックプライシング

7月7日、JR東日本がダイナミックプライシングを検討していることが、定例会見で伝えられました。

JRがダイナミックプライシングの導入を検討したことには、二つの背景があるかと思います。

一つ目、直接的な要因は、乗客が減ったことによる減収です。4月に発令された緊急事態宣言により、各社はテレワークを推進し、電車通勤をする人が減りました。これにより、4~6月の鉄道事業の売上高は定期券販売を除くと前年同期比で2640億円落ちるという危機的な状況になってしまいました。この中で、経営状態を改善する施策として、ダイナミックプライシングは検討されました。需要が非常に高くなる時間帯の価格をあげることで、収益増加をおこなうことができると期待されています!

二つ目の要因として、世論の後押しが挙げられるでしょう。もともと、満員電車の混雑問題は、人々にとってかなりストレスフルなものでした。それが新型コロナウイルスの拡大により、ただストレスなだけではなく、解決を求めたい大きな課題となったのです。そこで、ダイナミックプライシングによって、乗客を分散させることが期待されているのです。ダイナミックプライシングにより、需要の週ちゅすうる通勤、帰宅時の料金が上がった場合、企業がもつサラリーマンの交通費負担がかなり大きくなり、時差出勤制を採用する会社が増えることも考えられます。このように、ダイナミックプライシングは電車の混雑緩和につながる可能性があるとされています。5月末に発売された、堀江貴文氏の『東京改造計画』や、都知事選での堀江氏の政策提案などでも、電車のダイナミックプライシングは話題になり、共感を集めました。JRにとって、ダイナミックプライシングが好意的に受け取られやすい土壌ができたのです。

現在検討段階ですが、日本最大規模の鉄道会社であるJR東日本が導入したとあれば、他の鉄道会社が検討し始めることでしょう。導入の形としては、最初はリアルタイムに価格が変動するのではなく、時間帯に応じて異なった料金になる時間帯別価格制として導入されるかと思われます。

また、ダイナミックプライシングを実装する中で、乗客の価格感度の分析も期待されます。それによって改めて乗客の価格への意識を企業が掴めると、互いにとってより良い価格設定がされそうですね!

このような顧客理解というメリットについても↓の記事で解説しています。

参考記事

レイルラボ

特報web

Yahooニュース

飲食店のダイナミックプライシング

飲食店 ダイナミックプライシング

表参道に店を構えているasatteという飲食店は、唯一のランチメニューである日替わり定食をに、ダイナミックプライシングを取り入れました。「三密」を回避することが飲食店にも求められる中、席数を減らさずに密集を回避することを目指して導入したそうです。

  • 需要の集中する時間帯→価格を上げることで、需要を抑える。
  • 需要が小さな時間帯⇨価格を下げることで、需要がピークの時間帯の顧客を呼び寄せる。

このように、一つの商品の価格を、時間帯に応じて複数の値段に変動させることで、混雑状況をコントロールしようとしているのです。asatteさんでは、30分ごとに商品の価格が変わるようで、最も高い時間と、最も安い時間では700円もの価格差があるようです。これにより、導入を開始してまだ間もないですが、これまでのピーク時間にお客さんが集中することはなくなったそうです。

飲食店は、ダイナミックプライシングと相性があまり良くない業界と考えられています。しかし、コロナ禍により、ダイナミックプライシングは混雑緩和のツールとして活躍したのです。

asatteさんでダイナミックプライシングが成果をあげているのは、彼らの独特な特徴が関わってきます。それらについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

スポーツのダイナミックプライシング

スポーツ ダイナミックプライシング

新型コロナウイルスの感染拡大により、無観客試合が続いたプロスポーツ業界ですが、7月ごろより、入場者数を限定した上でのスポーツ試合のチケット販売が開始されました。

ダイナミックプライシングは、そこで活用されました。新型コロナウイルスを受けて導入したのではなく、コロナ以前からダイナミックプライシングで行うことは発表されていたものではありますが、現在やはり観客や世間の話題を呼んでいます。

Jリーグは、新型コロナウイルス感染症対応ガイドラインを設けて営業を再開しました。ここで、密集を避けるために、7月10日から8月1日ごろまでは、集客の上限が5000人と定められました。2019年のJ1リーグの一試合あたりの平均集客数が20751人であるため、J1リーグのチームにとっては、1/4ほどしか集客できないのです。

このように供給可能量が少ない状況なため、収益を得るには、価格を上げて利益を最大化することが重要です。そこで、収益改善の手段としてダイナミックプライシングは注目されているのです。清水エスパルスは、セレッソ大阪戦でダイナミックプライシングをチケット価格に適用させました。価格の変動については、供給可能量が少ないこともあり、値上げが主となったようです。

清水エスパルスは、これでできるだけ高い値段で売り切り、収益の最大化を実施できると考えていたのでしょう。しかし、実際には、値段を高くしすぎたことも関係したのか、チケットは売れ残ってしまったのです。

やはり、販売する側に供給量が少ないという事情があったとしても、消費者が「今回の試合は見に行かなくて良い」と感じてしまうような価格設定になると、売り切ることは難しくなってしまうのでしょう。

このようなスポーツチケットのダイナミックプライシングは、Jリーグだけではなく、プロ野球でも導入され、千葉ロッテが実施するというニュースも話題になりました。

また、ダイナミックプライシングは、試合のチケット以外にも活用されていました。それはドライブインでの観戦イベントの価格です!

名古屋インパルスは、7月12日のセレッソ大阪戦で新型コロナウイルスの影響で、アウェーチームである名古屋インパルスのファンが応援にいけない中、試合を楽しんでもらうために、別会場にてドライブインで映像を通じて試合観戦ができるイベントを開催していました。素晴らしい試みですよね!実はこの参加費用が、抽選で名古屋市民にあたる場合をのぞいて、ダイナミックプライシングによって決定されていたのです。おそらく、パーキングのダイナミックプライシングのように、入場している車の量に応じて価格変動が起きていたのでしょう。

これは、ダイナミックプライシングが、スポーツ業界に根付くであろうことを示す事例です。

参考

FOOTBALL ZONE

名古屋グランパス

朝日新聞デジタル

BASEBALLKING

高速道路のダイナミックプライシング

高速道路 ダイナミックプライシング

高速道路でのダイナミックプライシングは、混雑緩和に活用できるとして近年注目が高まっています。

高速道路の料金にダイナミップライシングを導入することができれば、需要の大きい日や時間帯の料金を高く設定することにより、ドライバーに、時間帯をずらした利用や一般道の利用を促すことができるのです。

そんなダイナミックプライシングを促進するようなニュースが先日出されました!それは、全国の高速道路の全ETC化を国土交通省が検討し始めたことです。これは、混雑緩和のためにも以前から検討されていた事項でしたが、料金所の料金受け取り担当者を経由しての感染拡大を防げることが後押ししたようです。

ETC化が進めば、高速道路でのダイナミックプライシングの実現可能性が高まります。実際、ETC化が今まさに進められようとしているのは、これから東京五輪・パラリンピック開催時などに想定される渋滞対策として、ダイナミックプライシングが求められていることからも

新型コロナウイルス感染爆発前の2020年2月の段階では、五輪期間中の首都高速道路の料金をダイナミックプライシングで行うことが許可されていたのです。時間帯別料金として、競技に影響する6時から22時までは千円割高になる一方、深夜0時から4時までは半額になる予定でした。それを予め告知することで、選手の移動にも使われる、昼の首都高の利用者数を減らし、一方で利用者の少ない夜は利用者が増えるように設計していたのでしょう。

朝日新聞デジタル

日本経済新聞

テーマパークのダイナミックプライシング

遊園地 ダイナミックプライシング

テーマパークは、一部ですが、ダイナミックプライシングが既に導入されていた業界です。国内の例としては、ユニバーサルスタジオジャパン(以下USJ)が有名ですね。繁忙期と閑散期や、平日と休日といった需要に差がでる日に応じてダイナミックプライシングを行っていました。それにより、顧客が不快になるほどの混雑を防ぎ、一方で需要が小さい日に人が流れることを可能にしたのです。

こんな遊園地のダイナミックプライシングに変化が起きるかもしれません。コロナ禍により、東京ディズニーリゾートなどのテーマパークで入場制限が起きています。それらの入場制限があるテーマパークでは、異なった手法でのダイナミックプライシングの可能性が高まっていると考えられるのです。

6月23日、東京ディズニーリゾートが7月1日より営業再開することが発表されました。しかし、密集を避けるために、入場者数は50%以下と制限されてしまいました。チケットがオンラインで発売されると、すぐに上限に達して売り切れるようになってしまう状況があります。

顧客が半分ほどしか来ない状態では、収益があまり望めません。その中で、収益最大化のツールとして、USJのモデルに近いダイナミックプライシングを導入することも効果がなさそうです。今の価格では需要が供給(入場者数の上限)を下回るタイミングがないため、値下げが効果を発揮しません。需要が低い日の集客数を増やす、ということができないのです。

この中で、収益を拡大するためには、イールドマネジメントと呼ばれるダイナミックプライシングの手法が役に立つと思われます。それは、ホテルや飛行機のダイナミックプライシングで利用されている手法で、予約状況、チケットの残り枚数に応じて段階的に値上げ、または値下げを行うことで、できる限り高い価格で売り切ることを目指せるのです。この手法を使うことで、限られた入場者数で最大の収益をあげることができるのではないでしょうか。

ディズニーランドを筆頭に、入場制限のある遊園地で、イールドマネジメント型のダイナミックプライシングが広がるのかもしれませんね。

トラベルボイス

パッケージツアーのダイナミックプライシング

ツアー ダイナミックプライシング

航空輸送事業などを行うANAグループは、「ANAダイナミックプライシング」として、国内線の航空券とホテルの料金をまとめたパッケージツアーのダイナミックプラシングを開始しました。355日前から、出発前日までツアーチケットを購入することができ、その買うタイミングによってリアルタイムに値段が変動するのです。

これは昨年から発表されており、コロナに合わせて作ったプランではないようですが、7月のタイミングでYouTubeなどで広告を活発化させたのは、Go toキャンペーンにあわせてのものかと思われます。また、今は旅行に行きたくない顧客からもキャッシュを確保するという文脈からも、この355日前から予約可能という点から顧客に訴求しようと思った可能性も想定できます。

ANA

新型コロナのダイナミックプライシングへの影響まとめ

新型コロナウイルスにより①企業の収益減②密集回避が求められるようになる という状況が作り出されました。

この中で、ダイナミックプライシングは

  1. 収益最大化
  2. 密集回避

のツールとして注目されるようになったのです。さらに、コロナ関係でダイナミックプライシングが話題になると、コロナ収束後のダイナミックプライシングや、密集回避に関係ないものに対してのダイナミックプライシングも、社会がそれを受け入れやすくなります。これによりダイナミックプライシングはさらに拡大していくことが予想されます。

また、ダイナミックプライシングを導入する際は、顧客との対話を忘れてはいけません。企業の都合で値上げしたとしても買ってもらえないうえ、顧客離れを起こしてしまう危険性もあります。ダイナミックプライシングは強力なソリューションだからこそ、徹底して顧客のことを意識する必要があるのです。

今回紹介した事例以外にも、マスクの高騰など、私たちの日常にダイナミックプライシングは大きく関わっています。

ツイッターアカウントをフォローしていただくとダイナミックプライシングについて情報発信をしている他、新記事が公開されるとツイートから読むことができます!Twitterはこちら!

この記事でも紹介した、「ダイナミックプライシングが混雑緩和に果たす役割」に関しては、下の記事でより詳しく解説しています。

またダイナミックプライシングの導入を検討しているかたは、下の記事をご覧ください。

カテゴリー
ダイナミックプライシングとは?

【ビックカメラ】リアル店舗でのダイナミックプライシング|導入事例を徹底解説

ECなどでの活用が取り上げられることの多いダイナミックプライシングですが、実は近年、リアル店舗を持つ小売店でも導入が進んでいます。例えば家電量販店のビックカメラは、2020年内の全店舗導入を目指し、ダイナミックプライシングの導入を拡大しています。

この記事ではビックカメラを事例に取り、小売店でのダイナミックプライシングについて考えていきます。

ダイナミックプライシングについてまず詳しく知りたいと思う方はこちらの記事をご覧ください。


プライシングスプリント

ダイナミックプライシングとオフライン小売

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。

ECの小売業界で長く導入されていましたが、近年リアル店舗を持つ小売店でも導入されるようになってきているのです。リアル店舗での価格変更で問題となるのは、「どうやって価格変更を値札に反映させるのか」です。この問題を解決し、ダイナミックプライシング導入を実現したビックカメラの導入事例について、解説していきます。

小売業界の現状

そもそもなぜ、ビックカメラはダイナミックプライシングの導入を検討する必要があったのでしょうか?この理由を理解するためには、まず小売業界の現状を把握する必要があります。

価格が重要な小売業界

もともと、小売業界は同じ商品を複数社が扱うという性質上、価格競争が激しくなる業界です。さらに近年、価格.comなど価格比較サイトの出現により、客の商品購入の意思決定における価格の重要性が高まってきました。

加えて、オンライン業者との競争も激化しています。オンライン業者の競争優位の理由の一つに、ダイナミックプライシングがあります。EC小売店は、ダイナミックプライシングによる頻繁な価格変更によって、商品価格を消費者に選ばれる値段に随時調整できていたため、価格的な優位性を保ちやすいのです。

これらの要因から、リアル店舗を持つ小売店は、価格戦略を十分に考える必要があったのです。

EC小売店のダイナミックプライシングに関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

リアル店舗の価格面での苦悩

このような環境下でリアル店舗を持つ小売店は、価格面での競争力を維持するために人力で商品の値札の差し替えを頻繁に行っていました。

しかし、扱う商品点数が多い大手小売店において、値札の差し替えを伴う価格変更を行うことは非常に工数のかかることでした。また、どうしてもオンラインの販売ほど素早く正確に価格変更ことはできませんでした。価格変更の意思決定を本部が行ってから、実際に価格を差し替えるまでの間に、時間差があり、リアルタイムの価格変更を実現できなかったのです。

このように、競争力のために価格変更を頻繁に行うものの、非常に工数がかかるうえに、時間に応じた競争力の高い価格で商品を販売することも難かしい状況がありました。

しかし、現在この状況が改善される兆しが見えてきているのです。それは、電子棚札(データを元に価格を自動反映できる電子機械のタグ)の実用化により、近年オフラインの小売業界でもダイナミックプライシングが可能になったことです。

現在、小売業界の中でも大手のコンビニエンスストアや家電量販店で電子棚札の導入が進み、ダイナミックプライシングが利用され始めています。

小売業界の状況

・小売業界の価格競争は激化している

・価格変更が価格競争の肝だが、リアル店舗では難しい

・電子棚札によって、リアル店舗でもダイナミックプライシングが可能に・・・?

ビックカメラのダイナミックプライシング導入

小売業界の状況がわかったところで、ここからビックカメラの導入事例を見ていきましょう。

ビックカメラが抱えていた価格の課題

まず、ビックカメラはどんな企業なのでしょうか?

・家電量販店 業界2位

都市圏駅前での大型店舗の展開がメイン

・家電だけでなく、自転車や日用品など多様な商品を扱う

このように、ビックカメラは知名度・業績ともに家電量販店のトップクラスの企業だといえます。

しかし、実はこのビックカメラもAmazonなどEC小売店との競争に疲弊していました。というのも近年、消費者はビックカメラに来店しても、スマホでECとの価格比較を行い、値段によってはその場で購入せずに別途ECで購入するケースが増えているからです。

そのため、ダイナミックプライシングで頻繁に価格変更を行うECサイトに対抗すべく、競合の商品価格や曜日に応じて1日最低でも2回は数千もの商品の価格を人力で張り替えていたそうです。業務の3割ほどがそこに割かれているほどハイコストだったうえ、その結果、本来オフラインの強みである接客業務が疎かになってしまう状況もありました。

しかし、消費者に選んでもらうためには、頻繁な価格変更をやめるわけにはいかなかったのです。

ビックカメラ課題まとめ

・頻繁な価格変更をしないと消費者に選んでもらえない

・価格変更に非常に大きな工数がかかる

・価格変更に工数が割かれ、接客が疎かになる

ビックカメラにおけるダイナミックプライシング導入の成果

このような状況下で、ビックカメラはEC小売店に打ち勝つべく、ダイナミックプライシングの導入に踏み切りました。そしてダイナミックプライシング導入のために、電子棚札の導入を進めたのです。電子棚札、ひいてはそれにより可能になるダイナミックプライシングの導入に、どのようなメリットがあったのでしょうか?

それは、価格変更の超効率化です。これまでも、ビックカメラでは曜日や競合価格をもとに価格変更を本部にて決断、店頭に伝達するシステムは存在していましたが、ダイナミックプライシングとして自動化することはできていませんでした。ビックカメラ本部が価格変更を店舗に伝達し、店員が新しい値札を印刷し、一枚ずつ差し替えるという大きな作業が発生していたのです。

しかし、電子棚札を導入してからは、本部から直接商品価格の一括変更が可能になりました。

日本経済新聞より ビックカメラの価格変更オペレーション(日本経済新聞 『家電の価格、随時上げ下げ ビックカメラが「電子棚札」』より引用)

これにより、価格変更の頻度も向上させられ、価格面での競争力も向上しました。さらに、価格変更にかかる大量の工数を大幅に削減でき、これまで2〜3時間かけて行なっていた値札の差し替えの作業時間がほぼなくなったそうです。そして、その分店員が接客に集中できるようになり、オフラインの店舗をもつからこその強みである接客の質が向上したと思われます。導入店舗の担当者の方によれば、実際に商品を買わずに帰る客を減らすことができたそうです。

この導入結果を受けて、ビックカメラはダイナミックプライシングの導入拡大を意思決定し、2020年中の全店での導入を目指しています。さらに、2020年8月期第2四半期決算説明会では、これからの店舗戦略において、天候やエリア性を考慮した、より高度なダイナミックプライシングを検討していくと言及されました。

ビックカメラは電子棚札を導入することで、自動で商品の価格を適正価格に変更するダイナミックプライシングを、オフライン店舗でも実現したのです。これからもダイナミックプライシングはビックカメラの店舗戦略に大きく影響していくでしょう。

ダイナミックプライシング導入による改善点まとめ

・価格変更の工数の大幅な削減

・店員が接客に集中できるようになり、顧客体験の改善

・より頻繁な価格変更が可能になり、競争力向上

ダイナミックプライシング導入のメリットはこちらです。

まとめ

ダイナミックプライシングは小売店においてもはや必須のシステムだといえます。電子棚札が実用化した現在、オフラインの小売店でも、導入は検討すべきです。

この記事で解説したビックカメラだけではなく、ノジマなど他の家電量販店やスーパーマーケット、コンビニエンスストアでもダイナミックプライシングが導入され始めています。

しかし、ビックカメラは導入に成功したものの、実際に自社のみでダイナミックプライシングをで導入することは容易ではありません。導入を検討する場合は、一度専門家へご相談することをお勧めいたします。

ダイナミックプライシングの導入をお考えの場合はこちらの記事をご覧ください

参考記事リンク

マネセツ

日本経済新聞

ITmedia ビジネスオンライン

CREiST.inc

日経ビジネス

logmiFinance