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EVC(Economic Value to the Customer)でSaaSプライシングを決めるには?

ここ1年、日本国内ではSaaS企業におけるプライシングの決定手法としてEVC Analysisが流行しています。筆者も、日々SaaS企業の経営者とプライシングについてディスカッションしていますが、EVC Analysisを実施している・検討している企業の割合が日に日に大きくなっているのを感じます。

本記事では、EVC Analysisとはそもそも何なのか、どうやって実施するのかについて解説していきたいと思います。


プライシングスプリント

EVC(Economic Value to the Customer)とは

EVCとは、Economic Value to the Customerの略称で、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、その要素の価値を勘案した上で、販売する商品の価格決めをするための指標を指します。価格付けの際には、EVCから数%割り引いた値を販売価格とします。

そのため、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、有効な値付けの手法となります。

EVCを求める方法は二つあります。

EVCを求める方法①

方法①では、価格付けの際に参照にする競合商品(以下、参照商品)の価格に、販売しようとしている商品(以下、販売商品)の参照商品に対する追加的な価値を足すことでEVCを求めていきます。

プロセスは以下の4つです。

Step 1 付加価値の認識

参照商品にはない販売商品の要素のうち、顧客が長所あるいは短所だと認識する要素を列挙していきます。参照商品を使用する場合にはかかっていたコストを削減する要素、あるいはかかっていなかったコストがかかるようにする要素を列挙する方法もあります。

Step 2 付加価値の価格付け

Step 1で認識した要素について金銭的な価値を割り当て、その総和をTAV(total additional value)とします。

例: 現在販売しようとしている自動車の燃費は参照商品よりもよく(Step1で認識した付加価値)、その価値に割り当てる金銭的な価値は50万円だと見込んでいる。また、販売商品には参照商品にはない事故を防止する機能があり、その価値に割り当てる価値は30万円だと見込んでいる。この場合、TAVは80万円になる。

Step 3 EVCの算出

参照価格とTAVの総和をとってEVCを算出します。これが顧客が払える最大の価格になります。

例:TAVが80万円、参照商品の価格が300万円である時、EVCは380万円になる。

Step 4 販売価格の決定

TAVのある割合を割り引いて販売価格を決定します。この割引は、既存商品から販売商品に乗り換える際に顧客が認識するリスクを勘案したものになります。

例:今TAV80万円のうち30%を割引くとする。この場合、EVC(=380万円)からTAVの30%(80万円×30%=24万円)を差し引いた金額(=356万円)を販売価格とする。

整理すると以下の通りです。

参考までに、計算式もご紹介します。方法①の繰り返しになりますので、お急ぎの方は、方法②へお進みください。


EVCを求める方法②

方法①の場合、EVCは参照価格に合計追加価値を足したものと定義されますが、参照商品を利用する上でかかるトータルコストから販売商品を利用する上でかかる価格以外のコストを引き、参照商品に対する販売商品の利点を足して求める方法もあります。ただし、この方法で求まるEVCは、方法①のものと同じです。以下ではこの方法を説明します。

どれだけ割り引くべきか

EVCによって製品の価格を決定する方法を説明しましたが、実はEVCからどれだけ割引くかを考えることが非常に難易度が高いです。実際、筆者も、EVCはできたけど、価格は決められなかったというご相談を受けてます。

そもそも割引をする理由は、顧客が既に使っている製品から乗り換えるのをリスクに感じるため、その分を割り引いて埋め合わせをするためです。つまり、顧客が製品を信頼していればしているほど割引は少なくて済みますし、顧客が製品を信頼しているほど値段を変化させても販売量は減りにくくなります(=価格感度が低い)。この顧客の価格感度は、EVCで求めることができません。

そういった背景もあり、EVC Analysisは最終的にはアート的なプライシング決定手法といえるでしょう。

そこで本記事では、顧客の価格感度の高さの基準になる心理学的な指標を紹介します。

心理学的な指標

  1. ブランド性

製品にブランド性があれば、価格が高くても顧客はプレミア価格なのだと認識するため、より高い価格で販売することができます。 例えば、ナイキは他のスポーツシューズよりも高い値段で販売することができます。

  1. 競合商品の数

顧客が認識できる競合商品が多ければ多いほど、商品どうしの価格を比較してどの商品を購入するか決定できるため、顧客の価格感度は高まります。裏返せば、顧客に競合商品との価格比較すをさせないようにできれば、より高い価格で販売することができます。例えば、一つの商品のみを提示して、今だけなら安く購入できると宣伝すれば、競合製品と値段を比較することを妨げられます。

  1. 複雑性

競合製品との比較が可能な場合、商品の機能を難しく説明することで、競合製品との値段の違いがどのような機能に反映されているかわかりにくくし、競合商品との単純な比較がしにくくなります。また、説明の際も他の商品の説明と違う用語を使うことでも単純な比較がしにくくなります。

  1. 顧客のモチベーション

顧客が商品を購入するモチベーションが高いほど、顧客の価格感度は低く、より高い価格で販売することができます。

  1. 購入環境

商品の購入環境(ショッピングセンターやサイト)の質が高ければ高いほど、また、顧客サービスの質が高いほど、顧客の価格感度は低くなります。

  1. 価格表示

価格表示を小さくすることによって、顧客の価格感度は低くなります。また、体験版を使用することができることによっても、高い価格を提示した時の顧客の価格感度の高まりを抑制することができます。 

  1. コスト総額との関係

顧客が製品を他の商品と同時に購入するとき、同じ価格であっても同時に購入する商品の価格が高ければ高いほど、顧客の価格感度は低くなります。例えば、旅行中は観光施設の入場料が高くてもそれほど高く感じません。

  1. リスクの高さ

保険に加入していたり製品保証があったりする場合の方が、顧客の価格感度は低くなります。 

  1. 高品質への期待

弁護士費用やホテル料金など、価格が高いほどその製品(サービス)の質が高いだろうと思うような場合、顧客の価格感度は低くなります。

<本記事の参考文献>
“Principles of Pricing: An Analytical Approach”
“Value-Based Strategies for Industrial Products”

まとめ

本記事では、EVC Analysisを活用したプライシングの決定手法について解説しました。EVCは、容易に「顧客が払える最大の価格」を特定することができる一方で、そこからいくら値引きすればいいのかを理解するのが難しいのが特徴です。

そういった弱点も考慮し、自社に適したプライシングの決定手法を選択することが求められるでしょう。

プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

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米国のSaaS企業の料金表のトレンドは?

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

米国の主要なSaaS企業の料金表にはどういう戦略の上で、作成されているのでしょうか。今回、Salesforce、Slack、zoomなど、時価総額上位50社の企業を調べてみました。

調べてみたSaaS企業はこちら

ここからいくつかのことがわかったので、考察していこうと思います。

<この記事の結論>

・料金表を公開している企業のうち、プラン数が3-4プランになっている企業は76%

・料金表を公開している企業の100%が、無料トライアルを採用

・料金表を公開している企業のうち、82%が従量課金モデルを採用


プライシングスプリント

料金表を公開していた企業は34%

米国の時価総額上位50社のSaaS企業の料金ページを調べたところ、具体的な料金表を公開している企業は全体の34%で、残りの66%の企業は、具体的な料金表を公開していませんでした。

また、料金表を公開している94%の企業が、PLG型ということがわかりました。PLG型とは?

PLGはProduct-Led Growthの略で「プロダクトがプロダクトの価値を伝える」戦略を用いている企業のことを指します。例えばzoomやslackなど、主に個人単位でサービスを展開しており、顧客自身が自由に登録できるようになっています。そのため他社と比べて、拡散が早く、成長速度が速いことが特徴です。

以降、料金表を公開しているPLG型の企業に絞って考察を進めていきます。

公開企業のうち、プラン数が3-4プランになっている企業は76%

料金表を公開している企業が提供するプラン数について調べたところ、3-4プランになっている企業が全体の76%を占めていました。

実際、米国のトップVCであるAndreessen Horowitz(a16z)がPLG型のSaaS企業向けに書いたプライシング記事によると、PLG型の場合、試行錯誤するうちに、だいたい3-4プランに収束していくようです。

この記事では、PLG型企業のプライシングにおいて、ユーザーが初めて製品に触れてから、その製品がユーザーの組織で使われるまでの段階である「ユーザージャーニー」を理解することがとても重要だと言われています。「ユーザージャーニー」は4段階に分かれており、それぞれ次のように説明されています。

(出典:Andreessen Horowitz)

TIER1で無料トライアルやフリーミアムでOrganicの母数を増やし、そこからTIER4へスムーズに移行してもらえるような導線を作ることが重要だそうです。

顧客にスムーズに移行してもらうには、このように3-4プランに設定し、導線を作るのが良いとされています。

公開企業の100%が、無料トライアルを採用

先ほど紹介したAndreessen Horowitzの記事では、PLG型のSaaS企業では、リードを獲得する為の方法として無料トライアルやフリーミアムを実施するのが一般的とされていました。

実際、料金表を公開している企業のうち100%が無料トライアルを採用していました。

無料トライアルとフリーミアムの違い

無料トライアルとは、「14日間無料」のように期間に制限をつける一方、機能には制限をつけずサービスを無料で体験することができる仕組みです。

それに対しフリーミアムとは、40分までなら無料で使えるzoom meetingのように、機能に制限をつける一方、期間には制限をつけないでサービスを無料で体験することができる仕組みです。

何故フリーミアムより無料トライアルの方が主流なのか

フリーミアムより無料トライアルの方が主流な理由として、無料トライアルの方がCVRが高く、比較的容易であることが考えられます。実際、PayPalの元創設COO兼製品リーダーであるDavid Sacksは、市場に口コミやバイラルでの広がりが期待できる場合はフリーミアム有効ですが、下記のようなデメリットもあると言い、無料トライアルを推奨しています。

デメリット

1.無料版を魅力的にしすぎると有料版を使ってもらえない

顧客が価値を感じるポイントをしっかりと理解し、顧客がさらに使いたいと思うように設計することが大切です。

2.機能面のペイウォールの作成と維持に多くのリソースを割く必要がある

新しい機能がリリースされるたびに、製品チームは何が無料で何が有料かを決定する必要があります。

3.収益化が難しい

有料版が無料版と比較して魅力的なプロダクトである必要があるため開発コストは高くなります。またリードが収益を生み出すアカウントに変換されるまでに、数か月または数年かかる可能性がある場合、このマーケティングのROIを評価することは困難です。

この点、無料トライアルではこれらの制限に悩む必要がないと言われています。無料トライアルは、期間を限定し有料版への移行の意思決定を、ユーザーに迫ることができため、CVRが比較的高くなります。(フリーミアムのCVRが3-5%なのに対し、無料トライアルは10-20%)

また、製品への実装、販売やマーケティングとの調整も比較的容易な為、David Sacksは無料トライアルを推奨しています。

公開企業のうち、82%が従量課金モデルを採用

料金表を公開している企業の価格体系を調べたところ、82%の企業が従量課金モデルの価格体系を用いていました。

従量課金モデルとは

ユーザー数や使用時間などの利用した“量”に“従”って課金する、価格体系です。顧客が「使った分だけお金を支払う」仕組みです。例えばDatadogでは料金表は次のように使用料に応じた料金が表示されています。

(出典:Datadog)

従量課金モデルがトレンドになっている理由

openviewは、従量課金がトレンドになっている理由として次のようなことをあげています。

1.NDRが高い

顧客の会社規模が、売り上げの天井になることがないため、仮に売上規模が上がったとしても、普通のSaaS企業よりNDRが高く、売上成長率が高くなりやすいといわれています。従量課金モデルではアップセルがしやすいため、NDRが平均的なSaaSより9%高いとされています。

2.高い成長を維持できる

従量課金モデルを採用するSaaS企業はNDRが高いため、上場後も高い成長を維持し、平均的なSaaSより8%高くなると言われています。

3.高いプレミアムがついている

1.2などのことから、マルチプルが平均的なSaaS企業より50%高くなっています。

まとめ

今回米国の主要サービス企業の料金ページをリサーチしてわかったことについて紹介しました。プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。

価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

 

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国内のサブスク200サービスの料金表/プライシングのトレンドについて調べてみた

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

料金表のトレンドを知っておくことは、自社の料金表を検討する際、非常に重要なことであると考えています。そこで、今回は国内のB2Cサブスクリプションサービスのトレンドをご紹介しようと思います。是非お付き合いください。


プライシングスプリント

調査対象

今回は、国内サービスで、資本金3億円以上、ARR(年間経常収益)2億円以上の1つ以上にに該当する企業200社に絞って調査を行いました。主な領域は以下になります。

契約期間の状況

まず、契約期間についてです。

今回調査した企業のうち、80%の企業では1ヶ月契約のみのプランが採用されているようです。自動更新にしている場合がほとんどですが、年間契約が少ないのはB2Cサービスならではの傾向と言えるでしょう。

逆に年契約のみのサービスは、サービス利用にはモノが必要で製造原価が大きくかかり、長期間契約されないと利益が出ない構造になっているビジネスにおいて採用されていました。アプリケーションなどの、いわゆるインターネットサービスにおいては1ヶ月契約が主流となるようです。
Ex)キリン ホームタップ

(出典:キリンホームタップ)

料金プランの種類

料金プランの種類を見ていくと業界毎に傾向が別れました。そこで、料金プラン毎に考察していきます。

【単一プランが多い業界】
飲食、オンラインレッスン、ナビ、音楽、書籍、動画、ヘルスケア、レシピ、医療、見守り、専門家相談、ニュースなど
Ex)ディズニープラス

【段階利用量プラン X 機能別プランが多い業界】
ファッション、不動産
Ex)ブリスタ

(出典:Brista)

機能(今回の場合は借りられる服の数)に加え、ポイントの購入で追加利用ができるサービスがこれに該当します。このモデルはサブスクリプションのストック収益に加え、購買意欲の高い層からより多くの収益を得ることができるモデルのため、工夫次第では大きな武器になります。ただし、あくまでも通常のプランにユーザーが満足していることが大切になります。

他にも、年齢によって価格を変えたり(主に音楽業界)、性別によって変えたり(主にマッチングアプリ)、Netflixのようにアカウント数で料金を変えたりと、支払い意欲が異なるセグメント毎にプランを分けたり、顧客が価値を感じてくれている変数に基づいて価格を変えたりする企業も散見されました。
Ex)AWA

(出典:AWA)

このように、顧客のWTP(支払い意欲)が異なるセグメントの特定や、WTPに影響を与える変数を私たちはプライスレバーと呼んでいますが、これを特定することがサブスクリプションのプライシングを考える上で、非常に重要になります。

オプション課金の有無

次に課金オプションの有無について調べてみました。最初に採用率について調べたところ、次のようになりました。

驚くべきことは、91%の企業がオプションによる課金を採用していないことです。サブスクリプションビジネスは、価格体系がシンプルが故に、全ての顧客セグメントのニーズに対応できない場合が多いです。オプション課金は、多くのニーズに対応することができるかつ、客単価アップに繋がるため、多くの企業に検討の余地がありそうです。

Ex)AmazonPrime Video チャンネル内で月額499円支払うことで、1950~90年代の懐かしの特撮ヒーロー等の作品を視聴できる「マイ★ヒーロー」は、子ども向けのコンテンツを必要としており、そのためにはもっとお金を支払ってもいいと考えている顧客セグメントの単価アップに成功しました。これはオプション課金の好例と言えるでしょう。

一方、オプションを採用している9%の企業は新たな機能の追加による課金(以下、機能追加オプション)と、利用量による課金(以下、利用料追加オプション)の二種類となっていました。

利用量追加オプション

利用量追加オプションは、月額料金で決められた範囲内で利用し放題、範囲を超える分に対し、追加で課金が発生するオプションです。
Ex)港区自転車シェアリングの月額会員 延長料金

(出典:港区自転車シェアリング)

ちなみに、利用量追加オプションはモビリティサービスやマッチングサービスなどの業界に採用されていました。

機能追加オプション

機能追加オプションは、月額利用料に加え、追加で課金することで、他の会員が利用することができない機能を利用することが可能になるオプションです。アプリ内のアイテムが買えるポイントを購入する場合もこれに該当します。
Ex)Omiaiのポイント

(出典:Omiai)

機能追加オプションはマッチングサービスなどで採用されているようです。

ディスカウントの有無

最後に割引について調べて見ました。まずは採用率です。

割引は全体の30%の企業が採用しているようです。

期間で割引を行う企業は95%

割引は14日間無料といったような一定期間で割引が適応されるものと、連携サービスの利用をすることで適応されるものの二種類あるようです。
Ex)連携サービスによる割引の例 ウェザーニュース

(出典:ウェザーニュース)

ちなみに、ほとんどの場合において、一定期間での割引が採用されています。

ちなみに、期間で割引を行う企業は、どのくらいの期間で採用しているのでしょうか。次は期間ごとの割引の比率について調べてみました。

このように、割引を実施している企業のうち67%の企業が初月の割引を採用していました。最後に補足で、最初の2週間や2ヶ月など、初月以外の期間で割引を行う企業の割引日数の平均を出してみたところ、19.9日になりました。初月以外だと、2-3週間の割引が平均となるようです。

まとめ

今回は国内サブスクサービスの料金トレンドについて考察しました。実は、業界によって、面白い特徴もたくさんあるようです。

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T2D3とは?SaaS企業の成長指標・達成のための7つのフェーズとプライシング戦略

T2D3という用語は、2015年にベンチャーキャピタリストのNeeraj Agrawal氏によって提唱され、SaaS企業が急成長を遂げ、高い企業価値を実現させるために達成すべき数値として世界的に知られるようになりました。

この記事では、T2D3という用語の意味と定義、達成するために行うべき施策、さらには成長フェーズに応じたプライシング戦略の考え方についても解説します。

T2D3とは

「T2D3(ティーツー・ディースリー)とは、ARR(サブスクリプションの年間売上)が1億円を突破してから、3倍(Triple)で2年、2倍(Double)で3年というペースで売上が伸びる状態を示した、SaaSスタートアップの成長スピードをはかる指標のことです。

T2D3という用語は、SaaSに数多く投資するBattery VenturesのNeeraj Agrawal氏が提唱したとされ、2015年2月に同氏がTech Crunchのエントリを公開したことで有名になりました。

T2D3を達成するための7フェーズとプライシング戦略

Neeraj氏のエントリでは、SaaS企業が市場参入してから成功するまでの段階を7つのフェーズに分け、それぞれで行うべきことを解説しています。具体的には、次の7つです。

  • フェーズ1:PMFの確立
  • フェーズ2:ARR(年間経常収益)200万ドル達成
  • フェーズ3:ARR600万ドル達成(3倍)
  • フェーズ4:ARR1800万ドル達成(3倍)
  • フェーズ5:ARR3600万ドル達成(2倍)
  • フェーズ6:ARR7,200万ドル達成(2倍)
  • フェーズ7:ARR1億4400万ドル達成(2倍)

フェーズ1:優れたPMFの確立

フェーズ1では、まずプロダクトマーケットフィット(PMF:Product-Market Fit)と呼ばれる顧客の課題を満足させるSaaSを提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態の確立を目指します。事業化するための顧客セグメントを見つけ出し、顧客獲得を優先すべきフェーズです。

プライシング戦略のポイント
スタートアップのステージでいうと、いわゆるシード期にあたります。このフェーズでは、企業はすでに規模の大きくなっている企業のように、既存顧客のデータをもとにプライシングを行えません。プロダクトをローンチしたばかり、またはローンチできるかどうかという時期のため、価格設定に割く時間は最小限に抑えながらも、次のような複数の切り口からデータを集め、意思決定を行えると良いでしょう。

フェーズ2:ARR(年間経常収益)200万ドル達成

フェーズ2では、ARRで200万ドルを目指します。1社あたりの平均経常収益が3万〜8万ドルと仮定すると、30〜60社の顧客を獲得できている状態を意味します。

フェーズ3:ARR600万ドル(3倍)達成

フェーズ3では、ARRをフェーズ2の3倍である600万ドルを目指します。この「最初のトリプル:T1」を達成するために、Neeraj氏はセールスリーダーと、5〜10人のセールスを採用して計画を進めるべきだと説いています。

プライシング戦略のポイント
フェーズ2、3あたりのミドル期になるとプロダクトのMVPは完成していて、誰が顧客なのかといったデータは揃ってきます。シード期に一旦置いていた価格をリ・デザインし、既存・潜在顧客がフェアと感じるプライシングを「パッケージ」として完成させる必要があるでしょう。

フェーズ4:ARR1800万ドル(3倍)達成

フェーズ4では、ARRをフェーズ3の3倍である1,800万ドルを目指します。フェーズ3からさらに半分以上セールスを増員し、10〜20人程度で推進していき、CEOはマネージャー育成と大きなアカウント獲得について時間を費やします。

プライシングの戦略ポイント
このあたりはレイターステージといっていいでしょう。すでにプロダクトラインは拡大していて、より広い顧客ベースにサービスを提供しており、事業としての複雑性は増している状況です。ここでは、複雑さを適切に整理し、オンライン上での顧客への見せ方をどうするかによってレイターになっても成長速度を上げられます。料金ページを常にアップデートし続ける、価格プランごとのペルソナを設定する、などの施策を行いましょう。

フェーズ5:ARR3,600万ドル(2倍)達成

フェーズ5では、ARRをフェーズ4の2倍である3,600万ドルを目指します。約20〜30人のセールスと3〜5人のマネージャーの組織を編成します。Neeraj氏は、このフェーズでの課題として「グローバルでの販売展開」であると指摘します。CEOは、英国、フランス、ドイツなどのEMEA地域におけるセールスを機能させるためにも、英国に3〜5人、その他の国で1,2人のセールス担当を配置します。

フェーズ6:ARR7,200万ドル(2倍)達成

フェーズ6では、ARRをフェーズ5の2倍である7,200万ドルを目指します。ここで取り組むべきは、非線形成長を確立すること、またはリセラーやパートナーチャネルを機能させることです。Neeraj氏は、ARR5000万ドル達成前にこうしたチャネルを立ち上げるのは時期尚早であり、また数十社ではなく、1、2社のパートナーとの生産性を高めることが重要だと指摘します。

フェーズ7:ARR1億4,400万ドル(2倍)に到達

フェーズ7では、ARRをフェーズ6の2倍である1億4,400万ドルを目指しますが、ここまでくれば企業価値10億ドル、IPOが見えてきます。しかしこれがゴールではなく、IPO後にさらなる成長を目指していくことになります。

T2D3を達成した海外SaaS企業事例

前述したプロセスでARRが成長していけばT2D3となり、急成長を遂げているSaaSスタートアップとして世界的にも高く評価されます。しかし、これを達成することは簡単ではありません。次の7つの企業は、いずれもT2D3の指標を達成したSaaSですが、T2D3を達成したあともグローバルで高い成長を遂げている企業ばかりです。

  • Marketo
  • NetSuite
  • Omniture
  • Salesforce
  • ServiceNow
  • Workday
  • Zendesk

一方、日本のSaaS企業の中でT2D3を達成している企業はあるのでしょうか。

各SaaS企業の決算発表資料やメディアでの発言を調べたところ、SmartHR、プレイドといった企業がT2D3達成を目指していると発言していますが、2021年4月時点では、まだT2D3を達成しているとSaaS企業はないように思えます。もしT2D3を達成している企業があれば追記しますので、ぜひ編集部にお問い合わせください。

富士キメラ総研の調査によれば、日本国内SaaS市場は2024年に1兆円規模に達すると予測されており、今後ますますの成長が見込める領域です。国内からもグローバルで広く普及するSaaSが生まれることを期待したいです。

すべてのSaaS企業はT2D3を目指すべきか

T2D3は、投資家がSaaS企業の事業成功を予測するための指標として使用されますが、「T2D3を達成できない=SaaSとして失敗している」というわけではありません。日本のSaaS市場と米国とではマーケットの規模も異なるため、単純にT2D3の指標を当てはめるべきかどうかは議論の分かれるところです。

しかし、世界を見据えてグローバル市場をターゲットにしているSaaSであれば大いに参考にすべきでしょう。フェーズ5のARRを達成するにはドメスティック市場だけでは難しく、グローバルでの販売展開戦略がカギを握ります。

T2D3ペースで成長するためにプライシング戦略の見直しを

T2D3を達成している多くのグローバルSaaS企業で実践されているのが、プライシングの見直しです。2021年4月に開催されたセミナー「グローバルトレンドから考える サブスクビジネスのプライシング戦略」では、実際にグローバルSaaSが策定、実行しているプライシング戦略が解説されています。

プライシングを見直す企業のLTVは11倍を超える

セミナーに登壇したSTRIVE 四方智之氏によれば、「米国のスタートアップのじつに80%が年1回に価格の見直しをしており、そのうち40%は2回以上行っている」といいます。

また、計画的にプライシングを見直している企業とそうでない企業で、ユニットエコノミクス(LTV/CAC)に大きな差が出ており、継続的にレビューしている企業の11.1倍に対し、価格改定しない企業は1.7倍程度にとどまっています。

詳しい内容は次の記事をお読みください。

T2D3のスピードで成長したいSaaS企業、急成長をめざしたいサブスク事業者にとって、プライシングの課題に取り組むことは非常に大切です。

戦略的なSaaSプライシングを実践したい方は、無料ホワイトペーパー「ワークショップ形式で理解するSaaSプライシング実践の基本」をご一読いただくか、プライスハックまでお気軽にお問い合わせください。

プライシングによって皆さまのSaaS事業成功のお手伝いができることを楽しみにしています。

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SaaSスタートアップのプライシング戦略|シード・アーリー・ミドル・レイター【段階別】

これだけサイエンスがされているSaaSの中でもプライシングはアートの要素が多く、確立された方法論がないため、色んな起業家とディスカッションしてて多くの方が頭を悩ませることが多いと感じる。

今回はシード・アーリー、ミドル、レイターと段階ごとにどのようにプライシングに取り組むべきかという実践的な内容をまとめてみた。

見過ごされがちなSaaSのプライシングの重要性

SaaSビジネスに関する国内外の情報を探すと、The Modelなどの顧客獲得やリテンション関連のものが多い。実際、SaaSのグロースに関するネット上の記事量は次のとおりだ。

①新規獲得 >> ③リテンション > ②プライシング

グロースに関するブログ投稿数

しかしそれぞれ1%改善した際の収益へのインパクトを見ると、次のような順番になる。

②プライシング > ③リテンション > ①新規獲得

価格設定によるマネタイズを1%向上させると利益率は12%も改善する。これはリテンションの約2倍、顧客獲得の約4倍の利益率改善効果があるという数字だ。
(プライシングは顧客獲得、リテンションの両方に利く要素なのである意味自然かもしれない)

また、ユニットエコノミクス(LTV / CAC)への影響を見ると、特に価格改定を行わない企業は1.68、毎年レビューする企業は3.23、常に最適化に取り組む企業は11.09と大きな差が生まれることから、プライシングの重要性は明白である。(注:ARR$5M以上の米国SaaS企業を対象とした調査)

最も一般的なプライシングモデルは?

SaaSには様々なプライシングモデルがあるが、Pacific Crestの調査によると、最も使われているのは席数/ユーザー数ベースで、約1/3を占める。使用量、機能、従業員数などがその後に続く。

席数ベースの課金は、人数が増えるほどそのプロダクトの提供価値が上がるCRM(Salesforce)やコラボ(Slack)、ヘルプデスク(Zendesk)のソフトウェアなどに合う。

また、分かりやすく予算が立てやすいため、多くのSaaS企業で使用されている。一方で、プロダクトの提供価値に結びついていないと顧客がアップセルせず、チャーンが高くなるケースも多い。他の競合プレイヤーが席数ベースだから…という理由でプライシングモデルを作るのはダイレクトに事業の成長を妨げる可能性がある。

では、どのようにプロダクトの提供価値に合ったプライシングを見つければよいかについて以降の章で触れたい。

価値指標とは?なぜ重要なのか?

英語のプライシングに関するコンテンツを見ていると、度々出てくる企業の名前がある。

Wistiaという企業を対象とした動画ホスティングと、計測が出来るマーケティングプラットフォームを提供するSaaS企業だ。

彼らの料金ページが賞賛されている理由は、価値指標(Value Metric)というプライシングにおいて非常に重要なコンセプトを体現しているから。

価値指標とは、簡単に言うと「顧客は何に対して価値を感じて費用を支払うのか」ということだ。Wistiaの場合はホストされた動画数と動画が使う容量の2つが価値指標となっている。

価値指標の本質は自社のMRRの成長が顧客の成長に結びつくようなプライシングモデルを作れているかにある。その結びつきの有無によってチャーン低下、アップセルによるARPUの向上などユニットエコノミクスの因数に大きく影響を与える。

もしWistiaが上記のような動画数と容量ではなく、~100人=SMBプラン、100~1000人=Midmarket、1000人~=Enterpriseというように、従業員数でプランが決まっていたとしよう。

その場合、例えばディズニーのような動画数が多い顧客と、GEのようなB2Bの重厚長大型で動画数が比較的少ない顧客とでは、ディズニーの方がサービスの価値を100倍以上感じるはずだが、両社ともEnterprise向けの同じ価格を払うことになり、Wistiaはその差を収益の大きさに結び付けられない。

この価値指標が何かは、事業のフェーズによって変わったりして、どのフェーズでも重要になるため、詳しく見ていく。

シード期のプライシング:初めての価格設定

シード期の企業はすでに規模の大きくなっている企業のように既存顧客のデータをもとにプライシングを行えない。プロダクトをローンチしたばかり、またはローンチできるかどうかという時期のため、価格設定に割く時間は最小限に抑えながらも、次のような複数の切り口からデータを集め、意思決定を行えると良いだろう。

1. 競合ベースのプライシング

まずは手っ取り早く業界の中でも競合となるような企業がどれくらいの価格帯でサービスを提供しているかを見よう。同業界でもターゲットの企業規模によっても契約額のレンジは違ってくるので注意したい。ボクシルのようなSaaS比較サイトを見るのは一つの良い方法でもある。

  • Pros(メリット):競合のサイトを巡回して30分もかければ「それっぽい」プライシング戦略ができあがる。また、競合が多い領域であれば市場が健全に維持されるような価格設定になる可能性が高い。
  • Cons(デメリット):あくまで競合の戦略を真似ているだけであって、独自の戦略は立てられていない。既存のサービスにはない提供価値があるからスタートアップは存在するのだから、自分たちのプロダクト/プライシングのポジションがあるはずなので、あくまで参考程度。

2. コストプラス式のプライシング

製造業の世界で一般的に取り入れられているモデル。1製品にかかる変動費と固定費を計算した上で、損益分岐点を超える一定のマージンを加算する方法。

  • Pros(メリット):コストが試算よりも大幅に増えなければ損をする可能性が低い。また、市場調査をする必要もなく、容易に計算できる。
  • Cons(デメリット):顧客は開発費のコストに対してではなく、そのサービスの価値に対してお金を払うため、本質的な設定方法ではない。また、需要の価格弾力性を考えておらず、収益の最大化に必ずしも繋がらない。

3. 価値ベースのプライシング(バリューベースプライシング)

プロダクトの価値を市場調査によって測り、プライシングに反映するモデル。市場調査の手法は主に2種類。

(1)インタビュー形式の定性調査(ターゲットとする顧客数が少ない場合)
(2)アンケート形式の定量調査(数が多いSMBや幅広いセグメントがターゲットになる場合)

どちらの方法でも内容は価格自体よりもニーズや何を価値と感じるのかについて焦点を当てるのがポイント。

(1)インタビュー形式の場合
1:1が基本。最初に顧客からプロダクトへのフィードバックをもらう。後半で具体的にお得(≒安い)と感じる価格と、躊躇する(≒高い)と感じる価格について聞き、当初想定していたレンジと比較してその差分が何から生まれているものなのかの分析をするのが良い。

(2)アンケート形式の場合
こちらは様々な質問内容がある。よくあるのは、たくさんのプロダクト機能を羅列して10点満点などの点数ベースで欲しい機能を答える質問があるが、基本的に人は全部必要と答えるため、どれが顧客が価値を感じる部分なのかは分からない。

代わりに以下のような「価格体系に用いる指標として最も好ましい/好ましくない機能はどれか?」という質問の方が最終的に価値指標を知ることができるだろう。

バリューベースプライシングに関する詳しい解説は、次の記事も参考にしてほしい。

関連記事:バリューベースプライシングとは?

十分な回答数を得たところで、機能ごとに「最も好ましいと回答された回数-最も好ましくないと回答された回数」を計算し、それぞれのスコアを出すと、どの機能がないと困って、どれがなくても生きていけるのかを知ることができる。そして一番スコアが高かった項目は価値指標として使える可能性が高い。

このEメールプラットフォームの例だと「送ったEメールの本数」がトップのスコアであり、価値指標になりえる。そして「連絡先の数」が次点だが、先述のWistiaのように2つ価値指標を設けるのもいいかもしれない。

  • Pros(メリット):競合比較やコストプラス式と違って、顧客が本当に欲しいものは何か、自社のプロダクトの価値は何かを直接聞くことができ、Willingness to pay(購買意欲)を測ることができる。
  • Cons(デメリット):時間とリソースがかかるため、コミットメントが必要。

アーリー・ミドル期のプライシング:リデザイン

ミドル期になるとプロダクトのMVPは完成していて、誰が顧客なのかといったデータは揃ってくる。シード期に一旦置いていた価格をリ・デザインし、既存・潜在顧客がフェアと感じるプライシングを「パッケージ」として完成させる必要がある。

パッケージが正しくできれば営業チームは異なる顧客セグメントのニーズに応えられるようになり、プロダクトチームは新しい機能への投資の優先順位を付けられるようになる。

パッケージのタイプとしてはここで4種類を紹介する。

(1)All-in Bundling:全てのプランをまとめる(バンドル)するタイプ。プロダクトのラインアップの幅はあるが、それぞれの深さはそこまでない場合に有効。(例:Microsoft Office)

(2)Category Bundling:特定の顧客にとって機能性が備わっていたり、領域ごとに異なる競合がいる場合、All-in Bundlingは意味がなくなるため、カテゴリー別のプランを出すタイプ。(例:Salesforce)

(3)Use Case Bundling:プラットフォームビジネスで法人/個人、供給側/需要側といった対象ごとにプロダクトの使われ方・購買意欲が違うタイプ。(例:LinkedIn)

(4)Good / Better / Best:いわゆる松竹梅タイプ。どんなプロダクトの成熟度合いであっても幅広い潜在顧客にリーチできる。(例:Slack)
最後のGood / Better / Bestは一番ポピュラーでありながら奥が深い。それぞれの機能やサービスの価値と顧客セグメントによってその価値がどう変わるかを考える必要がある。

Simon-Kucher & Partners(プライシング分野でのリーディングカンパニーとされるコンサル会社)のマックメニューの”Leader”, “Filler”, “Bundle Killer”の例えが分かりやすい。

  • Leader:マックのセットメニューにおけるハンバーガー。大半の人が欲しがり、どのパッケージにも入っていなければならない。
  • Filler:ポテトフライやドリンク。あったらいい機能だが、アラカルトで売ると顧客は慎重に選ぶため、セットにすることによって購入率を高め、ARPUが上げられる。
  • Bundle Killer:コーヒー。バーガー+フライ「+コーヒー」のセットを頼む人はほぼいないだろう。必要以上のものなので、コーヒーをセットに加えることは購入意欲を削ぐ可能性が高い。しかし少数でもカフェイン不足の人がマックに来るかもしれないので、アラカルトで置いておくのがベスト。

Leader / Filler / Bundle Killer のカテゴリー分けを顧客セグメントごとに整理しておくのはとても重要。特にSMB、Midmarket、Enterpriseの企業を対象とするサービスは特にそうだ。SSOやインテグレーション機能、高度なセキュリティ機能は大企業の全社導入には必須かもしれないが、基本的な機能で十分な零細企業にとってはBundle Killerになりえる。

初期は限られたセグメントを対象にしているとシンプルで良かった価格設定も、裾野が広がってくる段階になるとこうしたパッケージの見せ方を気を付ける必要があるだろう。

レイター期のプライシング:最適化

レイターステージまでくると、プロダクトラインは拡大していて、より広い顧客ベースにサービスを提供しており、事業としての複雑性は増している。その複雑さを適切に整理し、オンライン上での顧客への見せ方をどうするかによってレイターになっても成長速度を上げることが可能になる。

パッケージと価格プランのデザインの最適化のために心がけるべきことやテクニックをここでは紹介する。

料金ページを常にアップデートし続ける

先述したWistiaの料金ページは常に変わり続けている。実はこちらのメニューは2年以上前のもので、動画数と容量を価値指標にしていて、プランも6つあった。

直近のプランは3つにまとめられており、価値指標も容量はなくなって動画数のみになっている。このような継続的な改善はマーケやセールスだけでなく、プライシングでも非常に重要な要素。

価格プランごとのペルソナを設定する

上記のように価値指標の数を減らしたり、逆に増やしたりする判断はどのように行えばいいのか?一つは、ペルソナごとに価値指標を考えることだ。

例えばCFOと営業マネージャーという複数のペルソナが考えられる場合、それぞれ何を価値を感じるのか?CFOは複雑な業務をなるべくユーザーの手が入らなくとも遂行できるのが理想であるなら、トランザクション数が価値指標になる。

一方で、営業マネージャーはチームのメンバーが上げる見積もりの標準化と効率化がしたいならば、ユーザー数が適しているだろう。

このようにペルソナごとの価値指標が異なると分かれば増やしたり、実は同じだった・複雑になってユーザーにとって分かりにくくなったと感じたら減らすというPPF(=プライシング・ペルソナ・フィット)を重ねていくことになる。

不安感を取り除く

料金ページは購入者を説得する難しい課題を与えられている、ある意味トップパフォーマーの営業人材のようなものだ。説得材料を少しでも与えるために既存顧客の熱量を可視化するのは一つの手。SlackはWall of Loveというユーザーのツイート集が価格プランの下に流れるという見せ方をしている。

こうした「購入」や「営業担当者に問い合わせる」のボタンを押すのをためらう人の不安感を取り除くUIを考えるのもいいかもしれない。

行動心理学の知見を活かす

この段階までくると、アンカリング効果やおとりプラン、イチキュッパ効果などの心理テクニックを使うのもありだろう。

最後に:プライシング担当/チームは必要?

事業が大きくなるとマーケ、インサイド/フィールドセールス、CSなどそれぞれの部署ができ、The Modelに代表されるような分業体制が敷かれる。しかし、プライシングを担当する部署は決まってないことが多い。

OpenViewの調査によると次のようなデータがある。

  • 拡大期(ARR$1-20M)のSaaS企業において55%の会社が業務内容にプライシング関連の仕事が含まれる担当者がいない
  • グロース期(>ARR$20M)になると26%はプライシングチームを持つが、それでも37%はまだ担当者がいない

ではプライシングは経営層が気にしていないのかというと、そんなことはない。実は2/3以上の会社でCEOが結局オーナーになっている。重要性が高いトピックにもかかわらず、データを扱う担当者がいない中で直感に頼ったアドホックな意思決定を行っているというのが現状かもしれない。

必ずチームを作らなければならないというわけではなく、プライシング担当者を置くとすれば、営業、プロダクト、マーケ、ファイナンス、オペレーションのどれかに所属する存在になることが多いようだ。

(この記事は、STRIVE 四方 智之氏のnoteエントリを再構成して転載しています)

最適なプライシング戦略構築ならプライシングスタジオ

この記事では、SaaS企業が取るべきプライシング戦略をシード・アーリー、ミドル、レイターと段階別に解説しました。

プライスハックを運営するプライシングスタジオでは、バリューベースプライシングなどの手法を活用した戦略的なSaaSプライシングを提案可能です。プライシングについてお悩みの方は、こちらをご一読いただくか、プライスハックまでお問い合わせください。

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SaaSの価格体系まとめ|代表例と共にメリット・デメリットを解説

SaaSにおける価格体系の特徴・メリット・デメリットを代表例を挙げながら、解説します。それぞれの価格体系の特徴を踏まえて、各事業者様が価格を設定する際に役に立てば幸いです。


プライシングスプリント

今さら聞けないSaaSとは?

SaaS(Software as a Service)とは、電子メールやカレンダー、スケジュール管理、ドキュメント作成、人事・給与・勤怠・労務管理、プロジェクト管理などのアプリケーションをインターネット経由で提供するサービスです。完全無料のSaaSもありますが、多くの場合ユーザーは利用料を支払って利用します。

では、SaaSには実際にどのような価格体系が存在するのでしょうか。

SaaSの4つの代表的な価格体系

SaaSの価格体系は基本的にサブスクリプションになっており、中でも4種類の価格体系に分類されます。それは、

・単一価格モデル

・複数パッケージ価格モデル

・従量課金モデル

・フリーミアム

の4つです。

事業を成長させるためにも価格体系を把握しておくことはとても重要です。次はそれぞれの料金モデルについて詳しく解説していきます。

1. 単一価格モデル

単一価格モデル(Flat rate pricing model)は、サービスに対して料金体系が1つである価格体系です。

全てのユーザーに対して単一の製品・機能・価格を提供するため、SaaSの価格体系の中でも最もシンプルなものになります。

例えば、ターゲットセグメントが画一的であったり、機能や価値が単一化されているシンプルなサービスで利用されます。また、事業ニーズがあるかを仮説検証しやすいという観点から、PMFが優先されるシード(新規事業フェーズを含む)・アーリーステージなどで利用されることが多いです。

一方で、幅の広い顧客層のニーズに1つのプランで応えるということは難しく、SaaSの価格体系としてあまり多くは見受けられません。

メリット

  • シンプルでわかりやすい
  • 事業ニーズがあるかを仮説検証しやすい

デメリット

  • 幅広いユーザーのニーズに応えることが困難
  • 売上の向上が困難

2. 複数パッケージ価格モデル

複数のパッケージ(いわゆる「プラン」のこと)を提示する、SaaSで広く取り入れられている価格体系です。さまざまなニーズに対応でき、顧客ごとの売上最適化に近づきます。

また、質の高い機能や多くのストレージを提供する必要がある顧客に対して、価値に見合った金額を受け取ることができることから、利益を増加させることが可能です。

一方で、選択肢が多すぎたり、プランの差が複雑だと顧客にとって検討事項が増えてしまい、購入障壁を高めることにつながるため、顧客ニーズに合致した選択肢を3つ程度に留めるように注意が必要です。

メリット

  • 幅広いニーズに対応できる
  • 利益増につながる

デメリット

  • 顧客ニーズに合致した価格設定のバランスが難しい

複数パッケージ価格モデルの種類を紹介します。

1.段階的なユーザーモデル(Tiered user model)

段階的なユーザーモデル(Tiered user model)とは、利用できるユーザー数の違いによって、価格を複数設定するモデルです。利用機能に違いを作りにくいが、1社で利用する人数が多いサービスで設定される場合が多いです。

2.段階的なストレージモデル(Tiered storage model)

段階的なストレージモデル(Tiered storage model)とは、利用できるストレージの量にもとづき、価格を複数設定するモデルです。ストレージサービスなど、使用可能な量に沿って利用価値が上がるサービスに多い価格体系です。

3.機能別モデル(Feature based model)

機能別モデル(Feature based model)とは、顧客が利用可能な機能に応じて、複数の料金プランを設定するモデルです。顧客のペルソナと必要とされる機能の把握ができていると設定しやすく、使用できる機能の数が多くなるほど価格は高くなります。

3. 従量課金制

従量課金制は、ユーザー数や使用時間などの利用した“量”に“従”って課金する、価格体系です。顧客目線だと「使った分だけお金を払う」仕組みになります。

ユーザーの使用状況に応じて単価が確定し、請求されるため、金額に対する顧客の納得を得やすくなります。また、ユーザーの利用状況によっては、一定の金額で使い放題の場合と比べ、より多くの金額を請求できるため収益の最大化につながります。

一方、サービス利用前に課金タイミングを設置できない点や、事前に収益予測をする難易度が上がる点が難点となります。

メリット

  • 顧客の納得を得やすい
  • 収益を最大化させやすい

デメリット

  • 前払いをしてもらえない
  • 事前に収益予測ができない
  • 利用を控えられる可能性がある


従量課金制の種類を紹介します。

1.使用量課金

使用量課金は、特定の機能を利用した回数や保存できるデータの量、アクセスできるストレージの量など、サービスの何かを利用・アクセスした量に応じて課金されるモデルです。

Datadog(データドッグ)

使用量課金型の従量課金モデルの代表例として、監視アプリケーションサービスを提供するデータドッグが挙げられます。

次の画像のようにデータドッグが提供するリアルユーザーモニタリングのサービスでは1マンセッションごとに課金される仕組みになっています。

(出典:Datadog)

2.成果報酬型

成果報酬型は、成果が発生した場合に課金されるモデルです。例えば、採用媒体で人材を獲得した場合に課金が発生する場合はこれに該当します。

月額利用料に加えて成果報酬が発生するサービスもあれば、月額利用料はなく成果報酬のみ発生するサービスもあります。

BIZREACH(ビズリーチ)

成果報酬型の従量課金モデルとして転職支援サービスを提供するビズリーチが挙げられます。

ビズリーチではシステム利用料に加えて、入社した際の成功報酬が発生します。

(出典:ビズリーチ)

3.ユーザー課金

ユーザー数課金は、顧客企業に付与したアカウントの数に応じて単価が上がるモデルです。顧客の利用アカウント数が増える度に、自動で単価が増加するため、追加営業やパッケージの変更なく売上を増加させることが可能になり、使い方次第では非常に強力な収益増加のドライバーになります。

Salesforce(セールスフォース)

ユーザー課金型の従量課金モデルを用いている企業の代表例として、顧客管理クラウドで有名なセールスフォースが挙げられます。

セールスフォースでは次の画像のように、価格表には1ユーザーごとの金額が表示されており、サービスを使う使うユーザーの数によって金額が変わるのです。(出典:Salesforce)

4.アクティブユーザー課金

ユーザー課金モデルの場合は、サービスの利用状況に関わらず料金が発生する一方、アクティブユーザー課金モデル(Per active user pricing)は、サービスを利用していないアカウントには料金が発生せず、過去のログイン履歴などを参照し、サービスを利用しているアカウント数のみに料金が発生するモデルです。

ユーザー課金よりも単価を抑えやすいぶん、顧客に好まれやすいというメリットがある反面、収益や業務内容、コスト面で様々な懸念点があるため、自社の状況をしっかりと鑑みて実施することが望ましくなります。

Slack(スラック)

アクティブユーザー課金型の従量課金モデルを用いているサービスとして、ビジネス用メッセージングアプリのスラックが挙げられます。

実際は次の画像のようにアクティブユーザーの数が全体の金額に換算されます。(出典:Slack)

スラックでは自社サイト上にて次のように表記しています。

「企業向けソフトウェアの料金プランではほとんどの場合、チームのユーザー数をもとに請求が行われ、ソフトウェアを実際に使用しているユーザー数は考慮されません。しかし、Slack では実際に利用した分のみの料金が請求されるので、Slack を使用していないメンバー分の料金を支払うことはありません。」

(出典:Slack help center)

4. フリーミアム

フリーミアムとは、無料プランと有料プランの2つの段階に分類し、運用する価格体系です。顧客は、基本的な機能を無料で利用できますが、機能や容量などを追加して利用する際に課金が必要になります。

フリーミアムを使うことで、顧客は無料でサービスを利用できることから、導入ハードルを大きく下げることが可能です。フリーミアムを正しく運用することで、顧客獲得単価を下げ、大幅な顧客数増加のドライバーにできます。

一方、設計を間違うと、収益化の難易度が格段に上がるため、注意が必要です。また、カスタマイズ性が高く、カスタマーサクセス工数が多くかかるようなサービスでは、採算が合わず、適応は難しくなります。

メリット

  • 顧客獲得が容易
  • サービス理解が促進されやすい
  • 有料化が必要なタイミングに、やめにくくなっている

デメリット

  • 収益化の難易度が高い
  • カスタマイズ性が高いサービスでは、採算が合わない

まとめ

SaaSの価格体系として、単一価格モデル・複数パッケージ価格・従量課金制・フリーミアムを紹介しました。

価格・プライシングに関してお悩みの事業者様は、一度プライスハックにお問い合わせください。

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SaaSプライシング戦略|SaaS事業に適した価格戦略

SaaS業界でプライシングが注目されているわけ

近年、SaaS業界におけるプライシングに対する注目度は、他の業界と比べ異常なほど高いです。理由は簡単で、海外VCを中心にプライシングの重要性、その効果、成功事例が共有されているからであると考えます。

例えばこんな情報。

「継続的に見直す企業のユニットエコノミクスは 11.1x に対して、見直さない企業は 1.7xと、大きな差が生まれている。」

「価格設定によるマネタイズを1%向上させると利益率は12%も改善する。これはリテンションの約2倍、顧客獲得の約4倍の利益率改善効果がある。」

この2つの情報だけをかいつまんでも、SaaS業界でプライシングが注目される理由がわかりますよね。

なぜバリューベースプライシングなのか

プライシングは多くの場合、自社視点・競合視点・顧客視点の3つの観点で考えます。

自社視点で考える方法を、「Cost-plus方式」といったりします。いわゆる、原価などのコストに対して、適切なマージンを乗せて販売するアプローチです。

競合視点で考える方法を、「Competitor-based方式」といったりします。これは、ベンチマークする競合企業群の価格水準から適切な価格を検討するアプローチと、自社の価格変更をすることで他社の価格変更を意図的に誘発し独自のポジショニングを築くアプローチがあります。

顧客視点で考える方法を、「Value-based方式」といったりします。俗にいうバリューベースプライシングです。これは、顧客が自社製品に感じている価値に基づいて価格を決める方法です。SaaSを中心に、サブスクリプション型のビジネスモデルとの親和性が高く近年注目されています。

バリューベースプライシングが親和性が高い理由としては、「収益の最大化」「TAMの拡大」が大きいでしょう。

収益の最大化
バリューベースプライシングでは、顧客の支払意欲に基づいた価格設定を行っているため、顧客の支払い意欲の上昇に合わせた値上げが可能になります。中長期的に見ると、Cost-plus方式、Competitor-based方式と比べて多くの収益を生むことができます。

TAMの拡大
TAM(Total Addressable Market)は、「マーケット全体の顧客数」 × 「取れる金額」で計算しますが、「取れる金額」のポテンシャルを引き上げることができます。例えば、バリューベースに基づいた従量課金を採用できると「取れる金額」のアッパーがなくなるため、TAMが拡大します。

実際、SlackやUnityといった企業では、Top 1%の顧客が40%以上を占めるケースも存在しています。

そのため、SaaSビジネスにおいて、この3つから選ぶとしたらバリューベースプライシング一択なのですが、そもそもこの中から選ぶという行為が正しい訳ではありません。プライシングは、自社視点、競合視点、顧客視点の三方よしで考える必要があります。

したがって、バリューベースプライシングのアプローチを採用し、適正価格レンジを特定→ 自社視点で適切な利益率を確保→ 競合視点で最終調整が理想の流れになります。

STEP0.体制を構築する

ここからプライシングを具体的に検討する流れについて解説していきますが、その前に必要なのが体制を構築することです。プライシングが事業に与える影響範囲はかなり広く(B2Bは尚更)、俯瞰的な視点、全社的なプロジェクトマネジメントが要求されます。そのため、1担当者に価格決定を任せるのは愚行です。100%失敗します。

ポイントは、価格決定の意思決定者を明確にし、チームを組成する事です。チームは3つのポジションで構成します。価格決定の意思決定者である「オーナー」、価格変更の実務を推進する「リーダー」、実際に実務を行う「プレイヤー」です。

オーナー
「値決めは経営」といわれるように、経営者や取締役レイヤーが担当するのが良いでしょう。このポジションでは「価格変更の目的設定」と「最終意思決定」を行なおます。価格変更の目的にどんなものがあるかは、後半の「価格を見直すタイミング」で解説しています。

リーダー
価格変更は関係者が多岐にわたるため(営業・マーケ・CS・販売代理店など)、連携しながら価格改定を実行する調整役が必須となります。オーナーは多くの場合、経営者や取締役ですので、時間的な制約からこのポジションになることは現実的ではありませんので、経営企画や事業責任者がこの役割を担います。

プレイヤー
価格決定に必要な顧客インタビュー、データ収集、データ分析などタスクが発生します。そういった実務を推進するポジションが必要になります。このポジションのアサインは、日常業務の延長線上で対応できる人材がオススメです。例えば、顧客インタビューにはCSチーム、データ分析には分析チームやマーケティングチーム、といった具合です。

STEP1.価格体系を考える(定額課金・従量課金・機能別料金)

ここから具体的にプライシングを検討していきます。SaaSプライシングは「価格体系」「金額」の2つを考えることで完成します。ここではまず価格体系にはどんなものがあるのか、どうやって設計するべきか解説します。

まず価格体系は次の4種類からなります。この4種類の価格体系を組み合わせるのとで、完成します。

・定額課金
・アカウント別従量課金
・利用従量課金
・機能別従量課金

定額課金
定額課金は一言で言うとシンプルです。シンプルがゆえに、売上向上には工夫をこらす必要がありますが、事業ニーズの検証がしやすく初期のサービスで有効な価格体系です。

特徴は、「期間毎の定額料金を設定する」「顧客が価格を理解しやすい」「幅広いニーズに応える工夫が必要」です。

アカウント別従量課金
アカウント別従量課金は、複数ユーザー前提かつ、アカウント別で保存される内容が異なるサービスに有効です。

特徴は、「アカウント数毎の料金を設定する」「利用ユーザーに比例して単価アップ」「複数ユーザー前提サービスに向いている」です。

利用従量課金
利用料従量課金は、良くも悪くも顧客に左右される特徴を持ち(利用されればされるほど単価が高く、利用を抑制されると単価が低くなるため)、粘着度が高いサービスで特に有効です。

特徴は、「利用量毎の料金を設定する」「利用に応じて自動で単価が増える
」「顧客が利用を控えるリスクあり」です。

機能別料金
機能別料金は、幅広い顧客に対応できる特徴を持ち、顧客ニーズが明確なサービスで特に有効です。

特徴は、「利用ニーズに合わせてプランを設計」「顧客分類に応じたプランが可能」「プラン変更でアップセルが望める」です。

この4種類の価格体系をベースに、自社のサービスの特性と照らし合わせて検討していきます。その際、「①顧客と価値(誰に何を届けるか)」「②個別の価格体系(何にいくら請求するか)」の観点から考えます。

「①顧客と価値(誰に何を届けるか)」では、顧客属性の整理(セグメンテーション)提供価値の整理双方で、検討が必要です。

顧客属性は、業界/業種・企業規模・部署・利用目的(課題)・提供価値性質などが参考になり、実際の顧客DBを分類できるような、顧客分類を作成することが重要になります。

こうやって整理した顧客分類からサービス価値を整理します。この際、既存顧客と長期的に獲得したい顧客でそれぞれ分類できると完璧です。

続いて、提供価値の整理をしていきます。顧客へのインタビューなどを通じて、顧客属性の整理(セグメンテーション)で行なった内容から、製品に対する顧客の認識を明確に把握し、使用事例を詳しく調査します。

また、画像のようにその提供価値が多くの顧客が感じている価値なのか、一部の顧客が感じている価値なのかまで整理します。

このプロセスを経ることで、提供しているサービスに対し、価値を受け取る顧客、その顧客が感じている価値(重視している機能も)が整理できます。

ここまで整理できたら、先ほどの4種類の価格体系から、その価値に最も即した価格体系を当てはめます。これが「②個別の価格体系(何にいくら請求するか)」の何に請求するか、の部分に該当します。

最後に、一つにドッキングしたら価格体系の完成です。

STEP2.適正価格を算定する(PSM分析・EVC Analysis・Split Testing Pricing)

続いて、適正価格(金額)を算定していきます。これが「②個別の価格体系(何にいくら請求するか)」のいくら請求するか、である具体的な金額を算定する方法です。考えうるアプローチは3種類です。「PSM分析」・「EVC Analysis」・「Split Testing Pricing」です。ここでは中立な観点から、それぞれの概要、強い点、弱い点等を解説していきますので、自社の状況を考慮し、最も適したアプローチを実施するといいでしょう。ポジショントークをすると、SaaSにおいては、PSM分析の活用が最も汎用的であり、精度が高くおすすめです(笑)

・PSM分析

PSM分析(価格感応度分析)とは、バリューベースの価格設定を実現するために、顧客の支払意欲を調査するために使われる手法です。1976年にオランダの経済学者VanWestendorpによって開発されたことから、PSM分析は「Van Westendorpモデル」と言われることもあります。PSM分析を応用することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかを把握でき、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算できます

支払意欲の調査で最も一般的な方法は、潜在的な購入者に製品に支払う金額を聞くことですが(これは直接質問法と呼ばれ、簡単に実行することができます)、いくつかの欠点があり支払意欲調査として不足です。購買可能な金額は点ではなくレンジであり、単一な価格を聞くことでは勘案しきれません。また、直接質問では、潜在的な購入者が実際の支払意欲よりも低い価格で回答が集まると言われています。これは、基本的に購入者が企業に対して、価格を下げるように交渉したい心理が働くためです。

PSM分析では、直接質問と異なり、間接的な質問を複数おこなうため、間接的に支払意欲を測定し、バイアスの少ないレンジを持った支払意欲を測定することができます

一般的なPSM分析の手順は、次の2段階のステップでおこなわれます。

PSM分析では、アンケートを通じて、実際に顧客が製品・サービスに対して、どれほどの支払意欲を持っているのかを調べます。

1.アンケート調査
2.可視化

PSM分析で実際に使用されるアンケート項目は次の4つです。

PSM分析のアンケート項目
・その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
・その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
・その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
・その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?
*サービス特性に応じて多少の日本語調整が必要です

次に可視化です。価格調査の結果を集計し、以下のようにグラフに回答者を累積してプロットしきます。

X軸が価格を、Y軸が当てはまる顧客の割合をあらわします。一般的には、価格が上がると、「安すぎて品質が低い」「安く感じる」と思う顧客が減り、「高すぎて検討に乗らない」「高く感じる」と思う顧客が増えます。

一般的なPSM分析では、価格設定の参考となる4つの交点を見ていきますが、わかりやすい反面、正確性にかけるという欠点があります。実際には上限価格以上でも購入が検討に乗る人はいますし、同様に下限価格以下でも品質が悪いと思わない人が存在します。最適価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は安すぎて品質が低いと思う人と高すぎて検討に乗らないと思う人が最小となる価格で、必ずしも交点と一致しません。

参考までに紹介しますが、スルーしてください。

・最適価格
最も価格拒否感がないと見られる価格
・妥協価格
高い・安いの評価が分かれる価格
・上限価格
これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格
・下限価格
これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格さ
*上のグラフと照らし合わせてください

PSMで収集したデータをプロットするだけでなく、集計して価格ごとの購買人数を推計した方が正確な結果となります。購買人数の推計は、「高すぎて検討に乗らない価格」「安すぎて品質や効果に不安を感じる金額」の2つを見ていきます。

このように購買人数を推計した後は、それに単価をかけて売上を推計します。このグラフを見ながら、許容してくれる顧客数と売上の増加幅のバランスで金額の意思決定をしていきます。

またPSM分析を既存顧客に対し実施し、その顧客の利用状況などを合わせて分析することで、以下のような従量課金ベースでの推計ができることも強みです。

私たちはこの分析を行い、かなりの回数価格を変更していますが、シミュレーションの精度がかなり高いです。これが私たちがPSM分析を推奨する理由です。

・EVC Analysis

EVCとは、Economic Value to the Customerの略称で、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、その要素の価値を勘案した上で、販売する商品の価格決めをするための指標を指します。価格付けの際には、EVCから数%割り引いた値を販売価格とします。そのため、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、有効な値付けの手法となります。EVCを求める方法は2パターンあります。

EVCを求める方法①
方法①では、価格付けの際に参照にする競合商品(以下、参照商品)の価格に、販売しようとしている商品(以下、販売商品)の参照商品に対する追加的な価値を足すことでEVCを求めていきます。

プロセスは以下の4つです。

Step 1 付加価値の認識
参照商品にはない販売商品の要素のうち、顧客が長所あるいは短所だと認識する要素を列挙していきます。参照商品を使用する場合にはかかっていたコストを削減する要素、あるいはかかっていなかったコストがかかるようにする要素を列挙する方法もあります。

Step 2 付加価値の価格付け
Step 1で認識した要素について金銭的な価値を割り当て、その総和をTAV(total additional value)とします。

例: 現在販売しようとしている自動車の燃費は参照商品よりもよく(Step1で認識した付加価値)、その価値に割り当てる金銭的な価値は50万円だと見込んでいる。また、販売商品には参照商品にはない事故を防止する機能があり、その価値に割り当てる価値は30万円だと見込んでいる。この場合、TAVは80万円になる。

Step 3 EVCの算出
参照価格とTAVの総和をとってEVCを算出します。これが顧客が払える最大の価格になります。

例:TAVが80万円、参照商品の価格が300万円である時、EVCは380万円になる。

Step 4 販売価格の決定
TAVのある割合を割り引いて販売価格を決定します。この割引は、既存商品から販売商品に乗り換える際に顧客が認識するリスクを勘案したものになります。

例:今TAV80万円のうち30%を割引くとする。この場合、EVC(=380万円)からTAVの30%(80万円×30%=24万円)を差し引いた金額(=356万円)を販売価格とする。

整理すると以下の通りです。

参考までに、計算式もご紹介します。方法①の繰り返しになりますので、お急ぎの方は、方法②へお進みください。

EVCを求める方法②
方法①の場合、EVCは参照価格に合計追加価値を足したものと定義されますが、参照商品を利用する上でかかるトータルコストから販売商品を利用する上でかかる価格以外のコストを引き、参照商品に対する販売商品の利点を足して求める方法もあります。ただし、この方法で求められるEVCは、方法①のものと同じです。以下ではこの方法を説明します。

ここまでで、EVCによって製品の価格を決定する方法を説明しましたが、実はEVCからどれだけ割引くかを考えることが非常に難易度が高いです。実際、私もEVCはできたけど、価格は決められなかったというご相談を受けてます。

そもそも割引をする理由は、顧客が既に使っている製品から乗り換えるのをリスクに感じるため、その分を割り引いて埋め合わせをするためです。つまり、顧客が製品を信頼していればしているほど割引は少なくて済みますし、顧客が製品を信頼しているほど値段を変化させても販売量は減りにくくなります(=価格感度が低い)。この顧客の価格感度は、EVCで求めることができません。

そういった背景もあり、EVC Analysisは概念上バリューベースプライシングとしてあるべきアプローチですが、具体的な金額に落とし込む際は「勘と経験」で決めるのとあまり変わらないという弱点があります(データ、数字ベースで算定ができない)。

・Split Testing Pricing

まずSplit Testing Pricingを紹介する前に、その考え方の下にあるスプリットテストについて簡単に紹介します。

スプリットテストとは、商品に関する様々な変更内容に対し、顧客セグメントがどのような反応を示すのかを確認することで、顧客体験を効果的に最適化する方法を把握するための方法です。 スプリットテストは、プライシングの領域よりも、ホームページの設計などのために使われることが多いです。

スプリットテストの方法
1. A/Bテスト
顧客が体験する一つのセクション(ボタンの色やテキストの大きさ)に対して複数の選択肢を検討し、比較実験する。例えば、会社のウェブサイトのトップページに表示するボタンの色を変化させることによって、有料会員への登録ページへのアクセスを増やそうとする場合、顧客がトップページにアクセスするたびにその都度表示されるボタンの色を様々に変化させ、登録ページへのアクセスがボタンの色によってどのように変化するのかを調べる。

2. 多変量テスト
A/Bテストでは、一つのセクションを変化させることによってパフォーマンスが改善されるか調査するが、多変量テストでは複数のセクション(ボタンの色に加え、ボタンの大きさなど)をランダムに変化させ、パフォーマンスの変化を調査する。

3. フレキシブルLPテスト
上の二つの方法ではどのような顧客に対してもランダムにセクションを変化させていたが、本テストではどのような顧客がアクセスしてきたかも考慮して実験を行う。

このスプリットテストを応用したのが、Split Testing Pricingです。

Split Testing Pricingとは、スプリットテストをプライシングの領域に応用したものです。ただし、上述しましたが、これはスプリットテストの主要な活用方法ではありません。Split Testing Pricingでは、顧客に提示する価格を変化させることによって、価格の変化によって顧客の購入数と収益がどのように変化するのか検討します。つまり、料金表を公開しているSaaS企業(主にPLG型)に限定されたアプローチになります。

余談ですが、米国の時価総額上位50社のSaaS企業の料金ページを調べたところ、具体的な料金表を公開している企業は全体の34%で、残りの66%の企業は、具体的な料金表を公開していませんでした。また、料金表を公開している企業の90%以上が、PLG型ということがわかりました。

Split Testing Pricingの方法一覧
Split Testing Pricingでは、価格を変化させることによって購入数や収益がどのように変化するのか調査しますが、フロントエンドを変化させるよりも高い技術が必要になります。また、ページ上で誤って安い価格を表示し、その後高い価格を提示すると法律違反になる可能性があります。また、顧客によってランダムに請求する値段を変化させると、顧客との間のトラブルに発展しうるリスクがあるので注意が必要です。

1. Cosmetic Price Testing
実際の価格よりも高い範囲で複数の価格をランダムに表示し、購入を確認する直前に値引きを実施し、すべての顧客に実際の価格で販売する方法。これによって、バックエンドとの連携を行ったり顧客との信頼関係を失ったりするのを恐れることなく調査を実施することができる。この調査方法は、端数価格など微小な価格の変化が販売数に与える影響を調査するのに最適。なぜなら、顧客は購入後に払った値段が購入前に見た値段よりも安くなっていたとしても多くの場合気付かないため、顧客に気付かれずに調査を行えるからだ。

2. Anchoring in Action
異なる価格で製品を提供するのではなく、複数の価格で複数の製品を提示し、それぞれの価格設定が他のプランの価格に対してどのような相対的な意味を持つか調査する。これによって、複数価格設定の効果(複数の製品の中で最も高い製品と安い製品は購入されないなど)を実証し最適な価格設定の組み合わせ(例えば、最も購入させたい商品の価格を二番目に高く設定する)を構築するヒントを得ることができる。この調査では、販売したい製品より高い製品を販売することで販売したい製品の価格を安く見せたり、それより安い製品を値上げして販売したい商品との価格差を縮めることで販売したい製品のお得感を演出したりする効果があるか検討できる。

SaaSは多くの場合、単一での価格を設定しないため、この手法は非常に重宝します。

3. 価格表示
例えば年額ではなく、月額表示にした方が、登録者数が増加する効果が知られていますが、このように単純な価格表示によって販売数や利益がどのように変化するか判断することができる。この調査をする際には、地域性を考慮するべきである。例えば、家電でも月払いで購入することが一般的であったり、法律によって販売量が変化したりする可能性がある。

4. 時間によって価格を変化させる
普通スプリットテストでは同時に異なる顧客に対して異なる価格を提示するが、時間によってすべての顧客に対して提示する価格を変化させ、どのように販売数や利益が変化するかを調査する方法。この方法では、価格の表示を伴う広報活動への影響を抑えることができる。しかし、販売数を変化させる時間ベースの要因の影響を排除する必要がある。

5. 従量課金制の設定の判定
従量課金制では、量が多いプランでは顧客が商品の価格の高さゆえに購入を躊躇うため、コンバージョン率が比較的低い傾向がある。しかし、スプリットテストを実施した結果、量が多いプランと少ないプランでコンバージョン率が変わらない場合、顧客は商品が魅力的だと考えているがゆえに、価格はあまり考慮せずに量の方を注目している可能性がある。よって、購入量を全く減らさないか少ししか減らさないで、量の多いプランの価格を引き上げることができる。

ちなみに Split Testing Pricingを実施する際の被験者の選び方については、ページビュー数ではなくユニークユーザー数を計測する必要があります。コンバージョン率を計算する際はページビュー数ではなく、ユニークユーザー数を使用した方が有益であるため、計測の段階でもユニークユーザー数を計測しておく必要があります。

最後に注意点です。

・膨大なサンプル数が必要
スプリットテストには膨大なサンプル数が必要で、統計的に優位な結果を得るのがほとんど不可能になる可能性がある。またそのため、新興企業や顧客の少ない企業はスプリットテストから優位な結果が得られない。
・調査中は変数の変更ができない
価格変化以外の要因を統制するため、調査中は価格設定ページに変更を加えることができない。
・相対的な評価しかできない
A/Bテストでは、ある価格よりもある価格の方が好ましいこと分かるが、最適な価格設定がどうなるかはわからない。
・販売数を増やすことと利益を増やすことのどちらを優先すべきかは一考するべきである。
高い価格を設定したことによって販売数が少なくても利益が高くなることもあるが、高い価格を設定することで顧客離れが起き、長期的には利益が少なくなる可能性がある。
・同じ商品を異なる価格で販売すると、倫理的な問題に問われる可能性があり、最悪の場合法律違反になる可能性がある。

最後に、SaaSではないですが、課金体系がSaaSと比較的近いNetflixのSplit Testing Pricingを活用した事例をご紹介します。

2019年3月頃にNETFLIXはイギリスのユーザー向けサブスクリプション価格に対してスプリットテストにを行いました。具体的には、通常の価格よりも最大3ドル高い価格が表示されました。これは、複数のTwitterユーザーによって報告されており、以下のツイートでは、ユーザーがブラウザによって表示される価格が違ったと証言しているが、BBCによると再現はできなかったといいます。

NETFLIXによると異なる価格が表示された場合でも高い価格を支払わせていないとしており、上で紹介したCosmetic Price Testingが行われた可能性があります。NETFLIXは、「利用者がNETFLIXをどのように評価しているか理解するために、若干異なる価格をテストしています。」「すべてのユーザーがこのテストを受けるわけではなく、今後テストされた価格で実際のサービスが販売しないかもしれません。」「我々の目標は、NETFLIXがお金を支払う価値を持ち続けることを保証することです。」(以上拙訳)と証言しています。

ここまでで、3種類の適正価格を算出する方法について解説しました。

STEP3.顧客に対して連絡する

価格変更に対し、顧客が大なり小なりネガティブな印象を抱くことは避けて通れません。だからと言って、価格を変えることを避けるわけにもいきません。大切なことは、顧客の価格変更に対するネガティブな印象を最小化することです。ここでは、Evernote(エバーノート)の事例を交えつつ、顧客の価格変更に対するネガティブな印象を最小化する方法について考えていきます。

まずは、彼らがどのように「顧客の価格変更に対するネガティブな印象を最小化」したのか実際の告知内容(Evernote の価格プランの改定について)を見ていきましょう。

まず、冒頭で会社で1年間取り組んできたこと、ビジネスの透明性の宣言、価格改定におけるポリシーを説明しています。

”この 1 年の間に、色々な変化がありました。〜(中略:1年間のアップデートの内容)〜これらのアップデートで確実に前進していると考えていますが、私たちが目指す Evernote にはまだ近づいていません。”(引用)

“これから先も変わらないことが 2 つあります。みなさんの生産性を最大限高めるためのお手伝いをすることと、弊社のビジネスを可能な限り透明に運営していくことです。つまり、みなさんに広告を見せたり、みなさんに関するデータを売ったりすることはしません。あくまで、良い製品を適正価格で提供するだけです。従って価格調整を行う場合においても、その変更内容と理由、およびユーザのみなさんにどのような影響が生じるのかを具体的に説明させていただきます。”(引用)

ここまでは、珍しくないかもしれませんが、「次世代の Evernote を作るために」というタイトルで、値上げをする意図と、いいサービスにするため、しっかりサービスに投資をしていくと宣言しています。

“私たちは、価格プランの変更がみなさんに及ぼす影響をとても真剣に考えており、ユーザのみなさんへの感謝の気持ちを忘れることもありません。私たちの目標は、長期的に Evernote を改良し続けることです。ユーザのみなさんの要望に応える新機能も随時実装しながら、主要製品をよりパワフルに、直感的に使えるようにすることに引き続き投資してまいります。一方で、それを実行するためにはたくさんの労力と時間、そしてお金が必要になります。そこで、Evernote に大きな価値を見出してくださる方には、私たちが必要な投資を行えるよう、ぜひ力を貸していただきたいと考えております。ひいては、Evernote 製品の利用体験をさらに進化させていきたいのです。”(引用)

これです。大切なのは。

単に自社の利益を追求するのではなく、顧客のためにサービス開発に投資していく、中長期的にみると絶対に後悔させない。こんな熱い想いを正直に顧客に伝えるのが一番です。外部要因によるコスト増を言い訳にする企業が圧倒的に多いですが、顧客にとってサービス提供者側の都合は関係ありません。あくまでも自社にメリットがあるかどうかです。それを忘れず、丁寧に通知を行いましょう。

上記はあくまで一例ですが、

・既存顧客は価格を据え置き、新規顧客だけ価格改定を実施する
・既存顧客の価格改定は、一定期間を設けてから実施する
・CS/営業チームがしっかり説明に行く

などの、工夫も十分効果的です。あくまでも、顧客の納得のいく範囲内で価格を改定することが前提になりますが、このような工夫をすることで顧客の価格変更に対するネガティブな印象を最小化していきましょう。

価格を見直すタイミング

ここまでのSTEPで、価格体系の決め方、適正価格の算出方法について書きました。しかし、Pricing is never 100% doneであり、適正価格は移り変わっていきます。価格は、耐用年数が非常に低いのが特徴です。

実際、77%の米国SaaSスタートアップは年に1回以上価格を見直しています。

肌感覚ですが、SaaS事業は平均して1年に1回は価格を見直すべきタイミングがくるのですが、その背景となる要因を4つの観点から整理していきます。

・事業フェーズの変化

事業フェーズを立ち上げ期(プレシード〜シード)、成長期(シリーズA〜B)、安定期(シリーズC以降)で整理するとしたら、この3つのフェーズでもあるべきプライシングは異なります。*ファイナンスのステージはあくまでも目安です。

立ち上げ期(プレシード〜シード)
事業ニーズの検証が最も大切なこのフェーズで一番大切なことは、「価格が理由で売れないのではないかという仮説」をなくすことです。そもそも事業が成立するかすらわからないこのフェーズで、プライシングがテクニカルだと、価格が理由で売れなかったのではないか?と疑問を抱くはずです。それでは事業のニーズがなくて売れないのか、価格が理由で売れないのか判断ができません。その状態を最も避けるべきであり、そのために単一のシンプルな価格体系かつ、価格がネックにならず売り散らかせる最低限の価格にする必要があります。そのため、このフェーズでは価格に対してあまり注力する必要はありません。

成長期(シリーズA~B)
このフェーズがプライシングに初めて注力するフェーズになります。このフェーズでは、単一のシンプルな価格体系かつ、価格がネックにならず売り散らかせる最低限の価格が、大きな機会損失を生むことになります。このフェーズでは、顧客の事業規模や利用頻度、経済効果が多岐に渡りはじめます。そのため、例えば、SMBにも、エンタープライズ企業にも月額1万円で売っている、といったような高く取れるはずの人から取れない機会損失が生まれたり、SMBには売れていたのに、エンタープライズ(別セグメント)には安すぎてサービスを信頼してもらえない、といった状態に陥ることになります。この状態を回避するために、価格体系を見直し、幅広いセグメントのニーズに応えられるようプライシングの見直しをしなければならないのです。

安定期(シリーズC以降)
このフェーズになると、アップセルを狙った新しいプロダクトをリリースすることも多いでしょう。その場合、製品同士の協調価格を考え、自社製品によるカニバリゼーションや、不適切なバンドル設計により売れるはずのプロダクトですら売れない、などの状態を回避する必要があります。

・高い売上目標

T2D3という言葉があるように、多くのSaaS企業はスタートアップであり、特にスタートアップでは高い売上目標(や売上成長率)を達成する必要を求めらますよね。これまで順調に顧客を獲得できていたものの獲得ペースが鈍化してきた際や、獲得しても獲得しても売上目標に届かない際はプライシングの見直しが必要があります。

・価値の向上

新機能が追加され、提供価値が向上するにつれ、価格変更余地が生まれます。この場合に関してのみ、プライシングの見直しはnice to haveですが、長期的に見るとこのタイミングで都度都度プライシングを見直している企業とそうでない企業では大きな差になるでしょう。

・ターゲットの変更

SMBからエンプラなど、ターゲット変更に伴い適正な価格は変化します。上述した、SMBにも、エンタープライズ企業にも月額1万円で売っている、といったような高く取れるはずの人から取れない機会損失が生まれたり、SMBには売れていたのに、エンタープライズ(別セグメント)には安すぎてサービスを信頼してもらえない、といった状態に陥るため、プライシングの見直しが必要です。

プライシングの成功事例(SurveyMonkey)

これまでの復習も兼ねて、最後に成功事例を見ていきましょう。ここで紹介する事例は、言わずと知れた米国の大手SaaS企業であるSurveyMonkeyです。

まず価格変更を行なった背景は、以下のようです。

・競合他社の価格が変化しているにも関わらず、SurveyMonkeyでは価格を変えていなかった
プロダクトの開発速度が速く、顧客がついてこれていなかった(ユーザーに対し、「製品に追加してほしい機能」を尋ねたところ、大半の機能はすでに存在しているものだった。しかも、その機能に対し、もっとお金を払ってもいいと思っていたことがわかった。)
・顧客の80%が、個人的な目的や教育目的ではなく、ビジネスシーンで活用していることがわかった。

前述した、「価値の向上」、「ターゲットの変更」がこれに該当しますね。価格の耐用年数が低いことはお話ししましたが、その背景としてサービスの拡大に伴ってユーザーのニーズが多様化してくるといった観点があります。SurveyMonkeyのように開発スピードの早い企業はこの傾向が顕著にあわられます。

そして、価格改定を行なった結果以下の成果が出たようです。

・年間プランの利用者が、全体の77%から85%になった(チャーン防止にも結果繋がった)
ARPUが14%増加した($423→$483)
・個人利用から法人利用へのスムーズなアップセルに繋がった(企業向けの売上が128%増加し、総売上高の29%を占めた(前年同期は16%)。)

プライシングは、収益最大化にフォーカスが当たりがちですが(もちろん収益インパクトは絶大)、多セグメントのユーザーのニーズに応えたり、サービス提供側の意図に合わせて使ってもらう(法人利用の促進など)という観点においても大きく貢献することが見てとれます。

成功要因は大きく3つであると考えています。

①全社を巻き込んだプロジェクトにしたこと
②調査の手法が適切であったこと
③顧客対応を適切に行なったこと

一つ一つ説明していきます。

まず①「全社を巻き込んだプロジェクトにしたこと」についてです。今回の価格改定に関わった部門は以下のようです。「STEP0.体制を構築する」がしっかりできています。

・リサーチ(定量調査のため)
・プロダクト(技術的な観点でのパッケージング)
・エンジニア(新パッケージの実装)
・マーケティング(変更発表・対応)
・営業(リードジェネレーションに与える影響の検討)
・法務(規約の対応)
・財務(財務モデルとの整合性の判断)

B2Bは顕著ですが、上述の通り、関係者が非常に多く価格に対する認識や課題が異なります。どのポジションから見ても、納得のいく価格設定である必要があり(優先順位はありますが)、全社を巻き込むことが大切になります。そのため、ポジションによる先入観の少ない経営層、事業企画、外部企業(コンサル等)が、プロジェクトを推進することが一般的です。

実際、私たちも、B2B企業のプライシングに関わらせていただくときは、CS部門、営業部門、プロダクト部門、事業企画、開発部門などと必要に応じて連携しつつ、プロジェクトを実施しています。

続いて、②「調査の手法が適切であったこと」です。行なったアプローチは次の3つのようです。

・顧客セグメンテーション
・質的インタビュー
・PSM分析

「STEP1.価格体系を考える」手法として「顧客セグメンテーション」と「質的インタビュー」が、「STEP2.適正価格を算定する」手法としてPSM分析が採用されています。

最近では、PSM分析というワードが一人歩きをして、それだけをやろうとする人が増えていますが、PSM分析単独でざっくりした目安金額はわかりますが、価格を決めれるわけではありません。大切なのは、「顧客セグメンテーション」と「質的インタビュー」を組み合わせることです。

「顧客セグメンテーション」は、既存顧客と長期的に獲得したい顧客の2つを調べていきます。具体的には、どのようなペルソナで、どのようにプロダクトを活用しているか、を見ていったようです。

「質的インタビュー」では、セグメンテーションで行なった内容から、製品に対する顧客の認識を明確に把握し、使用事例を詳しく調査します。プライシングは、金額を決めて終わりでなく、顧客セグメント毎に提供するパッケージまで考えていきます。そのためには、これらの調査が必須ということです。

最後に、③「顧客対応を適切に行なったこと」です。
これはEvernoteの事例でもお話ししましたが、SurveyMonkeyでは、既存の顧客がショックを受けないように、段階的に新価格に移行し、包括的なコミュニケーションプランを実施したようです。この戦略により最終的には、解約はほとんどなかったようです。「STEP3.顧客に対して連絡する」も完璧ですね。

まとめ

今回はSaaSのプライシング戦略について紹介しました。プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。

価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

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フリーミアムとは?メリット・デメリット・導入企業例【SaaS価格体系】

この記事ではSaaSの価格体系のうちの1つ、フリーミアムについて、無料トライアルとの違い、メリット・デメリット、事例などを解説します。


プライシングスプリント

フリーミアムとは

フリーミアムとは、無料プランと有料プランの2つの段階に分類し、運用する価格体系です。顧客は、基本的な機能を無料で利用できますが、機能や容量などを追加して利用する際に課金が必要になります。

フリーミアムを使うことで、顧客は無料でサービスを利用できることから、導入ハードルを大きく下げられます。フリーミアムを正しく運用することで、顧客獲得単価を下げ、大幅な顧客数増加のドライバーにすることが可能です。

フリーミアムと無料トライアルの違い

フリーミアムと無料トライアルの違いは、サービスを利用できる期間と機能です。

期間の面では、フリーミアムモデルでは無料プラン利用可能な期間に制限がないのに対して、無料トライアルでは期間が限定されます。

機能の面では、フリーミアムモデルの無料ユーザーは一部の機能しか利用できないのに対して、無料トライアルではほぼ全ての機能が利用可能です。

フリーミアムと無料トライアルのどちらが、どのサービスに向いているかは一概にはいえませんが、原価がかかり続けるサービスかが1つの重要な観点です。

サービスを利用するのに原価を必要とするサービスにおいて、フリーミアムを採用するとコストがかかり続けてしまうため、サービスの持続が困難になってしまいます。

フリーミアムの3つの制限の型

フリーミアムは、無料プランにどう制限をかけるかによって、大きく3つの型が存在しています。基本的には、この3つの型の中から選んだり、組み合わせたりすることで課金条件を設計することになります。

機能制限型

全ての機能を無料で提供せず、追加機能の実装や、既存機能の強化によって課金が発生する型です。

利用量制限型

ストレージの使用量、データの処理量に基準を設け、利用料がその基準を超えた場合に課金が発生する型です。

サポート制限型

無料プラン時に、カスタマーサポートを行わないなど、サポートリソースに制限をかける型です。

フリーミアムの注意点

フリーミアムでは先ほど述べた制限のかけ方を間違うと、顧客はいつまでも無料で利用することができてしまいます。一方、適切な制限を設けられれば、サービス利用開始から早い段階で有料化せずにはいられないという心理にさせることが可能です。

顧客がもっとサービスを利用したいと思うように設計しつつ、使えない機能が多すぎてサービスの価値が全く伝わらないということがおこらない適切なバランスの判断が重要です。

そのためには、顧客の支払意欲調査などを実施し、顧客ニーズと支払に対するモチベーションのバランスをしっかり把握することが大切になります。

フリーミアムのメリット

フリームアムのメリットは次の3点があげられます。

顧客獲得単価を下げられる

サービスが無料で始められる以上、有料のサービスと比べて、顧客のサービス導入に対する心理的ハードルは低くなります。結果的に、有料マーケティングや営業プロセスのコストを費やしすぎることがなくなります。

結果、プロダクトの品質向上により多くのリソースを投下することが可能になり、好循環が生まれやすくなります。

顧客のプロダクト理解が得られやすい

やはり資料やデモだけでは顧客のサービス理解は難しいものです。実際に、サービスを一定期間使ってもらうことで、サービス本来の価値を課金前に伝えることができるのはフリーミアム独自の魅力といえるでしょう。

共有してもらいやすい

サービスが無料で使えるため、上長の決裁承認を取る必要がなくサービスを利用できることになります。そのため、サービスを始める価値を感じたらすぐに利用するでしょう。結果、サービスの価値を確信した場合、会社全体での導入を推薦したり、知人に紹介したりする行動につながりやすくなります。

フリーミアムのデメリット

フリーミアムのデメリットは「収益化の難易度が高い」ことがあげられます。

無料プランにかける制限が甘かったり、あまり必要のない機能に制限をかけたりすると、顧客はいつまでも無料で利用することができ、本来、課金するポテンシャルがあった顧客の課金機会を逃すことになります。これではサービスの収益化をいつまでたってもすることができません。

一方で、制限がきつすぎると、サービスの価値を理解する前に解約されるリスクが高まります。これでは、収益化はおろか、事業を成長させる事は難しいでしょう。

フリーミアムを成功させるには

フリーミアムを成功させるには、顧客のニーズと支払意欲のバランスを正確に把握することが大切になります。

例えば、Chatworkのようなビジネスチャットアプリの場合、課金に対するモチベーションが寛容になるセグメントは、「従業員人数15名以上の会社だ」と把握することができれば、「従業員人数15名まで無料」という制限をかけられます。

この意思決定に必要なデータは、バリューベースプライシングを実践する過程で得ることが可能です。バリューベースプライシングに関しては、別記事で解説していますので、そちらをご覧ください。

顧客のニーズと支払意欲に対して、価値に見合った制限と適切な金額を設定すれば、低い獲得単価でリファラルが生まれやすいサイクルを構築することができるので、魅力を感じた方はぜひフリーミアムモデルを検討してみてください。

フリーミアムの事例

Slackはフリーミアムの最高の事例といえるでしょう。Slackは有料ユーザー数14万人を誇るビジネスチャットサービスです。

Slackの無料プランは、利用料制限型です。メッセージの閲覧と検索が10,000メッセージまで、ファイルストレージの容量が最大5GBまで、と制限を設けています。この上限に達すると有料プランに移行する必要があります。

導入時は、従業員規模に関わらず無料で導入できるため、大企業でも導入のハードルは限りなく低くなります。また、10,000メッセージを超える頃には、かなりのコミュニケーション履歴が蓄積されるため、相当のことがない限り、解約することを惜しまれるでしょう。かといって、メッセージコミュニケーションを突然やめる事は不可能なため、スムーズに有料化されるでしょう。

このようにいつまでも無料で使う事は不可能で、顧客にとって価値が高い条件で制限をかけることが大切になります。

余談ですがSlackでは、フリーミアム終了後、アクティブユーザー課金モデル(Per Active User Pricing)に切り替わります。

アクティブユーザー課金モデルは、「顧客にとってシンプルでわかりやすい」かつ、「顧客あたりの単価を上げやすい」モデルとされています。フリーミアムで獲得単価を下げながら、アクティブユーザー課金モデルによって1顧客あたりの単価を上げていく、長期的に莫大な利益が生まれやすいプライシングストーリーが描かれています。

このように自社の成長戦略に沿って最良のプライシングを設計する事は、事業成長において非常に大きな武器となります。ぜひベストなプライシングの実践を検討してみてください。

まとめ

フリーミアムを使うことで、顧客は無料でサービスを利用開始できることから、導入ハードルを大きく下げられます。フリーミアムを正しく運用することで、顧客獲得単価を下げ、大幅な顧客数増加のドライバーにすることが可能です。

一方、設計を間違うと、収益化の難易度が格段に上がるため、注意が必要です。

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CAC(顧客獲得単価)とは|定義・計算方法・重要な理由

顧客を獲得する状況を把握するために、CACを知ることは重要です。この記事では、CACの定義・計算方法・改善方法などを紹介します。

CAC(顧客獲得単価)とは

CACとは、Customer Acquisition Costの略で、日本語で顧客獲得単価のことです。
顧客獲得単価とは、1顧客を獲得するために必要な活動の総コストで、マーケティング費用・営業活動費・人件費など全てのコストを含みます。

サブスクリプションモデルのサービスが健全な状態であるためには、CACを意識して、拡大させながらもコストを抑えたサービス展開が必要です。

CAC(顧客獲得単価)の計算式

CACの計算は以下の式で行えます。

CAC(顧客獲得単価)=マーケティング費用・営業費などを含む総コスト÷獲得顧客数

例えば、100の顧客を獲得するのに500,000円を投資したとしたら、CACは5,000円となります。

・CACに含まれるもの

マーケティング費用・営業活動費(人件費・広告費など)

・CACに含めるべきではないもの

CS(カスタマーサクセス)におけるコスト

CSのコストは、営業の一部としてCACに含むとする議論もありますが、LTVの計算に使うCACには含まないとする考えが一般的です。

CAC(顧客獲得単価)が重要な理由

CACが重要な理由としては、次の2点があげられます。

ビジネスの将来性をはかれる

CACはビジネスの将来的な成功を測るために利用される重要な指標です。

サービスが多くの顧客に利用されるようになったとしても、CACが非常に高い場合、利益率が悪く、儲かるビジネスにはなりません。そのため、CACの把握は、企業の将来を考えるにあたり必須です。

LTVとCACの関係

企業は、資金を投資して顧客を獲得します。その際にかかるコストがCACであり、利益としてはマイナスになります。時間が経つとともに課金されて利益は高まっていきます。(紺色の部分)

その後、損益分岐点を迎えてからは、契約期間中である限り利益は積み上がっていきます。(水色の部分)

一般的に、LTV>CAC×3の状態が健全な状態といわれています。

収益回収期間の想定

顧客獲得における費用の回収期間を概算し、黒字化するタイミングを算出できます。

CACの回収期間は次の計算式です。
CACの回収期間=CAC÷顧客1人あたりの月平均単価

CACの回収期間は、短ければ短いほどキャッシュフローがよくなります。

CACを改善するための施策

CACを改善するための施策を4つ紹介します。

顧客獲得のプロセスの改善

顧客獲得に必要な複数の施策を、定量的に管理します。数値をもとに、それぞれを改善していくことで、無駄を省いた顧客獲得が可能になり、CACを下げられます。

価格設定・プライシングの工夫

価格設定・プライシングを工夫することがCACを改善できます。toCのサービスにおける会員登録費用、toB向けサービスにおける導入前のガイダンス費用や導入費用など価格体系を工夫することで、CACの早期回収が可能です。

マーケティング・営業の費用対効果を高める

収益性が証明されている>マーケティング・営業方法に資金を集中させて、安定して結果を出すことで、CACを減らせます。

インバウンドマーケティング

顧客自らが自社の商品・サービスを知ってもらえるような仕組みを作るために、オウンドメディアを利用するなどインバウンドマーケティングがあげらます。インバウンドマーケティングは、ストック型コンテンツとして蓄積されるため、長期的にCACを削減します。

まとめ

CACは1人の顧客を獲得するのにかかる総コストのことです。LTV/CAC比率が比較的高い状態にあると、事業拡大をしてもあまり利益を得られません。そのため、CACを常に見つめて、状況に応じて改善する施策をうつことが重要だと言えるでしょう。

価格・プライシングに関してお悩みの事業者様は、一度プライスハックにお問い合わせください。

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LTV(ライフタイムバリュー・顧客生涯価値)とは|計算方法・顧客獲得との関係

企業の状態を理解するために、顧客のLTVを把握することは、最も重要なことの1つです。この記事では、LTVの定義・計算方法・顧客獲得との関係性などを紹介します。

LTV(生涯顧客価値)とは

LTVとは、Life Time Value(ライフタイムバリュー)の略で、日本語では顧客生涯価値のことです。
顧客生涯価値とは、顧客1人が生涯のうちに、企業にもたらす売上または利益がどれくらいあるかを算出したものです。

LTVが売上であるか、利益であるかの明確な定義はなく、業界によって使われ方は様々です。小売業界などの売り切り型モデルのビジネスを展開する企業では、売上ベースのLTVの考え方が主である一方、SaaS業界などのサブスクリプションビジネスを展開する企業では、利益ベースのLTVの考え方が主流です。

LTV(顧客生涯価値)の計算方法・公式

LTV(顧客生涯価値)の計算方法は、次のようにあらわされます。ここでも売上ベースであるか、利益ベースであるかは注意しなければいけません。

売上ベースのLTVの計算方法

LTV=顧客の平均購入単価×平均購入回数(購入期間)

利益ベースのLTVの計算方法

LTV=ARPU(顧客あたりの平均月間収益)×粗利率×解約率

LTVと顧客獲得の関係

LTV(顧客生涯価値)は、顧客獲得を考える際に重要な指標となります。LTVを算出できれば、企業は顧客獲得のための広告費やマーケティング費用をいくらに設定すれば、健全に利益を生み出せるかを計算できます。

ここでLTVを利用した顧客獲得を考えるうえで、顧客獲得単価と称されるCPA(Cost Per Acquisition)とCAC(Customer Acquisition Cost)の違いについて解説します。

CPAとは、1人の顧客獲得に必要となった広告費のことを指します。一方、CACは顧客1人を獲得するために費やしたコストを意味し、広告費だけではなく、マーケティング費用・人件費など様々なコストを合計したものです。

顧客獲得単価の違いを理解すると、LTVの売上ベースであるか、利益ベースであるかを理解できるようになります。

売上ベースのLTVと顧客獲得

売上ベースのLTVは、CPAすなわち1人あたりの広告費の算出に役立ちます。

上限CPA=売上ベースのLTV×粗利率

上限CPAとは、顧客を1人獲得するのにかけられる最大の広告費のことです。利益(売上ベースのLTV×粗利率)を広告費が上回ると企業は赤字になってしまいます。スタートアップのような初期段階は赤字を掘ってでも顧客獲得を重要視するような場合は、上限CPA以上の広告費を使うことがありますが、基本赤字ではビジネスは成り立ちません。

利益ベースのLTVと顧客獲得

利益ベースのLTVは、CACすなわち顧客1人を獲得するための総コストの算出に役立ちます。

利益ベースのLTV>CAC×3

一般的にLTVがCACの3倍以上であると、企業は健全といわれています。1以上でも利益は出ますが、LTVは将来的な長い期間を見なければならなく、キャッシュフローにおいて問題になることがあるため、3以上という状態を目指すことが重要です。

LTV(顧客生涯価値)が重要な理由

LTVの把握が重要な理由として、顧客獲得以外にも次の点があげられます。

様々な部署で共通したKPIとして活用できる

LTVは、収益性と顧客の維持の程度を組みあわせた指標であるため、さまざまな顧客獲得の手法の成否を、その顧客のLTVから評価できます。

「営業をし続けた結果得た顧客」「マーケティングに力を入れて獲得した顧客」など、顧客獲得手法ごとに得た顧客のLTVを比較することで、力を入れるべき方向性への示唆を得られます。

ペルソナ決定に利用できる

サービス成長にあたり、理想的なペルソナの顧客を増やしていくことが重要です。理想的なペルソナの選定を「LTVの高さ」という観点から行い、LTVが高くなる顧客属性を分析することで、そのような顧客の獲得、もしくは利用を継続させる施策をおこなえます。

リテンション施策の評価に利用できる

LTVでは、顧客の維持を測れるので、顧客の継続利用を促すための取り組みや、追加購入されたものが、どのように顧客の維持に影響したかを理解できます。これにより、長期利用されるために、製品開発や施策設計の改善が可能です。

財務戦略で活用する

平均的なLTVを算出しておくことで、新規顧客の獲得が、長期的なキャッシュに与える影響を予測可能になります。これにより、成長戦略の立案や、マーケティング費用の査定が、財務の目線から可能です。

LTV(顧客生涯価値)と割引

割引の実施は、結果的に平均LTVを下げてしまうリスクがあります。割引は短期的な収益を改善することができますが、それによって集まる顧客は、長期的に会社にとって有益でない可能性があります。

通常価格で買わなかった顧客は、値上げに敏感に反応してしまう顧客が多いです。そのため、自ずと解約率が高くなってしまいます。そして、価格の低さと解約率の高さからLTVが低くなってしまいます。

LTV(顧客生涯価値)を上げる方法

LTVを上げるための3つの方法を紹介します。

顧客のアップセル

顧客単価をあげるアップセルは、LTVの拡大に繋がります。しかし、単発のアップセルでは長期的にみたLTVに大きな影響を与えないため、アップセルした場合の利用期間を継続してもらえる施策をしなければいけません。

サービスラインの拡大

複数のサービスを展開している企業の場合、1サービスを利用する顧客に対して、その繋がりを使って、別のサービスを販売することで、LTV向上を目指すことができます。

支払意欲に応じたプライシング戦略

支払意欲の高いユーザーは高い価格プランを用意し、支払意欲の低いユーザー向けに低い価格プランを用意するように、支払意欲に応じたプライシングをすることは、平均顧客単価と解約率を改善することが可能です。平均顧客単価と解約率を改善できれば、LTVの向上が可能です。

まとめ

LTVは、顧客がもたらす継続的な企業への価値を表します。
顧客単価や継続期間・継続率を包括した指標であるLTVを追跡することで、商品・サービスの状態を理解できます。

LTVを活用することで、より見通しの良い経営が可能になるでしょう。
価格・プライシングに関してお悩みの事業者様は、一度プライスハックにお問い合わせください。