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ディズニーランドのチケット値上げから学ぶプライシング戦略

(この記事は、ディズニーランドのチケットから学ぶ上手な値上げの方法とは?ディズニーのプライシング戦略についての解説記事です)

2021年9月にディズニーチケットの最大700円の値上げが発表されました。現在の価格が約8,000円なので驚く方も多いと思いますが、開業当時のチケット価格はなんと3,900円でした。1983年から100円、200円など少額の値上げを繰り返した結果今のチケット価格になったのです。今回は、なぜディズニーがこのような少額の値上げを繰り返していったのかについて紐解いていきます。

【この記事の結論】
・少しの値上げの積み重ねが大きな収益につながる!
・ディズニーは1〜2年のスパンで価格を見直している!
・値上げは正しく行えば問題ない!

チケット価格と来場者数の変遷

定期的に値上げを行っているのにも関わらず、ディズニーの来場者数は減っていません!

ディズニーランドはお客さんが離脱しないギリギリの価格まで値上げをするということを徹底しています。その結果、毎回の値上げが100円や200円といった小さいものになっています。次の図は各年のディズニーの来場者数をまとめたものです。定期的に値上げを行っているのにも関わらず、来場者数は3,000万人前後で安定してほとんど減少していません。

値上げが収益に与えたインパクト

ディズニーが値上げをしていなかった場合について考えてみます。2016年に500円の値上げを実行していますが、もしこれを行なっていなかったらどうなるでしょうか。
ディズニーの来場者数は年間約3,000万人です。年間3,000万人×500円なので、この値上げをしなかった場合150億円の利益を機会損失をしていたことになります。見方を変えれば、この値上げによって150億円の増収に成功したとも言えるでしょう。

ディズニーの場合、100円の値上げでも成功すれば30億円売り上げが増加します!

内的参照価格とは

「今より追加でいくら払えるか」を基に決めた価格のことを内的参照価格といいます!

お客さんは今払っている金額をもとに過去の経験から「いくらまでなら追加で払えるか」を考えます。このように決められる参考価格を内的参照価格といいます。
内的参照価格に基づいてお客さんは意思決定を行うことが多いので、大幅な値上げをすることはお客さんの支払い意欲を落としてしまい現実的ではありません。

短期スパンでの価格変更

そんなに頻繁に値上げして大丈夫?と思うかもしれませんが、それが値上げ成功の秘訣です!

ディズニーがとても短いスパンで値上げを行っているのにもかかわらず入園者数が安定しているのは、先ほど説明した内的参照価格にそった値上げを行なっているからです。一気に1,500円の値上げをした場合客離れが考えられますが、少額の値上げなのでそれを避けられています。
お客さんが払える範囲内で少しずつ値上げをしていくことで、ディズニーは長期的な収益インパクトを創り出すことができました。この例のように1年や2年に1度、プライシングを見直す機会を設けることが非常に重要です。

まとめ

・少しの値上げの積み重ねが大きな収益につながる!
・ディズニーは1〜2年のスパンで価格を見直している!
・値上げは正しく行えば何の問題もない!

これら3つのポイントを、ディズニーの価格戦略から学ぶことができました。

「追加でいくらまでなら払ってくれるか」を定期的に考えて、長期的なスパンの値上げも考えてみましょう!

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SaaSのプライシング成功事例について解説します

(この記事は、SaaSのプライシング成功事例について解説しますの解説記事です)

今回はSaaSのプライシングについて解説します。
成功している企業がどのように価格を決めていったのか、どのようにすればプライシングを成功できるのか、実際の事例を用いつつ説明していきます。

【この記事の結論】
・価格の耐用年数は非常に短いので定期的に価格を見直すことが重要!
・SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分!
・SaaSのプライシングは関係する部門が非常に多くて難しい!

SurveyMonkeyについて

今回紹介するSurveyMonkeyはアンケート配信ツールを提供していることで有名なSaaS会社です!

今回紹介するのはSurveyMonkeyの事例です。「なぜ彼らがうまくいったのか」や「どのように価格を決めていったのか」について、ネット上に公開されていた情報を整理して解説していきます。

価格改定を行った要因

彼らが価格改定を行った要因は以下の3つです。

【要因1】
競合他社が価格を変更しているにも関わらずSurveyMonkeyでは価格を変えていなかった。
【要因2】
プロダクトの開発速度が速くてお客さんがついて来れていなかった。
【要因3】
顧客の80%が個人的な目的ではなく法人のビジネスシーンで活用していた。

お客さんに「追加でお金を払ってでもこんな機能が欲しい!」と挙げられた機能が既に開発済みだったなんてこともあったそうです。

価格を変えてどうなったのか?

得られた効果を見てみると非常にインパクトがあった成功事例と言えるでしょう!

価格変更を行った結果、以下のような効果が得られたそうです。

【効果1】
年間プランの利用者が77%から85%まで大幅に増加した
【効果2】
ARPUが423ドルから483ドルへ104%増加した。
【効果3】
個人利用から法人利用へのスムーズなセルアップにつながり法人向けの売り上げが128%増加した。

(ARPUはAverage Revenue Per Unitの略であり、「ユーザー1人当たりの平均売上金額」を表す数値。)

なぜ価格を変えるのか?

価格の耐用年数は非常に短いです。そのため、1, 2年に1回は価格を見直す必要があります!

価格の耐用年数が短い理由の一つとして「開発スピードが非常に速い」というものが挙げられます。機能が追加されていくにつれてサービスの価値は上がっていきますし、使ってくれるお客さんの幅も広がっていきます。幅広いニーズに対応するため、また価格の機会損失を生まないようにするためにも定期的に価格を見直す必要があります
また、価格を見直すことでサービス提供側の意図通り使ってもらうことができます。今回の事例で言うと、価格を見直すことで個人利用から法人利用に移行してもらうことができました。

SurveyMonkeyも開発スピードが非常に速かったが故に価格改定を迫られることになりました。

なぜSurveyMonkeyは成功したのか?

SurveyMonkeyの成功要因は以下の3つであると分析しています!

【成功要因1】
全社を巻き込んだプロジェクトにした。
【成功要因2】
調査の手法が適切であった。
【成功要因3】
顧客対応を適切に行った。

以下で1つ1つ詳しく解説していきます。

成功要因1~全社を巻き込んだプロジェクト~

SurveyMonkeyでは、リサーチ・プロダクト・開発・営業など合計7つの部門が価格改定に関わりました。まさに全社を巻き込んだプロジェクトと言えるでしょう!

価格は様々な事業の至るところに影響を与えます。そのため全社を巻き込んだプロジェクトとして行い、価格に関わる多くの人が納得できる座組を作ることが重要です。
経営層だけで価格を決める場合はスムーズな意思決定を行うことができますが、この方法では価格に関わる多くの人が納得できる座組を作ることが難しいです。価格変更を全社を巻き込んだプロジェクトとして扱うことの難易度は高いですが、それが価格変更の成功に繋がります

成功要因2~調査手法~

SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分です。他のアプローチと併用しましょう。

SurveyMonkeyは調査として、以下の3つを行ったそうです。

【調査手法1】
顧客セグメンテーション
【調査手法2】
質的インタビュー
【調査手法3】
PSM分析

ここで注意が必要なのは、SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分ということです。SaaSは価格体系の選択肢が多岐に渡るので、PSM分析のみで価格を決めるのは非常に難しいです。PSM分析とあらゆるアプローチを組み合わせて考えていく必要があります。SurveyMonkeyの場合、顧客セグメンテーションと質的インタビューを行うことでPSM分析の精度を高めて価格を決めることに成功したと言えます。PSM分析については以下の記事で詳しく解説しています。

成功要因3~顧客対応~

SurveyMonkeyでは、値上げに対して既存の顧客がショックを受けないように段階的に新プランに移行し包括的にコミュニケーションを実施しました。この戦略によって、最終的にはほとんど解約が生まれなかったと言われています。

まとめ

今回は事例を交えつつ、SaaSのプライシングをどうやって決めるかについて解説しました。SaaSのプライシングは関係する部門が非常に多かったり従来のPSM分析だけでは通用しなかったりと非常に難易度が高いです。ですが、Survay Monkeyさんが注視した観点を参考に価格を決めていくと非常に優れたプライシング戦略を作ることができると思います。是非みなさんもプライシングに挑戦してみてください。

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高級ブランドの商品が高額でも売れる秘密

(この記事は、ヴィトンやフェラーリが高くても売れる理由。高くても売れる商品の理由とは?の解説記事です)

一般的に価格が高いほど需要は下がっていきますが、高級ブランドにはこれが適用されません。今回は、なぜ高級ブランドの商品が高くても売れるのかについて解説していきます。

【この記事の結論】
・価格は品質指標になる!
・価格が品質指標になる要因は「経験」「比較しやすさ」「コストプラス心理」の3つ!
・高い価格に設定することで威光効果が得られる!

価格が品質指標になる

価格は品質指標になり得るので、一概に安くすれば売れるというわけではありません。

商品によっては価格が品質指標になることがあります。家具・カーペット・シャンプー・歯磨き粉・コーヒーなどがその例です。皆さんも高いカーペットやコーヒーの方が良いものに感じた経験があるのではないでしょうか?その他にも購入したことのない商品やほとんど購入しない商品の場合、お客さんにとって価格が品質指標になりやすいと言われています。そのため必ずしも安ければ良いというわけではなく、価格を高くすることで品質指標が高いとお客さんに評価されやすくなります。
例えば、ある電気カミソリを販売している会社が当時業界トップだった会社の価格に合わせて大幅に値上げをしたところ売上が4倍になったという事例もあります。

価格が品質指標になる3つの要因

価格が品質指標になる要因は以下の3つです。
・経験
・比較しやすさ
・コストプラス心理

それぞれについて詳しく解説していきます。

経験 〜価格が品質指標になる3つの要因①〜

「高い商品を購入して高い満足度が得られた」という経験をしていると価格を品質指標として捉えやすくなります。例えばいつもより高い電子レンジを買ったとします。普段だと2年で壊れていた電子レンジが4年も使えたという経験をしていると、高いものは良い商品だと消費者は認識しやすくなります。

比較しやすさ 〜価格が品質指標になる3つの要因②〜

価格が固定されていて交渉の余地がない場合、価格によって商品を客観的に比較することができます。スーパーでは価格が品質指標になりますが、フリーマーケットやバザーなど価格交渉が行われる場では価格が交渉によって変わってしまうため品質指標になりません。

コストプラス心理 〜価格が品質指標になる3つの要因③〜

コストに対してどれぐらい上乗せしているのかという風に消費者は考える傾向があります。これをコストプラス心理といいます。飲食店で1000円のステーキを食べたときに、大体いくらぐらいの肉を使っているのだろうかと無意識のうちに考えてしまうのがこれに該当します。なので、金額が高いと良いものを使っているという風に思ってもらいやすいです。

価格が生み出す威光効果

あえて価格を高くすることで、その商品や企業の印象が良く見えることがあります!

価格が品質指標になることを応用したテクニックとして威光効果があります。威光効果とは、一部の特徴によって全体が実際以上に良いと感じてしまう現象のことを言います。
プライシングにおける威光効果は、価格がその商品や企業の印象に影響を与えて結果的に良いサービスだと思ってもらえる仕組みのことを指します。これをうまく使っているのがLOUIS VUITTONやFerrariです。

威光効果を利用した価格戦略

最初から威光効果を利用することは難しいです。サービスの向上とともに価格を上げていきましょう!

当然ですが、高い価格に設定することでコスパが悪い・値段に対して見合っていないと思われてしまう危険性もあります。そのため、ただ高く売ればいいというわけではありません。値上げを行う際は以下の2点が重要です。

・お客さんがいくらまでなら払ってくれるのかを考える。
・サービスが向上するタイミングで値上げを行う。


サービスは企業努力によってどんどん良くなっていきます。サービスが良くなるとお客さんの支払い意欲も上がるので、その時に少しずつ値上げをしていきましょう。最初は数百円の値上げが、積み重なると数千円・数万円の差、BtoBのサービスであれば数百万円の差になることもあります。小さい値上げを繰り返した結果、いつの間にか高い商品になり初めて威光効果が生まれます。

まとめ

今回は価格が品質指標になるということと、それを上手く使ったプライシングのテクニックである威光効果について解説しました。是非サービスの向上に沿って値上げを行ってみてください。

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Netflix値上げの理由とプライシング戦略を徹底解説

(この記事は、【徹底分析】Netflixはなぜ値上げしたのか?そのプライシング戦略を解説しますの解説記事です)

今回は「Netflix」のプライシング戦略を考察します。2021年2月に行った値上げの意図はなんだったのでしょうか?また、Netflixは1〜2年おきに価格を変更していますが、何故これほど頻繁に価格を変更しているのでしょうか?今回は、なぜ値上げを行なったかについて説明していきます。

【この記事の結論】
1.顧客の感じるNetflixの価値が上昇したため、値上げに踏み切った!
2.顧客の支払い意欲の分析をプランごとに行い、利益を最大化している!
3.事前に値上げを通知することで、顧客に配慮している!

なぜ値上げをしたのか?

Netflixは新しいコンテンツに投資するために、定期的に値上げを行っています!

Netflixは次のような好循環を狙って値上げしたと考えられます。

値上げによる利益の増加→サービス向上のための投資→ユーザーの満足度向上→ユーザーの支払い意欲向上→値上げによる利益の増加→・・・

値上げを行なった際にユーザーが減らなければその分利益が上がります。そこで得た利益を新しいコンテンツ、例えばNetflixオリジナルコンテンツに投資することでサービスの質を向上させ、ユーザーの満足度も向上させることができます。するとさらに高い価格を支払ってでもサービスを利用したいというユーザーが増え、さらに値上げを実行できるようになります。この好循環を作り出すことこそがNetflixの狙いです。今回の値上げも、この戦略の一環として行われたと考えられます。

ディズニーランドもNetflixと同じように値上げを行っています。こちらについては別記事で解説しているので、そちらをご覧ください。

この価格にした理由

次に、なぜNetflixがベーシックプランを990円、スタンダードプランを1,490円、プレミアムプランを1,980円に設定したのかについて説明していきます。

具体的にどのような調査を行い、どのようにして価格を割り出したのでしょうか。価格決定までの手順は大きく分けて以下の3つです。

手順1. アンケートの実施
手順2. アンケート結果をもとにPSM分析
手順3. PSM分析の結果をもとに価格を決定

今回、当社はNetflixのユーザー150人に対しアンケート調査を実施し、その結果を元にPSM分析を実施しました。分析結果を表にまとめたので、それを見ながら説明していきます。

PSM分析について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

プランごとの分析

ベーシックプラン

ベーシックプランについて、100円の値上げで売上を10%増やすことに成功しました!

図1:ベーシックプランのPSM分析       変更前:880円→変更後:990円

図1は、100円単位でベーシックプランの価格を変更していった場合、売り上げがどの程度変化するのかをシュミレーションしたものです。

なぜベーシックプランは880円→990円に価格変更されたのでしょうか?この図をもとに、いくらまで値上げすることが最善だったのか考えてみます。【許容ユーザー比率】と【値上げ前価格との売上比率】この2つに注目してみましょう。

【許容ユーザー比率】について、990円に値上げした場合92%であり、880円の94%と比較して2%ほどしか減少していません。一方で1,090円まで価格を引き上げた場合82%と、値上げ前に比べて10%も顧客が減少してしまうことがわかります。

【値上げ前価格との売上比率】について、990円に値上げした場合110%、1,090円まで価格を引き上げた場合108%であることが読み取れます。どちらの場合も売上は上がりますが、990円に値上げした場合の方が売上が増加することが分かります。

以上の結果を踏まえると、990円に値上げした場合はユーザー離れを抑えつつ利益を増やすことが出来ると言えます。また、10%のユーザーを失う上に利益が最大化されていない1,090円の価格設定は相応しくないと言えるでしょう。
Netflixは100円の値上げで従来通りのサービス内容のままユーザー離れを防ぎつつ利益を10%増やすことに成功したと言えます。

スタンダードプラン

スタンダードプランについても、170円の値上げで利益を10%増やすことに成功しました!

図2:スタンダードプランのPSM分析        変更前1320円→変更後1490円

なぜスタンダードプランは1,320円→1,490円に価格が変更されたのでしょうか?ベーシックプランと同様に図を見ていくと、【許容ユーザー比率】が1,490円〜1,590円の間で、91%から77%に大きく減少することがわかります。また、【値上げ前価格との売上比率】も、1,490円〜1,590円の間で110%から99%に減少してしまいます。1,590円まで値上げしてもユーザー離れが大きい割に売上も伸びないので、1,490円で値上げをストップすべきであると判断できます。この価格変更により、Netflixは新たに10%利益を向上させることができました。

プレミアムプラン

プレミアムプランは1,980円で価格が据え置きされました!


図3:プレミアムプランのPSM分析            1980円で価格据え置き

プレミアムプランは1,980円で価格が据え置かれました。これまでと同様に図を見ていくと、1,980円から2,080円に100円値上げした場合【許容ユーザー比率】が 89%から78%に減少し、【値上げ前価格との売上比率】も100%から92%に減少することがわかります。このことから利益が最大となる価格は現在の1,980円であると分かり、Netflixは価格を据えおいたと考えられます。

プレミアムプランは本当に値上げの余地はないのでしょうか?10円単位でPSM分析を行ってみます。

図4:プレミアムプランのPSM分析(10円単位)      1980円で価格据え置き

図4を見ると、2,000円まで20円値上げした段階で、【許容ユーザー比率】が89%から78%に大きく減少することが読み取れます。10円の値上げによるインパクトはそこまで大きくないため、わざわざ値上げはせずに、今回は価格を据え置いたと考えられます。

値上げの際にNetflixが行っている工夫

値上げには消費者の負の感情が伴う場合があります。そのためNetflixはできるだけ顧客に納得してもらうための工夫をしています!

一般的に顧客は値上げに抵抗を感じます。それを少しでも軽減するために、Netflixは1ヶ月前にメールで告知してから値上げを実行しています。いきなり価格を上げずに、事前に告知をして顧客の感じる値上げへの抵抗感を少しでも和らげようとしています。

まとめ

【この記事の結論】
顧客の感じるNetflixの価値が上昇したため、値上げに踏み切った!
顧客の支払い意欲の分析をプランごとに行い、利益を最大化している!
事前に値上げを通知することで、顧客に配慮している!

Netflixは度重なる価格改定により、プロダクトの価値を上げる好循環を作っていることがわかりました。価格変更は利益の向上に効果的な手段の一つです。積極的に取り組みましょう!

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いきなりステーキの緊急値上げを徹底解説

(この記事は、いきなりステーキがいきなり値上げした件についてプライシングのプロが解説しますの解説記事です)

1年ぶりにいきなりステーキが値上げを発表しました。今回は、それについてモノ申します!

【この記事の結論】
価格変更で重要なのは、顧客が離れないかどうか!
・飲食店は顧客の支払い意欲を定期的に分析すべき!

今回の値上げに対して我々が価格調査を行なったわけではありません。そのため、値上げ後の価格が顧客離れの起こるラインを超えたか否か正確なところは分かりません。

値上げに至った経緯

まずは、今回の値上げがどのような手順や理由で行われたのか説明します。


2021年12月1日にいきなりステーキはホームページ上で値上げを発表し、その日から値上げを実行しました。値上げの原因は牛肉価格の高騰とされています。原材料費の高騰による値上げは仕方ないものですが、値上げの手順は適切だったと言えるでしょうか?

顧客視点で考える今回の値上げ

発表した日に値上げを実行するという、顧客からすると非常に急な値上げとなりました。

原材料費の高騰による値上げは仕方のないものですが、顧客目線で考えると値上げ自体は喜ばしいことではありません。サービス提供者側の言い分も理解できますが、事前に対策を打って価格を設定した方が適切だったと考えます。

値上げを行う上で最も大切なこと

値上げを行う上で最も大切なことは「価格を上げてもお客さんが離れない」ことです!

このことから、飲食店のように原材料費の急な高騰が起こり得るビジネスでは顧客が自社のサービスに対して「いくらまで払ってくれるか」を常に把握しておくことが非常に重要です。そのため、1年に数回、定期的に顧客の支払い意欲調査を実施しましょう。

顧客の支払い意欲の調査方法

顧客の支払い意欲を調べる方法として、PSM分析があります。


調査方法としてはPSM分析などが挙げられます。これを活用することにより「いくらまでなら値上げしても買ってくれるか」を知ることができます。このような分析によって顧客の支払い意欲を把握できていれば原材料費の急な高騰が起きても確信をもって値上げに踏み切ることができます。詳しくは関連記事をご覧ください。

今後のプライシング戦略

とはいえ、いきなりステーキは値上げに対してしっかりと工夫も凝らしています。

具体的には期間限定の値下げを行うそうです。これは基本価格を基準よりも高めに設定し、クーポンや割引を中心に販売していくプライシング戦略です。消費者が割安感を感じるため有効な価格戦略となり得ます。一方で、定価で売らずに割引でのみ販売すると法律に触れる可能性があるためこの戦略を用いる際は注意が必要です

まとめ

価格変更で重要なのは、顧客が離れないかどうか!
・飲食店は顧客の支払い意欲を定期的に分析すべき!

本日はいきなり値上げをしたいきなりステーキについて説明しました。原価高騰による緊急の値上げも、PSM分析をはじめとした分析を定期的に行っていれば顧客を失わずに行えるでしょう。顧客目線を常に意識し、最適なプライシングを目指しましょう!

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米国のSaaS企業の料金表のトレンドは?

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

米国の主要なSaaS企業の料金表にはどういう戦略の上で、作成されているのでしょうか。今回、Salesforce、Slack、zoomなど、時価総額上位50社の企業を調べてみました。

調べてみたSaaS企業はこちら

ここからいくつかのことがわかったので、考察していこうと思います。

<この記事の結論>

・料金表を公開している企業のうち、プラン数が3-4プランになっている企業は76%

・料金表を公開している企業の100%が、無料トライアルを採用

・料金表を公開している企業のうち、82%が従量課金モデルを採用

料金表を公開していた企業は34%

米国の時価総額上位50社のSaaS企業の料金ページを調べたところ、具体的な料金表を公開している企業は全体の34%で、残りの66%の企業は、具体的な料金表を公開していませんでした。

また、料金表を公開している94%の企業が、PLG型ということがわかりました。PLG型とは?

PLGはProduct-Led Growthの略で「プロダクトがプロダクトの価値を伝える」戦略を用いている企業のことを指します。例えばzoomやslackなど、主に個人単位でサービスを展開しており、顧客自身が自由に登録できるようになっています。そのため他社と比べて、拡散が早く、成長速度が速いことが特徴です。

以降、料金表を公開しているPLG型の企業に絞って考察を進めていきます。

公開企業のうち、プラン数が3-4プランになっている企業は76%

料金表を公開している企業が提供するプラン数について調べたところ、3-4プランになっている企業が全体の76%を占めていました。

実際、米国のトップVCであるAndreessen Horowitz(a16z)がPLG型のSaaS企業向けに書いたプライシング記事によると、PLG型の場合、試行錯誤するうちに、だいたい3-4プランに収束していくようです。

この記事では、PLG型企業のプライシングにおいて、ユーザーが初めて製品に触れてから、その製品がユーザーの組織で使われるまでの段階である「ユーザージャーニー」を理解することがとても重要だと言われています。「ユーザージャーニー」は4段階に分かれており、それぞれ次のように説明されています。

(出典:Andreessen Horowitz)

TIER1で無料トライアルやフリーミアムでOrganicの母数を増やし、そこからTIER4へスムーズに移行してもらえるような導線を作ることが重要だそうです。

顧客にスムーズに移行してもらうには、このように3-4プランに設定し、導線を作るのが良いとされています。

公開企業の100%が、無料トライアルを採用

先ほど紹介したAndreessen Horowitzの記事では、PLG型のSaaS企業では、リードを獲得する為の方法として無料トライアルやフリーミアムを実施するのが一般的とされていました。

実際、料金表を公開している企業のうち100%が無料トライアルを採用していました。

無料トライアルとフリーミアムの違い

無料トライアルとは、「14日間無料」のように期間に制限をつける一方、機能には制限をつけずサービスを無料で体験することができる仕組みです。

それに対しフリーミアムとは、40分までなら無料で使えるzoom meetingのように、機能に制限をつける一方、期間には制限をつけないでサービスを無料で体験することができる仕組みです。

何故フリーミアムより無料トライアルの方が主流なのか

フリーミアムより無料トライアルの方が主流な理由として、無料トライアルの方がCVRが高く、比較的容易であることが考えられます。実際、PayPalの元創設COO兼製品リーダーであるDavid Sacksは、市場に口コミやバイラルでの広がりが期待できる場合はフリーミアム有効ですが、下記のようなデメリットもあると言い、無料トライアルを推奨しています。

デメリット

1.無料版を魅力的にしすぎると有料版を使ってもらえない

顧客が価値を感じるポイントをしっかりと理解し、顧客がさらに使いたいと思うように設計することが大切です。

2.機能面のペイウォールの作成と維持に多くのリソースを割く必要がある

新しい機能がリリースされるたびに、製品チームは何が無料で何が有料かを決定する必要があります。

3.収益化が難しい

有料版が無料版と比較して魅力的なプロダクトである必要があるため開発コストは高くなります。またリードが収益を生み出すアカウントに変換されるまでに、数か月または数年かかる可能性がある場合、このマーケティングのROIを評価することは困難です。

この点、無料トライアルではこれらの制限に悩む必要がないと言われています。無料トライアルは、期間を限定し有料版への移行の意思決定を、ユーザーに迫ることができため、CVRが比較的高くなります。(フリーミアムのCVRが3-5%なのに対し、無料トライアルは10-20%)

また、製品への実装、販売やマーケティングとの調整も比較的容易な為、David Sacksは無料トライアルを推奨しています。

公開企業のうち、82%が従量課金モデルを採用

料金表を公開している企業の価格体系を調べたところ、82%の企業が従量課金モデルの価格体系を用いていました。

従量課金モデルとは

ユーザー数や使用時間などの利用した“量”に“従”って課金する、価格体系です。顧客が「使った分だけお金を支払う」仕組みです。例えばDatadogでは料金表は次のように使用料に応じた料金が表示されています。

(出典:Datadog)

従量課金モデルがトレンドになっている理由

openviewは、従量課金がトレンドになっている理由として次のようなことをあげています。

1.NDRが高い

顧客の会社規模が、売り上げの天井になることがないため、仮に売上規模が上がったとしても、普通のSaaS企業よりNDRが高く、売上成長率が高くなりやすいといわれています。従量課金モデルではアップセルがしやすいため、NDRが平均的なSaaSより9%高いとされています。

2.高い成長を維持できる

従量課金モデルを採用するSaaS企業はNDRが高いため、上場後も高い成長を維持し、平均的なSaaSより8%高くなると言われています。

3.高いプレミアムがついている

1.2などのことから、マルチプルが平均的なSaaS企業より50%高くなっています。

まとめ

今回米国の主要サービス企業の料金ページをリサーチしてわかったことについて紹介しました。プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。

価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

 

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国内のサブスク200サービスの料金表/プライシングのトレンドについて調べてみた

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

料金表のトレンドを知っておくことは、自社の料金表を検討する際、非常に重要なことであると考えています。そこで、今回は国内のB2Cサブスクリプションサービスのトレンドをご紹介しようと思います。是非お付き合いください。

調査対象

今回は、国内サービスで、資本金3億円以上、ARR(年間経常収益)2億円以上の1つ以上にに該当する企業200社に絞って調査を行いました。主な領域は以下になります。

契約期間の状況

まず、契約期間についてです。

今回調査した企業のうち、80%の企業では1ヶ月契約のみのプランが採用されているようです。自動更新にしている場合がほとんどですが、年間契約が少ないのはB2Cサービスならではの傾向と言えるでしょう。

逆に年契約のみのサービスは、サービス利用にはモノが必要で製造原価が大きくかかり、長期間契約されないと利益が出ない構造になっているビジネスにおいて採用されていました。アプリケーションなどの、いわゆるインターネットサービスにおいては1ヶ月契約が主流となるようです。
Ex)キリン ホームタップ

(出典:キリンホームタップ)

料金プランの種類

料金プランの種類を見ていくと業界毎に傾向が別れました。そこで、料金プラン毎に考察していきます。

【単一プランが多い業界】
飲食、オンラインレッスン、ナビ、音楽、書籍、動画、ヘルスケア、レシピ、医療、見守り、専門家相談、ニュースなど
Ex)ディズニープラス

【段階利用量プラン X 機能別プランが多い業界】
ファッション、不動産
Ex)ブリスタ

(出典:Brista)

機能(今回の場合は借りられる服の数)に加え、ポイントの購入で追加利用ができるサービスがこれに該当します。このモデルはサブスクリプションのストック収益に加え、購買意欲の高い層からより多くの収益を得ることができるモデルのため、工夫次第では大きな武器になります。ただし、あくまでも通常のプランにユーザーが満足していることが大切になります。

他にも、年齢によって価格を変えたり(主に音楽業界)、性別によって変えたり(主にマッチングアプリ)、Netflixのようにアカウント数で料金を変えたりと、支払い意欲が異なるセグメント毎にプランを分けたり、顧客が価値を感じてくれている変数に基づいて価格を変えたりする企業も散見されました。
Ex)AWA

(出典:AWA)

このように、顧客のWTP(支払い意欲)が異なるセグメントの特定や、WTPに影響を与える変数を私たちはプライスレバーと呼んでいますが、これを特定することがサブスクリプションのプライシングを考える上で、非常に重要になります。

オプション課金の有無

次に課金オプションの有無について調べてみました。最初に採用率について調べたところ、次のようになりました。

驚くべきことは、91%の企業がオプションによる課金を採用していないことです。サブスクリプションビジネスは、価格体系がシンプルが故に、全ての顧客セグメントのニーズに対応できない場合が多いです。オプション課金は、多くのニーズに対応することができるかつ、客単価アップに繋がるため、多くの企業に検討の余地がありそうです。

Ex)AmazonPrime Video チャンネル内で月額499円支払うことで、1950~90年代の懐かしの特撮ヒーロー等の作品を視聴できる「マイ★ヒーロー」は、子ども向けのコンテンツを必要としており、そのためにはもっとお金を支払ってもいいと考えている顧客セグメントの単価アップに成功しました。これはオプション課金の好例と言えるでしょう。

一方、オプションを採用している9%の企業は新たな機能の追加による課金(以下、機能追加オプション)と、利用量による課金(以下、利用料追加オプション)の二種類となっていました。

利用量追加オプション

利用量追加オプションは、月額料金で決められた範囲内で利用し放題、範囲を超える分に対し、追加で課金が発生するオプションです。
Ex)港区自転車シェアリングの月額会員 延長料金

(出典:港区自転車シェアリング)

ちなみに、利用量追加オプションはモビリティサービスやマッチングサービスなどの業界に採用されていました。

機能追加オプション

機能追加オプションは、月額利用料に加え、追加で課金することで、他の会員が利用することができない機能を利用することが可能になるオプションです。アプリ内のアイテムが買えるポイントを購入する場合もこれに該当します。
Ex)Omiaiのポイント

(出典:Omiai)

機能追加オプションはマッチングサービスなどで採用されているようです。

ディスカウントの有無

最後に割引について調べて見ました。まずは採用率です。

割引は全体の30%の企業が採用しているようです。

期間で割引を行う企業は95%

割引は14日間無料といったような一定期間で割引が適応されるものと、連携サービスの利用をすることで適応されるものの二種類あるようです。
Ex)連携サービスによる割引の例 ウェザーニュース

(出典:ウェザーニュース)

ちなみに、ほとんどの場合において、一定期間での割引が採用されています。

ちなみに、期間で割引を行う企業は、どのくらいの期間で採用しているのでしょうか。次は期間ごとの割引の比率について調べてみました。

このように、割引を実施している企業のうち67%の企業が初月の割引を採用していました。最後に補足で、最初の2週間や2ヶ月など、初月以外の期間で割引を行う企業の割引日数の平均を出してみたところ、19.9日になりました。初月以外だと、2-3週間の割引が平均となるようです。

まとめ

今回は国内サブスクサービスの料金トレンドについて考察しました。実は、業界によって、面白い特徴もたくさんあるようです。

プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

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その他・価格業界情報

2021年10月よりディズニーチケット値上げ!これまでの値段推移を踏まえて考察

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

2021年9月24日、東京ディズニーチケットの最大700円の値上げが発表されました

ここ最近、短いスパンでチケット価格が値上げされているので、「またか!?」と思った方も多いと思います。いったい改定後の値段はいくらになるのでしょうか?

また、これだけ値上げしても大丈夫なのでしょうか?

徹底解剖することにしたので、是非お付き合いください。

<この記事の結論>

・これまでの値上げが大きな収益に繋がっている

・1-2年のスパンで価格を見直している

・値上げは正しくやれば何も問題にならない

新価格の概要

今回の値上げで、チケットの値段はいくらになったのでしょうか。

新しい価格表はこちらです。

東京ディズニーリゾートでは、2021年3月から変動価格制が導入されており、これまで1デーパスポートの大人料金は、平日用料金(8,200円)と休日用料金(8,700円)の2パターンになっていました。

それが今回、7,900円/8,400円/8,900円/9,400円の4パターンに改定され、最大700円の値上げが実施されました。

では変動価格はどのように設定されているのでしょうか。次のグラフは現在公開されている10月から2022年1月までの価格変動を表しています。

(出典:YAHOO!ニュース)

このグラフを見ると土日と祝日、クリスマスと年末年始は最も高い価格設定となっているようです。また、日曜日の価格設定が土曜日より抑えられており、平日だと水曜日と木曜日が最も安く設定されているようです。

今回の値上げは、なぜ行われたのでしょうか。これまでの変遷から紐解いていきたいと思います。

チケット価格の変遷

まず、ディズニーチケットの価格の推移です。

【ディズニーチケットの値段推移】

(参考:CASTEL)

驚くことに、このデータを見ての通り当初は3,900円で、今の半分以下の価格だったのです。

このグラフからディズニーチケットについて、これまで合計15回、直近は1-2年のスパンで値上げをしていることがわかります。

来場者数の変遷

これだけ高頻度かつ短いスパンで値上げを行なっていますが、来場者数はどうなっているのでしょうか。来場者数の推移についてみていきましょう。

東京ディズニーランド・ディズニーシーの年間入園者数の推移はこのようになっています。

(参考:CASTEL)

このグラフをみてわかるように、ディズニーは何度も値上げを実施しましたが、来場者数に直接影響していません

ここから、いくつか学べるように思えます。

値上げが収益に与えたインパクト

これまで、値上げで一体どれだけの収益インパクトがあったのでしょうか。

例えば2016年のディズニー来場者数は、30,000,000人です。来場者数に大きな変化はないため、この一回の値上げ(+500円)によって1年間で約150億円の利益増加に繋がったことになります。

逆を言うと、このタイミングで値上げをしていなかったら利益150億円の機会損失が生まれていたことになります。そのため、もし2011年から値上げをしていなかったら、、、と考えるだけで恐ろしいです。

つまり、数百円の値上げは数百億円の利益に直結する強力な収益ドライバーになるということを学ぶことができます。

短期スパンでの価格変更

このように1-2年のスパンで値上げをすることには、賛否が分かれると思います。実際のところどうでしょうか。

ディズニーチケットに限って言うと、むしろこのスパンでやったからこそ、これだけ値上げできているともいえます。

顧客には内的参照価格というものが存在しており、現在支払っている金額が大きく影響します。(内的参照価格:消費者が商品を購入する際の基準となる価格「参照価格」のうち、過去の経験などから形成された消費者の記憶の中の価格)

実際、私たちが調査しているサービスでも、NPS(顧客ロイヤルティ、顧客の継続利用意向を知るための指標)のスコアより、契約日による支払額の差異が、支払い意欲に対し、より影響を与えている場合が多いです。

つまり、2011年、2014年、2015年に値上げを行わず2016年にまとめて1,600円の値上げをしていたら結果は違ったはずです(前回の価格次第で、値上げ可能幅が変わるということ)。なので、1-2年のスパンで価格を見直したからの成功といえます。

値上げは1-2年という短いスパンでも、正しく調査して行うと、顧客数に影響を与えることなく実施することが可能です。

今回のディズニーチケットの値上げは、調査の結果、値上げ可能だったため実施したにすぎず、今後も調査していく中で、顧客の支払い意欲上がったら値上げしていくと考えています。

調査に関してはこちらの記事が参考になります。

また余談ですが、ディズニーは値上げで得た利益をアトラクションやスタッフ研修に投資して、顧客の満足度を高める戦略を行なっているようです。これが継続的な値上げに対する顧客の許容や、揺るぎないコンテンツ力に繋がっていることはいうまでもありません。

まとめ

今回はディズニーチケットの値上げについて考察しました。数百円の値上げは大きな収益ドライバーになる上、短いスパンでも正しくやれば顧客は離れません。

プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

 

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SaaS・サブスク

Netflix値上げの意図は?-ガチ考察してみた

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)
2021年2月5日、Netflixが最大13%の値上げを発表しました。日本での料金変更は2018年8月に次いで2度目となるようです。

巣ごもり消費が需要拡大への追い風となり、さらに「愛の不時着」、「梨泰院クラス」などのオリジナルコンテンツが多数追加され、ユーザー満足度が高まりました。それらによって、絶好の値上げ機会となっていたのではないでしょうか。

ネットでは様々な意見がみられますが、どういう背景でこの値上げは行われたのでしょうか。その意図を徹底解剖することにしましたので、是非お付き合いください。

この記事の結論

・バリューベースプライシングを用いており、今後とも定期的に値上げを行なっていくと推測

・顧客数を維持できる範囲内で、売上が最大化する価格を選択している

値上げの狙い

まず、どういう意図でこの値上げは行われたのでしょうか。

Yahoo!ニュースでは以下のように解説がなされています。

“値上げの理由としてNetflixは、「素晴らしいエンターテイメントへ投資を継続し、映画やドラマの作品数を着実に増やしていけるよう、サービス料金の見直しを適宜行なっている。日本のメンバーにより多くの選択肢を提供し、継続的にNetflixの価値を高めていくことが不可欠であり、同時に、メンバーに手頃な価格でご利用いただけることが重要であると考えている」とコメント。”
このコメントと真意に間違いはないように思えます。

『コンテンツの追加⇨ユーザー満足度の向上(支払い意欲の増加)⇨値上げ⇨収益拡大⇨コンテンツへの投資⇨ユーザー満足度の向上(支払い意欲の増加)⇨値上げ⇨収益拡大⇨コンテンツへの投資…』の様な循環をプライシングにより実現させようということでしょう。

この考え方の根底にあるのは、バリューベースプライシングの概念です。

バリューベースプライシングとは、顧客が商品・サービスに感じている価値に基づいて価格を設定することです。バリューベースプライシングは他のプライシングと異なり、販売数、売上の推計をおこなうことができ、計画性をもった事業運営が可能になります。このことからも、グローバルでは非常に頻繁に使われている手法になります。

余談になりますが、東京ディズニーランドのプライシングも同じような方法がとられており、アトラクションの追加やパフォーマンスの向上に伴って、過去13回の値上げが行われています。

このようにNetflixでも、定期的に価格を見直し、値上げ可能なタイミングで積極的な値上げを行い、コンテンツに投資していくスタンスで経営をしていくのではないかと予想します。

なぜこの価格になったのか

次になぜこの価格になったのかを突き止めるため、普段弊社で実践している価格分析のほんの一部ではありますが、PSM分析をはじめとするプライシング分析に用いられるアンケート調査や分析を実施してみました。

細かい調査・分析内容の詳細は長くなるので、結果だけ書きます。

分析に用いたアンケートデータ

Pricing Sprintのアンケート機能を用いて、およそ100名の「実際にお金を支払って利用している」ユーザーにアンケートを収集しました。

アンケート対象:実際にお金を支払って利用しているNetflixユーザー
アンケート実施期間:2021/02/06~2021/02/07
サンプル数:106件
価格感度設問:現行のプランの月額料金
顧客属性設問:性別、年齢、居住人数、など
利用動態設問:オリジナル作品の視聴有無、月間視聴時間、視聴デバイス、など
サンプルの内訳は以下の通りで、ある程度は年齢や性別などに偏りがないようになっています。

分析をしてわかったこと

上記のデータを用いてシミュレーションを行い、料金プランごとに各価格の許容ユーザー比率を可視化しました。

結論からお話しすると、今回の値上げは、各プランそれぞれのユーザー数を維持できる範囲内で売上を最大にできる価格を選択していました。

ベーシックプラン(880円→990円)から見ていきましょう。このグラフを見ると、ベーシックプランの値上げ前価格(880円)に対する価格の許容ユーザー比率が94%ということがわかります。これが値上げ後価格(990円)にあげたとしても、許容ユーザー比率が92%とほとんどユーザーが離脱することなく値上げを実現することが可能になります。

ちなみに、さらに100円あげた1,090円にすると許容ユーザー比率が82%と10%も減少してしまいます。このようにある一点を超えたら大幅に顧客が離れるポイント(価格の閾値)の限界を攻め、ユーザー数を維持できる範囲内で売上を最大にできる価格にしています。

スタンダードプラン(1,320円→1,490円)でも同じことが言えました。


値上げ後価格である1,490円の場合の許容ユーザー比率91%が、1,590円にしてしまうと77%となってしまいます。スタンダードプランでも価格の閾値の限界を攻めた価格を選んだと言えるでしょう。

プレミアムプラン(1,980円を維持)はどうでしょうか。


プレミアムプランの場合、現在の価格が許容ユーザー比率およそ90%のラインです。しかし、2,080円に値上げをしてしまうと、78%と大幅な顧客離脱(またはプランのダウングレード)が起こってしまいます。値上げをしなかったというより値上げができなかったと言えるでしょう。

さらに細かく分析しましたが、20円の値上げも、どうやら許容されないようです。

このように価格に対するアンケート調査を行い、それを用いたシミュレーションを実施することができれば、「顧客数が最大化する価格」と「売上が最大化する価格」、「顧客数を維持しつつ売上増加が可能になる価格」などを発見することが可能になります。

値上げ実行の際に行われていた工夫

いざ最適な価格がわかっても、いきなり価格変更を強行するとユーザーの強い反感を買うことになります。ではNetflixではどういう工夫がされているか見ていきたいと思います。

Yahoo!ニュースの記事ではこのような記載がありました。

5日以降、Netflixに新規で登録する際には新たな料金体系が適用される。既存メンバーは来週以降、順次サービス内のポップアップやメールで料金改定を案内。翌月以降の支払い時から新しい料金が適用される。パートナー経由で加入している場合は、今後順次適用される予定で、適用のタイミングはパートナー毎に異なるという。

公式サイトのQAにもしっかり記載があります。

Q:自分のプラン料金が変更されるかどうかはどうやってわかりますか?
A:お客様のプラン料金が変更される場合には、変更された料金が適用される請求日の1ヵ月前にNetflixからメールをお送りすると共に、Netflixへのログイン時にメッセージを表示することでプラン料金の変更をお知らせいたします。

このように値上げの際は、新規ユーザーのみ新規価格を適応し、既存ユーザーに対する値上げは事前通知をし、後ほど実施することで反感を買わないような工夫をしています。定期的な値上げを実行可能にするためには、このようにQAページで事前に説明たり、利用規約に明記しておくのが好ましいいと言えます。

余談ですが、このようなケースの他に、値上げが実行されても、既存ユーザーは同じ価格で利用することができる「GRANDFATHERED PRICING」を実施する企業もあります。

まとめ

Netflixは、バリューベースプライシングを実施し、値上げによる収益増加分をコンテンツへ投資し、さらなる顧客満足度の向上を狙っているといえるでしょう。そして今回の値上げは、ユーザー数を維持できる範囲内で、売上を最大にできる価格を選択したのではないでしょうか。

このように、グローバルで圧倒的な成長を実現する企業は定期的な価格の見直しを行い、収益の増分をコンテンツへの投資にまわしています。定期的な価格の見直しをご検討されている方はぜひ一度、弊社にご相談ください。

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その他・価格業界情報

超低価格戦略とは?意味、成功した企業事例、6つの成功要因について解説

近年、新興国市場では超低価格セグメントが形成されています。これは極めて巨大なセグメントで「21世紀の最大の市場機会」ともいわれます。
では、どのようにしたら超低価格セグメントを獲得できるのでしょうか。今回は、その答えとなる超低価格戦略について解説していきます。

超低価格戦略とは

超低価格戦略とは、新興国の超低価格セグメントの獲得を目的とした戦略のことです。この戦略では、低価格戦略よりもさらに50〜70%安い価格で商品やサービスが販売されます。

新興国の貧困層の人は、先進国では当たり前になっている一般的な製品に手が届きません。そのため、価格を極めて低く抑えることが必要になってくるのです。

また、人類の86%の年間世帯所得が1万ドル以下であるという事実から分かる通り、超低価格セグメントは無視のできないほど巨大で、「21世紀の最大の市場機会」ともいわれています。

超低価格戦略で成功した企業の事例

超低価格戦略で成功した企業について紹介していきます。

タタ

インドの大手自動車メーカーであるタタは、超低価格戦略で成功している例として有名です。
特に、2008年から販売された「タタ・ナノ」は、日本円で1台約20万円ほどで、世界中から注目を浴びました。

ドイツの自動車サプライヤー9社がこの車に部品や技術を提供したのです。
そのため、超低価格にもかかわらず、西欧の主要サプライヤーの持つテクノロジーが驚くほど大量に用いられていました。

タタ・ナノ(出典:Tata Motors)

ホンダ

日本の大手自動車メーカーであるホンダも、超低価格戦略で成功している例として有名です。
安さが求められるベトナムの市場にて、ホンダは「ホンダウェーブ」を日本円で約8万円で販売し、中国の競合企業からシェアを勝ち取りました。

安価のホンダウェーブ(出典:バイクブロス)

6つの成功要因

超低価格戦略で成功している企業には共通する戦略があります。ハーマン・サイモンは自身の本「Confessions of the Pricing Man: How Price Affects Everything 」の中で、超低価格戦略における成功要因を次のように述べています。

シンプルだがしっかりと考える

企業は製品を分解して必要最低限のものに留めなくてはならないが、単純化しすぎて不具合が生じるようではいけません。そのため、最低限の品質を考慮する必要があるのです。

現地で研究開発する

現地のニーズに応えるため、企業は研究開発を新興国市場で行う必要があります。研究開発、調達、製造を含むバリューチェーン全体を新興国市場に置くことが望ましいです。

最低コスト生産にロックインする

超低価格を実現するためには、コストをできる限り削る必要があります。そのため、適切な設計と製造能力を持つ最低賃金拠点を選ぶことが大切になります。

新しいマーケティングと営業手法を用いる

たとえ従来の手法を諦めることになっても、なるべく低コストを維持しなければいけません。そのため、新しいマーケティングと営業手法が必要になる可能性もあります。

使いやすくて修理しやすい

サービスや商品が複雑で顧客が機能を理解できないということがないように、使いやすくする必要があります。加えて、サービス・プロバイダが修理に必要なリソースを持っていない可能性があるので、基本的な修理や調整を行いやすい商品にする必要があります。

バラツキのない品質を提供する

超低価格品の品質がただ十分なレベルにあるだけでなく、ばらつきをなくすことも大切です。そうすることで顧客から支持され、持続的成功が可能になります。

まとめ

今回は超低価格戦略について解説しました。

企業が超低価格戦略で適切な利益を持続的に生み出せるかは依然として不透明です。それでも、巨大な超低価格セグメントを獲得するには、抜本的な方向転換、リデザイン、大々的な簡素化、現地生産、極度のコスト意識が求められるということは明白でしょう。

プライシング・価格戦略にお悩みの事業者様は、一度プライシングスタジオにお問い合わせください。