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【価格変動制】ダイナミックプライシングの今後について解説

(この記事は、【価格変動制】ダイナミックプライシングの今後について解説の解説記事です)

【質問】
今後あらゆるサービスの価格がダイナミックプライシングになっていくと聞きますが、本当にそう思いますか?
【回答】
私はそうは思いません。サービスの価値が一定であるのに価格が変化することは、顧客目線からして満足度が高くないためです。

本日も質問に回答していきます!ダイナミックプライシングとは、高頻度で価格が変化する仕組みのことを言います。例えばホテルに宿泊するとき、直前になると高くなったり安くなったりと、アクセスするタイミングや時間によって金額が異なります。飛行機の航空券も同様です。このように時間単位で次々と価格が変化していく仕組みのことをダイナミックプライシングと言います。コロナ渦においてニュースなどで取り上げられる機会が増えたことが最近流行っている理由であると思います。

ダイナミックプライシングについて

ダイナミックプライシングはディズニーランドが導入したことで最近注目されている価格決定方式です!

ダイナミックプライシングはホテルや航空券など、キャパシティーのあるビジネスとの相性が良いとされています。限られたキャパシティーの中で売り上げを最適化するために価格を変動させているのです。最近ではコロナウイルス蔓延の影響から、入場制限を設けるテーマパークが増えています。課された入場制限の中で売り上げを向上させようと、ダイナミックプライシングが1つの選択肢として出てきたのです。

ダイナミックプライシングの概念

ダイナミックプライシングの概念は「機会損失を無くして販売利益を最大化する」というものです。高くても購入する層に対して金額を上乗せできないか?安くしないと購入しない層にもアプローチできないだろうか?といった問いに価格変更でアプローチし、販売利益を最大化しようとするものです。
しかしながら、私はこの概念自体がおかしいと考えています。サービスの価値が一定であるのにも関わらず価格が変更されることは、顧客目線で考えたときに好ましくありません。同じサービスに高く支払ってしまった人には、サービスの体験として嫌な感覚が残ってしまいます

過去の失敗事例

ダイナミックプライシングの失敗事例として、海外の自動販売機での導入事例があります。

海外の大手飲料メーカーが、自販機でダイナミックプライシングを導入した事例があります。暑い日はジュースの値段を高くして、そうではない日は安く設定しました。しかしながらこの施策は顧客からの評判が悪く、炎上の末にプロジェクトが頓挫したようです。
このことからもダイナミックプライシングの抱えるリスクが分かると思います。同様のサービスにもかかわらず価格が変化することは、顧客目線で納得し難いことなのです。付加価値が変わらない状況で損する人と得をする人がいるため、多くのユーザーにとって受け入れられない価格決定方式なのです。そのためほとんどのビジネスにおいて今後導入されて行かないと予想されます。ダイナミックプライシングが流行しているからといってむやみに導入すると、失敗する可能性が高まります

ダイナミックプライシングの成功事例

商材の特性によってはダイナミックプライシングがうまく機能する場合もあります!

それではなぜホテルや航空券の販売ではうまく機能しているのでしょうか。機能している理由として次に2つが挙げられます。1つ目は「もともとそういう文化があったこと」です。レベニューマネジメントとも言われますが、もともとこの手法が使われてきた業界であれば成功しやすいです。2つ目は「価格が変動しても、付加価値として受け入れられるから」です。旅行を例に考えてみましょう。ホテルなどの予約が埋まってしまうと旅行の体験が台無しになってしまいます。事前に高く支払ってでも予約をすることで不安を解消できます。早い時間に予約することで精神的な安定が得られます。これが消費者にとって付加価値と認識され、受け入れられているのです。
「時間の変化に伴って価格を変えても、高く支払う人にメリットを与えられる」このようなビジネスであればダイナミックプライシングとの相性が良いと言えます。しかしながら、ほとんどのビジネスはこれに当てはまりません。今後あらゆるサービスの価格がダイナミックプライシングになるとは考えていません。サービスの価値に基づいて価格を決定するといった、本質に基づいた価格決定方法が大切です。

まとめ

本日はダイナミックプライシングについて解説してきました。ダイナミックプライシングと相性の良いビジネスは存在するものの、多くのビジネスにおいては推奨されません。推奨されない多くのビジネスではサービスの価値に基づいたプライシングを行っていくことが大切です。

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ダイナミックプライシングの国内外の10の事例を解説

ダイナミックプライシングは、近年様々な業界で導入されています。この記事では、導入事例のある10の業界を取り上げ解説します。

【ダイナミックプライシング ニュース(2020年12月22日更新)】
「東京ディズニーランド・ディズニーシー」を運営するオリエンタルランドは、入場チケットのダイナミックプライシングを導入することを発表しました。2021年3月20日以降の入園チケットが対象です。入場チケットのダイナミックプライシングの導入は、時期による入園者数の変化などに対応するため、混雑緩和などを狙いとした導入と公表されています。

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。価格変更させることで、企業の収益を最大化させることや混雑を緩和させることが可能になります。

人々の需要が増加している商品や、供給不足な商品に対しては、価格を上げて利益を最大化します。一方、人々の需要が縮小している商品や、供給過多な商品に対しては、価格を下げることで、販売数を増やします

そんなダイナミックプライシングは、近年ますます多くの業界で導入されており、私たちの日常生活にも影響を与えています。この記事では、国内外の企業がダイナミックプライシングを導入した事例やその業界におけるダイナミックプライシングのサービスの提供事例をまとめています。

事例1.スキー場

スキー ダイナミックプライシング

ダイナミックプライシングを導入しているヨーロッパのスキー場の数は、2018年から2020年にかけて3倍に増加しています。導入した狙いは、

(1)収益の最大化、(2)早期予約する利用者の増加、(3)長期利用の顧客増加の3つです。

(1)収益の最大化
需要が集中する期間に値上げをして利益を増加させ、一方需要がない時間に値下げをして顧客を増加させることで、収益の最大化を図っています。

(2)早期予約数の増加
チケット価格を左右する変数として「実際にスキー場を訪れる日付」だけではなく「予約を行うタイミング」も取り入れて、早期予約の価格を低くする手法を取ることで達成を目指しています。

(3)長期利用の顧客増加突発的な予約で来場する人も早期予約の方が滞在日数が長い傾向にあります。そのため早期予約者数が増加すると長期利用の顧客が増加する結果となり得ます。

また、スキー場で扱われているプライシングモデルは3つのパターンがあります。

①天気に応じた割引モデル
天気予報に基づいて段階的な割引を顧客に提供することで、需要の減退が予測される天気の悪い日の集客を増やす施策です。

②予約時期に応じた割引モデル
予約が早ければ早いほどチケットが安くなる仕組みです。

③複合的な需要予測に基づく価格調整モデル
履歴データ、予約時間、季節、休暇期間をもとに需要予測を行い、それに合わせて値段を変動させる仕組みです。

現在はヨーロッパでのケースが主ですが、今後国内のスキー場でも導入されていくと考えられます。

事例2.配車サービス

配車サービス ダイナミックプライシング

移動手段として、個人の車やタクシーをその場に呼ぶことができる配車サービスでもダイナミックプライシングは広がっています。

アメリカの配車サービスUberは、個人がタクシーとして乗客を乗せることができるサービスです。乗客は行き先をアプリで入力し、近くにいるドライバーとマッチングする仕組みなのですが、マッチング時に提示される運賃がダイナミックプライシングによって調整されています。

需要が高い地域に適切に即座にドライバーを派遣するため、需要が高い地域の価格(=ドライバーにとっての収入)を高く設定することで、ドライバーが該当する地域に赴くインセンティブを作ることが可能です。それにより高い需要に応える供給を提供することができ、Uberの利益の最大化にも繋がります。

一方、乗客視点から見ると、需要が高い地域では値段も高いため、需要が低い(=ドライバーの供給が足りている)地域に移動して配車を行います。そのため需要過多の地域での需要が抑えられ、供給とのバランスが取れるのです。

ちなみに、Uberのダイナミックプライシングは、「surge pricing」という名称で、価格変更は需要が多くなった場合のみ(=値上げのみ)です。Uberはサービス供給者であるドライバーが自社社員ではなく第三者であるために、強制力を持って需要の多い地域に向かわせることができません。

そのため、それでもドライバーを動かそうと思うと、金銭的な報酬が上がるという動機付けが必要になってきます。Uberのダイナミックプライシングは値上げのみですが、自社の営利目的だけでなく、乗客のもとに十分な数のドライバーを届けるという、顧客利益もあるため、一定の納得感が得られています。

事例3.民泊サービス

民泊サービス ダイナミックプライシング

個人が所有する物件などをを宿泊施設として貸し出す民泊サービスでも、ダイナミックプライシングの導入は進んでいます。例として、ここ数年日本でも盛んに利用されているAirbnbが挙げられます。

Airbnbでは、宿泊施設のホストが自分で部屋の値段を決めることが可能です。しかし、宿泊施設の経営については素人であろうホストが、適切なプライシングを行うことは簡単ではありません。

そのためAirbnbでは、以下のような条件をもとに、最適価格を推奨するサービスが用意されています。

最適価格の提案の変数

  • 残り時間: チェックイン日が近づくにつれ、料金は安くなります
  • エリアの人気度: エリア全体の検索数が増えるにつれ、料金は高くなります
  • シーズン: 繁忙期や閑散期によって、料金が変わります
  • リスティングの人気度: ビュー数と予約が増えるにつれ、料金は高くなります
  • リスティングの記載情報: Wi-Fiなどのアメニティ·設備を増やすと、料金は高くなります
  • 予約履歴: 予約が入ると、成約段階の料金もその後の料金に影響を与えます。たとえばスマートプライシングの推奨料金より高い料金を手動で設定し、それで予約が入った場合には、アルゴリズムはそこから学習し、推奨料金に反映していきます。
  • レビュー履歴: 高評価レビューが増えるにつれ、料金は高くなります

参考:Airbnb「スマートプライシング」のメカニズム

事例4.駐車場

駐車場 ダイナミックプライシング

駐車場のダイナミックプライシングは、現在日本でも、海外でも導入が進んでいます。

PerfectPriceという企業では、空港駐車場におけるダイナミックプライシングが行われています。空港向けにのaaS「PerfectPrice」のサービスと空港の自社のデータを活用し、駐車場の需要の変化を予測し最適価格を導くことが可能です。

国内のCtoC駐車場予約サービスakippaでは、駐車場の近くでのイベントの有無や普段の利用状況から需要を予測し、それに応じた値段に価格を設定されています。

事例5.レンタカー

レンタカー ダイナミックプライシング

レンタカーのダイナミックプライシングは、ここ数年、大きな盛り上がりを見せた業界です。ダイナミックプライシングを利用するレンタカー業者や、ダイナミックプライシングを搭載したレンタカー管理プラットフォームが、国内外で生まれています。さらに、海外ではレンタカーのダイナミックプライシングを監視し、安くなったタイミングで消費者に知らせるウェブサイトが存在するほど広がっているのです。

ダイナミックプライシング導入以前から収益向上化のために、国外を中心にレンタカー業者は価格調査と徹底的な分析が行われていましたが、コストの高さが目立っていました。ただ近年におけるビックデータやAIの発達により、その時々の需要を予測し、リアルタイムに価格を設定し直すダイナミックプライシングが可能になったため、価格調査を行っていた頃よりも低いコストで高い収益拡大を実現することができるようになりました。

レンタカーのダイナミックプライシングは、企業が持つ販売実績などのデータや、時間・天気・周辺地域でのイベントの有無などの、商品の需要予測に扱える外部データをもとにその時の需要の大きさを予測します。また、そこに競合他社の情報を加えて、最大の収益が期待できる値段になるように常時価格を変動させる仕組みも使われています。

事例6.映画館

映画館 ダイナミックプライシング

映画館では昔から、需要が少なくなる曜日の値段を安くする取り組みが行われていたが、近年ダイナミックプライシングというかたちで価格変動を実施する企業が海外で増えてきています。その背景として、Netflixなどのビデオストリーミングサービスが普及したことで、映画館は価格戦略の再考を求められている点が挙げられます。

映画館は、座席数(=1度にサービスを供給できる量)が決まっている上、需要の変動が時間に応じて起きるため、ダイナミックプライシングとの親和性が高い領域と言えます。飛行機などに活用されるアルゴリズムを転用しやすいのです。

映画館がダイナミックプライシングを導入する場合は、ビックデータを元に需要予測を行い、予測される需要と映画館の容量に応じた値段に設定する、アルゴリズムが導入されている場合がほとんどです。

しかし、映画の料金に合わせてドリンクなどの値段も値上げしたところ、ダイナミックプライシングの名を借りた値上げだと批判を受けた映画館もあるようです。ダイナミックプライシングを導入する際は、その導入理由や変動要因を顧客に伝える、透明性の高さが求められるでしょう。

事例7.ライブ

ライブ ダイナミックプライシング

音楽ライブでのダイナミックプライシングは、昨年11月の音楽イベント「Yahoo!チケット EXPERIENCE VOL.1」にて日本で国内で初めて導入され、国内で話題になりました。

導入の最大の目的は、収益の最大化です。需要が多い場合、高価格で販売し利益を最大化し、一方需要が少ない場合、値下げして販売数を促進し、客数を最大化することを、AIを用いて行います。

同じ条件のライブが定期的に開催されることは少ないため、機械学習を導入する際に準備データが不十分となるリスクがあるものの、アーティストの収益改善に必要な施策として今後も導入は拡大していくと考えられます。

今後のライブ業界でのダイナミックプライシングは、大規模会場での活用から導入が拡大していくと予測できます。当然のことながら、アーティストによる大規模なライブイベントでないと導入は金銭的に難しいことも理由としては挙げられます。

ライブでのプライシングは、値上げ以上に値下げとの相性が良くなります。なぜなら、スポーツチケットや航空券の場合と同じく、在庫が余るリスクがあり値下げしてでも会場を満席にすることが利益につながりやすいためです。また、安くしてでも客数を増やすことは、それによって参加した顧客をファンにすることができる可能性があるうえ、アーティストのブランディングにおいて重要な、動員数ブランドの獲得につながります。また、顧客から不満が出るのは値上げのタイミングなので、業界内で利用されてまもないダイナミックプライシングは、値下げメインの方が受け入れられやすいです。そのため、その値下げを有効活用できる大規模会場を中心に導入は拡大していくでしょう。

事例8.オフライン小売

家電量販店 ダイナミックプライシング

EC小売業界もダイナミックプライシングが早くに導入された業界です。ここ数年はオフライン小売でも導入が拡大しております。電子タグとも呼ばれる、電子棚札の利用拡大により、日本国内でも大手家電量販店のノジマやビックカメラがダイナミックプライシングでの値付けを始めました。また、コンビニエンスストアのローソンでも、商品の賞味期限を基準に価格を変動させるダイナミックプライシングの導入実験が行われています。

もともとオフライン小売業界は、Amazonなどオンライン小売店やオフライン小売店同士の激しい競争環境のため、価格変更を頻繁に行う必要がありました。しかし、値札の張り替えを手動で行うことは、扱う商品点数が多い大手小売店において、非常にコストがかかるものでした。そこで電子棚札の実用化に伴い、ダイナミックプライシングの導入が拡大し、以前より高頻度の価格変更をスピーディーかつローコストに行えるようになりました。

参考:『mbaSwitch』小売店でも始まるダイナミックプライシング

オフライン小売のダイナミック事例として、こちらでビックカメラの事例を紹介しています。

事例9.遊園地

遊園地 ダイナミックプライシング

国内でダイナミックプライシングを導入した遊園地の事例として、ユニバーサルスタジオジャパンが挙げられます。ユニバーサルスタジオジャパンでは、2019年1月から3種類の価格を、時期や曜日によって分けて提供する価格体系を始めました。現在はまだ細かい価格変更は行っていませんが、徐々にさらにダイナミックに価格を変えるようにすることも検討しているようです。

遊園地は繁忙期と閑散期の需要差が大きいため、繁忙期のチケットは高い値段で販売し利益を上げ、閑散期のチケットは安い値段で販売することで販売量を増やし、収益を最大化することができます。遊園地は基本的に同じサービスを顧客に提供する業態であり、繁忙期と閑散期という形で需要の変動を予測することができるため、適正価格の算出が比較的容易なのです。

しかし、今後さらに細かく動的なダイナミックプライシングを行っていくのならば、天気や近隣のイベントの有無など、需要を予測する変数を増やしていくことも必要になると考えられます。実際に、海外の遊園地向けダイナミックプライシングを提供しているSMART PRICERは、天気などの変数も加味してプライシングを行っているようです。

参考:『日経トレンド』USJが始めた「価格変動制」の裏側

こちらの記事では、ダイナミックプライシングによる混雑緩和の例として、遊園地業界を解説しています。

事例10.化学工業

化学工業 ダイナミックプライシング

様々な製品の原料を作る化学工業でもダイナミックプライシングが導入されているケースがあります。化学工業で作成する商品の原料のもととなる化学品の価格は、基礎となる原油価格や需給バランスの変化によって変動することが多いです。
そのため、それらを自動で行えるダイナミックプライシングの導入が近年一部の会社で行われ始めています。化学工業は、あまりプライシングを工夫してこなかった業界であるため、収益性を高める有用な手段として注目されています。

ダイナミックプライシング化学工業データ

「ベイン・アンド・カンパニー」の調査によると、非常に高いパフォーマンスをあげている化学工業会社の50%がダイナミックプライシングを導入しています。80%は競合他社の価格の監視を行っているようで、化学工業におけるダイナミックプライシングの有用性がわかります。

参考:『ベイン・アンド・カンパニー』The Formula for Better Pricing in Chemicals

メジャーな業界事例

この記事では、貴重なダイナミックプライシングの事例をまとめました。
よりメジャーな事例である、EC小売、スポーツ、飲食店といった業界でのダイナミックプライシング導入事例は、以下の記事に専門的にまとめてあります。ぜひご覧ください!

EC小売

スポーツ

飲食店

高速道路、遊園地、銭湯

まとめ

ダイナミックプライシングは近年様々な業界で導入され始めています。イールドマネジメントという形で適用できる、映画館やライブなどの供給に限りのある業界が代表的ですが、化学工業などのBtoB業界や、airbnbやUberといったCtoCサービスでも導入は進んでいます。これからも導入される業界は増えていくでしょう。まさに、どこにでもダイナミックプライシングがある時代が近づいているのかもしれません。自社では導入は難しいと思っていたとしても、開発企業やツール提供企業にお声をかけてみますと、導入の実現につながる可能性は十分にあります。

ダイナミックプライシングを導入すべき企業の特徴をこちらの記事で解説しております。導入をお考えの方は、ぜひご覧ください!

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キャプティブプライシングとは|ジレットのカミソリ事例からわかる価格戦略

カミソリ本体と替刃などの製品に用いられる主製品を低価格で、付属品を高価格で販売する価格戦略である「キャプティブプライシング」についてご紹介します。

キャプティブプライシングとは

キャプティブプライシングとは、カミソリ本体と替刃のように「主製品を低価格に設定し、付属品を高価格に設定する価格戦略」のことです。

高い価格に設定した付属品を定期的に購入してもらうことで、長期的なスパンで収益を得られます。

キャプティブプライシングのメリット

キャプティブプライシングのメリットは、以下のことがあげられます。

購入してもらいやすい

キャプティブプライシングを行なっている製品は付属品で収益をあげるため、本体価格を安く抑えて購入してもらいやすくなります。

初期費用が安く、どんな人でも製品が手にとりやすいため、新規顧客を獲得することが可能です。

高いLTV(顧客生涯価値)を見込める

キャプティブプライシングのメリットとして、高いLTV(顧客生涯価値)を見込めることがあげられます。

LTV(顧客生涯価値)とは、顧客から一生のうちに得られる利益のことを指します。

キャプティブプライシングでは、セットとなる付属品を定期的に購入することを前提としているため、収益を長期的にあげられるようになり、結果として高いLTVが見込めます。

キャプティブプライシングのデメリット

キャプティブプライシングのデメリットは、以下のことがあげられます。

付属品の価格設定が困難

主製品と付属品とそれぞれの価格設定が必要となるだけでなく、付属品の継続的に購買につながる価格設定が必要です。

付属品が高価格すぎると継続的な購買にいたらず、売上の損失に繋がる可能性があります。

顧客の購買意識を維持させるのが困難

キャプティブプライシングは顧客がサービスを活用し付属品を長期的に購買し続けることで収益化に繋がります。そのため、継続的に購買をしている間に他社の類似製品と比較されがちです。付属品の商品価値を上げるなどの手段で顧客が価格に納得感を持ち続けるようにする必要があります。

キャプティンブプライシングの実際の例

カミソリ本体と替刃

カミソリ本体と替刃の関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

実際に、ジレットでは「消耗品モデル」という名前で、キャプティブプライシングを行っています。カミソリ本体の値段は抑え、付属品である替刃の部分の価格を高く設定するというビジネスモデルを確立したので、このようなモデルは「ジレットモデル」とも言われています。

プリンターとインク

プリンターとインクの関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

ここでは、エプソンのプリンターの例をご紹介します。エプソンのプリンター本体価格は、6,000円から20,000円の間が相場となっています。

印刷する際に必要なプリンターのインクは、純正のエプソンプリンター専用のインクを使用することが推奨されており、1セット6,000円で販売されています。

プリンター会社が作っていない互換インクだとより安く購入することができますが、エプソンのプリンター自体が専門のインクを指定しているので、インクから安定して収益を得ることが可能です。

コーヒーメーカーとカプセル

コーヒーメーカーとカプセルの関係もキャプティブプライシングの例としてあげられます。

主製品となるコーヒーメーカーは、比較的安い価格で販売している一方、コーヒーメーカーにいれるコーヒーカプセルを高い価格に設定することで利益を得られる仕組みになっています。

具体的な例として、ネスプレッソのコーヒーメーカーを見てみます。ネスプレッソのコーヒーメーカーは、12,000円から購入することができます。そこにいれるコーヒーカプセルは、1セット30カプセル約3,000円の値段がします。1日2回飲むとしたら、1ヶ月で6,000円12ヶ月で72,000円になります。付属のコーヒーカプセルを定期的に購入してもらうことでコーヒーメーカー以上の利益を出すことができます。

SaaS + a box

SaaS + a boxとは、近年話題になりつつある、最新のビジネスモデルです。ハードウェア製品に加えて、月額課金のオンラインサービス提供をすることで、満足度を高めることができるため、非常に注目が高まっています。

実は、このモデルは、キャプティブプライシングの例だと言えるのです。SaaS + a boxでは、ハードウェア製品を高い機能に対して比較的安く提供します。

lovotというサービスでは、ハードウェア自体は原価で販売する一方で、月額課金のオンラインサービスを提供し、収益をあげています。これは、キャプティブプライシングを利用しているといえるでしょう。

具体例としては、オンラインフィットネスのPelotonが挙げられます。現在アメリカで大流行しているサービスで、ランニングマシンやサイクリングマシンといったフィットネスマシンのハードウェアと、月額課金のレッスン動画などのフィットネスサービスを販売しています。

フィットネスマシンの効果を最大限発揮するには、月額課金のフィットネスサービスを利用する必要があるため、月額課金での安定した収益をあげられます。SaaS + a boxはキャプティブプライシングを使った画期的なビジネスモデルといえるでしょう。

まとめ

キャプティブプライシングとは、主製品を低価格に設定し、付属品を高価格に設定する価格戦略のことです。

主製品と付属品のビジネスモデルを確立した「ジレットモデル」を参考に、ネスカフェやネスプレッソなどのコーヒーメーカーの価格戦略が誕生したと言われています。このことから様々な製品に応用することができる価格戦略だということができるでしょう。

デメリットでも解説しましたが、主製品と付属品の価格の設定を適切に行うことが重要になってきます。キャプティブプライシングは、顧客の購買意欲を継続的に保つ価格で行うことが成功の鍵になってくるでしょう。

 

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ダイナミックプライシングとは?仕組み・事例をわかりやすく解説

近年注目を浴びているダイナミックプライシング(価格変動制)とはなにかについて、この記事では、定義・メリット・アルゴリズム・歴史・事例・導入方法など、様々な角度から解説します。

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは、高頻度で価格を変更する仕組みです。

言葉を分解し理解すると、「ダイナミック」とは英和辞典で「動的」と訳され、何かが時間とともに変動する状態を指します。一方、「プライシング」とは、商品やサービスの値付けのことを指し、マーケティングでは重要とされる「4P」のうちの1つの概念です。

日常生活で私たちは多くの場合、商品・サービスの価格は発売時当初から一定であるもの(一定価格制)を享受しています。一方、ダイナミックプライシングでは、ITやAIなどのツールを用い、高頻度での価格変更を実現させています。

ダイナミックプライシングの概念的理解

ダイナミックプライシングの概念を理解するには、そもそものプライシングの基本を知る必要があります。

商品・サービスの売上は、「価格」と「販売量」の2つが組み合わさり、決定される(売上曲線)のに対し、販売量は価格に応じて、反比例“的”に決まります(価格曲線)

この、価格曲線に価格を掛け合わせた「売上曲線」の最大化の実現がプライシングの基本です。

ダイナミックプライシングは、このプライシングの基本に需要と供給を組み合わせて、機会損失の最小化を実現を目的としています。

数量と価格による需要曲線を仮定したとき、一定価格での販売では機会損失(上図水色部分)が多く生まれます。

一方、ダイナミックプライシングの実現は、需要により価格を変動できるため、機会損失を減らせます。

ダイナミックプライシングでは、需要が多く、供給が間に合わない場合は、価格を高くし、それでも購入する顧客を絞りつつ、収益を最大化する。一方、供給が多く、在庫処分または機会損失が発生する場合は、価格を低くし、購入者数を増加し、売上向上を図る。といった戦略が可能です。

ダイナミックプライシングのメリット

ダイナミックプライシングの最大のメリットは、「収益最大化」です。先ほど紹介した図は、価格とその価格で販売できる数量を示した図です。この図を用い、改めて収益最大化のポイントを解説します。

左図が通常の価格設定、つまり一定価格での販売です。価格はA円に固定され、この価格での販売数の最大はaになります。そのため、最大売上はA円×a個で、売上は紺色の部分が該当します。

全ての状態において、予測する最大の販売数aが販売できるのであれば、問題はありません。しかし、実際に商品・サービスの需要は一定ではなく、変動するものです。

需要が大きいとき
→実際に得られたはずの収益を逃す。在庫不足が発生する。
需要が小さいとき
→販売数が減少する。在庫が余る。

つまり、通常の一定価格では、需要が大きい時には収益を、需要が小さい時には価格を下げれば獲得できたであろう顧客を逃してしまいます。一方、ダイナミックプライシングによる価格設定(右図)では、価格をA円だけでなく、B・C点のような値上げ、D・E点のような値下げを実施できるため、需要の変動や供給の状況に応じた収益最大化が可能になります。

需要が大きい、または供給不足と判断されるとき
→価格を上げ、その値段でも購入する層からより多くの利益を得られます。また、飛行機など供給が限られる場合は、需要の集中を抑え、需要が小さい時に購入するようにうながすことになり、全体の収益を最大化します。需要が小さい、または供給過多と判断されるとき
→値下げをおこない、新規顧客・見込み顧客を流入させ、販売数を増やせます。これには収益が増える、在庫処理をスピーディーにできるというメリットだけではなく、一定価格制では価格が高いゆえに商品に見向きもしなかった顧客に、自社製品を知ってもらえるというマーケティング的価値もあります。

ダイナミックプライシングでは、一定価格制のもとでは失っていた、本来需要変動により生まれる
「定価より高価での販売機会」
「販売する価格を下げれば獲得できたであろう販売機会」
を逃さず掴み、収益を最大化を実現しています。

他にもメリットとして、より深い顧客の理解・工数削減・安全な価格管理などがあります。

ダイナミックプライシングのデメリット

ダイナミックプライシングは、収益の最大化につながる一方、導入による顧客離れの危険性があります。ダイナミックプライシング導入への不信や高騰した価格による顧客離れが起こりえます。

ダイナミックプライシング導入への不信による顧客離れ

ダイナミックプライシングの導入は消費者からの不信を買うリスクがあります。

顧客は値上げに対して敏感であり、ダイナミックプライシングによる大幅な値上げは「この企業は、自社の儲けだけを追求している」と感じさせてしまいます。

また、値下げをする前に高値で購入した顧客は、損をした気分になり不満を抱いてしまうかもしれません。例えば、飛行機のチケットを7,000円で購入した顧客が、翌日に6,000円に値下げされたチケットを見た場合、1,000円分の損をした感覚になるとっいった感じです。

ダイナミックプライシングによる価格変動は、顧客の不信感を募らせ、それを理由に商品・サービスを購入しなくなるという、長期的な利益を失うというリスクがあります。

そのため、ダイナミックプライシングを導入するときは、顧客に適切な導入理由や価格変動の要因を納得感のあるかたちで顧客に伝えなければいけません。

高騰した価格による顧客離れ

ダイナミックプライシングによる値上げは、商品・サービスに対して価格が見合っているかに対して、顧客が不信感を抱く危険性もあります。

例えば、繁盛期のホテルでは、宿泊料が通常価格の何倍にもなることはよくありますが、提供されるサービスの質は変わらないので、消費者からすれば、値段に対してサービスの質が低いと判断されかねません。

ダイナミックプライシングを導入した事実を顧客が知らないとしても、値上げされた価格に対してサービスが見合っていないと判断し、顧客がサービスから離れてしまうリスクも持ちます。

顧客離反を生まないためにも、ダイナミックプライシングを導入する際には、導入理由や仕組みについて、顧客に詳しく説明することが重要です。

ダイナミックプライシングのアルゴリズム

ダイナミックプライシングの「需給に合わせた最適な価格決定」のアルゴリズムは、利用する技術ベースで次の3つに大別できます。

1.自動化
2.機械学習による予測
3.強化学習

1.自動化

自動化によるダイナミックプライシングは、既存の値付けルールをシステムで実現させたもので、一般的にルールベースと呼ばれます。

完全手動で作成したルール・機械学習を活用して作成したルールをシステムに置き換え、実装するというダイナミックプライシングです。

この仕組みはの利点は、実装に必要な技術の難易度がそこまで高くなく、実装が容易なことです。

通例業界としては、従来からの変動価格を利用していた航空・ホテル業界や競合価格のみを参照した価格変更をおこなうEC小売業界があります。

2.機械学習による予測

機械学習によるダイナミックプライシングは、需要を仮定し、需要予測から最適な値付けをおこなうものです。需要予測には、頻度論的回帰モデルやベイズ回帰モデルといった手法が使われます。

日付や曜日、天候や近隣イベントの有無など様々な変数をもとに、時々の需要予測を実施したプライシングが行われ、現在のダイナミックプライシングの主流と呼べるものです。

需要変動に売上が大きく影響を受けるテーマパーク業界やスポーツ観戦・コンサート・ライブなどといったエンタメ業界など、需要予測が必要な業界で多く採用されています。

3.強化学習

強化学習によるダイナミックプライシングは、特定の状態(天気など、需要と価格に関わる変数の特定の値)で、最も収益最大化につながる選択肢を、AIの経験から導き出す仕組みです。

強化学習によるダイナミックプライシングは、需要を仮定しないため、より収益最大化につながる可能性があるとされていますが、実装事例は、特に国内ではほとんど見受けられません。

原因としては、次のものが考えられます。

1.データ不足
2.精度に欠けている
3.AIの判断がブラックボックス化される恐れがある

現在、機械学習によるダイナミックプライシングは、論文レベルでは進行中であるが、プライシング領域での実用例はほぼなく、実用化は先の話になるでしょう。

ダイナミックプライシングの歴史

原始的なプライシング

歴史的に見ると、価格が一定だった期間は、値札が開発された1870年代からで、むしろ価格は変動的な方が主流だったと言っても過言ではありません。

値札が使われる以前は、消費者と店主の価格交渉で決定されることが当たり前でした。

19世紀後半(1870年代〜)

19世紀からの企業の大規模化の中で、この作業コストを軽減するために、値札を使い、一定価格で商品を販売するようになりました。

この後に続く大量生産の時代では一定価格制が一層社会に浸透していき、20世紀以降にに登場するサービス業などの新しい業態でも、一定価格でサービスを販売することが当然のようになりました。

20世紀後半(1980年代〜)

1980年代を皮切りに現代版ダイナミックプライシングがアメリカの航空産業で始まりました。

アメリカの航空会社は数百万ドルを投資して、季節などの座席需要に影響を与える要素にもとづいて価格を自動調整するコンピュータープログラムを開発したそうです。これが情報技術を使った初めてのダイナミックプライシングだと言われています。

その後、航空業界に続く形で、ホテルやクルーズなど、その他の旅行業界のプレイヤーもダイナミックプライシングを導入していきました。

2000年代〜

EC小売市場では同じ商品が乱立した結果、消費者にとって”価格”が主要な商品の選択要因となり、価格調整を自動化するソリューションとして、小売企業にもダイナミックプライシングツールが普及しました。

現在

現在では、商品・サービスごとの需要の変動や供給量の変化を予測できるEC小売向けSaaSや、需要変動が予測しにくいスポーツ業界での開発企業が登場しています。

この背景にはAIの発達があります。AIを用いることで、自社のデータだけではなく、大量のビッグデータを収集し、分析し、これまでには扱えなかった複雑な条件を需要予測に加味できるようになりました。

需要予測の可能性が広がり、多くの業界でダイナミックプライシングを活用できるようになった今、わたしたちの暮らしに影響を与えています。

ダイナミックプライシングが導入されている業界

ダイナミックプライシングは近年多くの業界に導入されています。AI、ビッグデータ、電子棚札といったテクノロジーの発展と共に活用できる業界は広がりました。その例をいくつか紹介していきます。

遊園地

遊園地 ダイナミックプライシング

「東京ディズニーランド・ディズニーシー」や「ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)」などを代表する遊園地で、入場チケットのダイナミックプライシングが導入されています。

入場チケットのダイナミックプライシングの導入は、時期による入園者数の変化などに対応するため、混雑緩和などを狙いとした導入と公表されています。

USJでは2019年1月より、ディズニーでは2021年3月より、土日・祝日・長期休暇期間・ゴールデンウイークなど、混雑時にチケット価格が基本料金より値上げされるダイナミックプライシングがおこなわれています。

参照
日経新聞「USJ、入場券に変動価格制 大手テーマパークで初」
東京ディズニーランド®/東京ディズニーシー® チケットの変動価格制導入について

駐車場

駐車場 ダイナミックプライシング
駐車場は、現在日本でも、海外でもダイナミックプライシングの導入が進んでいる領域です。需要予測をもとに、駐車場の値段を最適価格に変更します。

国内の駐車場予約サービスakippaでは、ダイナミックプライシングが適用されています。駐車場の近くでのイベントの有無や普段の利用状況から需要を予測し、それに応じた値段に価格を設定しているようです。

EC業界

消費者が特定の商品を購入する際、同じものを複数のサイトで販売しているEC業界では、商品そのものの価値より、販売価格が重視されます。

そのため、競合の価格や変動する需要に応じて価格を変動させることで収益を最大化できます。

オフライン小売業界

家電量販店 ダイナミックプライシング

ここ数年でオフライン小売でも導入が拡大しております。電子棚札の利用拡大により、日本国内でも大手家電量販店のノジマやビックカメラがダイナミックプライシングでの値付けを始めました。

また、コンビニエンスストアのローソンでも、商品の賞味期限を基準に価格を変動させるダイナミックプライシングの導入実験が行われています。

もともとオフライン小売業界は、Amazonなどオンライン小売店やオフライン小売店同士の激しい競争環境のため、価格変更を頻繁に行う必要がありました。しかし、値札の張り替えを手動でおこなうのは、扱う商品点数が多い大手小売店において、非常にコストがかかるものでした。

電子棚札の登場は、ダイナミックプライシングの導入を拡大させ、以前より高頻度の価格変更をスピーディーかつローコストにできるのを実現させました。

スポーツ業界

スポーツのチケットの需要は、試合ごとに大きく異なり、その需要はあらかじめ予測できるものではなく、試合状況や、天候などの環境要因に左右されます。

スポーツ業界でのダイナミックプライシングは、時間と共に変化する需要をAIを用いた機械学習で予測し、さらにスタジアムの残り席数という供給(在庫)状態も加味して、価格決定をしています。

ホテル業界

ホテルでは古くから使われてきた「レベニューマネジメント」という手法があり、予約状況をもとにした価格変更を手動で実施していました。

現在では、ダイナミックプライシングを自動化しおこなうことで、効率よく収益最大化を図っています。

飲食業界

コロナ禍における「3密」を回避するために、飲食店でダイナミックプライシングを導入されたのが、ネット上で話題となっていました。

コロナ禍でのダイナミックプライシング

コロナ禍の状況によりダイナミックプライシング導入が促進されています。
今回紹介した業界以外にも、電車・高速道路・旅行産業でもダイナミックプライシングが進んでいます。

ダイナミックプライシングの導入方法

ダイナミックプライシングの導入方法としては、自社開発・ツール利用・受託開発があげられます。
3つのパターンを検討する際に役に立つ、フローチャートを作成しました。

ダイナミックプライシング 導入方法フローチャート

導入を検討されている企業様は、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

まとめ

高頻度で価格を変動させる仕組みであるダイナミックプライシングは、需給に応じた価格に商品価格を変更し続けることによって、導入企業の収益最大化に貢献します。

しかし、導入には顧客離れにつながるリスクもあるため、導入を顧客に納得いただけるように、「導入理由」及び「価格変動要因」をしっかりと顧客に伝えることが重要です。

そして、このようなダイナミックプライシングは、技術の進歩とともに、様々な仕組みでの収益の最大化を目指せるようになり、様々な業界に適用されるようになりました。

この記事ではダイナミックプライシングについて、定義・メリット・デメリット・仕組み・導入事例など様々な観点から解説しました。この記事を通じてダイナミックプライシングとは何かを理解できたのならば幸いです。

プライスハックとは

プライスハックとは、「プライシングで事業成長を加速させる」をミッションとして掲げるプライシングスタジオ株式会社が運営する、プライシングメディアです。

価格を1%あげたことで、「12.8%」営業利益が改善されると言われているほど、企業・事業の成長にとってプライシングは重要なものになってきます。

しかし、実際にいくらで売ればいいのか、値上げしたら離反顧客が出てしまうのではないかという懸念から、自社での価格決定・価格変更を実施するのが難しいのが現状です。

私たちは、プライシングのプロフェッショナル集団として、企業のプライシングに関する課題を全力で解決したいと思っております。

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ダイナミックプライシングのアルゴリズム3種類を簡単に解説

ダイナミックプライシングは、変動する需給に合わせた最適な価格で商品/サービスをで販売することを可能にします。それでは、どのように需給に合わせた最適価格を導いているのでしょうか?

この記事では、ダイナミックプライシングのアルゴリズムについて簡潔に解説します。ダイナミックプライシングとは何かについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

はじめに

ダイナミックプライシングは、需給に合わせてその時の最適な価格に価格を変更することで収益を最大化します。この「需給に合わせた最適な価格決定」の仕組みは、利用する技術ベースで3つに大別できます。それではその仕組みについて解説していきます。

ダイナミックプライシングのアルゴリズム解説

1.自動化

ダッシュボード
第1のパターンは、既に定まっている価格決定のルールに基づき、人の手で行っている価格変更作業を、自動化する仕組みです。ダイナミックプライシングでは「収益の最大化を目指す際に把握したい需要の変動」をツールを用いて予測し、価格を決定するのが主流ですが(後述)、このパターンはツールを用いた需要の予測を行わない点で特徴的です。

その例として、

  1. 競合価格を監視し、競合価格に応じて価格を自動変更するツール
  2. 在庫数に応じて価格を自動変更するツール

が挙げられます。

1の場合、監視する競合価格から100円安くするなど、競合価格をもとに価格変更するルールを定め、自動で価格を変更します。
2の場合、現在の自社の供給(在庫)状況をもとに、できるだけ高い値段で売り切れるように、予め定めたルールに沿って段階的に商品価格を自動変更します。

これらのツール・手法は、実装に必要な技術の難易度がそこまで高くないため、実装が容易だという利点があるものの、価格決定がルール化されていないと適用できないという難点もあります。

このパターンはホテルや飛行機のチケットなどの業界で古くから利用されてきたアルゴリズムになります。

2.機械学習による予測

需要予測

ダイナミックプライシングの主流と呼べるものが、機械学習をもとに需要予測を行うパターンです。これは、天気や近隣のイベントの有無、曜日などの様々な変数をもとにその時々で需要予測を行い、それをもとにプライシングを行う仕組みとなります。この機械学習に分類されるダイナミックプライシングでは、需要予測をルールベースではなく機械学習といわれる手法で行い、プライシングをします。機械学習とは数理・統計による予測をコンピューターで行うアルゴリズムです。

例えば、EC小売ツールでも、競合価格に反応するだけではなく、過去の売れ行きからこれからの需要を予測する時系列分析という機械学習を利用して、需給に応じた価格決定を実現しています。機械学習を用いたダイナミックプライシングは、スポーツの試合やアーティストのライブのチケットや駐車場など、需要変動が頻繁に起こる業界で効果を発揮しやすい手法だと言えます。

このアルゴリズムが可能になってから、ダイナミックプライシングはホテルや飛行機などの特別な業界のソリューションではなく、一般的な収益最大化のツールとして検討されるようになったといえます。

3.強化学習

強化学習

このパターンは、上記の2つのパターンとは考え方が異なります。この仕組みでは、予測した需要をもとに価格変更を行うのではなく、特定の状態(天気など、需要と価格に関わる変数の特定の値)で、最も収益最大化につながる選択肢を、AIが経験から導き出します。価格を動かしていると、収益や利益への影響が発生します。この時の収益・利益の変動具合を”報酬”としてAIに与えると、より最適な価格を導き出す学習を行います。与えられる報酬を最大化するように、最適な価格の提案ができるように学習するのです。

強化学習は、AIが最適な価格を学習するまでに大量のデータと思考錯誤の期間が必要という特徴があります。また、どういう理屈で価格を変動させたかが不明瞭になってしまい、ブラックボックス化してしまうというリスクも抱えています。

また、この強化学習を利用したダイナミックプライシングを提供している企業はほとんどないのが現状です。理論上は可能なはずですが、データが足りていない精度にかけている顧客離れのリスクからブラックボックス化を避けている、などの理由から、このモデルの社会実装は進んでいないと考えられます。

顧客に不信をもたれるというリスクについてはこちらで詳しく解説しております。

まとめ

ダイナミックプライシングは、技術の発展とともに今回3つに分類したような仕組みが生まれました。現在の主流は、2番目に紹介した需要予測ベースの機械学習となりますが、他の2つの仕組みも活用できれば高い効果を発揮します。

この記事では、これらについて解説してまいりました。

ただし、今回の記事では、仕組みの大枠は説明しましたが、実際に必要となる数式やアルゴリズムの詳細までは言及しておりません。そのため、実際に導入を考えている場合は、アルゴリズムに関して豊富な知識を持つ、ダイナミックプライシングの開発企業へ相談することも選択肢の一つとして考えられます。ダイナミックプライシングを企業で導入しようと思った際に、その実現の仕方までは検討されないかもしれませんが、活用する仕組みを把握して導入することができると、失敗も少なくなるかと思います。

導入をお考えの方はこちらの記事をご覧ください。

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ホテル業界のダイナミックプライシング|客室稼働率を向上させる価格システムを解説

この記事では、ホテル業界でのダイナミックプライシングについて、事例を交えながら解説いたします。

ダイナミックプライシングについて詳しく知りたい方はこの記事をご覧ください。

ホテル業界とダイナミックプライシングの歴史

ホテル業界は、ダイナミックプライシングがかなり早くに導入された業界です。

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」で、商品の需給に合わせて価格を変更させて適正価格で売ることに活用されています。

実は1980年代後半からアメリカでは、ホテルのダイナミックプライシングは価格変更の担当者により行われてきていました。しかし当時は、担当者の経験と勘に頼って需要を予測して、収益を高められるように価格を変動させてきていたのです。

それを近年では、自動化や機械学習をもとにした需要予測を用いて、ダイナミックプライシングが行われるようになっています。

ホテル業界におけるダイナミックプライシング導入のメリット

ホテル業界におけるダイナミックプライシング導入のメリットとして以下の2点があげられます。

1.収益拡大

ホテル業界のダイナミックプライシングでは、「できるだけ高い価格で全ての部屋を売り切る」という目標を達成するために価格を変動させます。
客室の需要が大きい場合…できるだけ高く売り切れるように「値上げ」をする

ex)予約状況が良い、当日イベントが近くで開催される、繁忙期、休日

客室の需要が小さい場合…売り切れるように「値下げ」をする

ex)予約状況が悪い、当日雨が降る、閑散期、平日

これらにより、稼働率と平均客室単価の双方が改善されるため、ホテルの収益は増加します。

2.自動化による業務効率化

ダイナミックプライシングは、従来は担当者の勘と経験を元に考えられ、手動で行われていた、価格決定や価格変更の膨大な作業を自動化できます。

「客室の種類が膨大」「様々なオンラインチャネルで価格を顧客に通知している」「価格変更の回数を増やしたい」などの場合に、価格決定・変更作業の業務コストはかなり大きなものになってしまいます。

そのため、ダイナミックプライシングによりそれらを自動化することは、業務効率化としての価値も大きいと言えるでしょう。

ホテルにおけるダイナミックプライシングの仕組み

ホテル業界では顧客が増えても、それに応じたスタッフの数などが変わらない場合が多いため、コストが上がりにくいという特徴があります。

そのため、「できるだけ高い価格で全ての部屋を売り切る」を目標に、ダイナミックプライシングが行われます。ステップは以下の2つです。

  1. 需要予測をもとに、部屋料金を日毎に異なる価格に設定
  2. 予約状況や、予測する需要の変動をもとに、予約日まで価格を変更し続ける

そんなホテルでのダイナミックプライシングを解説します。

ステップ1:需要予測をもとに価格設定

まず、曜日、季節、その日のイベントの有無などの、需要を左右する変数をもとに、その日のホテルの需要の大きさを予測します。そして、その予測から特定の予約日の価格を設定します。

ステップ2:状況に応じた価格変更

①レベニューマネジメントを活用した価格変更

さらに、1度設定した価格を、予約状況や新たなデータを元に変動させます。それには、主に、ホテルで以前から行われてきていた「レベニューマネジメント」という手法が活用されます。

レベニューマネジメントでは、その時点での予約状況をもとにした価格変更を行います。これにより、「できるだけ高い価格で売り切る」ことを目指します。

レベニューマネジメントの工程

まず特定の予約日の、部屋が埋まっていくペースを推定しておきます。これは、下の画像のように、ブッキングカーブ(予約曲線)として表されることも多いです。

ブッキングカーブ解説

そこで、レベニューマネジメントでは、予約のペースの、理想と現実のズレに合わせて価格変更するのです。

予定より早く部屋が埋まりそうな場合→値上げ

予定するように部屋が埋まらない場合→値下げ

このように価格を動かすことで、ブッキングカーブ通りに予約を埋め切ることを狙います。

②外部データを活用した価格変更

また現代のダイナミックプライシングは、内部のデータだけではなく、外部のデータから、需要を予測して価格変更します。

例①天候などの外部データを元にした需要予測

予約日が近づくにつれて明らかになる、需要予測に扱えるデータをもとに価格変更が行われます。

天気はその代表例です。例えば、台風が直撃するとわかると、その日の需要は落ち込みますよね。それがわかれば、売り切るためには客室料金を安く変更する必要があるとわかります。このように、天気が需要、ひいてはブッキングカーブに与える影響をAIや人間が定義したうえで、価格変更を行います。

例②競合ホテルの在庫に応じた価格変更

実施しているホテルとして、アパホテルがあげられます。例えば、エリアの競合ホテルに10,000円の部屋しか在庫がなくなった時に価格を11,000円に自動で値上げするように、競合価格をもとにダイナミックプライシングを行います。

ブランド力もあり、一等地にあるアパホテルは、「1,000円の差なら自社が選ばれるだろう」と考えているため、自動的に価格変更を行い、利益増を狙っているのです。このように、競合ホテルの在庫状況もダイナミックプライシングに使われます。

参考:現代ビジネス

ホテルのダイナミックプライシング導入企業事例

実際にダイナミックプライシングを導入しているホテルとして、インドのホテル「Hotel Windoer」 の導入事例を解説します。

Hotel Windoerの価格決定の状態と変化

Hotel Windoerは、インドのパトナの中心部に位置する77室の中規模ビジネスホテルです。市街地の中心に位置しており、常に低料金の多くの格安ホテルに囲まれています。

Hotel Windoerは、そんな状況でもホテルのブランドを薄れさせないために、値下げを避けていたのですが、価格競争を行っている周囲の競合に顧客を取られてしまっていました。また、価格変更の重要性は理解していたものの、様々なチャネルでの価格変更を手動で行っていたため、頻度は週に1度と少なかったようです。

Hotel Windoerのダイナミックプライシングの導入

Hotel Windoerは、2018年にaiosellという企業のダイナミックプライシングシステムを導入しました。

季節や予約時間、競合状況などの様々な要素から需要を予測するダイナミックプライシングにより、客室稼働率を高めながら、平均客室単価を高くキープできました。

また、安易な値下げを行わずに、売れないと判断した部屋の料金のみを予約直前に値下げすることで、ブランドイメージを保ちながら、売り切ることを可能にしました。

さらに、価格決定及び価格変更の自動化により、担当者はその仕事を省き、他の仕事に専念できるようになったそうです。

ダイナミックプライシング導入の結果

ダイナミックプライシング導入後、Hotel Windoerは「総宿泊日数(Total room nights)の向上」「総売上(Total Sales)の向上」のメリットを享受することができました。

ダイナミックプライシングにより、部屋の稼働率が増えたことが総宿泊日数の増加に繋がったようです。

さらに、稼働率に加え客室単価の改善ももたらされたことは、総売上の増加をもたらしたと考えられます。

参考:AIOSELL

まとめ

ホテル業界において、ダイナミックプライシングは馴染み深い側面を持ちながらも、今後もアップデートされていくであろう重要な価格決定手法です。

また、ホテル単体だけではなく、パッケージツアーとして飛行機代と合わせてダイナミックプライシングされるケースも出てきています。今後もホテル業界のダイナミックプライシングから目が離せません!

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最新の飲食店のダイナミックプライシング事例【SNSで話題沸騰中】

現在、ある飲食店がダイナミックプライシングを導入したことが大きな反響を生んでいます。この記事では、その事例を元に、飲食店でのダイナミックプライシング活用の可能性を考察していきます。

ダイナミックプライシングについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください


ダイナミックプライシングと飲食店

飲食店はダイナミックプライシングが入りにくい業態だと言われています。実際、国内で飲食店向けダイナミックプライシングツールを提供している企業はまだ存在していません。

しかし、近頃ダイナミックプライシングが飲食店に導入されたと話題になっているのです。

その事例を紐解きながら、飲食店のダイナミックプライシングについて考えていきます。

ニュースになった飲食店のダイナミックプライシング

6月の頭に投稿されたこちらのツイートがソーシャルバズを生んでいます。Kohei Katada(@kkatada)さんの、行きつけの定食屋さんがダイナミックプライシングを導入したというツイートです。 asatteについてのツイート

こちらで紹介されているのはasatteという表参道に店を構えている飲食店です。「3密」を回避することが飲食店にも求められる中、席数を減らさずに密集を回避することを目指してダイナミックプライシングを導入したようです。

密集回避に新しい観点から取り組んでいるとして、ネット上で話題になりました。さらにニュース番組でも取り上げられるほど注目度が高まっています。

ダイナミックプライシングが混雑緩和に対して果たす役割に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

ダイナミックプライシングがうまく機能する理由

国内ではダイナミックプライシングが飲食店に導入されている事例はあまり見ません。飲食店との相性が悪いと考えられますが、なぜこの飲食店ではうまく機能しているのでしょうか?

asatteのダイナミックプライシングの特徴

まずはasatteさんの事例を考えるにあたり、店舗の特徴を把握しておく必要があります。asatteさんの最大の特徴はそのメニュー構成でしょう、なんとメニューは日替わり定食のみなのです。

また、ウェブサイトを持たず、3,000人ほどのフォロワーが閲覧するinstagram上で、その日のメニューを告知していることも珍しい点かと思います。

こんなasatteさんですが、新型コロナウイルスの拡大を受け、お弁当のみの販売のみを行ってきました。6月から店舗の営業を再開したものの、席数を減らすことで密集度を減らすことも、経営を成り立たせるためには難しい状況だったのです。

ここでasatteさんは、時間帯によって価格を変動させることで消費者の需要を分散させようと考えました。基本的な考え方は他業種で使われるダイナミックプライシングと同じです。

  • 需要の集中する時間帯→価格を上げることで、需要を抑える。
  • 需要が小さな時間帯⇨価格を下げることで、需要がピークの時間帯の顧客を呼び寄せる。

1つの商品の価格を、時間帯に応じて複数の値段に変動させることで、混雑状況をコントロールしようとしているのです。asatteさんでは、30分ごとに商品の価格が変わるようで、最も高い時間と、最も安い時間では700円もの価格差があるようです。これにより、導入を開始してまだ間もないですが、これまでのピーク時間にお客さんが集中することはなくなったそうです。

また、価格の変動幅は、目標とする売り上げから逆算して設定しているそうなので、集客に問題を及ばさないでいれば、売り上げや利益率に対しても問題はなさそうです。

asatteで導入が順調な理由3点

まだ完全に成功したと言うわけではないと思いますが、asatteさんのダイナミックプライシングは順調なようです。飲食業界はダイナミックプライシングの導入が進んでいない業界です。その中でasatteさんのダイナミックプライシングが順調な理由を考えてみましょう。

1つは、顧客との強い関係が作られていると言う点です。
ダイナミックプライシング導入のリスクとして、導入した事実による不信感から顧客離れにつながりやすいことがあります。ダイナミックプライシングを導入した事実が顧客離れにつながり、利用者が減少して長期的な収益を減少させてしまった企業も存在しています。しかし、価格面以外でコアなファンを抱えている企業ではダイナミックプライシングの導入が受け入れられやすいです。独自の価値を顧客に提供している遊園地である、ユニバーサルスタジオジャパンはダイナミックプライシングを導入しましたが、顧客離れが起きることはありませんでした。

asatteさんは、

  1. 毎日日替わり定食を提供するというシステム
  2. 生活の一環で利用しやすいランチ飲みに絞っていること

など、日常で利用されることに注力したモデルとなっていたため、コアなファンがついていたと思われます。そのために導入しても顧客離れがあまり起きていないのでしょう。

また、顧客との強い関係性は、混雑緩和のダイナミックプライシングが商売として利益を上げるための前提になります。

そもそも客の集中を防ぐためにある時間帯に値上げをした結果、他の時間帯に利用してもらうのではなく、他店舗を利用されてしまうのでは、商売として成り立ちません。

強い選ばれる理由のない飲食店の場合、顧客は需要が小さい時間帯での利用ではなく、他のお店に流れてしまいます。しかし強い選ばれる理由がある場合、顧客は店を変えるのではなく、時間帯を変えて安くなる時間帯に利用していただけるでしょう。このように、顧客との関係性の強さが混雑緩和に経済性をもたらすのです。

そしてそもそも、ダイナミックプライシングは、時間帯ごとの価格を顧客に認知されないと混雑緩和の価値を発揮しません。「安い時間に商品を購入したい」という顧客の思いを利用して来店タイミングを分散させるのですから当然ですよね。顧客に時間帯ごとの価格を知らせるためには、どうすれば良いのでしょうか?ここでも顧客との関係性の強さが重要になるのです。

asatteさんは、Instagramで3,000人ほどのフォロワーを獲得しており、そこで毎日のメニューを投稿しているため、顧客とのつながりを強く持てています。そのアカウントでダイナミックプライシングの導入と、時間帯ごとの価格を知らせることができたため、顧客の来店時間をコントロールできているのです。

こちらasatteさんのInstagramアカウントです。

asatteのダイナミックプライシングについてのインスタグラムの写真

2つ目は、値上げが「密集回避」という顧客のメリットにつながることです。
ダイナミックプライシングの導入は「儲け主義」だとみなされてしまうことがあります。心理的に値上げの方が顧客にインパクトがあるためそう思われてしまいがちなのです。そこから顧客離れに繋がってしまうケースも少なくありません。

しかし、値上げに顧客のメリットに繋がるような理由を示せれば、納得感は向上し、顧客離れは起きにくくなります。asatteさんの事例だと、ダイナミックプライシングによる値上げには「顧客の集中を防ぎ、密集を回避する」という理由があります。これがダイナミックプライシングが好意的に受け入れられている理由でしょう。

3つ目は、販売している商品が少ないことです。
飲食店のダイナミックプライシングが難しいとされる理由の1つに、商品点数の多さがあります。多くのダイナミックプライシングでは、商品ごとの需要予測を行い、それを元に収益最大化につながる価格変更を行います。しかし飲食店の場合、商品点数が多く、一つの商品の価格が変わると別の商品の需要にまで影響を及ぼすことが多いため、価格変更が収益最大化につながるように管理するのが難しいのです。さらに、ただ多くの商品を販売するわけではなく、多くの飲食店はハンバーガーとポテトのように商品をセットで販売することがあります。単品ではなく、セットで購入されることで利益をあげるような計画も練っていますが、ダイナミックプライシングはそれに支障をきたしてしまうかもしれないのです。

そのため、通常の飲食店ではダイナミックプライシングの導入は難しいと考えられています。
しかし、asatteさんのような、1つのメニューしか存在しないお店では、商品の需要というよりも、店全体の需要を元にして価格設定を行えるため、来客数といわかりやすい変数を元に価格変更が実施できます。つまり、効果的なダイナミックプライシングを簡単に設計しやすいのです。この単純なプライシングモデルなために、特に機械学習や自動化のツールを用いずとも、人力でダイナミックプライシングを行えているのです。

実際に、海外でダイナミックプライシングが効果を発揮している飲食店の多くは、品数の少ない完全予約型のコース料理店となっています。

ダイナミックプライシングの成功につながったasatteさんの特徴

  • 顧客と強い関係性が作れていること
  • 顧客にメリットがあること
  • 品数の少なさ

ダイナミックプライシングが飲食店で効果を発揮することは簡単ではありません。まさに、このような特徴を持つasatteさんだから実行できるシステムなのです。

こちらの記事では、ダイナミックプライシング導入に適している企業の特徴をまとめております。

asatteが抱える課題と解決策

asatteさんはダイナミックプライシングによって、これまでのピーク時間に人が殺到することを防ぐことができました。

しかし、現在の価格設定の結果、値下げした時間に人が殺到するという状態ができてしまっています。このような状況は、下の画像でいうところの、「高くても買う層」が少なかったことが原因だと考えられます。その層には「一般的に都合の良い時間帯での購入」「密集回避」という価値を提供するはずなののですが、顧客にとっては値下げの魅力が強く、安く購入できる時間に人が殺到し過ぎてしまっているのでしょう。

ダイナミックプライシングでの販売

このような状況下では、混雑緩和も実現できないうえ、単価が安い商品の販売になるため収益拡大にもつながりません。この課題を解決するには、少し値下げの幅を小さくしたり、値上げの幅を小さくしたりする調整が有効だと考えられます。それにより、価格の安い時間帯に集中しすぎることを防ぐことができるのです。asatteさんは週に1度ほどのペースで価格改定を行っていくらしいので、徐々に調整していけるかと思います。

飲食店でのダイナミックプライシングの今後

asatteさんは

  1. 顧客と強い関係性が作れていること
  2. 顧客にメリットがあること
  3. 品数の少なさ

という特徴を持っていたために、ダイナミックプライシングが活用できました。それでは、飲食店にとってダイナミックプライシングは当然のものとなるのでしょうか?

結論としては、「前進していくが今は一般的には難しい」状況だと言えるかと思います。

そもそも、ダイナミックプライシングを行える飲食店向けツールがまだ存在しないため、科学的なアプローチでダイナミックプライシングを行うことが難しいです。科学的でない方法で無闇に価格を変動させると、多くの商品を扱う飲食店は、予測不可能な商品需要の変動が起きて、収益減退に繋がってしまう可能性もあります。

また、小売店のダイナミックプライシングのように、競合価格との価格競争に勝つための価格設定をすることも効果を発揮しません。小売店ほど、細かい価格差が客の購買意欲に影響を及ぼしにくいのです。

そして、商品価格の提示に紙のメニュー表を利用している場合、リアルタイムの価格変更を反映することもできません。

このような状況からも、現状飲食店がダイナミックプライシングを導入することは難しいと考えられます。

しかし、オンラインのレストラン予約サービス「TableCheck」でダイナミックプライシングの仕組みが導入されるなど、今後飲食業界にダイナミックプライシングの導入が広がっていく可能性はあるでしょう。

まとめ

飲食店にとって、集客数を減らすことは避けたいものです。withコロナで混雑回避が求められる中、asatteさんはダイナミックプライシングを活用して集客数を減らさずに密集を回避する店舗運営を可能にしています。

また密集を避ける目的以外にも、収益最大化のツールとしてもダイナミックプライシングは注目されるでしょう。しかし、現状飲食店ではダイナミックプライシングの導入により、収益最大化に対して高いパフォーマンスを発揮することは難しいと考えられます。

特に、飲食店のダイナミックプライシングはツール化もなされていないため、もしも導入をお考えの場合は、専門家へ相談することをおすすめします。

参考記事
Jタウンネット東京都
日本経済新聞

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ダイナミックプライシング企業インタビュー01 akippa株式会社

ダイナミックプライシングは現在国内でも話題性が増してきています。情報を耳に入れる機会も増えてきているかと思います。しかし、実際に導入した企業の声を聞く機会はないのでしょうか。

プライスハックでは、ダイナミックプライシングを導入している企業や提供している企業に、直接インタビューをはじめました。

今回はその第一弾、akippa株式会社さんの記事です。

ダイナミックプライシングとは何かを知りたい方は、こちらの記事をご覧ください!

「akippa」とは?

–こんにちは。本日はakippa株式会社様がダイナミックプライシングの導入に至った経緯や、導入してみて感じたこと、そしてダイナミックプライシングの未来についてお聞かせいただけたら、と思います。早速なのですが、ダイナミックプライシングを導入したサービスであるakippaとはどんなサービスなのかについてご紹介ください。

田中:こんにちは。akippa株式会社でサービス運用全般の責任者をしている田中と申します。

さて、弊社のサービスであるakippaとは、「契約の無い月極駐車場」や「マンションの空き駐車場」など、様々なスペースを15分単位又は、1日単位で駐車場として貸し借りできるサービスです。

ビジネスモデルは非常にシンプルで、ドライバー様には会員登録頂き、一方で、駐車場オーナー様にはスペースを登録頂きます。初期費用・月額費用はそれぞれ、完全に無料で、予約が入った際のみにドライバーが駐車料金を支払う仕組みで収益が発生し、akippaは手数料を頂く形となります。akippaのサービスはおかげ様で、それぞれ累計で会員数は190万人、拠点数は39,000箇所と非常に利用されてきております。

akippaのビジネスモデル
akippaのビジネスモデル。ドライバーが駐車場を利用する際に支払いが発生し、その後akippaから駐車場オーナーに、報酬として貸し出し料金のおよそ50%が支払われる

–ご説明ありがとうございます。田中様は、どのようなお仕事に取り組まれているのでしょうか?

田中:先ほど申し上げたように、現在はサービス運用全般の責任者をしています。akippa株式会社への入社後の経歴としては、まず営業マネージャーとして大阪のドミナント戦略の成立に従事した後、社内のプライシングチームを立ち上げ、チームマネージャーとしてダイナミックプライシングをakippaのスタンダードにする業務に従事しました。

現在は、「ダイナミックプライシング」の他に、「カスタマーサクセス」「駐車場の掲載」「事業全体の売上の最大化」の4つを主な領域として日々、事業の成長と向き合いっています。

ダイナミックプライシング導入の経緯

–ありがとうございます。それではダイナミックプライシングの話にうつらせていただきます。まず、そもそもダイナミックプライシングは、akippaの中でどのように活用されているのでしょうか?

田中:「駐車場拠点の一部以外全て」をダイナミックプライシングを利用して、akippaがサービスプラットフォーマーとして値付けしています。

まず、前提としてakippaでの駐車場の値付けは二つに分かれています。日常生活での駐車場利用を想定した「定常料金」と、イベント等での駐車場利用を想定した「イベント料金」の2つです。これらの料金をダイナミックに変動させることで、駐車場単位の売上(単価×稼働率)を最大化させようとしています。例えば、「定常料金」の場合、平日の通勤需要では周辺コインパーキングよりやや低い金額で駐車場料金を設定し、「イベント料金」は休日の有名アーティストのコンサートがある日には、大きく価格を上げるといったイメージです。

–なるほど、それでは何故このダイナミックプライシングを導入しようと思ったのでしょうか?

田中: 結論から申し上げますと、駐車場オーナー様の収益と自社の業績を最大化するのに最適なソリューションだったからです。

akippaでは約3年前に、登録駐車場数とユーザー様の数の大幅な増加に伴い、全国で需給のバランスに応じた料金設定がやりきれていない点が事業課題としてあがってきました。この課題を解決し、需給に応じて収益を最大化する駐車場貸し出しを行える様に、本格的にダイナミックプライシングを開始しました。実は、akippaではサービス開始して間もないころから一部、ダイナミックプライシングによる値付けを導入していました。例えば、「阪神甲子園球場」で「阪神タイガース」の試合がある際には、球場周辺の駐車場料金を値上げするような形です。この実績があったため、3年前に価格戦略を再考した際に、一律料金やオークション価格などの他の価格戦略ではなく、ダイナミックプライシングを信頼でき、導入を決められました。

–本格導入を決めてから、どのように進めていったのでしょうか?

田中:まず、社内に「ダイナミックプライシングチーム」を立ち上げて国内事例等を探しました。しかし、コインパーキングは、看板での価格通知や精算機の設定上の課題があり、細かい料金変更をすることは難しいようで、私の調べた範囲では、しっかりと「ダイナミックプライシング」を導入している事業者様は無さそうでした。また、ホテル等他業界のアルゴリズムを利用しても一定効果は発揮しそうでしたが、やはり自社のデータと完全にマッチするイメージは無さそうでした。これらを踏まえ、「マーケットリーダーとして、しっかりダイナミックプライシングの概念を取り入れ、成立させる必要があるな」と感じたのを覚えています。

そして実際に、以前から行っていたダイナミックプライシングをアップデートして、より需要と供給に応じた価格設定ができるように仕組みを作っていきました。主には、「イベント料金」で参照するイベントや要素の範囲を広げることで、正確に需給に応じた価格設定ができるようにしてきました。

そうした結果、需給ギャップを最小限に抑え、ユーザー様にとってはご納得頂ける価格オーナー様にとっては収益が最大化する価格での運用をしていけるようになりました。もちろん、「全国全ての駐車場で完全に需給バランスを取り切れている」という状況では無いですので、今も料金設定におけるアルゴリズムの調整はし続けていて、日々、PDCAを回している状況です。多くのPDCAを回し、アップデートさせてきたため、今では「akippa」のダイナミックプライシングは日本の駐車場業界ではかなり先行していると感じています。

ダイナミックプライシング導入のメリットとデメリット

–それでは、ダイナミックプライシングを実際に活用してきた中でどんなメリットを感じられましたか?

田中:メリットは何と言っても「売上」が目に見えて上がっていく点です。ユーザー様は様々な要素から「この駐車場を予約しよう」と判断しますが、中でも「場所(立地)」と「価格」は最重要な項目だと考えています。その最重要な項目である「価格」を変更し続けることで、ユーザー様が納得し、かつオーナー様の利益を最大化できる価格で販売することや、利用されていなかった時間帯や場所の駐車場を販売することができていたのです。

これにより駐車場の売上があがることで、駐車場オーナー様や、駐車場を獲得して下さるパートナー様の収益にも繋がるため、ダイナミックプライシングはユーザー様もオーナー様も満足する素晴らしい仕組みだと思っています。

また、ダイナミックプライシングによる自動値付けは、全国の駐車場の価格を正確にかつ素早く決定していくことにも役立ちました。

–ありがとうございます。逆にダイナミックプライシング導入の際に感じた注意点や、気をつけていたことはございましたか?

田中:もちろん、ダイナミックプライシングを活用する中で、注意しないとといけないと感じることもありました。過去に経験したことのない状況で値付けを行う際に、値段を適切に設定することができず、ユーザー様がakippaとは違う駐車場に流れてしまうことが少なからず起きてしまうのです。例えば、新型コロナウイルスの影響で、イベントの集客上限が5,000人とされる、といったケースがありましたが、こういったケースが、過去に経験したことがなく、値付けが難しい状況だったといえます。

このような注意点があったため、akippaとして気をつけたのは、顧客離れを起こさない価格設定と、PDCAの徹底です。ダイナミックプライシングだとしても、ユーザー様に不審に思われる様な価格設定を避けることや、仮に一時的に利用されない価格設定をしてしまったとしても、即時にダイナミックプライシングで価格を設定し直すというPDCAを行いました。

ダイナミックプライシングの未来

–ありがとうございます。近日話題を読んでいるダイナミックプライシングですが、導入企業の目線から、ダイナミックプライシングが世に広がっていくことについてどう思われますか?

田中:我々は「駐車場」の専門家であり、それ以外の産業について構造的に理解しきれている訳では無い前提ですが、多くの産業においてこのダイナミックプライシングは導入されるべきだと感じています。「価格が需給に応じて変更される」という考え方は、社会的に効率的であり、合理性が高いという背景は間違いなくそうだと思います。ただ、価格を決定するプラットフォーマー側の責任は重く、消費者の方に不信感を与えないような設定を常に模索しつづける必要があると感じています。

 まだ多くの産業においてダイナミックプライシングの仕組みは構築されていなくて手探りの状況だと思いますが、関係者で協力して、しっかりとこの概念・市場を成立させていきたいです。どの産業でもオンライン化は進んでいるものの、そこに適応していく企業ばかりではありません。だからこそ、プライシングスタジオさんのようなプライステック事業者様や、実際に導入している我々akippaのような企業がそれぞれの役割を果たしていくことが重要だと思っています。

また別の背景として、akippaは「あなたの”あいたい”をつなぐ」というビジョンを掲げています。このビジョンに対して「駐車場の値段が高くて使えない」といった理由で、会いたい人に会えないという課題を解決する手法としてダイナミックプライシングは収益面だけではなく、ビジョンに沿った手段だと感じています。ビジョンに沿った手段であり、社会的な意義も大きいダイナミックプライシングの概念の浸透には今後も積極的に協力していきたいと考えています。

まとめ

以上がakippa株式会社の田中様に行ったインタビューの内容となります。

ダイナミックプライシングの導入を進める経緯、ダイナミックプライシングが事業に与えるインパクトの大きさ、そしてダイナミックプライシングの未来について、実際にダイナミックプライシング導入企業のお話を届けられたのは、大きな価値があったと感じています。

ダイナミックプライシングに関する高い解像度での理解を促進するため、これからもダイナミックプライシング導入のリアルを、インタビューを通じてお届けします!ご注目ください。

今回インタビューでも取り上げていた、ダイナミックプライシングのメリットデメリット導入に適している企業についてまとめた記事は以下のリンクからご覧になられます。



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日用消費財

自動販売機でのダイナミックプライシング事例を解説

ダイナミックプライシングは様々な業界に、新しい風を吹かせています。しかし、そんなダイナミックプライシングも導入が失敗に終わってしまったことがあります。

この記事では、失敗事例を1つ取り上げて事例を解説し、ダイナミックプライシング導入の失敗要因を見つけていきたいと思います。

そもそもダイナミックプライシングとは何かを知りたい方はこちらの記事をご覧ください。


ダイナミックプライシングの導入失敗

「ダイナミックプライシングを自動販売機に導入する」

アメリカの大手飲料メーカーのコカコーラ社は、20年ほど前に自動販売機でダイナミックプライシングの導入を検討したことがります。しかし、実際にそれが実装されることはありませんでした。先進的な取り組みだと思えた、コカコーラ社のダイナミックプライシング。なぜ失敗してしまったのでしょうか??

以下の記事に、コカコーラのダイナミックプライシングについての記載がございました。これらの情報をもとに、コカコーラ社のダイナミックプライシングの沿革と、失敗に終わる結果となった原因について迫っていきます。

参考記事
Variable-Price Coke Machine Being Tested
why variable pricing fails at the vending machine

コカコーラ社のダイナミックプライシング

ダイナミックプライシング導入の背景

アメリカ合衆国で、コカコーラ社が自動販売機でダイナミックプライシングを導入しようとしていたのは、1990年代後半でした。当時のCEOのダグラスイベスター氏は、喉が乾くような暑い日と、涼しい日だと飲み物の需要が変わると判断し、自動販売機で販売する商品の価格を、気温に応じて価格が変動するダイナミックプライシングにしようと思ったのです。

コカコーラ社のダイナミックプライシングの仕組み

主にダイナミックプライシングでは、変動する商品需要に合わせて価格変更を行うことで、収益最大化につながる値段での商品販売を可能にします。ここで鍵になるのが、変化する需要を予測することです。多くの場合、直前の販売状況や、季節、曜日などによってこの需要予測を行うケースが多いですが、コカコーラ社は、気温が需要予測の指標として利用できると判断したのです。当時の計画では、自動販売機に気温計をつけることで、それによって測った気温に応じて自動販売機の価格が変動するという形になっていました。日ごと、および1時間ごとの価格変更を行い、気温が高い夏の日、気温が高い真昼には価格が上昇する設計だったのです。

確かに、暑い日の方が冷たいジュースが飲みたくなりますよね。少し高くても購入してしまうかと思います。これだけでは、ダイナミックプライシングが失敗するとは思ません。なぜ導入は失敗してしまったのでしょうか?

コカコーラ社のダイナミックプライシング導入が失敗した理由

このコカコーラ社のダイナミックプライシングは、適切な需要予測モデルを利用しており、導入も拡大していけるかと思われました。しかし、実際に導入が拡大することはありませんでした。

その理由は、顧客離れのリスクが大きすぎたためだと考えられます。

とあるインタビューで、当時のCEOダグラス・イベスター氏が開発中だったダイナミックプライシングについて言及したところ、それは大きな波紋を呼びました。インターネット上や、マスコミ、そして競合のペプシなど、世間から大量の批判を浴びてしまったのです。その結果、自動販売機のダイナミックプライシングは、顧客離れを引き起こすと認識せざるを得なく、導入を中止したと考えられます。

それではなぜそのように批判が殺到してしまったのでしょうか?そこには三つ考えられる理由があります。

  1. ダイナミックプライシングによる値上げが顧客に価値を提示できていないこと
  2. 商品の価値自体は変わっていなかったこと
  3. 業界の常識から外れていたこと

批判の原因①ダイナミックプライシングによる値上げが、顧客に価値を提示できていないこと

一つ目の問題点は、コカコーラ社のダイナミックプライシングは、値上げによる顧客へのメリットを提示できなていない点です。そもそも需要の高まりに応じて価格を上げることは、「儲け主義」との不審をいだかれやすいです。欲しい時に商品の値段があげられたら、顧客からしたらムッとしますよね。そのため、ダイナミックプライシングを実施するときは、顧客に「自分たちの利益にもつながる」と納得してもらえるような設計をする必要があるのです。

例えば、配車サービスのUberは、需要が高まった地域、時間帯の価格を向上させるのですが、それによりドライバーの労働インセンティブを刺激し、需要に見合うだけの供給を確保するのです。これは、顧客のサービス満足度向上につながっているため、社会に受け入れられています。

コカコーラ社は、需要が多い時に値上げをすることで、買う人を減らし、自動販売機に並ぶ時間を減らすことができると主張していましたが、そこに魅力を感じる顧客は少なかったようであり、納得感を作ることはできませんでした。

批判の原因②商品の価値自体は変わっていなかったこと

たしかに、コーラの需要は気温によって変動しますが、商品そのものは変わっていません。そのため、「同じ商品を高く買わされる」という印象が強く、批判が起きてしまったと考えられます。

例えば、気温が高い日にはコーラを冷やして高く提供し、そうでない日にはあまり冷やさず安く提供するなど、商品の価値自体が変化したのなら、顧客の納得度は一定高まっていたでしょう。商品の価値の変動に納得感がないと、顧客が商品価格の変動に納得しにくいのです。

批判の原因③業界の常識から外れていたこと

当時、ダイナミックプライシングを導入する飲料メーカーはありませんでした。そのため、顧客が慣れの面から受け入れられなかったうえ、競合からの批判もあったのです。有力な競合他社であるペプシが、

「気候に応じたダイナミックプライシングは、暑い地域に住む消費者の搾取につながる」

「ペプシは、コーラを買いにくくするのではなく、革新を目指す」

といった声明を出していた中でダイナミックプライシングを実行すると、大きな顧客離れにつながりかねません。これはダイナミックプライシングを中止する大きな理由となったでしょう。このように、業界で最初にダイナミックプライシングを導入することはリスクを伴うのです。

 

ダイナミックプライシングには「顧客離れ」のリスクがあります。このケースは、導入した事実によって顧客離れが起きかけた、わかりやすい例です。ダイナミックプライシングが、「企業のもうけのためだけに行われる施策」だととられてしまうと、それを導入する事実によって顧客離れは発生してしまうのです。

このリスクもあり、コカコーラのダイナミックプライシング導入計画は失敗に終わったのです。

こちらの記事では、ダイナミックプライシングと「顧客離れ」という観点から、導入デメリットを解説しています。

まとめ

コカコーラ社のダイナミックプライシング導入計画は失敗に近い形で終わってしまいました。たしかに、コーラは需要に変動性があり、気温に応じて価格を上下させることは、収益最大化に繋がりそうなモデルです。しかし、それが顧客離れにつながってしまう場合、長期的な利益を失うことになってしまうのです。

ダイナミックプライシングは企業の収益最大化に有効な手段ですが、それが顧客の利益にもつながるのか、受け入れてもらえるのかどうかを考えることは不可欠です。今回の事例から得られる教訓を一言でまとめるとこのようになるでしょう

「ダイナミックプライシングは、顧客に価値を感じてもらえないと難しい」

そのため、ダイナミックプライシングに失敗するリスクを回避するには、事前にどんな企業ならダイナミックプライシングを失敗せず導入を成功させられるかを把握することが重要です。

こちらの記事では、ダイナミックプライシングを導入すべき企業の特徴を紹介しています。是非ご覧ください

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その他・価格業界情報

コロナ禍でダイナミックプライシングが大幅促進!?ニュースと事例を総まとめ!

新型コロナウイルスの脅威が続く中、ダイナミックプライシングが様々な業界でニュースになっています。

この記事は、コロナ禍で耳にしたダイナミックプライシングに関わるニュースをまとめ、五つの業界のダイナミックプライシングについて解説しています。是非ご覧ください。

ダイナミックプライシングとは何かを詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください


ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。主に需給の変動に合わせて価格変更を行う形で活用されており、企業の収益最大化や混雑緩和など、多くの価値を発揮しています。

人々の需要が高まった商品や、供給が足りていない商品に対しては、価格を上げて利益を最大化します

一方、人々の需要が小さくなった商品や、供給過多な商品に対しては、価格を下げることで、販売数を増やします
これがダイナミックプライシングの基本です。

新型コロナウイルス拡大によってダイナミックプライシングの浸透が進んだ!?

そんなダイナミックプライシングは、withコロナの現在、導入が拡大されているのです。

これから、3月ごろから7月現在までの、国内のダイナミックプライシングにまつわる話題をまとめて紹介いたします。そして、新型コロナウイルスの脅威がダイナミックプライシングの拡大にどのように影響したのかを解説していきたいと思います。

電車のダイナミックプライシング

電車 ダイナミックプライシング

7月7日、JR東日本がダイナミックプライシングを検討していることが、定例会見で伝えられました。

JRがダイナミックプライシングの導入を検討したことには、二つの背景があるかと思います。

一つ目、直接的な要因は、乗客が減ったことによる減収です。4月に発令された緊急事態宣言により、各社はテレワークを推進し、電車通勤をする人が減りました。これにより、4~6月の鉄道事業の売上高は定期券販売を除くと前年同期比で2640億円落ちるという危機的な状況になってしまいました。この中で、経営状態を改善する施策として、ダイナミックプライシングは検討されました。需要が非常に高くなる時間帯の価格をあげることで、収益増加をおこなうことができると期待されています!

二つ目の要因として、世論の後押しが挙げられるでしょう。もともと、満員電車の混雑問題は、人々にとってかなりストレスフルなものでした。それが新型コロナウイルスの拡大により、ただストレスなだけではなく、解決を求めたい大きな課題となったのです。そこで、ダイナミックプライシングによって、乗客を分散させることが期待されているのです。ダイナミックプライシングにより、需要の週ちゅすうる通勤、帰宅時の料金が上がった場合、企業がもつサラリーマンの交通費負担がかなり大きくなり、時差出勤制を採用する会社が増えることも考えられます。このように、ダイナミックプライシングは電車の混雑緩和につながる可能性があるとされています。5月末に発売された、堀江貴文氏の『東京改造計画』や、都知事選での堀江氏の政策提案などでも、電車のダイナミックプライシングは話題になり、共感を集めました。JRにとって、ダイナミックプライシングが好意的に受け取られやすい土壌ができたのです。

現在検討段階ですが、日本最大規模の鉄道会社であるJR東日本が導入したとあれば、他の鉄道会社が検討し始めることでしょう。導入の形としては、最初はリアルタイムに価格が変動するのではなく、時間帯に応じて異なった料金になる時間帯別価格制として導入されるかと思われます。

また、ダイナミックプライシングを実装する中で、乗客の価格感度の分析も期待されます。それによって改めて乗客の価格への意識を企業が掴めると、互いにとってより良い価格設定がされそうですね!

このような顧客理解というメリットについても↓の記事で解説しています。

参考記事

レイルラボ

特報web

Yahooニュース

飲食店のダイナミックプライシング

飲食店 ダイナミックプライシング

表参道に店を構えているasatteという飲食店は、唯一のランチメニューである日替わり定食をに、ダイナミックプライシングを取り入れました。「三密」を回避することが飲食店にも求められる中、席数を減らさずに密集を回避することを目指して導入したそうです。

  • 需要の集中する時間帯→価格を上げることで、需要を抑える。
  • 需要が小さな時間帯⇨価格を下げることで、需要がピークの時間帯の顧客を呼び寄せる。

このように、一つの商品の価格を、時間帯に応じて複数の値段に変動させることで、混雑状況をコントロールしようとしているのです。asatteさんでは、30分ごとに商品の価格が変わるようで、最も高い時間と、最も安い時間では700円もの価格差があるようです。これにより、導入を開始してまだ間もないですが、これまでのピーク時間にお客さんが集中することはなくなったそうです。

飲食店は、ダイナミックプライシングと相性があまり良くない業界と考えられています。しかし、コロナ禍により、ダイナミックプライシングは混雑緩和のツールとして活躍したのです。

asatteさんでダイナミックプライシングが成果をあげているのは、彼らの独特な特徴が関わってきます。それらについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

スポーツのダイナミックプライシング

スポーツ ダイナミックプライシング

新型コロナウイルスの感染拡大により、無観客試合が続いたプロスポーツ業界ですが、7月ごろより、入場者数を限定した上でのスポーツ試合のチケット販売が開始されました。

ダイナミックプライシングは、そこで活用されました。新型コロナウイルスを受けて導入したのではなく、コロナ以前からダイナミックプライシングで行うことは発表されていたものではありますが、現在やはり観客や世間の話題を呼んでいます。

Jリーグは、新型コロナウイルス感染症対応ガイドラインを設けて営業を再開しました。ここで、密集を避けるために、7月10日から8月1日ごろまでは、集客の上限が5000人と定められました。2019年のJ1リーグの一試合あたりの平均集客数が20751人であるため、J1リーグのチームにとっては、1/4ほどしか集客できないのです。

このように供給可能量が少ない状況なため、収益を得るには、価格を上げて利益を最大化することが重要です。そこで、収益改善の手段としてダイナミックプライシングは注目されているのです。清水エスパルスは、セレッソ大阪戦でダイナミックプライシングをチケット価格に適用させました。価格の変動については、供給可能量が少ないこともあり、値上げが主となったようです。

清水エスパルスは、これでできるだけ高い値段で売り切り、収益の最大化を実施できると考えていたのでしょう。しかし、実際には、値段を高くしすぎたことも関係したのか、チケットは売れ残ってしまったのです。

やはり、販売する側に供給量が少ないという事情があったとしても、消費者が「今回の試合は見に行かなくて良い」と感じてしまうような価格設定になると、売り切ることは難しくなってしまうのでしょう。

このようなスポーツチケットのダイナミックプライシングは、Jリーグだけではなく、プロ野球でも導入され、千葉ロッテが実施するというニュースも話題になりました。

また、ダイナミックプライシングは、試合のチケット以外にも活用されていました。それはドライブインでの観戦イベントの価格です!

名古屋インパルスは、7月12日のセレッソ大阪戦で新型コロナウイルスの影響で、アウェーチームである名古屋インパルスのファンが応援にいけない中、試合を楽しんでもらうために、別会場にてドライブインで映像を通じて試合観戦ができるイベントを開催していました。素晴らしい試みですよね!実はこの参加費用が、抽選で名古屋市民にあたる場合をのぞいて、ダイナミックプライシングによって決定されていたのです。おそらく、パーキングのダイナミックプライシングのように、入場している車の量に応じて価格変動が起きていたのでしょう。

これは、ダイナミックプライシングが、スポーツ業界に根付くであろうことを示す事例です。

参考

FOOTBALL ZONE

名古屋グランパス

朝日新聞デジタル

BASEBALLKING

高速道路のダイナミックプライシング

高速道路 ダイナミックプライシング

高速道路でのダイナミックプライシングは、混雑緩和に活用できるとして近年注目が高まっています。

高速道路の料金にダイナミップライシングを導入することができれば、需要の大きい日や時間帯の料金を高く設定することにより、ドライバーに、時間帯をずらした利用や一般道の利用を促すことができるのです。

そんなダイナミックプライシングを促進するようなニュースが先日出されました!それは、全国の高速道路の全ETC化を国土交通省が検討し始めたことです。これは、混雑緩和のためにも以前から検討されていた事項でしたが、料金所の料金受け取り担当者を経由しての感染拡大を防げることが後押ししたようです。

ETC化が進めば、高速道路でのダイナミックプライシングの実現可能性が高まります。実際、ETC化が今まさに進められようとしているのは、これから東京五輪・パラリンピック開催時などに想定される渋滞対策として、ダイナミックプライシングが求められていることからも

新型コロナウイルス感染爆発前の2020年2月の段階では、五輪期間中の首都高速道路の料金をダイナミックプライシングで行うことが許可されていたのです。時間帯別料金として、競技に影響する6時から22時までは千円割高になる一方、深夜0時から4時までは半額になる予定でした。それを予め告知することで、選手の移動にも使われる、昼の首都高の利用者数を減らし、一方で利用者の少ない夜は利用者が増えるように設計していたのでしょう。

朝日新聞デジタル

日本経済新聞

テーマパークのダイナミックプライシング

遊園地 ダイナミックプライシング

テーマパークは、一部ですが、ダイナミックプライシングが既に導入されていた業界です。国内の例としては、ユニバーサルスタジオジャパン(以下USJ)が有名ですね。繁忙期と閑散期や、平日と休日といった需要に差がでる日に応じてダイナミックプライシングを行っていました。それにより、顧客が不快になるほどの混雑を防ぎ、一方で需要が小さい日に人が流れることを可能にしたのです。

こんな遊園地のダイナミックプライシングに変化が起きるかもしれません。コロナ禍により、東京ディズニーリゾートなどのテーマパークで入場制限が起きています。それらの入場制限があるテーマパークでは、異なった手法でのダイナミックプライシングの可能性が高まっていると考えられるのです。

6月23日、東京ディズニーリゾートが7月1日より営業再開することが発表されました。しかし、密集を避けるために、入場者数は50%以下と制限されてしまいました。チケットがオンラインで発売されると、すぐに上限に達して売り切れるようになってしまう状況があります。

顧客が半分ほどしか来ない状態では、収益があまり望めません。その中で、収益最大化のツールとして、USJのモデルに近いダイナミックプライシングを導入することも効果がなさそうです。今の価格では需要が供給(入場者数の上限)を下回るタイミングがないため、値下げが効果を発揮しません。需要が低い日の集客数を増やす、ということができないのです。

この中で、収益を拡大するためには、イールドマネジメントと呼ばれるダイナミックプライシングの手法が役に立つと思われます。それは、ホテルや飛行機のダイナミックプライシングで利用されている手法で、予約状況、チケットの残り枚数に応じて段階的に値上げ、または値下げを行うことで、できる限り高い価格で売り切ることを目指せるのです。この手法を使うことで、限られた入場者数で最大の収益をあげることができるのではないでしょうか。

ディズニーランドを筆頭に、入場制限のある遊園地で、イールドマネジメント型のダイナミックプライシングが広がるのかもしれませんね。

トラベルボイス

パッケージツアーのダイナミックプライシング

ツアー ダイナミックプライシング

航空輸送事業などを行うANAグループは、「ANAダイナミックプライシング」として、国内線の航空券とホテルの料金をまとめたパッケージツアーのダイナミックプラシングを開始しました。355日前から、出発前日までツアーチケットを購入することができ、その買うタイミングによってリアルタイムに値段が変動するのです。

これは昨年から発表されており、コロナに合わせて作ったプランではないようですが、7月のタイミングでYouTubeなどで広告を活発化させたのは、Go toキャンペーンにあわせてのものかと思われます。また、今は旅行に行きたくない顧客からもキャッシュを確保するという文脈からも、この355日前から予約可能という点から顧客に訴求しようと思った可能性も想定できます。

ANA

新型コロナのダイナミックプライシングへの影響まとめ

新型コロナウイルスにより①企業の収益減②密集回避が求められるようになる という状況が作り出されました。

この中で、ダイナミックプライシングは

  1. 収益最大化
  2. 密集回避

のツールとして注目されるようになったのです。さらに、コロナ関係でダイナミックプライシングが話題になると、コロナ収束後のダイナミックプライシングや、密集回避に関係ないものに対してのダイナミックプライシングも、社会がそれを受け入れやすくなります。これによりダイナミックプライシングはさらに拡大していくことが予想されます。

また、ダイナミックプライシングを導入する際は、顧客との対話を忘れてはいけません。企業の都合で値上げしたとしても買ってもらえないうえ、顧客離れを起こしてしまう危険性もあります。ダイナミックプライシングは強力なソリューションだからこそ、徹底して顧客のことを意識する必要があるのです。

今回紹介した事例以外にも、マスクの高騰など、私たちの日常にダイナミックプライシングは大きく関わっています。

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この記事でも紹介した、「ダイナミックプライシングが混雑緩和に果たす役割」に関しては、下の記事でより詳しく解説しています。

またダイナミックプライシングの導入を検討しているかたは、下の記事をご覧ください。