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日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説

(この記事は、『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説』の続きの記事です。)

「日用消費財業界の価格戦略とは?」
「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

前回の記事では、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財業界の動向と、
価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介しました。

<価格戦略の立案・実行の流れ>
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

今回は、そのうち「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」の戦略立案方法について、「実際にどのように戦略を立案していくべきなのか?」を実務ベースに解説いたします。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定「日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説」にて解説いたします。

全部で3部構成となっておりますので、まだ前回の記事をお読みでない方は、下記のリンクよりお読みください。

第1部:『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説

価格戦略の立案に欠かせない2つの分析手法

前回の記事でもご紹介した通り、野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果から、消費者の商品を買う際の判断基準の傾向に大きな変化があることが分かりました。

消費者の判断基準が「安さ重視」から「高くても自分が気に入った商品を買う(プレミアム消費)」へ変化してきている今、価格を考える上で、企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。

市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が有効です。

<価格戦略立案に欠かせない2つの分析手法>

  • STP分析
  • ロールポジション分析

STP分析

STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。

S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくことができます。

ロールポジション分析

ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し整理することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。

また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元にロールポジション分析上で並べて比較することで競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができます。

STP分析のやり方と手順

STP分析の目的

STP分析を実行していく目的としては、市場における、自社の顧客像や製品の立ち位置を把握することで、戦略を考える上で必要な土台を整えることです。

他社との競争に効果的に勝つためには、⾃社が狙っていくターゲットの標準を、自社が最も「満⾜」を提供する可能性が⾼い消費者に標準を合わせる必要があります。

その際に、誤って他の企業と同じ市場セグメントを追求してしまうと、もっと収益が上がるはずのセグメントを⾒逃してしまうことになります。 正しく市場を分析し、追求することで、自社の立ち位置を精度高く把握することができ、戦略を考える上で必要な土台ができるのです。

STP分析の3つのフレーム

次にSTP分析の実施に必要な下記3つのフレームについて理解を深めていきましょう。

セグメンテーション

市場を細分化するプロセスです。ニーズや選好の異なる購買者グループを特定し、その特徴を明らかにします。 
市場を細分化する軸としては、下記4つの軸が用いられます。

<市場を分類する4つの軸>
①地理軸:市場を国、州、地域、郡、地元エリアといった多様な地理的に単位で市場を細分化
②人口動態軸(デモグラフィック):年齢、世帯規模、家族のライフサイクル、性別、所得、職業、教育⽔準、宗教、⼈種、世 代、国籍、社会階層等によって、市場を細分化
③社会⼼理学軸(サイコグラフィック):⼼理⾯や性格の特徴、ライフスタイル、価値観に基づいて市場を細分化
④行動学軸:製品に対する知識、態度、使用法、反応に基づいて細分化

ターゲティング

参⼊する市場を選ぶプロセスです。 ⾃社にとって最も収益性や⽬的の実現に近づける市場を決定します。 
市場の決定方法としては、下記5パターンが挙げられます。

ポジショニング

参入市場に対して⾃社の市場提供物の明確なベネフィットを確⽴し、どのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくプロセスです。

取るべきポジショニングの戦略を判断する際には、先述したロールポジション分析を活用します。

ロールポジション分析で、商品ごとに自社と競合の立ち位置を把握し、後述する自社の競争地位に応じたとるべき戦略を検討します。

セグメンテーションのやり方

セグメンテーションをする際に持つべき5つの観点と評価方法

ただ闇雲に市場を細かく細分化するだけでは意味を成しません。
市場を細分化する際には、上述の4つの軸(地理軸・人口動態軸・社会⼼理学軸・行動学軸)を参考に切り分けつつ、以下の5つの観点を持って細分化することが大切です。

<5つの観点>
①測定可能性:セグメントの規模、購買力、特性を測定できるかどうかという視点です。
②利益確保可能性:セグメントが製品やサービスを提供するのに十分な規模と収益性を有しているのかどうかという視点です。
③接近可能性:セグメントに効果的に到達し、製品やサービスを提供できるのかという視点です。
④差別化可能性:セグメントが概念的に区別できるかどうかという視点です。
⑤実⾏可能性:セグメントを引き付けて製品とサービスを提供するのに、効果的な成果を出すことができるかどうかという視点です。
また、分けられた市場に対して、「どの市場を選ぶかを判断する」ための「評価」もセットで行う必要があります。
市場の細分化から評価を行う流れについては、市場リサーチャーのロジャー・ベストが推奨する「ニーズに基づいた市場細分化アプローチ」について解説します。
<ニーズに基づいた市場細分化アプローチ>
  1. ニーズに基づいた細分化を⾏う
    1. 特定の消費問題を解決する際に顧客が求める類似したニーズやベネフィットに基づき、顧客をセグメントにわけます。
  2. セグメントの「特徴」を特定する
    1. 分類したセグメントをどのような要因が特徴づけているのか判断する必要があります。
      具体的にセグメントを特徴づける要因としては、消費者のライフスタイルや、デモグラフィックス、使用行動などがあります。
  3. セグメントの「魅⼒」を判断する
    1. あらかじめ規定されたセグメントの魅力度の基準(市場成長性、競争の激しさ、市場アクセスなど)を使い、各セグメントの全体としての魅力を判断します。
  4. セグメントの「収益性」を判断する

ターゲティングのやり方

市場を細分化し、評価が完了したら、参⼊する市場を選んでいきます。

ターゲティングの5つのアプローチ方法

参入市場の選び方として、5つのアプローチ方法が存在します。
それぞれ見ていきましょう。

①単一セグメントへの集中

単一セグメントとは名前の通り、ある特定のセグメントに特化した商品やサービスを提供することです。

メリットは、特化したセグメントのニーズについてより多くの知識を得て、強力な存在感を持つことができます。
自動車会社のフォルクスワーゲンは、小型車市場に、ポルシェはスポーツカー市場に集中することで、成功しています。

デメリットとして、ある特定のセグメントに特化することは高いリスクを伴います。
特定の市場セグメントとの状況が悪化したり、競合会社がそのセグメントに参入してくる可能性もあります。

その事例としてポラロイド社が挙げられます。 ポロライド社はデジタルカメラ技術が生まれ、インスタント写真に特化していたポロライド社の売上は大きく落ちこみました。このように高いリスクが伴うため、多くの企業は複数の市場セグメントに事業を分散させることを好みます。

②選択的専⾨化

企業の目的に合わせて、魅力的かつ適切な複数のセグメントに絞り、対象とすることです。

メリットはそれぞれ自社の商品やサービスに適していると判断され、選ばれたセグメントなので、高い収益性が期待できます。またリスクを分散させる効果もあります。

事例としては、P&Gがクレスト・ホワイトストリップスを発売した際、標的セグメントには、結婚間近な女性に加え、同性愛者の男性も含まれていました。

③製品専⾨化

いくつかのセグメントに販売できる1種類の商品に特化することです。

メリットは、特定の製品エリアにおいて評価を得ることができることです。
事例として、顕微鏡メーカーは、顕微鏡という一つの製品に特化していますが、標的セグメントは大学の研究室や、政府の研究機関、企業の研究部門など複数のセグメントが存在しています。

デメリットとしては、その製品が画期的なテクノロジーにとってかわられるといったようなリスクが存在することです。

④市場専⾨家

特定の顧客グループの多数のニーズを満たすことに集中します。

メリットは、この顧客グループから高い評価が得られると、このグループに別の商品を売り込むことができることです。
事例としては、研究室にのみに多様な製品を販売する企業が挙げられます。

デメリットとしては、特定の顧客グループが予算を削ったり、財政が悪化したりすると、売上が落ちこむリスクがあることです。

⑤市場のフルカバレッジ

全ての顧客グループに彼らが求めるあらゆる製品を提供することです。巨大企業のみができる戦略です。

事例としては、コカ・コーラ(飲料メーカー)やIBM(コンピューター市場)、GM(自動車市場)などがあります。

この戦略の中にも「差別型マーケティング」「無差別型マーケティング」があります。

<無差別型マーケティング>

「無差別型マーケティング」は市場セグメントの違いを無視し、単一の製品やサービスで市場全体を対象とします。

メリットとしては、製品ラインが少ないため、研究開発、製造、在庫管理、輸送、マーケティング・リサーチ、広告、製品管理に関するコストを抑えることができます。

デメリットとしては、企業は最大多数の購買者にアピールする必要があるため、莫大な予算が必要となるので、大きな企業しかできない戦略ともいえるでしょう。

<差別型マーケティング>

「差別型マーケティング」は企業が複数のセグメントに事業を展開し、セグメントごとに異なる製品を設計します。

一般的に差別型マーケティングのほうが、無差別型マーケティングよりもコストがかかると言われています。

考慮する点としては、コスト面からは、「製品改良コスト」「製造コスト」「マーケティング管理コスト」「在庫管理コスト」「プロモーションコスト」があります。

ポジショニングのやり方

セグメンテーション、ターゲティングの操作が終わったら、どのような立ち位置で参入するのか、自社が取るべきポジショニング戦略を判断していきます。

ポジショニングは、4つのステップで進めていきます。

<ポジショニングの4つのステップ>

  1. POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。
  2. ⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。
  3. 競合製品も同じように整理する。
  4. 競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。

競争地位と取るべき戦略

4つのステップのご説明の前に、「競争地位の種類」と「地位ごとの取るべき戦略」を解説していきます。

競争地位①:リーダー

  • リーダーの特徴:関連製品の市場で最⼤の市場シェアを誇っています。そして通常、価格変更、新製品導⼊、 流通範囲、プロモーションの⾯で他社をリードしています。
  • リーダーの取るべき戦略基本方針としては、全方位戦略をとり、自社シェアの維持や市場の拡大をさせることが戦略的目標になります。

競争地位②:チャレンジャー

  • チェレンジャーの特徴:業界で第2位、第3位、あるいは更に低い地位にある企業はしばしば2番⼿企業もしくは追⾛企業と⾔われます。
  • チャレンジャーの取るべき戦略市場戦略による利益への影響を分析するPIMS研究によると、一般的にシェアが高まれば収益性が高まることがわかっています。そのため、基本方針としては差別化戦略を取り、攻撃対象を明確にして競合他社の弱点をつくなどしてシェアを高めることが戦略目標になります。

競争地位③:フォロワー

  • フォロワーの特徴:リーダーに挑戦するよりも、追随する傾向にあります。リーダーを追い越す可能性は低いですが、イノベーション費用を負担していないため、高い利益を挙げることができます。
  • フォロワーの取るべき戦略基本方針としては、模倣戦略を取り、製品開発コストを抑えて高収益を達成させることが戦略目標となります。

競争地位④:ニッチャー

  • ニッチャーの特徴:大規模市場でのシェア率が低くても、小規模市場すなわちニッチャーでリーダーになる道もあります。
  • ニッチャーの戦略基本方針としては、集中戦略を取り、扱い商品の価格帯や販売チャネルなどを限定して専門化することで収益を高めることが戦略目標になります。

ポジショニングの4つの実行ステップと戦略立案例

競争地位と取るべき戦略が理解できたら、早速実行ステップを進めていきましょう。

ステップ1:POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。

POSデータをバブルチャートに整理することで、

  • 自社がシェアを取れている商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?
  • 自社がシェアを取れていない・取っていくべき商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?

などを視覚的に明らかにすることが可能です。

例えば、こちらのバブルチャートをご覧ください。

各容量と各平均価格ごとにバルブが分布しており、オレンジ色は自社商品、グレー色は他社商品のバルブを表しています。

バルブの大きさは、その商品の当期売上金額に比例した大きさになっており、他社のバルブより大きければ大きいほど、その容量帯・価格帯で自社がシェアを取っていることを表しています。

この図からは、容量200~500gの層では、自社の売上が最も大きく「リーダー」のポジションが取れていることがわかります。

しかし、小容量100~200gと大容量500~700gの層では、他社商品は存在しているものの、自社製品はない状態となっております。小容量層と大容量層だけで考えるとシェアが取れていないことがわかり、自社は「チャレンジャー」的なポジションに居ることがわかります。

ステップ2:⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。

ロールポジション分析を用いて、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類・整理していきます。

<4つの役割>

  • エントリー:量単価(内容量1gあたりの値段など)は高いが、容量が少なく、価格を抑えた製品。商品カテゴリーに馴染みのない顧客が、手軽に購入してもらいやすくし、気に入った場合にはメインの商品の購入に繋げる導入の役割がある。
  • メイン:顧客に最も頻繁に購入される製品で、容量・価格・量単価すべてが商品ラインナップの中で「スタンダードな基準」となる製品。
  • アップサイズ:大容量サイズやセット商品など、容量が増え、価格も高くなるが、量単価が安くなることでお買い得に購入できる商品。
  • プレミアム:より高い価値を求めるターゲット層向けの、メイン商品の機能以外に高い付加価値が付いた商品。量単価が高いのが特徴。

ここで4つの役割に分類することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることが出来るだけでなく、他社と比較して「シェアが取れている商品が何か」「チャレンジャーとして対抗すべき商品が何か」「これからシェアを伸ばせる商品は何か」など、商品個別の価格戦略を考えていくことが可能です。

ステップ3:競合製品も同じように整理する。

競合商品のラインナップも自社商品と同様に4つの役割に分類していきます。

上記図は、「惣菜」を例に自社製品と競合製品を4つの役割に分類した図です。

加えて、POSデータ上でのシェア順位や割合も合わせて記載することで、メイン商品・アップサイズ商品ではシェアが取れているが、プレミアム商品では他社にシェアを取られているなど、自社と他社の状況を俯瞰的に把握することが可能です。

ステップ4:競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。

自社商品と他社商品を比較した後、事業方針に応じてどの商品で、どんなポジション戦略を取っていくかを個別に検討し判断していきます。

上記図は、「ヘアスプレー」を例に、競合他社(競争地位:リーダー)に追随している自社(競争地位:チャレンジャー)が検討している戦略の一例です。

競合他社は、メイン商品の市場シェアが1~3位の上位を独占しており、その他、エントリー・アップサイズ・プレミアム商品をそれぞれ展開しています。

チャレンジャーである自社は、アップサイズの一部の製品でシェア4位を取っているが、その他の商品ではシェアが取れていないため、下記の様な戦略を検討しています。

<戦略立案例>

  • エントリー:自社がエントリーとして認識している商品は、果たして新規顧客層にとってエントリーとしてのポジションにあるのだろうか?より小ぶりな商品が必要ではないか?など、容量・価格・量単価においてエントリー商品の役割をどう定義するのか、役割の見直しを検討する。
  • メイン:市場シェア1~3位を独占する競合製品と比較し、自社商品は容量が少ない割に価格が高く、量当たり単価も高くなっている。そこで、価格を下げるか、量単価を下げるなどの価格の見直しを検討する。
  • アップサイズ:一部の製品では市場シェア4位を取れているが、競合他社から追随されている状態。そこで競合の追随に対し、どの商品であれば、容量・価格・量単価で対抗できるか検討する。
  • プレミアム:自社にはプレミアムにあたる高付加価値製品がない。競合に追随すべく、プレミアム商品の開発を検討する。

まとめ

今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP1の戦略立案方法について解説いたしました。

「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」←本記事
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

戦略が固まったら、次は「金額を決める」ステップに移ります。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定『日用消費財業界の最適価格の求め方を徹底解説』にて解説いたします。

プライシングスタジオでは、日用消費財業界の価格決定のコンサルティング支援を行っており、不明点や自社の最適な価格決定を実現したい事業者様は、お気軽にプライシングスタジオまでお問い合わせください。

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日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説

「日用消費財業界の価格戦略とは?」
「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

そこで今回は、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財の価格戦略の概要や実施するまでの流れ、使える分析手法についてまとめました。

この記事は、以下のような方におすすめの記事です。

  • 日用消費財業界の価格の考え⽅や戦略を知りたい 
  • 日用消費財業界の具体的な戦略⽴案から調査・分析⽅法を知りたい

全部で3部構成となっており、第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、日用消費財業界での価格戦略の検討に必要な価格の考え⽅や、実務に活かせる戦略から分析の具体的な流れを習得することができます。

また、 流れに沿って分析を進めていただくと、⾃社の取るべき戦略が見え、価格決定のご参考になると思いますので、ぜひ最後までご一読ください!

<日用消費財業界の価格戦略の記事一覧>

  • 第1部(本記事):日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説
  • 第2部:日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説(5/22掲載予定)
  • 第3部:日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説(5/29掲載予定)

1.日用消費財業界の価格戦略とは

価格戦略の基本

業界問わずすべての商品には必ず価格が設定されています。

日用消費財業界の価格の考え⽅として、「この製品にいくらの価格を設定するのか」を考える際に、「自社商品の市場での⽴ち位置を把握してそれに基づいて価格を決めること」が重要なポイントです。

日用消費財業界の特徴や動向 

日用消費財業界の価格の⼤きな特徴として、コモディティ化が挙げられます。
コモディティ化した市場においては、戦略上「他社とどう差別化していくか」が重要です。

以前は消費者のスタイルとして、「品質は問わずとにかく安さを重視する」という傾向が強くありました。
そのため、企業努力でのコスト削減による低価格化やエブリデイ・ロープライス(EDLP)になどに代表される低価格戦略が優位性となり価格競争が行われてきました。

しかし近年では、これまでの傾向と大きく変化しつつあります。
野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果によると、その大きな傾向の変化が確認できました。

近年の動向としては、高付加価値商品への「プレミアム消費」スタイルが増加しています。
以前は、製品に対してこだわりがない人が多く、その中でも、「安さ重視」が大半でした。しかし、近年では、⾼くても⾃分が気に⼊った付加価値に対して対価を⽀払う「プレミアム消費」の割合がプラス11%向上し、これまでのとにかく安さを求める「安さ納得消費」がマイナス16%と減少しています。

このことから、他社との差別化を図っていくポイントとして「どう安くするか」よりも「高くてもいいからどう付加価値を提供するか」が重要となるのです。

このように消費者の商品を買う際の判断基準が変わっているため、価格を考える上でも企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。

2.価格戦略実行の2ステップ

自社の立ち位置を意識し、差別化するためのより練られた価格戦略は、どのように立案・実行すべきなのでしょうか。

日用消費財業界の価格戦略は下記の2ステップで立案・実行していくことが可能です。

【日用消費財業界の価格戦略】

  • 「STEP1:市場での自社の立ち位置を把握し、戦略を考える」

→市場の中で自社の⽴ち位置を整理し、競争優位性を取っているポジションと⾜りていないポジションを把握し、注⼒すべき商品を明確化する。

  • 「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

→注⼒すべき商品についての必要な価格の調査・分析を⾏い、最適価格を設定する。

それぞれのステップについてわかりやすく解説していきます。

「STEP1:市場での自社の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」

STEP1では、市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えることが目的です。

市場の中で、⾃社の⽴ち位置を把握し戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が役に立ちます。

  • STP分析
  • ロールポジション分析

⬛STP分析

STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。
S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していきます。

⬛ロールポジション分析

ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し分析する手法です。役割ごとの製品のありなしや、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。

また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元に、ロールポジション分析上で、並べて比較することで、競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができるのです。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

STEP2では、STEP1で明らかにした取るべき戦略や方針に基づいて、価格分析を行い適切な価格を見つけます。
価格分析の方法としては2つの手法があります。

  • プライスウォーターフォール分析(PWF分析)
  • PSM分析(価格感応度分析)

プライスウォーターフォール分析(PWF分析)

プライスウォーターフォール分析(PWF分析とは、企業が各取引から得る収益(=販売価格)とそこから種々の金額を差し引いたマージンを一覧化し、視覚的に分類したものです。

プライスウォーターフォール分析(PWF分析)では、メーカーが消費者に商品を届けるまで各取引でどれくらい収益が得られているのか、どれくらいマージンが引かれているのかを見直して、最適な価格を設定していくことが可能です。

PSM分析(価格感応度分析)

PSM分析(価格感応度分析)とは、顧客がある商品に対して、どれくらいの範囲で価格を受け入れるのかという顧客の支払い意欲の支払い意欲を調査する分析手法です。

PSM分析(価格感応度分析)では、商品に対して消費者が抱く支払い意欲を調査し、消費者が受け入れられる範囲の価格から、最も売上が上がりやすい価格や最も顧客数が伸びやすい価格を割り出していくことが可能な方法です。

以上の分析手法の具体的な進め方の手順は、

  • 日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説

第2部(5/22掲載予定)

  • 日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説

→第3部(5/29掲載予定)

にて詳しく解説していきます。

3.メーカーが抱える価格決定のよくある課題

実際に価格戦略の立案・実行を進めていくと、その中で課題にぶつかる時があります。
ここでは、メーカーが価格決定の際によく抱える課題と、それをどのように考慮すべきなのかを解説します。

①⼩売業者によって価格を決められてしまい、⾃由に価格決定ができない。

【回答】商品の価値と値段の根拠をPOSデータをもとに説明することで、⼩売業者に価格戦略の理解を促すことができ、価格変更の交渉材料にすることができます。

前提として、メーカーだけが儲かるプランではなく、お客様である⼩売店の成⻑をともに⽬指し、戦略の実⾏が将来的に小売店の売上向上や顧客数の向上につながり、また消費者のためにサービス開発への投資を行い、小売店・消費者・自社にとって三方良しとなる方針をめざしたプランである必要があります。

②営業担当から⼩売業者に対して、新しい値段を提⽰する際に納得いただける説明がしづらい。

【回答】正しい分析に基づいた価格を設定し、その背景と根拠を事業戦略上の意図も含めて説明することで、自社の営業担当も納得して考えられやすく、⼩売業者に対しても説明責任を果たすことが可能です。

4.まとめ

今回は日用消費財業界の価格戦略について、業界の特徴や動向・戦略の立案から実行方法まで解説しました。

プライシングスタジオでは、日用消費財業界の価格決定のコンサルティング支援を行っており、不明点や自社の最適な価格決定を実現したい事業者様は、お気軽にプライシングスタジオまでお問い合わせください。

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その他・価格業界情報

PSMの分析の交点の取り扱い方について解説

(この記事は、PSMの分析の交点の取り扱い方について解説の解説記事です)

【質問】
PSM分析を行いました。最高価格や最適価格など、どれを選べば良いのでしょうか。基準など様々だと思うので具体的な事例などがあれば教えて欲しいです。
【回答】
4つの交点の中から価格を選ぶというプロセスは間違っています。ターゲット層やビジネスの目的を踏まえた上で価格を決定しましょう。

PSM分析を用いた価格決定のやり方

PSM分析では、まずアンケートを用いて4つの質問を行います。以下の4つの価格を回答者に答えてもらいましょう。
・高すぎて検討に乗らない価格
・高く感じる価格
・安く感じる価格
・安すぎて品質が低いと感じる価格

注目するべき価格

この4つの中で特に大切なのが「高すぎて検討に乗らない価格」と「安すぎて品質が低いと感じる価格」の2つです。前者よりも高い価格で売ってしまえば、高すぎてお客さんに買ってもらえません。同様に、後者よりも安い価格で売ってしまえば品質に不安を持たれてお客さんに買ってもらえません。これらのことから逆に、この2つの価格の間の金額で売ればお客さんは買ってくれるだろうと考えられます。PSM分析の結果を見るときは、この仮定を置くことが大切です。

数量(客数)と売上の推計

先ほど挙げた2つの価格に注目することで、それぞれの価格にした場合どのくらいのお客さんが買ってくれるか推測できます(数量の推計)。売上は「単価×数量」で求まるので、この方法で推計した数量を用いることで売上の推計も行えます。
このとき注意が必要なのが、お客さんの数が最大になる価格と売上が最大になる価格は一般的に異なるということです。事業戦略を踏まえてどちらを優先するべきか考えましょう。その上で価格決定を行う必要があります。

PSM分析の落とし穴

アンケート回答者の結果すべてを用いて数量や売上の数量を推計してはいけません。セグメント分けをした後で、推計を行いましょう。

あるサービスを同じ価格で売っても、購入してくれるペルソナと購入してくれないペルソナが発生します。購入してくれないペルソナが自分達のターゲットであるならば、その価格設定は間違えていますし、ターゲットでないのならば問題ない場合もあります。つまり売りたいセグメントを決めて、そのセグメントごとに購買推計を行うことが重要です
セグメント分けは複数条件の掛け合わせによって行います。例えば、toCであれば収入・性別・居住地・同居人の人数など。toBの事業であれば、その会社の従業員規模・業界・部門・経済インパクトなどです。これらを掛け合わせて「男性×30代×東京在住」のようにペルソナを設定します。
PSM分析は1度行うだけではありません。掛け合わせる条件を変えてみるなど、何回も行ってみる必要があります。それを行うことで最終的に、ターゲットとするペルソナに買ってもらえ、顧客数の確保ができる。そして、目標とする売上も達成できる。といった価格を見つけることができるはずです。

まとめ

今回はPSM分析における交点の扱い方について解説しました。4つの交点を見て価格を決めるというのはあまりレベルの高いプライシングではありません。今回説明した方法を用いることでプライシングが上手くいくので、是非チャレンジしてみてください。

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PSM分析について解説します。(Pricing Sensitivity Meter)

(この記事は、PSM分析について解説します。(Pricing Sensitivity Meter)の解説記事です)

今回のテーマは「PSM分析」です。以前竹内社長のYouTubeのチャンネルでも触れましたが、これはプライシングのプロである私たちが最も信頼している分析の手法です。この記事ではPSM分析の用い方、正しい使い方について細かく解説していきます。

【この記事の結論】
・PSM分析により、顧客が支払える金額を知ることができる!
・アンケートでは「いくらなら買ってくれますか?」とは質問しない!
・セグメント毎にPSM分析を行うことが成功の秘訣!

PSM分析とは?

PSM分析は「お客さんがいくらで買ってくれるか」を知るための価格分析方法です!

PSMとはPricing  Sensitivity  Meter の略であり、これらの頭文字をとってPSM分析というネーミングとなっています。オランダの経済学者 Van  Westendorp によって開発されたモデルであることからVan  Westendorp モデルと呼ばれることもあります。PSMはお客さんの支払い意欲を特定するために開発されたモデルです。値段を下げようと考える時や値上げを模索する際、PSM分析を用いることによって「お客さんがいくらで買ってくれるか」を知ることができます。

PSM分析の手順

実際にPSM分析を行う際の手順について解説します。アンケート調査を行いそれをグラフで表現するというのが大まかな流れです。それぞれの手順について詳しく説明していきます。

1.アンケート調査

アンケートを行う際のポイントは「いくらなら買ってくれますか?」と聞かないことです!

お客さんには安く買いたい心理があります。この心理のせいで「いくらなら買ってくれますか?」と直接的に聞くと、実際に買ってくれる価格よりも安い価格をお客さんは答えてしまいます。そのため、この質問で得られた結果は精度が悪いです。
これを避けるためにPSM分析では間接的にいくらで買ってくれるかを聞き出します。
具体的には以下の4つの項目を質問に混ぜ込むことでバイアスの無い答えを聞き出すことができます。

1.高いと感じ始める金額
2.これ以上高いと買いたくなくなる金額
3.これ以上安いと品質や効果に不安を感じ始める金額
4.やすく感じ始める金額

2.グラフの作成・読み取り

アンケートを取り終えたら集計をして、次のようなグラフを作成します。図を見ると交点が4つあることがわかります。4つの中で左にあるのが下限価格、上にあるのが妥当価格、下にあるのが最適価格、右にあるのが上限価格です。

PSM分析では、グラフの交点に着目してはいけません!交点をそのまま価格に反映するのは間違いです。

実はPSM分析のグラフから得られた交点には根拠がなく、「交点に全く意味がない」という弱点があります。そのため、グラフ上の最適価格をそのまま価格として選べば良い訳ではありません。同じサービスを購入している人の中でも新規の顧客やリピーター、所得の大小など様々な属性の人が存在します。異なる属性を持つ人々がアンケートに回答しているため、すべてのアンケート結果から得られた最適価格は回答者全員の平均的な答えであり、それが売り手の設定したターゲットに刺さるとは限りません。従ってPSM分析の交点をそのまま価格にすると精度が低下してしまいます。

3.価格決定

セグメント毎に分析を行い、ターゲット層にあった価格を決めることが大切です!

先ほど弱点について触れましたが、PSM分析をセグメントごとに行うことは非常に効果的です。お客さんには様々な属性の人がいます。サービスによってお客さんの支払い意欲が変わる要素や条件が存在しており、その条件ごとにお客さんをセグメント分けし、そのセグメントごとにPSM分析を行なっていきます。それぞれのセグメントについて分析すると、お金持ちの人はいくらくらいまで払ってくれる、そうでない人はこれくらいまで払ってくれるというように分析することができます。
セグメント毎の支払い意欲を見た後は、誰に合わせて価格を決めるのか について考えます。例えば、今後はお金持ちの層を中心に売っていきたいという経営戦略を取るのであれば、そのお客さんのセグメントに合わせて価格を決めることになります。

まとめ

今回はPSM分析について解説しました。

【この記事の結論】
・PSM分析により、顧客の支払える金額を知ることができる!
・アンケートでは「いくらなら買ってくれますか?」とは質問しない!
・セグメント毎にPSM分析を行うことが成功の秘訣!


これら3つのポイントを抑えることが重要です。特にセグメント毎にPSM分析を行うことで分析の精度が向上します。正しくPSM分析をすることができれば、強力な武器となりますので皆さんもぜひやってみてください。

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価格が「1,480円」のように中途半端になる理由

(この記事は、なぜ商品の価格は「98円」「1,480円」など中途半端な価格で売られているのか?の解説記事です)

スーパーやコンビニだけでなく、いろいろなお店で1,480円や98円といったキリの悪い数字を見かけると思います。今回は、なぜこのようなキリの悪い数字で販売されているのかについて解説します。

【この記事の結論】
・キリの悪い数字で売られているのには科学的な根拠がある!
・超えると売上げが極端に変わってしまうポイントを価格の閾値と言う!
・閾値を超えないようにした結果、キリの悪い数字で売られている!

なぜキリの悪い数字で売られているのか

キリの悪い数字で販売するのには科学的な根拠があります!

なぜキリの悪い数字で売られているのかについては諸説あり、実際どれが本当なのかはわかっていません。都市伝説的なものもありますが科学的な根拠に基づいたものもあります。今回は科学的な根拠に基づいて1,480円や98円といったキリの悪い数字で販売する理由について解説していきます。

閾値という概念

それを超えると売上げに極端に差を及ぼすポイント」のことを価格の閾値と言います!

例えば、2,380円から2,480円に100円の値上げをするだけで10%以上お客さんが買ってくれなくなることがあります。このとき2,380円から2,480円の間に閾値が存在しているといえます。ですが、このような極端な売上の変化は100円ごとに起こるわけではありません。「300円値上げをしても全く影響がないのにそこからさらに100円上げるとお客さんが激減する。そこからまた300〜500円上げても大丈夫なのに、さらにその100円上に行くとまた客が激減する。」このように、あるポイントで減った後にあるポイントでまたガクンと減ることがあります。閾値は複数存在し、決まった間隔ごとに現れるとは限りません。
なので、今まで100円単位で値上げをして成功してきたからといってそのまま安直に値上げを繰り返していくと急にお客さんが減ってしまうことがあります。それを避けるためにも閾値の把握は重要です。閾値を分かっていると価格を決めやすくなりますし、逆に分かっていないと大きな事業リスクに成りかねません。

閾値になりやすい価格

閾値は100円500円1,000円などキリのいい価格になりやすいです。それを超えないように販売価格はキリが悪くなります!

一般的に100円500円1,000円などキリのいい価格の近くが閾値になりやすいと言われています。そのため、閾値を考えて意思決定を行う人は価格を1,480円、98円といったキリの悪い数字にします。他の人がそうしているのを見てなんとなく1,480円で売っている人もいるかもしれませんが、実はそういう根拠があってキリの悪い数字が価格として選ばれやすくなっています。

閾値を知る方法

閾値を特定するための方法としてPSM分析があります!

閾値を超えない範囲で徐々に値上げを繰り返していくと、顧客離れを防ぎつつ収益を最大化することができます。閾値を特定するための方法の1つとしてPSM分析があります。詳しくは別の記事で解説をしているので、そちらの記事もご覧ください。

まとめ

本日はなぜ1,480円や98円といったキリの悪い数字で売られているのかについて解説してきました。閾値をコントロールできるようになると経営戦略の幅は、グンと広がっていくので閾値を頑張って特定してみてください!

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精度の高い価格調査分析の設計方法

(この記事は、【アンケートの作り方】アンケート調査で精度の高い設計方法について【PSM分析】の解説記事です)

【質問】
PSM分析などのアンケート調査の信憑性が不安です。アンケートで正しい価格を決めることはできるのでしょうか?

【回答】
アンケートでも高い精度の情報を得ることができます。信憑性を向上させるためには、アンケートの取り方を改善しましょう。

その理由について、例を用いながら説明していきます!

アンケートの信憑性について

アンケートで正しい答えを得ることができないのはアンケートそのものが悪いのではなく、アンケートの取り方が悪い可能性があります

私たちは価格分析の方法としてPSM分析を推奨していますが、「アンケートでは回答者が本当のことを答えてくれないのでは?」と懐疑的な方もいるのではないでしょうか。「回答者が本当のことを答えてくれない」というのがアンケートの弱点だと私も思っています。ですが、これはアンケートの取り方を工夫することでカバーできるものであり、アンケートによる調査の精度は高いと思っています。

アンケートの精度を上げるアンケートの取り方

アンケートをとる際には「具体的な要件設定」、「どの課金の単位で金額を聞くのか」、「回答者の所属する属性」の3つを明確にすることで精度が向上します。

アンケートの精度を上げる方法について説明します。例として、まずは寿司の価格のPSM分析を紹介します。

アンケート調査の工夫~お寿司屋さんの例~

寿司と聞いて思い浮かべるお店は人によって違います。聞き方や顧客の属性に注意しましょう。

「寿司を食べにいく時、安いと感じる金額はいくらですか?」という質問に対し、皆さんはどのように答えますか?100円など回転寿司の一皿あたりの金額を考えた方もいれば、1万円、2万円など高級寿司のコース金額を想像した方もいると思います。このように「寿司の価格はいくらなら安いと思いますか」と尋ねると、結果がぶれてしまう可能性があります。
また、寿司に対して1万円、2万円払える人と、1,000円、2,000円しか払うことができない人はそもそも属性が違います。これが性別によるものなのか、年収によるものであるのか、居住地によるものなのかはサービスによって異なりますが、属性によって支払える金額が異なるため、収集したデータをそのまま分析すると失敗の原因となります。

アンケート調査の工夫~Slackの例~

アンケートを取る際には具体的な要件設定や、どの課金の単位で金額を聞くのかという部分を明確に定める必要があります。1アカウントなのか会社単位なのか、具体的な要件設定を行ってください。

「Slackがいくらであれば適正な価格であると思いますか?」と尋ねた場合、1アカウント800円と認識している個人と100アカウントで8万円と認識している企業では回答が異なる恐れがあります。具体的な要件設定をしなかったり、どの課金の単位で金額を聞くのか明確に定めなかったりするとアンケート結果がブレてしまいます。

アンケート結果を扱う際の注意

アンケートの回答結果を分析する際は、外れ値などに注意しましょう。


要件や聞く単位を明確にし、聞く対象も絞り込んだとしても、どうしてもアンケートに適当に回答する人は発生してしまいます。これはアンケートの回答結果を見て整理しましょう。明らかにおかしい回答を弾き、綺麗なデータのみでPSM分析を行うと、それなりの精度で結果が出てきます。

まとめ

アンケートをとる際には「具体的な要件設定」、「どの課金の単位で金額を聞くのか」、「回答者の所属する属性」の3つを明確にすることが大切です。これらを適切に実行すると、アンケートを基にしたPSM分析でも精度の高い結果が得られます。

重要なのは、アンケートを正しく取ることです。アンケートに懐疑的になるのではなく、アンケートの取り方をまずは考えることで、いい価格を見つけることができ るのではないでしょうか。

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価格調査方法まとめ|適切な方法を紹介

あなたは価格調査に最適な方法をご存知でしょうか。この記事では、様々な価格調査方法を紹介します。

価格調査に適切な方法

結論を先に言ってしまうと価格調査方法で最も効果的な方法はアンケートを使った方法です。

価格調査でアンケートを使用することに懐疑的な方もいるかもしれません。

しかし、業界内ではアンケートが価格調査の最も有力な分析手法として知られています。実際に、BCGやマッキンゼーなどのコンサル企業やディズニーなどプライスハックが調査する限り、国内外問わずプライシング戦略で成功している企業で調査時にアンケートを使用していないところは聞いたことがありません。

では実際、アンケートをどのようにおこなって、どうやって分析すればいいのでしょうか。次はアンケートを使った様々な分析手法を5種類紹介します。

PSM分析

価格調査の分析でプライスハックが最適だと思う分析はPSM分析です。PSM分析以前は単純質問と言われる方法が一般的な調査方法でした。

単純質問は、「この製品やサービスが〇〇円だとしたら、どれくらい買いたいと思いますか」や「この製品やサービスがいくらなら買いたいと思いますか」と言った質問を回答者にします。

そして、そのアンケート結果に基づいて企業は製品やサービスの価格決定をするというものです。

しかし、次第にアンケート回答者である消費者が価格に敏感になり製品やサービスが安くなるかもしれないと考えたり、自分が思っている価格よりも低く回答したり、建前で価格を高く答えることが多くなりました。

これにより価格に対する直接的な質問をしていく単純質問では正確な分析をすることが困難になってしまいました。こういった理由によりPSM分析という新たな手法が取り入れられるようになっていきました。

PSM分析とは

PSM分析とはバリューベースの価格設定を実現するために、顧客の支払意欲を調査するため使われる手法です。PSM分析を応用することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受けいられるかを把握でき、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算できます。

PSM分析の方法・手順

一般的なPSM分析の手順は、次の2段階のステップでおこなわれます。

まずは、アンケート調査を行います。PSM分析では、アンケートで4つの質問をすることで、実際に顧客が製品・サービスに対して、どれほどの支払意欲を持っているのかを調べます。

次に、アンケートの結果を集計し、以下のようにグラフに回答を累積してプロットします

PSM分析説明1

グラフはX軸が価格を、Y軸が当てはまる顧客の割合を表します。
価格が上がると、「安すぎて品質が低い」「安く感じる」と思う顧客が減り、「高すぎて検討に乗らない」「高く感じる」と思う顧客が増えます。

このグラフから価格設定の参考となる4つの交点がわかります。

・最適価格
「高すぎて買えないと感じ始める価格」と「安すぎて品質や効果に不安を感じ始める価格」の交点で顧客が望む理想的な価格

・妥協価格
「安く感じる」と「高く感じる」の交点で消費者に「このくらいの価格なら仕方ない」と感じてもらえる価格

・上限価格
「安く感じる」と「高すぎて買えないと感じ始める価格」の交点でこれ以上高くなると、消費者に購入されなくなるとみられる価格

・下限価格
「高く感じる」と「安すぎて品質や効果に不安を感じ始める価格」の交点でこれ以上安くなると。消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる
」と感じる価格

交点の価格を参考にすることで、価格設定に目安をつけることができます。

PSM分析の不足点

PSM分析の交点はわかりやすい反面、正確性にかけるという欠点があります。実際には上限価格以上でも購入が検討に乗る人はいますし、同様に下限価格以下でも品質が悪いと思わない人が存在します。

最適価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は安すぎて品質が低いと思う人と高すぎて検討に乗らないと思う人が最小となる価格で、必ずしも交点と一致しません。

交点の取り扱いがそのまま売り上げの最大化につながるわけではないので、売り上げの最大を目指すフェーズと顧客数拡大を目指すフェーズによってPSM分析の見方を変えなければいけません。

また、売り上げの最大化や顧客数を最大化することどちらの見方においても製品やサービスのターゲットセグメンテーションをすることが必要になります。ターゲットセグメンテーションをするときは製品やサービスに関するどの変数がターゲットの支払い意欲を変えているのかを調査し、適切にターゲットを切り分けなければいけません。

この辺りの作業は、専門的な知識やノウハウが必要となってくるため、正確に調査し実行するには外注することも選択肢になり得ます。

PSM分析に関する詳しい記事はこちら。

コンジョイント分析

コンジョイント分析の方法とは

コンジョイント分析はB2Cマーケティングでよく使われ、消費者が製品・サービスを選ぶ際の、購買主要因(KBF:Key Buying Factor)を数値化する分析手法です。

主にここで数値化されるのは、商品・サービスの構成要素(価格・機能・デザインなど)です。

コンジョイント分析の方法

分析方法としては、まず商品の属性と水準を組み合わせた複雑な条件のカードで好きな方を回答者に複数回選んでいただきます。そしてその結果を統計解析することでKBFを数値化します。

この分析によって、顧客が特定の製品構成にどのくらい支払うのかを定量化し、実際の販売数量の予測に変換することかできます。これは価格決定に有効な示唆を与えてくれます。また、対象のセグメントによって商品設計の際に優先すべき属性と水準も決定しやすくなります。

コレスポンデンス分析

コレスポンデンス分析とは

コレスポンデンス分析は、顧客の心の中の自社と競合ブランドの位置関係を知り、イメージの強みと欠けている要素を分析する手法です。散布図として結果を出すため、項目が多い時や一目で見たい時に用いられることが多いです。

コレスポンデンス分析の方法

分析方法としては、まず表側、表頭を用いてアンケートを行い、クロス集計をします。そしてその結果を用いて表側の要素と表頭の要素感の関係性をそれらの相関関係が最大になるように低次元空間のマップ上に散布図としてプロットして多変量解析を行います。その際に散布図の縦軸、横軸の意味を分析者が考える必要があります。

これによって企業のブランドイメージのポジショニングを明確化できます。

ポケットプライス分析

ポケットプライス分析とは

ポケットプライスは、本当の意味で企業がポケットに入れている価格と、内部コストまでも計算して本当にその取引からマージンが稼げているのかどうか、実態把握する分析手法です。

ポケットプライス分析の方法

分析方法としては、メーカーが商品をチャネルの多段階に渡って流通させている場合、まずそれぞれのステップで発生するリベート*やアローアンス**を商品ごと、顧客ごと、注文ごとに分析して実態を把握します。その後に不適切なプライシングをあぶり出してその発生理由を分析し、それを食い止めるための対策を講じます。

*リベート:メーカーや卸売業者などが商品の売上高や取引高など一定の条件をクリアした流通業者に対して支払う報酬

**アローアンス:販売店の販促活動を援護するために奨励金的な活動の総称

この分析によって収益改善と収益獲得を目標として、考えて売る仕組みと癖を営業に組み込むことができるようになります。

価格弾力性分析

価格弾力性の分析とは

価格弾力性分析は、価格の変化に対して需要量が変化する程度を経済的に測定した需要の価格弾力性(Price elasticity of demand、PED)を求める分析手法です。

価格弾力性とは、価格が変化した際に、どのくらい需要が変化するかを測定し、数値化したものです。

価格弾力性の分析方法

分析方法は2つあります。

1つ目は、アンケート調査やコンジョイント分析で価格弾力性を推察する方法です。

2つ目は、市場実験による方法です。メーカーであれば実際の店舗を数店実験的に経営することがあり、アンテナショップを経営している企業は数多くあります。いくつかのメーカーでは繋がりの強いチェーン店舗で価格変更による弾力性のテストや販売促進の実験させてもらい、小売りのFSPのデータを購入してリアルタイムでPDCAサイクルを回しています。また、ネットで実験的に顧客セグメント毎に異なる割引率を提示して反応を見ることも可能です。

需要の価格弾力性を知ることで、価格設定時や値下げ・割引戦略をとる際に活用できます。

まとめ

ここまで価格調査に関するいろいろな分析手法を紹介してきました。

しかし、分析者がアンケートをしてその結果から何を求めたいかによって使いたい分析は変わります。

目的によって分析を使い分けるのは難しさがありますので、価格調査に関してお悩みの事業者様は一度、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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価格の心理テクニックまとめ(威光価格、アンカー効果、閾値、プロスペクト理論など)

初めて買う商品を選ぶ時に、無意識のうちに真ん中の価格のものを選んだ経験はないでしょうか?

また、198円や980円などの価格はよく存在しますが、わざとキリの悪い数字にするのはなぜでしょうか。

実は価格と心理学は密接に関係しています。そのため価格戦略を立てる際に、様々な心理効果を知っておくことはとても重要だと言えます。この記事では、価格に関係する心理効果やプライシングのノウハウについて、実際の事例を交えながら解説します。

価格は品質指標になる

価格は、顧客が商品を選ぶ際、品質指標になります。一般的に、価格と需要量は反比例し、価格が高くなるにつれ需要は減っていくと考えられています。

しかし家具や消費財などでまだ購入したことがない商品や、ほとんど購入しない商品を選ぶ際、この法則が通用しないことが多いのです。それは経験則により、価格は高いと品質が良いと考え、逆に低価格であることは品質への懸念を抱くように、価格が消費者にとって商品の品質を評価する基準になるからです。この場合では価格を上げると単位あたりの売上高も増える可能性があるのです。

プラシーボ効果とは

プラシーボ効果とは本来、商品の品質がそこまで高くないが、価格の高さによって相応の品質があるように錯覚する効果のことです。

ある研究では、同じパワードリンクで価格が値引きされているものと正規価格のものを飲んだ際、正規価格のものの方が効果が現れたとされています。このように価格の品質指標としての効果が時に認知レベルを超えることがあります。

威光効果とは

威光効果とは「一つの領域でのイメージが全体のイメージに影響を及ぼす現象」のことを言います。具体的にいうと、高価格というイメージが、その商品や企業の全体の品質やステータスとしての評価に良い影響を与えるということです。

例えばフェラーリのようなハイブランド商品は、価格が高くなるとむしろ需要上がりますが、その要因は価格が品質指標になっていること以外にもあります。

それは価格がステータスや社会的名声のシグナルになっているということです。高級ブランドでは商品を所有・サービスを享受すること自体がステータスとなります。

このように価格は買い手に付加的レベルの社会的心理効用を与えるため、価格戦略に役立てることができます。

威光価格

威光価格とは、威光効果を活用した際に設定される価格のことです。顧客に対して高品質な商品・サービスであることを示すために、あえて高く設定するという戦略で用いられます。

しかしブランド力が高くない状態で価格を高く設定するのは、顧客の支払い意欲が高くないため危険です。値上げは顧客の支払い意欲が上がってから、それに伴って行うというやり方が良いでしょう。

アンカー効果とは

価格のアンカー効果とは顧客が商品の品質について評価をする時に、アンカーという最初に目にした価格が購買判断に影響する心理効果のことです。

船の錨(アンカー)が語源となっており、最初に錨を海底に下ろして、その範囲内を動く船から名付けられました。

顧客は目の前にある情報が、正しいものか確かめることができない際にアンカー効果は働きます。アンカー効果を利用している例として次のようなものがあります。

松竹梅効果

松竹梅効果とは、松竹梅のように複数の価格帯が存在する時、真ん中の価格帯が一番売れるという現象のことです。

買い手は商品を選ぶ時できるだけ最善の意思決定をしようとするため、中間の価格帯である商品を選ぶことで、品質が劣るものを購入するリスクや、多く払い過ぎてしまうリスクを同時に軽減しようします。

この時、顧客にとって真ん中の価格帯は魅力的に見えるため、複数の適切な価格帯を揃えてアンカーを設置することで、意図的に一定の価格に誘導することができます。

誰も買わないのに収益に貢献する商品

たとえ誰も買わなかったとしてもアンカーとして品揃えに加えることで、収益に貢献する商品が存在します。

それは高額商品です。品揃えに加えることでアンカーとして機能させ、顧客の支払意欲を引き上げることができます。

例えばラグジュアリー店で、あらかじめ予算が決まっている顧客に対して、それをはるかに超える金額の商品を最初に提示すると、予算以上の商品を購入してもらえる可能性が高くなるのです。

アンカー効果を利用した価格戦略

アンカー効果を生かした価格戦略として、顧客に商品の情報や知識がなかったり、その価格帯に関する情報を持っていない場合に、アンカーを設置して、一定の価格に誘導したり、一回あたりの支払意欲を上げる手法が有効です。

しかし顧客には、「商品やサービスを購入したいと思う価格のレンジ」が存在するため、

アンカーを設置する前に、その価格レンジを理解しておく必要があります。

そして、その際のアプローチとして使われるのが、PSM分析です。PSM分析について詳しくはこちらをご覧ください。

また、アンカー効果について詳しい記事はこちらをご覧ください。

閾値とは

価格の閾値とは、それを超えると常に売上に顕著な変化が生じる境界線のことです。

通常100円、500円、1,000円、10,000円というキリのいい価格ポイントの近くで起こる傾向になります。

たった数円の価格改定でも、閾値を超えると大幅に売上が変化するため、売り手にとって、価格の閾値を知ることはとても重要だと言えます。

参考:端数価格とは

端数価格とは閾値を利用した価格戦略の一つで、198円や980円のように端数をつけて消費者に安さを印象づける価格のことを指します。

日本では「8」を端数とすることが多いですが、欧米では1.99ドルや199ドルのように「9」を端数とすることが多いです。スーパーマーケットなどの小売業で多く見られ、比較的低価格の商品に設定されます。

閾値を利用した価格戦略

閾値は値上げ時、値下げ時の両方で閾値を理解しておくことは重要です。

まず売り手が値下げを行う際は、閾値を超えるまで価格を下げないと効果が出にくいです。そのため、端数価格のように閾値を超えるまで価格を下げる手法が有効だと言えます。

逆に売り手が値上げをする場合は、価格が閾値を超えない必要があります。価格の閾値を超えてしまうと、売り上げの急落を招く恐れがあるため、その一歩手前で止める手法が有効だと言えます。特に、売り切り型ビジネスと違って、サブスクリプションビジネスの場合、一度顧客が離れた場合、売上の回復には非常に時間がかかります。閾値を超えたことで離脱した顧客は、価格を戻しても戻ってこない場合が多いためです。

サブスクリプションビジネスで顧客が感じる価値を上げながら、閾値直前まで値上げをしていき、増収する手法で成功を収めているのがNetflixです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

また閾値、端数価格について詳しい記事はこちらをご覧ください。

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論とは、利益や損失に関わる意思決定のメカニズムをモデル化した理論のことです。

この理論では効用という言葉がよく使われますがこれは「消費者が財やサービスを消費することによって得る主観的な満足の度合い」のことを言います。

この理論で大切なことは主に二つです。

1つ目は利得を感じると効用は確実に増えるが、その割合は減っていくということです。これは最初に1万円を得たときの高揚感は、さらに1万円を得たときの高揚感よりも大きくなることを指します。また、逆に損失の場合も同じことが言えます。

2つ目は利得と損失のインパクトが違うということです。1万円をもらった、直後に返さないといけなくなる場面があったとすると、金額的には損も得もしていないが、精神面で喪失感のようなものが残るというものです。

このように同じ大きさの利得と損失を感じたとしても、私たちが損失の際の効用の方が、利得の時の効用よりも大きくなるのです。

現金かクレジットカードか

顧客は現金で支払うよりクレジットカードで支払うことを好む傾向にあります。

その理由は、カード払いは現金払いと比べて、手元からお金が離れることによって生まれる負の効用を感じにくいからです。

カード払いの場合、署名やパスワードを打ち込むだけで決済が完了します。しかし現金払いの場合、財布の中のお金をレジの担当者に渡して、レジに収納される様子を見て初めて決済が完了します。つまり、カード払いは現金払いより、支払いをしているという「感覚」が薄いのです。

そのため同じ金額でも、現金払いの方がお金を支払うことによって生じる負の効用は大きく、顧客はクレジットカードで支払いをしたくなるのです。

プロスペクト理論を生かした価格戦略

プロスペクト理論を生かした価格戦略としてキャッシュバックやムーンプライスのように価格設定や見せ方によって顧客に新たな正の効用を生み出す仕組みを使用することが有効です。

キャッシュバック

キャッシュバックとは商品を購入してもらった後に一定の額を現金やギフトカード、ポイントなどで返すというものです。例えばPanasonicでは、2021年4月23日(金)からテレビやブルーレイレコーダー購入で最大9万円をキャッシュバックするキャンペーンを行っています。

何故最初から値引きをしないで、わざわざキャッシュバックをするのでしょうか。

それは本来ならお金を支払って生まれた負の効用が、商品を所持・消費することで生まれる正の効用によって帳尻が合うという仕組みになっています。

しかしキャッシュバックという仕組みを使うと、この一連のプロセスが終わった後にお金を少し返すので、追加で正の効用が生まれることになります。そのため、顧客の満足度はあらかじめ値引きをしている時より上がるのです。

ムーンプライス

ムーンプライスとは表示価格でも、誰も決して払うことがない価格のことです。180万円で売ることが決まっていても、200万円という価格を見せてから10%引きで180万円にするような手法のことです。

実際、ZOZOTOWNのサイトでは割引を行う時、値引きされた後の価格だけでなく、元々の価格と割引額を表示しています。

これは値引きされるということで普通の決済に加えて正の効用が生じるため、顧客は得をした気分になるというものです。しかしこの手法は大袈裟な価格を設定しすぎると、表示価格での信憑性を失うので注意が必要です。

キャッシュバックや、ムーンプライスに加えてキャッシュレスなどを導入すると、支払い時に負の効用が生まれにくいため購買意欲が上がるため有効だと言えます。

このプロスペクト理論は、多様化する顧客の購買意欲を上げるにはとても有効的な手段なため理解して置くことは大切です。

まとめ

この記事では行動経済学や神経経済学を元に、価格の心理テクニックを紹介しました。心理テクニックは鵜呑みにするのは危険ですが、知っておくことで価格戦略に大きく役立てることができます。

皆様の事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。

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価格の心理テクニック④(プロスペクト理論)

キャッシュバックという言葉を目にしたことはないでしょうか。商品を購入した後にいくらかのキャッシュバックを受け取れるという仕組みがあります。

あなたは支払いの場面で、ついついクレジットカードを使ってしまう経験はありませんか?

実際、買い手は現金払いより、クレジットカード払いを好むようです。それは実は「プロスペクト理論」という考え方によって説明できるのです。

この理論はマーケティング領域に様々な方法で利用されており、価格戦略を立てる際に、大きく役立てることができます。

この記事では、この理論を活用したプライシングのノウハウについて、実際の事例を交えながら解説します。

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論とは、利益や損失に関わる意思決定のメカニズムをモデル化したもので、KahnemanとTverskyによって1979年に提唱されました。

プロスペクト(prospect)は「予想」「見通し」という意味を持ちます。その名前の通り「不確実性を伴う状況において、ある事象が生じる確率やそこから得られる損得が分かっている場合にどのような意思決定を行うか」を表しています。

この理論はよくグラフにて表されます。次のグラフをご覧ください。

横軸は損得の度合い、縦軸は効用の度合いです。効用とは「人が財を消費することから得られる満足度」のことです。

このように参照点という真ん中の点を境に損失局面と利得局面とにわけられます。

このグラフからわかることは主に2つあります。

1つ目に利得を感じると効用は確実に増えますが、その割合は減っていくということです。これは最初に1万円を得たときの効用は、さらに1万円を得たときの効用よりも大きくなるということです。また、これは逆に損失の場合も言えます。

重要なのは2つ目です。それは利得と損失のインパクトが違うということです。グラフを見ると損失局面の曲線の方が、利得局面の曲線より角度が急になっています。

これは同じ大きさの利得と損失を感じたとしても、私たちが損失の際の効用の方が、利得の時の効用よりも大きくなるということです。

例えば、宝くじを購入したとします。インターネットで当選番号を確認したところ自分の番号があり、三億円が当たりました。しかし、その一時間後に電話がかかってきて「すいません。今回の抽選は無効となり、あなたはハズレとなりました」と告げられたとします。

すると「当選者」になったはずが突然奈落の底に突き落とされたように感じるはずです。損得だけを考えるとプラスマイナス0なのにも関わらず、このやり取りを終えた後では大きく損失による痛みを感じてしまうはずです。

この事例のように、等しい量の利益と損失があった場合、損失によって感じる痛みの方が利益によって感じる幸福より大きいのです。そのため、人間はあらゆる場面で、損失を回避する傾向にあります。

プロスペクト理論と価格の関係性

ここまでプロスペクト理論の概要についてお話ししたしましたが、これは価格設定と大きく関係があります。

それは、お金を払うという行為はプロスペクト理論の「損失」にあたり、商品やサービスを購入・利用することは「利得」を意味するからです。

故に価格設定をする際に、プロスペクト理論を知っていて損はないのです。次の項目では日常に起こる様々な現象をプロスペクト理論によって説明します。

事例紹介

無料か有料か

仮にあなたがサッカー日本代表戦のチケットを手に入れたとします。しかし当日、あいにくの雨天になりました。

その際、その試合を観に行く確率は、チケットをプレゼントされた時より、自腹で購入したときの時の方が圧倒的に高くなります。すでに自分の財布で支払ったならば元を取ろうという思いは遥かに強くなるのです。

現金かクレジットカードか

顧客は現金で支払うよりクレジットカードで支払うことを好む傾向にあります。

その理由は、カード払いは現金払いと比べて、手元からお金が離れることによって生まれる負の効用を感じにくいからです。

カード払いの場合、署名やパスワードを打ち込むだけで決済が完了します。しかし現金払いの場合、財布の中のお金をレジの担当者に渡して、レジに収納される様子を見て初めて決済が完了します。つまり、カード払いは現金払いより、支払いをしているという「感覚」が薄いのです。

そのため同じ金額でも、現金払いの方がお金を支払うことによって生じる負の効用は大きく、顧客はクレジットカードで支払いをしたくなるのです。

キャッシュバック

キャッシュバックとは商品を購入してもらった後に一定の額を現金やギフトカード、ポイントなどで返すというものです。例えばPanasonicでは、2021年4月23日(金)からテレビやブルーレイレコーダー購入で最大9万円をキャッシュバックするキャンペーンを行っています。

何故最初から値引きをしないで、わざわざキャッシュバックをするのでしょうか。

それは本来ならお金を支払って生まれた負の効用が、商品を所持・消費することで生まれる正の効用によって帳尻が合うという仕組みになっています。

しかしキャッシュバックという仕組みを使うと、この一連のプロセスが終わった後にお金を少し返すので、追加で正の効用が生まれることになります。そのため、顧客の満足度はあらかじめ値引きをしている時より上がるのです。

ムーンプライス

ムーンプライスとは表示価格でも、誰も決して払うことがない価格のことです。180万円で売ることが決まっていても、200万円という価格を見せてから10%引きで180万円にするような手法のことです。

実際、ZOZOTOWNのサイトでは割引を行う時、値引きされた後の価格だけでなく、元々の価格と割引額を表示しています。

これは値引きされるということで普通の決済に加えて正の効用が生じるため、顧客は得をした気分になるというものです。しかしこの手法は大袈裟な価格を設定しすぎると、表示価格での信憑性を失うので注意が必要です。

まとめ

今回の記事ではプロスペクト理論という顧客の意思決定のメカニズムについて解説しました。プロスペクト理論はマーケティング領域に様々な方法で利用されている為、価格戦略を立てる際に、この原理を知っておくことは大切です。

プライシング・価格戦略にお悩みの事業者様は、一度プライシングスタジオにお問い合わせください。

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価格の心理テクニック②(アンカー効果、松竹梅)

あなたは飲食店でワインを頼む時に、どの価格帯のワインを頼みますか?無意識に真ん中の価格帯の物を注文した経験がないでしょうか?

それは、実は「価格のアンカー効果」というものが働いているのです。

価格のアンカー効果とは、顧客が商品を選ぶ際に、商品の知識や価格帯に関する情報が不足していると、最初に目にした価格(アンカー)が判断に影響するという心理効果のことです。

アンカー効果は適切な分析を行うことで価格戦略に大きく役立てることができます。

この記事では、この理論を活用したプライシングのノウハウについて解説します。

価格アンカー効果とは

冒頭でもお伝えしましたが、価格アンカー効果とは顧客が商品の品質について評価をする時に、アンカーという最初に目にした価格が購買判断に影響する心理効果のことです。

アンカーという言葉の語源は、船の錨(アンカー)から来ています。最初に錨(アンカー)を海底に下ろすと、鎖は伸びる制限があるため、船を動かせる範囲に影響するということから名付けられました。

現在アクセサリーなどによく使われている「黒真珠」は、実はアンカー効果によって宝石という認識になったのです。

1970年頃、黒真珠はほとんど需要がありませんでした。そこで、イタリアのサルバドールアセールという商人は、黒真珠を最高級の宝石として世間にアンカーを刷り込んだのです。すると、そのアンカーは浸透し、宝石として流通しました。そして彼らは莫大な利益を築き上げました。

アンカー効果の例

松竹梅は、竹が売れる

アンカー効果の例として、「松竹梅は、竹が売れる」ことが挙げられます。

「真ん中のマジック」と呼ばれることもあり、松竹梅のように複数の価格帯が存在する時、真ん中の価格帯が一番売れる傾向にあるようです。

例えばコーヒーショップなどではTallサイズが売れやすいということになるのです。

(出典:タリーズコーヒージャパン)

他にもレストランでワインを注文するときでも同じようなことが起こるようです。

レストランでワインを選ぶ時、ほとんどの顧客はワインリストを見て中間の価格帯のワインを注文します。そして最も高価なワインや、最も安価なワインを選ぶ人はごく少数になります。

(出典:photoAC)

買い手は商品を選ぶ時できるだけ最善の意思決定をしようとします。そこで中間の価格帯の商品を選ぶことで、品質が劣るものを購入するリスクや、多く払い過ぎてしまうリスクを同時に軽減しようという思考が働くようです。

その際、買い手にとって真ん中の価格帯は魅力的に見え、他の商品でも現象が見られるのです。

そのため売り手は、複数の適切な価格帯を揃えアンカーを設置することで、意図的に一定の価格に誘導することが可能になるのです。

誰も買わないのに収益に貢献する商品

アンカー効果の二つ目の例として、「誰も買わないのに収益に貢献する商品」が挙げられます。

次のような事例が紹介されています。

ある販売員が、新しいスーツケースを買うために来店した客に対して予算を聞いたところ、200ドルと言いました。

そこで販売員は取扱商品の全体像を伝えたいと言い、900ドルのスーツケースを取り出してきて、品質やデザイン、ブランド名の点で最高級モデルであることを強調しました。その後、顧客が希望する価格帯の商品の設営に戻るがその際に250ドルから300ドルの価格帯の商品に客の注意を促しました。

すると250ドルから300ドルの価格帯の商品を購入する可能性がかなり高くなることがわかりました。

この事例のように明らかに買わないとわかっていたとしても、高額商品をアンカーとして品揃えに加えることで、顧客の支払意欲を引き上げるというやり方があるのです。

アンカー効果を生かした価格戦略

アンカー効果を生かした価格戦略として、顧客に商品の情報や知識がなかったり、その価格帯に関する情報を持っていない場合に、適切なアンカーを設置するという戦略が有効です。

アンカーがうまく機能すると、顧客を一定の価格に誘導したり、一回あたりの支払意欲を上げることが可能になります。

しかし、アンカー効果を価格戦略に活用するには注意が必要です。

理想の価格に誘導することを意識しすぎて、極端に高い価格や極端に安い価格をアンカーとして設置してしまうと、うまく機能しない場合があるのです。また、最悪の場合、顧客に対し極端なイメージ(中間価格帯のサービスなのに、高価格帯と勘違いされるなど)を植え付けることになってしまいます。

それは顧客が商品やサービスを購入する際、購入したいと思う価格のレンジが存在するからなのです。その為、アンカー効果を活用するためには、その価格レンジを理解しておく必要があります。

その際のアプローチとして使われるのが、PSM分析という分析手法です。詳しくは次の項目で紹介します。

PSM分析とは

PSM分析(価格感応度分析)とは、バリューベースの価格設定を実現するために、顧客の支払意欲を調査するために使われる手法です。

PSM分析を応用することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかを把握できます。

売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算できるのですが、顧客が高いと感じる価格や安いと感じる価格も可視化することが可能なため、適切なアンカー価格を設定することに役立てることが可能になります。

PSM分析に関する詳しい記事はこちら。

まとめ

今回は、「価格のアンカー効果」という初期値が判断に影響する心理効果について紹介しました。

使い方次第では価格戦略に大きく役立てることができますが、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかという価格レンジを把握してから活用すると良いでしょう。

プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

(参考:Confessions of the Pricing Man)