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日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説

(この記事は、『日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説』の続きの記事です。)

前回までの記事では、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財業界の動向と、価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介し、

「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

そのなかでも「STEP1」の戦略立案プロセスまでを実務ベースで解説いたしました。

価格戦略が固まれば、あとはその戦略を実際の「価格」に落とし込む工程です。しかし、ここで過去の経験や勘に基づいて価格を決定している企業も少なくありません。

今回は、実際の価格へ落とし込み「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」を解説いたします。

業界の動向や価格の戦略から知りたい方は、下記前回までの記事をお読みください。
・第1部:日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説
・第2部:日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説

プライシングの「良い分析」とは

そもそも「良い分析」とはどんな分析でしょうか。
プライシングという観点で言えば、「良い分析」とは「意思決定ができる分析が良い分析である」と考えています。

もし「高度かつ複雑な分析」を是とするのであれば注意が必要です。高度かつ複雑な分析方法は、分析工数が膨大になることから、調査・分析に時間を要し、意思決定が遅れる可能性があります。

また、分析結果の解釈が難しくなり、意思決定まで落とし込めなくなるリスクすらあります。あくまでも解きたい課題を解くために、どの分析手法を選ぶのが最短経路なのかを意識するといいでしょう。

適切な価格設定に有効な2つの分析手法

私たちがよく活用しているいくつかの分析手法のなかで、日用消費財業界の商材に適していると考える分析手法を2つご紹介します。

・プライスウォーターフォール分析(PWF分析)
・PSM分析

プライスウォーターフォール分析

プライスウォーターフォール分析(PWF分析)とは、コストから価格を設定するコストベースプライシングの手法の1つです。

↓コストベースプライシングについては下記ページをチェック

ウォーターフォール(英語:Waterfall)とは、日本語で直訳すると「滝」を表しますが、プライシングの業界では、価格から様々な取引で発生する各コストを差し引いて、各取引でどれくらい収益が得られているのか、どれくらいコストが発生しているのかといった要素を視覚的に分析するものです。

コスト改善の機会を特定するのに使われるケースもあります。

プライスウォーターフォール分析のやり方

プライスウォーターフォール分析の4つの価格とコスト

プライスウォーターフォール分析では、下記「4つの価格」を「各取引で発生するコスト」に基づいて把握していくことが必要です。

<4つの価格>

  • 希望小売価格(List Price)
  • 請求価格(Invoice Price)
    • 希望小売価格から値引きなどを差し引いた実際の請求価格。これは顧客が支払った価格であり、売り手が実際に受け取る価格ではない。
  • ポケットプライス(Pocket Price)
    • 請求価格から、払い戻し、手当、貨物費を差し引いた価格。売り手が受け取れる手取り価格。
  • ポケットマージン(Pocket Margin)
    • ポケットプライスから売上原価を差し引いた価格で、最終的に企業のポケットに入る利益。

自社の価格を考えていく指標として、下記の様な企業であれば、上述のポケットプライスが適切な価格指標となりえます。

  • 扱う商品・サービスが規格品である
  • かつ、販売コストや郵送費などがほとんど変化しない

しかし、競争が激しい市場では、多くの企業がなんとか差別化を図ろうと躍起になり、取引ごとにカスタマイズされた商品やサービス・パッケージ等を提供する他、特別な配送サービスやテクニカル・サポートを用意するなどの工夫も凝らしています。

そうなると、ポケットプライスでは、ある顧客に商品やサービスを提供するときの実際のコストを反映しきれないため、注文ごとに異なるコストを差し引いた後で、最終的に企業のポケットに入る利益、すなわち上述のポケットマージンが意味を持ちます。

また、「各取引で発生するコスト」の一例としては以下のようなものが挙げられます。

<各取引で発生するコストの一例>

  • 年間取引ボーナス:年間購入額が設定基準を上回った顧客に支払われるボーナス
  • 現金割引:短期間の支払いの場合、請求価格に適用される割引き
  • 委託販売費用:メーカーが販売店・卸売店の商品在庫を負担するためのコスト
  • 共同広告協賛金:地元の小売店や卸売店が商品を広告してくれた場合に支払う協賛金
  • 特別リベート:販売店が大口顧客や全国規模の顧客などの特定顧客に割引を適用した場合に払い戻すリベート
  • 運送料:顧客に納入するまでにかかる運送料
  • 新規市場開拓ボーナス:特定顧客セグメントを開拓するための適用する割引き
  • プロモーション・ディスカウント:キャンペーン期間中の売上に対するリベートなどの販売
  • 奨励金
  • オンライン割引:インターネット、イントラネット経由での注文に適用される値引き
  • ペナルティ:品質や配達時間などの約束が守られなかったときに適用される値引き
  • 売掛コスト:代金請求から回収までにかかる金利など
  • 販売枠確保のための費用:一定の商品スペースを確保してもらうために小売店に払う費用
  • 在庫ディスカウント:季節的な需要増などを見込んで大量在庫を抱えてもらうときに小売店・卸売店に適用する値引き

プライスウォーターフォール分析の手順

プライスウォーターフォール分析は本来、収益構造を視覚化するためのものですが、これを活用することで、コスト改善を起点として収益改善を図れる「価格設定の基準」をつくります。そのステップについて詳しく解説します。

  1. 希望小売価格を確定させます。
  2. 希望小売価格から、商品のボリュームや特定の顧客への呼び込みを行うために行った値引きを差し引いて、請求価格を求めます。
  3. 希望小売価格から販売時の値引きを行った価格が請求価格であるが、これは顧客が支払った価格であり、売り手が実際に受け取る価格ではありません。
  4. 請求価格には含まれない価格があります。これは「請求外価格」とも呼ばれ、適時支払に対する割引、マーケティングやパートナーシップに関する手当、流通経費に関するリベート、販売目標や数量目標などの業績インセンティブなどが含まれます。
  5. 4番で求めた請求外価格を請求価格から差し引いた価格がポケットプライスとよばれ、各値引きを行った後の企業が受け取る最終的な価格です。
  6. 売上原価は商品の価値に直接に寄与する費用です。
  7. ポケット価格から売上原価を差し引いたものが企業が直接受け取るポケットマージンです。
  8. これまでのステップで割り引かれた「コスト」を適正化させるために、各コストが「正しく実行されたコスト」なのか、「不当に実行されたコスト」なのかを分別します。分別するためのそれぞれのコストの違いは以下のとおりです。
    1. 正しく実行されたコスト:価値を創造し、プラスのROIを生み出すのに役立つものを正しく実行されたコストとし、適正化の対象からは外れます。それらは、「取引投資または特別価格」と呼ばれます。
    2. 不適切に実行されたコスト: 価値の破壊につながり、利益の増加を促進せず、利益を生み出さないものを不適切に実行されたコストとします。それらは、積極的に排除するか、最小限にとどめる必要があります。
  9. 8番で適正化したコストをもとに、値引きのルールやポケットプライスの基準を設け、これを基準に価格を設定します。

<ルールの一例>

  • 「不適切に実行されたコスト」として大幅な割引を受けている取引先に対しては、他社と釣り合う程度に価格を引き上げる、もしくは、取引を停止する。
  • ポケットプライスを顧客特性に合わせて是正する。例えば、各顧客の取引量や取引の種類、顧客セグメントに基づいてポケットプライスの目標圏を設定する。

PSM分析

PSM分析とは、「Pricing Sensitivity Meter」 の略であり、顧客が商品とサービスに感じる価値に基づいて価格を決定するバリューベース・プライシングの手法の1つです。

↓バリューベースプライシングについては、下記ページをチェック

顧客がある商品に対して、価格に関する4つの質問を行い、「どれくらいの範囲で価格を受け入れるのか」を調査し、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算することが可能です。

<PSM分析の4つの質問>

  • その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?

PSM分析のやり方

PSM分析の「4つの交点」に学術的根拠はない。

PSM分析についてご存じの方であれば、「PSM分析を活用した価格設定では、4つの交点を参考に価格を設定します」という話を聞いたことはないでしょうか?

PSM分析では、直接的に購入したい価格を尋ねるのではく、4つの項目をアンケートで聞き、製品・サービスの価格に対する顧客の感覚(支払い意欲)を把握するのが特徴です。

<PSM分析のアンケートで聞く価格>

  • 高すぎて検討に乗らない価格
  • 高く感じる価格
  • 安く感じる価格
  • 安すぎて品質が低いと感じる価格

そして、価格調査の結果を集計すると、下記4つの交点が現れます。この交点を参考に価格決定を行うという内容です。

<PSM分析の4つの交点の価格>

  • 理想価格:最も価格拒否感が少ないと見られる価格
  • 妥協価格:高い・安いの評価が分かれる価格
  • 最高価格:これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格
  • 最低品質保証価格:これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格

しかし実際のところ、このPSM分析の4つの交点について、学術的な側面からの根拠は提示されておりません。

実際、最高価格以上でも「購入が検討に乗る人」はいますし、同様に最低品質保証価格以下でも「品質が悪いと思わない人」が存在します。

理想価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は「安すぎて品質が低いと思う人」と、「高すぎて検討に乗らないと思う人」が最小となる価格であり、必ずしも交点と一致するとは限らないのです。

多くのステークホルダーに説明責任が存在するビジネスシーンでの価格の意思決定において、この交点の正確性は全くといっていいほど力不足です。

そのため、PSM分析を活用する際は、収集したデータをプロットし、交点を参照するのではなく、集計して価格ごとの購買人数と売上を推計した方が、説明責任を果たすのに十分な結果を出すことができます。

PSM分析を活用した適切な価格の求め方

①注目すべき価格

「高すぎて検討に乗らない価格」「安すぎて品質が低いと感じる価格」の2つに注目して、分析を行っていきます。

前者よりも高い価格で売ってしまえば、高すぎてお客さんに買ってもらえません。

同様に、後者よりも安い価格で売ってしまえば品質に不安を持たれてお客さんに買ってもらえません。

これらのことから逆に、この2つの価格の間の金額で売ればお客さんは買ってくれるだろうと考えられます。

PSM分析の結果を見るときは、この仮定を置くことが大切です。

②価格ごとの顧客数と売上を推計する

それぞれの価格にした場合、どのくらいのお客さんが買ってくれるか(顧客数の推計)、そこに単価をかけることで、どのくらいの売上でたつのか(売上の推計)がわかります。
推計したデータをグラフと表に整理すると下記のような図が出来上がります。

上記図を分析することで、価格に対して下記のような根拠をもった意思決定ができるはずです。

<価格決定の例>

  • まずは戦略上市場シェアを取っていく必要があるから、「顧客最大価格」に設定しよう。
  • 売上をより伸ばしていきたいから「売上最大価格」に設定しよう。
  • 顧客の離脱が最小限に収まる範囲内で、売上が上がるこの金額に設定しよう。

PSM分析の具体的な調査・分析プロセスについては、下記ページにて解説しています。

まとめ

今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP2の「金額を決める」ステップについて解説いたしました。
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

プライシングスタジオでは日用消費財業界の企業様の価格のコンサルティングを担当させていただいております。不明点やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説

(この記事は、『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説』の続きの記事です。)

「日用消費財業界の価格戦略とは?」
「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

前回の記事では、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財業界の動向と、
価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介しました。

<価格戦略の立案・実行の流れ>
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

今回は、そのうち「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」の戦略立案方法について、「実際にどのように戦略を立案していくべきなのか?」を実務ベースに解説いたします。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定「日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説」にて解説いたします。

全部で3部構成となっておりますので、まだ前回の記事をお読みでない方は、下記のリンクよりお読みください。

第1部:『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説

価格戦略の立案に欠かせない2つの分析手法

前回の記事でもご紹介した通り、野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果から、消費者の商品を買う際の判断基準の傾向に大きな変化があることが分かりました。

消費者の判断基準が「安さ重視」から「高くても自分が気に入った商品を買う(プレミアム消費)」へ変化してきている今、価格を考える上で、企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。

市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が有効です。

<価格戦略立案に欠かせない2つの分析手法>

  • STP分析
  • ロールポジション分析

STP分析

STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。

S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくことができます。

ロールポジション分析

ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し整理することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。

また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元にロールポジション分析上で並べて比較することで競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができます。

STP分析のやり方と手順

STP分析の目的

STP分析を実行していく目的としては、市場における、自社の顧客像や製品の立ち位置を把握することで、戦略を考える上で必要な土台を整えることです。

他社との競争に効果的に勝つためには、⾃社が狙っていくターゲットの標準を、自社が最も「満⾜」を提供する可能性が⾼い消費者に標準を合わせる必要があります。

その際に、誤って他の企業と同じ市場セグメントを追求してしまうと、もっと収益が上がるはずのセグメントを⾒逃してしまうことになります。 正しく市場を分析し、追求することで、自社の立ち位置を精度高く把握することができ、戦略を考える上で必要な土台ができるのです。

STP分析の3つのフレーム

次にSTP分析の実施に必要な下記3つのフレームについて理解を深めていきましょう。

セグメンテーション

市場を細分化するプロセスです。ニーズや選好の異なる購買者グループを特定し、その特徴を明らかにします。 
市場を細分化する軸としては、下記4つの軸が用いられます。

<市場を分類する4つの軸>
①地理軸:市場を国、州、地域、郡、地元エリアといった多様な地理的に単位で市場を細分化
②人口動態軸(デモグラフィック):年齢、世帯規模、家族のライフサイクル、性別、所得、職業、教育⽔準、宗教、⼈種、世 代、国籍、社会階層等によって、市場を細分化
③社会⼼理学軸(サイコグラフィック):⼼理⾯や性格の特徴、ライフスタイル、価値観に基づいて市場を細分化
④行動学軸:製品に対する知識、態度、使用法、反応に基づいて細分化

ターゲティング

参⼊する市場を選ぶプロセスです。 ⾃社にとって最も収益性や⽬的の実現に近づける市場を決定します。 
市場の決定方法としては、下記5パターンが挙げられます。

ポジショニング

参入市場に対して⾃社の市場提供物の明確なベネフィットを確⽴し、どのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくプロセスです。

取るべきポジショニングの戦略を判断する際には、先述したロールポジション分析を活用します。

ロールポジション分析で、商品ごとに自社と競合の立ち位置を把握し、後述する自社の競争地位に応じたとるべき戦略を検討します。

セグメンテーションのやり方

セグメンテーションをする際に持つべき5つの観点と評価方法

ただ闇雲に市場を細かく細分化するだけでは意味を成しません。
市場を細分化する際には、上述の4つの軸(地理軸・人口動態軸・社会⼼理学軸・行動学軸)を参考に切り分けつつ、以下の5つの観点を持って細分化することが大切です。

<5つの観点>
①測定可能性:セグメントの規模、購買力、特性を測定できるかどうかという視点です。
②利益確保可能性:セグメントが製品やサービスを提供するのに十分な規模と収益性を有しているのかどうかという視点です。
③接近可能性:セグメントに効果的に到達し、製品やサービスを提供できるのかという視点です。
④差別化可能性:セグメントが概念的に区別できるかどうかという視点です。
⑤実⾏可能性:セグメントを引き付けて製品とサービスを提供するのに、効果的な成果を出すことができるかどうかという視点です。
また、分けられた市場に対して、「どの市場を選ぶかを判断する」ための「評価」もセットで行う必要があります。
市場の細分化から評価を行う流れについては、市場リサーチャーのロジャー・ベストが推奨する「ニーズに基づいた市場細分化アプローチ」について解説します。
<ニーズに基づいた市場細分化アプローチ>
  1. ニーズに基づいた細分化を⾏う
    1. 特定の消費問題を解決する際に顧客が求める類似したニーズやベネフィットに基づき、顧客をセグメントにわけます。
  2. セグメントの「特徴」を特定する
    1. 分類したセグメントをどのような要因が特徴づけているのか判断する必要があります。
      具体的にセグメントを特徴づける要因としては、消費者のライフスタイルや、デモグラフィックス、使用行動などがあります。
  3. セグメントの「魅⼒」を判断する
    1. あらかじめ規定されたセグメントの魅力度の基準(市場成長性、競争の激しさ、市場アクセスなど)を使い、各セグメントの全体としての魅力を判断します。
  4. セグメントの「収益性」を判断する

ターゲティングのやり方

市場を細分化し、評価が完了したら、参⼊する市場を選んでいきます。

ターゲティングの5つのアプローチ方法

参入市場の選び方として、5つのアプローチ方法が存在します。
それぞれ見ていきましょう。

①単一セグメントへの集中

単一セグメントとは名前の通り、ある特定のセグメントに特化した商品やサービスを提供することです。

メリットは、特化したセグメントのニーズについてより多くの知識を得て、強力な存在感を持つことができます。
自動車会社のフォルクスワーゲンは、小型車市場に、ポルシェはスポーツカー市場に集中することで、成功しています。

デメリットとして、ある特定のセグメントに特化することは高いリスクを伴います。
特定の市場セグメントとの状況が悪化したり、競合会社がそのセグメントに参入してくる可能性もあります。

その事例としてポラロイド社が挙げられます。 ポロライド社はデジタルカメラ技術が生まれ、インスタント写真に特化していたポロライド社の売上は大きく落ちこみました。このように高いリスクが伴うため、多くの企業は複数の市場セグメントに事業を分散させることを好みます。

②選択的専⾨化

企業の目的に合わせて、魅力的かつ適切な複数のセグメントに絞り、対象とすることです。

メリットはそれぞれ自社の商品やサービスに適していると判断され、選ばれたセグメントなので、高い収益性が期待できます。またリスクを分散させる効果もあります。

事例としては、P&Gがクレスト・ホワイトストリップスを発売した際、標的セグメントには、結婚間近な女性に加え、同性愛者の男性も含まれていました。

③製品専⾨化

いくつかのセグメントに販売できる1種類の商品に特化することです。

メリットは、特定の製品エリアにおいて評価を得ることができることです。
事例として、顕微鏡メーカーは、顕微鏡という一つの製品に特化していますが、標的セグメントは大学の研究室や、政府の研究機関、企業の研究部門など複数のセグメントが存在しています。

デメリットとしては、その製品が画期的なテクノロジーにとってかわられるといったようなリスクが存在することです。

④市場専⾨家

特定の顧客グループの多数のニーズを満たすことに集中します。

メリットは、この顧客グループから高い評価が得られると、このグループに別の商品を売り込むことができることです。
事例としては、研究室にのみに多様な製品を販売する企業が挙げられます。

デメリットとしては、特定の顧客グループが予算を削ったり、財政が悪化したりすると、売上が落ちこむリスクがあることです。

⑤市場のフルカバレッジ

全ての顧客グループに彼らが求めるあらゆる製品を提供することです。巨大企業のみができる戦略です。

事例としては、コカ・コーラ(飲料メーカー)やIBM(コンピューター市場)、GM(自動車市場)などがあります。

この戦略の中にも「差別型マーケティング」「無差別型マーケティング」があります。

<無差別型マーケティング>

「無差別型マーケティング」は市場セグメントの違いを無視し、単一の製品やサービスで市場全体を対象とします。

メリットとしては、製品ラインが少ないため、研究開発、製造、在庫管理、輸送、マーケティング・リサーチ、広告、製品管理に関するコストを抑えることができます。

デメリットとしては、企業は最大多数の購買者にアピールする必要があるため、莫大な予算が必要となるので、大きな企業しかできない戦略ともいえるでしょう。

<差別型マーケティング>

「差別型マーケティング」は企業が複数のセグメントに事業を展開し、セグメントごとに異なる製品を設計します。

一般的に差別型マーケティングのほうが、無差別型マーケティングよりもコストがかかると言われています。

考慮する点としては、コスト面からは、「製品改良コスト」「製造コスト」「マーケティング管理コスト」「在庫管理コスト」「プロモーションコスト」があります。

ポジショニングのやり方

セグメンテーション、ターゲティングの操作が終わったら、どのような立ち位置で参入するのか、自社が取るべきポジショニング戦略を判断していきます。

ポジショニングは、4つのステップで進めていきます。

<ポジショニングの4つのステップ>

  1. POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。
  2. ⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。
  3. 競合製品も同じように整理する。
  4. 競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。

競争地位と取るべき戦略

4つのステップのご説明の前に、「競争地位の種類」と「地位ごとの取るべき戦略」を解説していきます。

競争地位①:リーダー

  • リーダーの特徴:関連製品の市場で最⼤の市場シェアを誇っています。そして通常、価格変更、新製品導⼊、 流通範囲、プロモーションの⾯で他社をリードしています。
  • リーダーの取るべき戦略基本方針としては、全方位戦略をとり、自社シェアの維持や市場の拡大をさせることが戦略的目標になります。

競争地位②:チャレンジャー

  • チェレンジャーの特徴:業界で第2位、第3位、あるいは更に低い地位にある企業はしばしば2番⼿企業もしくは追⾛企業と⾔われます。
  • チャレンジャーの取るべき戦略市場戦略による利益への影響を分析するPIMS研究によると、一般的にシェアが高まれば収益性が高まることがわかっています。そのため、基本方針としては差別化戦略を取り、攻撃対象を明確にして競合他社の弱点をつくなどしてシェアを高めることが戦略目標になります。

競争地位③:フォロワー

  • フォロワーの特徴:リーダーに挑戦するよりも、追随する傾向にあります。リーダーを追い越す可能性は低いですが、イノベーション費用を負担していないため、高い利益を挙げることができます。
  • フォロワーの取るべき戦略基本方針としては、模倣戦略を取り、製品開発コストを抑えて高収益を達成させることが戦略目標となります。

競争地位④:ニッチャー

  • ニッチャーの特徴:大規模市場でのシェア率が低くても、小規模市場すなわちニッチャーでリーダーになる道もあります。
  • ニッチャーの戦略基本方針としては、集中戦略を取り、扱い商品の価格帯や販売チャネルなどを限定して専門化することで収益を高めることが戦略目標になります。

ポジショニングの4つの実行ステップと戦略立案例

競争地位と取るべき戦略が理解できたら、早速実行ステップを進めていきましょう。

ステップ1:POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。

POSデータをバブルチャートに整理することで、

  • 自社がシェアを取れている商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?
  • 自社がシェアを取れていない・取っていくべき商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?

などを視覚的に明らかにすることが可能です。

例えば、こちらのバブルチャートをご覧ください。

各容量と各平均価格ごとにバルブが分布しており、オレンジ色は自社商品、グレー色は他社商品のバルブを表しています。

バルブの大きさは、その商品の当期売上金額に比例した大きさになっており、他社のバルブより大きければ大きいほど、その容量帯・価格帯で自社がシェアを取っていることを表しています。

この図からは、容量200~500gの層では、自社の売上が最も大きく「リーダー」のポジションが取れていることがわかります。

しかし、小容量100~200gと大容量500~700gの層では、他社商品は存在しているものの、自社製品はない状態となっております。小容量層と大容量層だけで考えるとシェアが取れていないことがわかり、自社は「チャレンジャー」的なポジションに居ることがわかります。

ステップ2:⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。

ロールポジション分析を用いて、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類・整理していきます。

<4つの役割>

  • エントリー:量単価(内容量1gあたりの値段など)は高いが、容量が少なく、価格を抑えた製品。商品カテゴリーに馴染みのない顧客が、手軽に購入してもらいやすくし、気に入った場合にはメインの商品の購入に繋げる導入の役割がある。
  • メイン:顧客に最も頻繁に購入される製品で、容量・価格・量単価すべてが商品ラインナップの中で「スタンダードな基準」となる製品。
  • アップサイズ:大容量サイズやセット商品など、容量が増え、価格も高くなるが、量単価が安くなることでお買い得に購入できる商品。
  • プレミアム:より高い価値を求めるターゲット層向けの、メイン商品の機能以外に高い付加価値が付いた商品。量単価が高いのが特徴。

ここで4つの役割に分類することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることが出来るだけでなく、他社と比較して「シェアが取れている商品が何か」「チャレンジャーとして対抗すべき商品が何か」「これからシェアを伸ばせる商品は何か」など、商品個別の価格戦略を考えていくことが可能です。

ステップ3:競合製品も同じように整理する。

競合商品のラインナップも自社商品と同様に4つの役割に分類していきます。

上記図は、「惣菜」を例に自社製品と競合製品を4つの役割に分類した図です。

加えて、POSデータ上でのシェア順位や割合も合わせて記載することで、メイン商品・アップサイズ商品ではシェアが取れているが、プレミアム商品では他社にシェアを取られているなど、自社と他社の状況を俯瞰的に把握することが可能です。

ステップ4:競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。

自社商品と他社商品を比較した後、事業方針に応じてどの商品で、どんなポジション戦略を取っていくかを個別に検討し判断していきます。

上記図は、「ヘアスプレー」を例に、競合他社(競争地位:リーダー)に追随している自社(競争地位:チャレンジャー)が検討している戦略の一例です。

競合他社は、メイン商品の市場シェアが1~3位の上位を独占しており、その他、エントリー・アップサイズ・プレミアム商品をそれぞれ展開しています。

チャレンジャーである自社は、アップサイズの一部の製品でシェア4位を取っているが、その他の商品ではシェアが取れていないため、下記の様な戦略を検討しています。

<戦略立案例>

  • エントリー:自社がエントリーとして認識している商品は、果たして新規顧客層にとってエントリーとしてのポジションにあるのだろうか?より小ぶりな商品が必要ではないか?など、容量・価格・量単価においてエントリー商品の役割をどう定義するのか、役割の見直しを検討する。
  • メイン:市場シェア1~3位を独占する競合製品と比較し、自社商品は容量が少ない割に価格が高く、量当たり単価も高くなっている。そこで、価格を下げるか、量単価を下げるなどの価格の見直しを検討する。
  • アップサイズ:一部の製品では市場シェア4位を取れているが、競合他社から追随されている状態。そこで競合の追随に対し、どの商品であれば、容量・価格・量単価で対抗できるか検討する。
  • プレミアム:自社にはプレミアムにあたる高付加価値製品がない。競合に追随すべく、プレミアム商品の開発を検討する。

まとめ

今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP1の戦略立案方法について解説いたしました。

「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」←本記事
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

戦略が固まったら、次は「金額を決める」ステップに移ります。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定『日用消費財業界の最適価格の求め方を徹底解説』にて解説いたします。

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日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説

「日用消費財業界の価格戦略とは?」
「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

そこで今回は、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財の価格戦略の概要や実施するまでの流れ、使える分析手法についてまとめました。

この記事は、以下のような方におすすめの記事です。

  • 日用消費財業界の価格の考え⽅や戦略を知りたい 
  • 日用消費財業界の具体的な戦略⽴案から調査・分析⽅法を知りたい

全部で3部構成となっており、第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、日用消費財業界での価格戦略の検討に必要な価格の考え⽅や、実務に活かせる戦略から分析の具体的な流れを習得することができます。

また、 流れに沿って分析を進めていただくと、⾃社の取るべき戦略が見え、価格決定のご参考になると思いますので、ぜひ最後までご一読ください!

<日用消費財業界の価格戦略の記事一覧>

  • 第1部(本記事):日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説
  • 第2部:日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説(5/22掲載予定)
  • 第3部:日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説(5/29掲載予定)

1.日用消費財業界の価格戦略とは

価格戦略の基本

業界問わずすべての商品には必ず価格が設定されています。

日用消費財業界の価格の考え⽅として、「この製品にいくらの価格を設定するのか」を考える際に、「自社商品の市場での⽴ち位置を把握してそれに基づいて価格を決めること」が重要なポイントです。

日用消費財業界の特徴や動向 

日用消費財業界の価格の⼤きな特徴として、コモディティ化が挙げられます。
コモディティ化した市場においては、戦略上「他社とどう差別化していくか」が重要です。

以前は消費者のスタイルとして、「品質は問わずとにかく安さを重視する」という傾向が強くありました。
そのため、企業努力でのコスト削減による低価格化やエブリデイ・ロープライス(EDLP)になどに代表される低価格戦略が優位性となり価格競争が行われてきました。

しかし近年では、これまでの傾向と大きく変化しつつあります。
野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果によると、その大きな傾向の変化が確認できました。

近年の動向としては、高付加価値商品への「プレミアム消費」スタイルが増加しています。
以前は、製品に対してこだわりがない人が多く、その中でも、「安さ重視」が大半でした。しかし、近年では、⾼くても⾃分が気に⼊った付加価値に対して対価を⽀払う「プレミアム消費」の割合がプラス11%向上し、これまでのとにかく安さを求める「安さ納得消費」がマイナス16%と減少しています。

このことから、他社との差別化を図っていくポイントとして「どう安くするか」よりも「高くてもいいからどう付加価値を提供するか」が重要となるのです。

このように消費者の商品を買う際の判断基準が変わっているため、価格を考える上でも企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。

2.価格戦略実行の2ステップ

自社の立ち位置を意識し、差別化するためのより練られた価格戦略は、どのように立案・実行すべきなのでしょうか。

日用消費財業界の価格戦略は下記の2ステップで立案・実行していくことが可能です。

【日用消費財業界の価格戦略】

  • 「STEP1:市場での自社の立ち位置を把握し、戦略を考える」

→市場の中で自社の⽴ち位置を整理し、競争優位性を取っているポジションと⾜りていないポジションを把握し、注⼒すべき商品を明確化する。

  • 「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

→注⼒すべき商品についての必要な価格の調査・分析を⾏い、最適価格を設定する。

それぞれのステップについてわかりやすく解説していきます。

「STEP1:市場での自社の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」

STEP1では、市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えることが目的です。

市場の中で、⾃社の⽴ち位置を把握し戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が役に立ちます。

  • STP分析
  • ロールポジション分析

⬛STP分析

STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。
S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していきます。

⬛ロールポジション分析

ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し分析する手法です。役割ごとの製品のありなしや、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。

また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元に、ロールポジション分析上で、並べて比較することで、競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができるのです。

「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」

STEP2では、STEP1で明らかにした取るべき戦略や方針に基づいて、価格分析を行い適切な価格を見つけます。
価格分析の方法としては2つの手法があります。

  • プライスウォーターフォール分析(PWF分析)
  • PSM分析(価格感応度分析)

プライスウォーターフォール分析(PWF分析)

プライスウォーターフォール分析(PWF分析とは、企業が各取引から得る収益(=販売価格)とそこから種々の金額を差し引いたマージンを一覧化し、視覚的に分類したものです。

プライスウォーターフォール分析(PWF分析)では、メーカーが消費者に商品を届けるまで各取引でどれくらい収益が得られているのか、どれくらいマージンが引かれているのかを見直して、最適な価格を設定していくことが可能です。

PSM分析(価格感応度分析)

PSM分析(価格感応度分析)とは、顧客がある商品に対して、どれくらいの範囲で価格を受け入れるのかという顧客の支払い意欲の支払い意欲を調査する分析手法です。

PSM分析(価格感応度分析)では、商品に対して消費者が抱く支払い意欲を調査し、消費者が受け入れられる範囲の価格から、最も売上が上がりやすい価格や最も顧客数が伸びやすい価格を割り出していくことが可能な方法です。

以上の分析手法の具体的な進め方の手順は、

  • 日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説

第2部(5/22掲載予定)

  • 日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説

→第3部(5/29掲載予定)

にて詳しく解説していきます。

3.メーカーが抱える価格決定のよくある課題

実際に価格戦略の立案・実行を進めていくと、その中で課題にぶつかる時があります。
ここでは、メーカーが価格決定の際によく抱える課題と、それをどのように考慮すべきなのかを解説します。

①⼩売業者によって価格を決められてしまい、⾃由に価格決定ができない。

【回答】商品の価値と値段の根拠をPOSデータをもとに説明することで、⼩売業者に価格戦略の理解を促すことができ、価格変更の交渉材料にすることができます。

前提として、メーカーだけが儲かるプランではなく、お客様である⼩売店の成⻑をともに⽬指し、戦略の実⾏が将来的に小売店の売上向上や顧客数の向上につながり、また消費者のためにサービス開発への投資を行い、小売店・消費者・自社にとって三方良しとなる方針をめざしたプランである必要があります。

②営業担当から⼩売業者に対して、新しい値段を提⽰する際に納得いただける説明がしづらい。

【回答】正しい分析に基づいた価格を設定し、その背景と根拠を事業戦略上の意図も含めて説明することで、自社の営業担当も納得して考えられやすく、⼩売業者に対しても説明責任を果たすことが可能です。

4.まとめ

今回は日用消費財業界の価格戦略について、業界の特徴や動向・戦略の立案から実行方法まで解説しました。

プライシングスタジオでは、日用消費財業界の価格決定のコンサルティング支援を行っており、不明点や自社の最適な価格決定を実現したい事業者様は、お気軽にプライシングスタジオまでお問い合わせください。

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価格体系の種類とメリット・デメリット一覧

「どんな価格体系が存在しているんだろう」「価格体系ごとにどんな差があるんだろう」「どんな価格体系を採用したらいいんだろう」このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

今回は「価格体系の種類とメリット・デメリット」についてまとめました。

それぞれの価格体系の特徴を踏まえて、各事業者様が価格を設定する際にお役に立てば幸いです。

この記事は、以下のような方におすすめの記事です。

  • 価格体系にはどんな種類があるのか?を知りたい
  • 価格体系ごとのメリット・デメリットを知りたい
  • 価格体系の決め方を知りたい 

PSM分析を実務で活用する方法を解説するための3部構成の記事となっており、本記事では、第3部としてPSM分析を実際に価格に反映するための「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧」を解説します。

まずPSM分析の基礎や実施プロセスの全体像を知りたい方は第1部を、具体的なPSM分析の実施プロセスを知りたい方は第2部をお読みください。

第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。ぜひ最後まで一読ください!

1.価格体系とは?

最近では価格体系にも様々な種類があり、複雑化しています。

価格体系とは、「製品にいくら請求するか?の問いに答えるもの」と定義しています。

本来、1つの商品に対して1つの価格、いわゆる単一価格が決められておりました。しかし最近では世の中の製品は所有(モノ)としてだけでなく、利用(サービス)として認識されるようになってきており、単一価格ではない価格体系が登場してきました。

例えば、月額料金のシステムや人数ごとに課金するシステムや利用料で課金するシステムなどです。

製品の認識が所有(モノ)から利用(サービス)に変化したことで価格体系に多くの選択肢ができ、複雑化していっています。

2.価格体系の種類

よく採用されている4つの価格体系について解説していきます。

単一価格

【単一価格とは】

単一価格とは、サービスに対して料金体系が1つという最もシンプルな価格体系です。全ての顧客に対して単一の製品・機能・価格で提供します。

【単一価格のメリット】

単一価格の最大のメリットは1つのサービスに対して、1つの価格体系というシンプルさから「サービス価値を顧客に伝えやすく売りやすい」ということがあげられます。

サービスを購買する顧客は、複数のプランがある場合よりも意思決定が容易で、このことから、新規顧客の獲得の増加にもつながりやすくなります。

【単一価格のデメリット】

単一価格のデメリットは、3つあります。

①幅広いユーザーのニーズに応えることが困難

1つのプランしか用意されていないため、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になるということがあげられます。

そのため、顧客の層を狭めてしまい、本来獲得できていたはずの収益を逃す可能性があります。

BtoBサービスの場合でも、大企業と中小企業ともに同一の価格とサービスが提供されます。規模の違う企業では、ニーズも大きく異なるため、両者にとって魅力的な価格設定は難しくなります。

②売上の向上が困難

幅広いニーズに応えられないことで、売上の向上が困難になります。

複数プランがないことは、顧客の単価を向上させるための高額な上位モデルに乗り換えてもらうアップセルを行うことができません。

③顧客に心理的弊害をもたらす場合がある

プランの選択肢がないため、一部の顧客にとっては一緒くたな対応をされていると感じ、サービスへの好感度が低くなる可能性があります。

例えば、単一価格の商品やサービスに対して購入回数や購入量が多い顧客と少ない顧客がいる場合、購入回数や量が多い一部の顧客は、「こんなに購入しているのにも関わらず、価格が一定で優遇されていない」と感じるケースが考えられます。

こうしたケースの場合、購入回数や購入量が多い顧客には特別なベネフィットを提供することで、よりサービスに対して「信頼」や「愛着」などの顧客ロイヤルティが高まり、リピートに繋がる可能性が考えられます。

しかし、単一価格の場合は、上記のような対応ができないため、一部の顧客においては企業が提供するサービスを享受することが無くなることも想定されます。

【単一価格モデルを導入している企業例】

現在、単一価格モデルを導入している企業はほとんどありませんが、その中でも成功例として挙げられるのはBasecampという企業です。

Basecampでは、複数のアプリケーションの機能を、1つに集約したサービスを展開しています。

例えば、リアルタイムチャットの機能を持つSlack、やることリストを管理するAsana Premium、ファイルストレージを管理するDropbox、ドキュメント・カレンダー機能のあるGsuiteなどの機能が搭載されています。

これらのアプリケーションサービスを全て別々に購入した場合莫大な月額料金となりますが、これら全ての機能を月額99ドルでサービスを受けることができるのがBasecampです。

月額99ドルというのは一見高額に見えますが、ユーザー数が増えても追加料金が発生しないということは、多くのユーザーを持つ大企業などは結果的にお得になります。月額料金以上支払うことなく無制限の数のユーザーを招待できるという点はこの企業のセールスポイントであり、単一価格で成功した事例になります。

定額課金

【定額課金とは】

定額課金は​​期間ごとに定額の料金を請求する価格体系です。

【定額課金のメリット】

定額課金のメリットは、シンプルがゆえに、「顧客が価格を理解しやすく、また事業ニーズの検証がしやすい」特徴があり、特に初期のサービスで有効な価格体系です。

【定額課金のデメリット】

定額課金のデメリットは、単一価格と同様、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になるという点です。そのため、売上向上には工夫をこらす必要があります。

機能別課金

【機能別課金とは】

機能別課金とは、利用できる機能に応じて料金が変わる価格体系です。

「顧客のペルソナ」と「必要とされる機能」の把握ができていると設定しやすく、使用できる機能の数が多くなるほど価格は高くなります。

【機能別課金のメリット】

機能別課金は「一物多価」での販売になるため、単一価格や定額課金と比較し、収益を上げやすい構造になります。また、顧客がプラン変更することでアップセルが望めるという特徴もあります。

【機能別モデルを導入している企業例】

  • Slack

顧客の規模の大きさごとのニーズに適した機能が追加されていく、4段階のプランを提供しています。「フリー」は無料プランでslackを無期限で試してみたいチーム向け、「スタンダード」は中小規模の企業向け、「ビジネスプラス」は大規模な企業や高度な管理ニーズを持っている企業向け、「Enterprise Grid」は規制業界や、非常に大規模で複雑な組織を持つ企業向けとわかれています。

従量課金

【従量課金とは】

従量課金は“量”に“従”って課金する、価格体系の1つです。顧客目線だと「使った分だけお金を支払う」仕組みといえます。

【従量課金のメリット】

従量課金のメリットは2つあります。

①金額に対する顧客の納得を得やすい

ユーザーが使えば使った分に応じて利用金額が確定されるため、顧客の納得を得やすくなります。

また、機能制限がある課金モデルと異なり、全機能をとりあえず利用できたり、単価が上がる要因を事前に把握できているため、顧客にとっては非常にわかりやすいモデルとなります。

さらに、企業にとっては、一定の金額で使い放題の場合と比べ、ユーザーの利用状況によって、より多くの金額を請求できるため収益の最大化につながります。

②解約を回避できる場合がある

定額課金や機能別課金のサービスは、場合によっては利用する期間が一定期間に集中し、月ごとに利用量が大きく異なる場合があります。導入企業の業績によってもその傾向はあるでしょう。

そのようなサービスは、利用量が少ない期間にコストカットの対象と判断され、解約されてしまう可能性があります。しかし、従量課金制を採用していれば、利用量の少ない期間は低単価になるため、解約されにくくなります。

【従量課金のデメリット】

従量課金のデメリットは3つあります。

①利用を控えられる

利用量やユーザー数が多ければ多いほど料金が高くなる従量課金制では、顧客が単価を抑えるために利用を控えてしまう可能性があります。そうなると、本来なら解決できた課題を解決できずに、顧客の満足度が低下してしまうかもしれません。

②前払いしてもらえない

従量課金では、サービス利用後に請求が発生するため、顧客獲得コストの回収に時間がかかります。この課題を解決するために、年間一括前払いなど事前に決裁を促す工夫がなされている場合もあります。

③収益予測ができない

多くのSaaSビジネスにおいて、定額課金や機能別課金では収益予測が容易で、この点においては非常に大きな強みとなります。しかし、単価が確定できない従量課金制ではそれができません。

収益の予測がしっかりできていればいるほど、顧客獲得などに投資できるため、中長期的に大きな差が生まれる可能性も孕んでしまいます。

従量課金の種類

従量課金制には、顧客のアカウント量に従う「アカウント別従量課金」と顧客の利用量に従う「利用従量課金」があります。

①アカウント別従量課金

アカウント別従量課金は、アカウント数毎に料金が設定され、利用アカウント数の増加に比例して単価がアップしていく特徴があります。

利用ユーザーが複数おり、アカウント別で保存される内容が異なるサービスに有効です。

難点として、企業がなるべく登録ユーザー数を増やさないようにする結果、サービス満足度が低下してしまうことがあげられます。

この問題点を解決できる、ユーザー数課金を応用した「アクティブユーザー課金」モデルも存在しています。

このモデルでは、アカウント自体は好きな数登録できて、アクティブユーザーの数に応じて請求を行います。これにより、気軽に多くの社員にサービスを導入してもらい、サービス満足度の低下を防ぐことが可能です。

②利用従量課金

利用料従量課金は、良くも悪くも顧客に左右される特徴を持ち(利用されればされるほど単価が高く、利用を抑制されると単価が低くなるため)、粘着度が高いサービスで特に有効です。

料金が顧客の利用量に比例するため、透明性が高く、フェアな価格体系とされていますが、顧客が料金を抑えるために利用を控えるリスクを孕みます。

またB2Bのサービスの場合、料金の予測が立てづらいため稟議が通りにくいという傾向もあります。

従量課金の金額の上がり方の種類

従量課金には下記の図のように金額の上がり方が異なる4つのパターンがあります。

①完全従量課金

完全従量課金は、利用量に比例して金額が上がっていきます。

ユーザーが使った分だけ支払うので、価格の納得感を得られやすいメリットがあります。ただし、毎月の請求額が大きく変わる可能性があり、売り上げの見通しが立てづらいデメリットがあります。

②超過従量課金

超過従量課金では、基本料金が設定されており、超過利用分に応じて料金が追加されます。そのため、特定のプランの制限から超過利用した場合にプランをアップグレードするのではなく、超過した分に従量課金をかけるモデルです。

超過従量課金は、利用量が少ないライトユーザーからも最低限の売り上げを確保できます。また、利用量の多いヘビーユーザーの単価を増加させることも可能です。一方で、超過する前に利用を控える可能性があります。

③段階従量課金

段階従量課金は、利用できるユーザー数の違いや利用できるストレージの量にもとづいて、複数の料金プランがあります。

段階従量課金は、顧客が完全従量課金や超過従量課金ほど利用を控えないメリットがあります。また、毎月の支払金額に下限があるため、売り上げの見通しが立つのも特徴です。一方で、下位プランが選ばれやすい傾向にあるため、プラン設計が肝になります。

導入している企業例としては、利用できるユーザー数の違いによって料金プランが異なる「Google Workspace」や、利用できるストレージの量の違いによって料金プランが異なる「DirectCloud-BOX」が挙げられます。

Google Workspace

▼DirectCloud-BOX

④超過定額課金

超過定額課金は、一定の上限額を定め、上限額に達するまでは利用量やユーザー数に応じて料金が課金され、上限額を超過する分については定額制が適用されます。

超過定額課金は、利用量が多いが支払い意欲が低い顧客層が多い場合でも、顧客数を確保できます。一方で、支払い意欲が高い顧客の売り上げを毀損する可能性があります。

導入しているサービス例としては、インターネットや携帯電話などのパケット通信料などが挙げられます。

3.企業にあった価格体系の決め方

価格体系を決める観点

価格体系を決める観点として、「顧客と価値」「個別の価格体系」の2つの観点があります。「顧客と価値」とは誰に何を届けるか、「個別の価格体系」とは何にいくら請求するかということです。

①顧客と価値

「顧客と価値(誰に何を届けるのか)」を考えるためには、「顧客属性の整理」「提供価値の整理」双方から、検討が必要です。

顧客属性の整理で行うこととしては、実際の顧客データベースを分類できるような、顧客分類を作成することが重要です。下記のような観点で分類します。

<顧客属性分類の観点>

  • 業界/業種:どの業界、業種が対象か
  • 企業規模:どの企業規模が対象か(SMB、エンタープライズなど)
  • 部署:どの部署が対象か

価値提供の整理で行うこととしては、整理した顧客分類から「だれにどんな価値を与えているか」というサービス価値を整理します。下記のような観点で分類します。

<価値提供分類の観点>

  • 利用目的(課題)
  • 提供価値性質

 

②個別の価格体系

「個別の価格体系(何にいくら請求するか)」を考えるためには、価値と価格体系の整理・検討が必要です。

顧客への価値が「単一」か「複数」かで、1つの価格体系なのか、価格体系を組み合わせるかが決まります。

ターゲットとターゲットごとの価値を列挙し、価値ごとの価格体系を列挙していきます。

その後の流れとしては、全ターゲットに対するコア価値を選定し、ベース部分の価格体系を決定します。

その後、一部ターゲットに対するサブ価値から、オプション及びアップセル及び従量課金を選定するような流れです。

価値から考えて価格を検討している企業の実例

うまく価格体系を設定している企業の実例としては、「Survey Monkey」が挙げられます。

SurveyMonkeyはアンケート配信ツールを提供していることで有名なSaaS会社です。

顧客の80%は個人的な目的ではなく法人のビジネスシーンで活用しています。

そして、価格改定を行い、下記3点のように価値ベースの価格を整理し直しました。

<Survey Monkeyの価値と価格の関係>

①利用ユーザー数に比例した価値を表現。

②「最低利用人数」の明記で顧客対象をチーム活用前提に限定。

③一部対象が価値を感じる高度な機能を上位プランを価格体系として反映。

Survey Monkeyはこの価値と価格を整理し直し、価格変更を行った結果、ユーザーあたりの平均収益が14%増加しました。

まとめ

今回は価格体系の種類とメリット・デメリットについて、価格体系の種類からメリット・デメリット、そして企業にあった価格体系の選び方を解説しました。

価格体系の特徴ごとにメリット・デメリットが存在することは前述の通りです。

言い換えると、サービスの提供価値に応じて、適した価格体系が異なるということです。

従量課金を例にとっても、利用する量に比例して顧客へのインセンティブが増加するサービスでなければ成立しません。

価格体系を考える際は、価格設定後の価格体系をイメージしておき、それを検証する形でPSM分析などの調査を行っていくのがポイントです。

 

PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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PSM分析の実施プロセスの具体的な業務内容

(この記事は、PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像の続きの記事です。)

「PSM分析のやり方がわからない」 「適正価格はどう設定したら良いんだろう」「そもそもPSM分析は実用性があるの?」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

今回は「価格」の分析手法であるPSM分析の具体的な実施プロセスについてまとめました。

この記事は、以下のような方におすすめの記事です。

  • PSM分析とはどんな方法なのか?を知りたい
  • PSM分析の調査・分析⽅法を知りたい
  • PSM分析の実務レベルでの活⽤⽅法を知りたい

全部で3部構成となっており、
本記事では、第2部となる「PSM分析の実施プロセスの具体的な業務内容」を解説します。
PSM分析の基礎や実施プロセスの全体像を知りたい方は、第1部からお読みください。

第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、
PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。
ぜひ最後まで一読ください!

PSM分析の実施プロセスの全体像

早速PSM分析の実施プロセスについて解説していきます。全体の流れとしては7つのステップで進んでいきます。

  • ステップ1:目標設定・価格仮説立案
  • ステップ2:調査仮説の策定(顧客像と価格体系の仮説
  • ステップ3:アンケートの設問を考える
  • ステップ4:調査対象の選定
  • ステップ5:調査実施
  • ステップ6:分析結果の⾒⽅
  • ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の加⼯の仕⽅

各ステップごとの細かな業務内容について詳しく解説していきます。

ステップ1:目標設定・価格仮説立案

PSM分析の成否を分ける最も重要なことが、この⽬的設定・価格仮説⽴案です。

まず「売上が最⼤化する価格」と「顧客数が最⼤化する価格」は異なります。

事業がどうありたいのか、「売上」と「顧客数」のどちらにプライオリティーをおきたいのか、といった目的によって、プライシングで調査・分析すべき価格が異なります。すると、立案すべき価格仮説も異なってくるため、PSM分析を行う際は、この最初の目的設定と、その目的に合わせた価格仮説を立案することが最も重要なのです。

目的設定を行う際のポイントは、「事業レイヤー」「プライシングレイヤー」の2つの観点から考えることです。

具体的には、「事業がどうありたいのか」といった事業レイヤーでの目的と、「それを実現するための価格はどのようなものか」、言い換えると「どんなプライシング戦略でそれを実現するのか」といったプライシングレイヤーでの目的をそれぞれ考えることになります。

事業レイヤーでの目的「事業で何を実現したいのか」というのは、すなわち「価格の検討が必要な背景」になります。例えば以下のようなことです。

<価格の検討が必要な背景の例>

  • 中期経営計画での売り上げ目標達成
  • 新規サービスローンチ時の顧客獲得
  • サービス成熟期の利益改善
  • 顧客業界別の効率的な営業活動の実現
  • 新規ターゲット顧客層の獲得

背景が明文化できたら次は、プライシングレイヤーでの目的設定を行います。明文化した課題を解決できるような目的を考えます。具体的には以下のようなことです。

<目的の例>

  • 【中期経営計画での売り上げ目標達成】

あり得る価格変更余地を検証し、売り上げ目標を達成できるような値上げを実現する。

  • 【新規サービスローンチ時の顧客獲得】

ローンチ時の顧客獲得を実現できるような、顧客に受け入れられやすい価格を策定する。

  • 【サービス成熟期の利益改善】

顧客毀損を抑えつつ、利益目標を達成できるような値上げを実現する。

  • 【顧客業界別の効率的な営業活動の実現】

顧客の業界別に適切な価格を設定する。

  • 【新規ターゲット顧客層の獲得】

既存顧客とは異なるターゲット層を獲得しやすい価格を設定する。

そしてこの目的こそが、これから始まる価格変更(決定)プロジェクトの目的であり、実現するプライシングの理想の姿となります。

ステップ2以降ではこの状態を目指し、実行プロセスを進めていくことになります。

ステップ2:調査仮説の策定

アンケート調査を行う前に、調査仮説を立てます。
有効なアンケート調査を獲得するためには、良い調査仮説を⽴てることが重要です。

考え方としては、「顧客像」「価格体系」の2つの観点から調査仮説を⽴てます。

顧客像の仮説

顧客像の調査仮説をたてる際は、どのような特徴の顧客であれば、より多くの⾦額でも出してくれそうか(⽀払い意欲が変わりそうか)を考えます。

考える軸としては、「顧客性」「サービス利⽤状況」の2点です。B2CとB2Bに分けてそれぞれ考えると以下のようになります。

<B2C>

  • 顧客属性:性別・年収・居住地・趣味嗜好
  • サービス利用状況:利⽤している機能や、購買の頻度といったサービスの利⽤状況

<B2B>

  • 顧客属性:売り上げ・従業員数などの企業規模・業界
  • サービス利⽤状況:利⽤している機能やアカウント数といったサービスの利⽤状況

仮に候補を出すのが難しい場合は、重視したい顧客像の特徴を洗い出すと、仮説が見えやすくなります。

価格体系の仮説

価格体系の調査仮説を立てる際は、洗い出した顧客像に対して、定額課⾦や従量課⾦といった適切と思われる価格体系の仮説を立てます。

価格体系は特徴ごとにメリットデメリットが存在し、サービスの提供価値に応じて、適した価格体系が異なります。

例えば、「使った分だけお⾦を⽀払う」従量課⾦を検討している場合、課⾦軸の利⽤量に⽐例して⽀払い意欲が変わるのかを調査する必要がありますが、検討していない場合はそれを調査する必要はありません。

調査仮説を立てる際は、価格変更後の価格体系をイメージしておき、それを検証する形で調査を行っていくのがポイントです。

様々な「価格体系」の種類や違いなどの詳しい内容については「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧(第3話)」(4/28公開予定)にて解説します。

ステップ3:アンケートの設問を考える

アンケートの設問文を考えます。
設問には⽀払い意欲を調べる「⽀払い意欲調査設問」と顧客の属性を調べる「属性設問」の2種類があります。
分析の段階では、これらの 「⽀払い意欲調査設問」と「属性設問」で得られた情報を突合して分析します。

支払い意欲調査設問

「支払い意欲調査設問」とは、PSM分析を行う際によく使用される次の4つのアンケート項目です。

  1. その製品・サービスについて、あなたが⾼いと感じ始める⾦額はいくらくらいですか?
  2. その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める⾦額はいくらくらいですか?
  3. その製品・サービスについて、あなたがこれ以上⾼いと検討に乗らない⾦額はいくらくらいですか?
  4. その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる⾦額はいくらくらいですか?

属性設問

「属性設問」とは 「⽀払意欲の差」を特定するための情報、つまり、⽀払い意欲が変わるペルソナを明確化するための質問です。

「支払い意欲が高い層は〇〇のような特徴がある」「支払い意欲が低い層は〇〇のような特徴がある」といった仮説を検証するために、この〇〇の部分を属性調査で調査します。

例えば「支払い意欲が高い層は年収が高い特徴がある」という仮説があれば、年収が高いか低いかが分かる設問を加えるといった具合です。

テンプレートのある支払い意欲調査と比べると、格段に難易度が上がります。

イメージしやすいように、実際に当社が行った、Netflix(ネットフリックス)の調査で作成した設問を記載します。

支払い意欲の差を生みそうな下記3つの仮説を検証するための設問を入れました。

<Netflixの支払い意欲差が現れそうな条件>

  • 同居人数の数(購入アカウント数によって支払い意欲が変わるかもしれないという仮説)
  • 視聴デバイス(利用デバイスによって支払い意欲が変わるかもしれないという仮説)
  • 利用時間(利用量に基づき、支払い意欲が上がるのかもしれないという仮説)

また実際にお金を払っているか、現在どのプランに加入しているかによっても、支払い意欲は変わるので、分析の際に振り分けられるように情報を取得しています。

<Netflixの調査で使用した属性設問文の例>

ステップ4:調査対象の選定

アンケート設問が完成したら、調査の対象を選定します。

アンケート調査の対象は、潜在顧客または既存顧客のどちらか、またはその両⽅に対して⾏います。

潜在顧客を対象にする場合

潜在顧客とは、商品・サービスの存在を知れば(あるいはその必要性を感じさせることができれば)購⼊してくれる⾒込みのある⼈々のことを指します。

潜在顧客を対象とするケースとしては、「新規事業」の値付けの場合や既存顧客にないペルソナの顧客を獲得していく場合に調査対象とすることが多いです。

調査方法としては、調査会社を活⽤することが多いです。

既存顧客を対象にする場合

既存顧客とは、自社製品をすでに使用したことがあり、⾃社製品の価値を最も理解している人々のことを指します。

既存顧客を対象にするケースとしては、既存製品の価格変更や支払い意欲を把握したい場合に調査対象とすることが多いです。

調査⽅法としては、自社の保有リストにアンケートを実施、もしくは調査会社を活用してアンケートを実施し、自社製品の利用経験のある分析データを集計することが多いです。

<注意点>
調査対象を絞り込みすぎないようにします。

顧客属性の仮説が外れていた場合、集めた全てのデータが無意味となり、リカバリーすることができないためです。

複数の顧客属性に対し、アンケート調査を実施し、仮説Aが外れたら、仮説B、Cを検証する、といったことができるようにしておくと良いでしょう。

ステップ5:調査実施

設計した調査を実施します。

なお、調査を実施する前に今⼀度、プライシングの⽬的や、それをどのように実現するか、ずれた設問設計になってはいないかなどの調査内容の見直しを行いますが、調査要件の精度が高ければ高いほど負荷は減ります。

そして、調査の進捗を定期的にモニタリングし、アンケートの回収状況が良くない場合はリマインドの連絡をしたり、配信していない別の顧客にもアンケートを配信したりすることも必要となります。

ステップ6:分析結果の⾒⽅

調査が終了したら、分析結果のズレにつながる「ノイズデータ」を特定・排除した後に集計します。

データクレンジング

分析結果のズレにつながる「ノイズデータ」を特定・排除します。
例えば下記の様なデータは排除対象です。

<ノイズデータの例>

  • 価格が⽭盾している回答(例:「⾼すぎると感じる価格」より「安すぎると感じる価格」のほうが価格が⾼い回答しているなど)
  • ストレートアンサー(例:すべての設問回答が「1」など。)
  • 無回答

データの集計

データクレンジング後、価格調査の結果を集計します。

グラフに回答者を累積してプロット(打点)していくと、下記4つの交点がわかります。ここで判明する4つの交点だけではまだ根拠を持った価格決定ができる判断材料になっていない点に注意です。

価格の意思決定に活かすためには分析結果を加工する必要があります。

  • 上限価格:顧客が「これ以上⾼いと検討に乗らない」と感じる⾦額
  • 妥協価格:顧客が「⾼い」と感じ始める⾦額
  • 最適価格:顧客が「安い」と感じ始める⾦額
  • 下限価格:顧客が「これ以上安いと品質に不安」と感じる⾦額

ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の活用の仕⽅

価格の意思決定に活かすために、集計した価格ごとの購買⼈数と売り上げを推計していきます。

そうすることで、「〇〇円では、購買人数がどれくらいいるのか、売上はいくらになるのか」が各価格ごとに分かり、価格決定において、説明責任を果たせるほど⼗分な分析結果を出すことができます。

購買⼈数と売上を推計する

下記方法で価格ごとの購買⼈数と売上の推計をしていきます。

<購買人数と売上を推計する手順>

  1. 分析対象の顧客が「⾼すぎて検討に乗らない価格」より安く、かつ「安すぎて品質や効果に不安を感じる⾦額」より⾼い⾦額であれば購買可能と仮定します。
  2. 各価格毎に何%の顧客が購買可能か、を集計し、「購買⼈数を推計」します。
  3. 売り上げ=単価×数量ですから、「購買人数」に単価をかけ「売上を推計」します。

こうして作成したグラフが図Aで、これをわかりやすく表現したのが、図Bです。

▼図A

図Aからは、「顧客最大価格」で価格決定を行えば、顧客数を最大に伸ばすことができる可能性があるということが分かり、「売上最大価格」で価格決定を行えば、売上を最大に伸ばすことができる可能性があるということがわかります。

▼図B

図Bを見ていけば、顧客の離脱率を最も抑えながら売上を伸ばせる可能性が高い価格「最適価格」がわかります。

例えば、図Bでは、1790円まで価格を上げてしまうと、売上は11%プラスになりますが、顧客が14%離脱してしまう可能性が考えられます。一方、1490円であれば顧客の離脱を3%に抑えながら、売上は10%もアップする可能性が高いということが分かるのです。

調査・分析が済んだら「事業がどうあってほしいのか」といった事業レイヤーでの目標を達成するために「どんなプライシング戦略でそれを実現するのか」というプライシングレイヤーでの目的を達成できる価格がいくらなのかを分析結果から選びます。

PSM分析と購買人数の推計の結果の注意点

ここで、注意点が一つあります。

このPSM分析と購買人数の推計の結果は、分析対象とする回答者の顧客属性によって左右されます。 

分析の対象に、支払い意欲が高い顧客が多く含まれている場合、顧客最大価格が右に寄り、そうでない場合左に寄るということです。

顧客毎の「⽀払い意欲の差」が⽣まれる変数を特定し、実際の戦略や顧客実態と⼀致する分析対象のみで、推計を⾏う必要があります。

【支払い意欲差を特定する方法】については、主に以下に記載する2つの方法を使用します。

⽀払い意欲差を特定する⽅法

⽀払い意欲差を特定する⽅法として大きく分けて2つあり、「箱ひげ図」「散布図」があります。

箱ひげ図

箱ひげ図とはデータを可視化する際に活用されるグラフの1つで、主にデータの分布を把握したい場合に使われます。

データを4等分に分け、それらを同一のフォーマットで表します。

箱部分の中央の線は、中央値を表しており、垂直方向に出た線(ひげ)の最下部、最上部はそれぞれ最小値、最大値を表しています。また最小値、最大値だけでなく、四分位数の情報を含んでいます。

四分位数は、データを小さい順に並べて、小さなものから順位をつけた時に、

  • 25%(第一四分位数・25パーセンタイル)
  • 50%(第二四分位数・50パーセンタイル)
  • 75%(第三四分位数・75パーセンタイル)

に該当する値のことを指します。

プライシングの分析では、この箱ひげ図の、特に平均値ボリュームゾーン(図の長方形部分)に注目し、支払い意欲の傾向を確認する際に活用します。

<例:業界別の支払い意欲の比較>

箱ひげ図を用いた例として、次の図では、BtoBサービスの支払い意欲調査から得られた比較データを表しています。

縦軸では、PSM分析で取得した顧客がこれ以上高いと検討に乗らない金額(=購買してくれない金額)をとっており、横軸では比較したい顧客の属性(=今回はクライアント企業の業界)をとっています。

これを見ると「製造業」の支払い意欲が「卸売・小売業」「サービス業」に比べて、高いということがわかります。

あくまでも例ですが、「製造業のクライアントの方が、課題を強く感じており、支払い意欲が高く出ていると推察される」といった考察をすることができます。

主に「製造業」が使うサービスなのか、「それ以外の業界」が使うサービスなのかによって価格を変えたり、利用用途の差異となるトリガー(機能や利用頻度・量など)に差をつけ、「一物多価」で販売するなどの戦略を考えることができます。

定性的な要素の比較には箱ひげ図が有効ですが、定量的な要素の比較なら散布図を活用するのがいいでしょう。

散布図

散布図とは、下記のように横軸と縦軸にそれぞれ別の量をとり、データが当てはまるところにプロット(打点)して示すグラフです。

2つの量に関係があるかどうかをみるのに非常に便利なグラフです。

散布図からわかることは、あるデータに関して、縦軸と横軸のそれぞれの要素に相関関係があるのかどうかです。

相関関係とは、それぞれの要素の変動がどう関係しているかを示すもので、片方の要素がどのようにもう片方の要素に影響を与えているかを示す因果関係とは異なることに注意が必要です。相関関係があったとしても因果関係があるとは限らないということです。

<例:ビジネスマッチングアプリへの支払い意欲の比較>

散布図を用いた例として、次の図はビジネスマッチングアプリを例に、3つの散布図を比較しているものです。

3つの図それぞれで、縦軸に、支払い意欲の高低をとっており、上に行けば行くほど支払い意欲が高いということです。横軸には、左の図はオファー候補としてプロフィールを閲覧した人数、中央の図はマッチングした人数、右はオファーの送信数を取っています。

この3つの図を比較すると、マッチングした人数が多ければ多いほど顧客の支払い意欲は高いが、閲覧した人数が多くても支払い意欲は上がらないということがわかります。

ここから、マッチング数が増えるごとに課金額が増える従量課金だと顧客に受け入れられやすいということがわかります。

このように散布図は、ある変数と、支払い意欲は相関するのかを検証するのに有効な手法です。

まとめ

今回はPSM分析について、実施プロセスの具体的な業務内容を解説しました。

PSM分析は、製品・サービスの適正価格を導くために⽤いられる分析⼿法です。

顧客のアンケートにもとづき、顧客価値 から価格を算出することで、しっかりと根拠を持った適切な価格決定が実行できます。

 

本記事に続き「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧(第3部)」を公開します。

どんな価格体系が良いのか・価格体系によってどんなメリット・デメリットがあるのかが知りたい方はぜひご一読ください。

また、PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像

「PSM分析のやり方がわからない」 「適正価格はどう設定したら良いんだろう」「そもそもPSM分析は実用性があるの?」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

今回は「価格」の分析手法であるPSM分析の具体的な実施プロセスについてまとめました。

この記事は、以下のような方におすすめの記事です。

  • PSM分析とはどんな方法なのか?を知りたい
  • PSM分析の調査・分析⽅法を知りたい
  • PSM分析の実務レベルでの活⽤⽅法を知りたい 

全部で3部構成となっており、本記事では、「PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像」を解説します。

  • PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像 第1部(本記事)
  • 実施プロセスの具体的な業務内容 第2部(4/21掲載予定)
  • 価格体系の種類とメリット・デメリット一覧 第3部(4/28掲載予定)

第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。ぜひ最後までご一読ください!

1.PSM分析とは

1-1. PSM分析の「基本」

PSM分析(価格感応度分析)とは、顧客がある商品に対して、どれくらいの範囲で価格を受け入れるのかを調査するために使われる手法です。

PSMとは、「Pricing  Sensitivity  Meter」 の略であり、これらの頭文字をとってPSMというネーミングとなっています。オランダの経済学者「Van  Westendorp」 によって開発されたモデルであることからVan  Westendorp モデルと呼ばれることもあります。

PSM分析は価格に関する4つの質問を行い、その結果を分析することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかを把握することができ、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算することが可能です。

アンケートの設問文として、以下4つの項目を聞きます。

  1. その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  2. その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  3. その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
  4. その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?

1-2. PSM分析で「得られること」 

調査結果を集計すると以下4点のような指標が出てきます。

  • 理想価格:最も価格拒否感が少ないと見られる価格(「安すぎて品質が低い」価格と「高すぎて検討に乗らない」価格の交点)
  • 妥協価格高い・安いの評価が分かれる価格(「安く感じる」価格と「高く感じる」価格の交点)
  • 最高価格:これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格(「安く感じる」価格と「高すぎて検討に乗らない」価格の交点)
  • 最低品質保証価格これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格(「安すぎて品質が悪い」価格と「高く感じる」価格の交点)


よく上記4つの交点のみで調査終了と思われるケースが多いですが、実⽤性を⾼めるのであれば、より分析を進め、下記2つの指標を明らかにしていくことをおすすめします。

  • 売上最⼤価格(売上が最⼤化する価格) 
  • 顧客最⼤価格(顧客数が最⼤化する価格) 

1-3. PSM分析の「活⽤シーン」 

PSM分析がよく活用されるシーン3つをご紹介します。

  • 新製品の価格設定のタイミング

新しい製品を開発するときは、製品の価格に対する消費者の反応を把握することが重要です。

PSM分析を実施することで、製品が市場にどの程度需要があるか、どの価格帯で需要が最大化されるか、また競合他社の価格と比較した場合の競争力を判断することができます。

  •  既存製品の価格変更を検討するタイミング

既存の製品の価格変更を検討する場合は、消費者が価格変更にどのように反応するかを理解することが重要です。

PSM分析を実施することで、価格変更によって需要がどの程度変化するか、価格変更によって受ける損失を最小限に抑えることができる価格帯は何かを評価することができます。

  •  サービス価値を把握したいタイミング 

何かしらサービスを提供している場合、サービスの価値を価格以外も把握することが重要です。

PSM分析を使用することで、サービスに対する顧客のニーズと要件を評価し、顧客がサービスにどの程度価値を見出しているかを理解することができます。これにより、サービスを改善することができ、顧客満足度を向上させることができます。

1-4. PSM分析の「よくある誤解」 

PSM分析に対するよくある誤解について解説します。

  • 【誤解1】PSM分析は⽀払意欲が把握できるだけで、実⽤性が薄い。

【 回答】PSM分析は顧客セグメント等と掛け合わせて分析することが⾮常に重要です。PSM分析から把握した⽀払意欲から様々な⽰唆を見出すことで実用性は高まります。

PSM分析と顧客セグメントを掛け合わせることで、支払い意欲に違いが有る顧客の特徴を見出すことが出来ます。

つまり、「支払い意欲が高い層は〇〇のような特徴があると考えられる」「支払い意欲が低い層は〇〇のような特徴があると考えられる」といった仮説を明らかにすることが出来るのです。

よく聞く 4つの交点はわかりやすい反⾯、学術的な側⾯からの根拠は提⽰されていません。交点だけではまだ根拠を持った価格決定ができる判断材料になっていないため実用性は低いです。

  • 【誤解2】PSM分析で取得する⽀払意欲に信頼性はあるの?

【回答】PSM分析で取得できるデータは、信頼性が高いと⾔われています。直接質問法やCVM法などの他の⼿法と⽐べて、回答バイアスがかかりづらいと言われているからです。

直接質問法というのは、潜在的な購入者に対し、「〇〇(対象となる商品・サービス)をいくらなら買いたいと思いますか?」といったように製品に支払う金額を直接聞くというシンプルな手法です。この聞き方には潜在的な購入者が企業に対して、価格を下げるように交渉したいという回答バイアスが働き、実際の支払い意欲よりも低い価格で回答が集まるという欠点があります。

また、CVM分析は、「この商品が3000円だったら、購入したいと思いますか?」という質問を行い、「はい」と答えた場合、「3500円だったら、購入したいと思いますか?」などの質問を何度も繰り返していきます。あまりにも高い金額を提示しすぎると回答者が高い提示額につられて高い支払意思額を回答してしまったり、高い提示額に対する一部の支払い賛成回答によって、支払意思額の平均が高めに推定されてしまうなどのリスクが発生します。

一方、PSM分析は直接的に購入したい価格を尋ねるのではなく、製品・サービスの価格に対する顧客の感覚を把握するのが特徴のため、PSM分析のほうが回答バイアスが低く信頼性が高いと言われているのです。

2. PSM分析のメリット・デメリット

2-1. PSM分析のメリット

PSM分析を活⽤するメリットは3点あります。

①⾃由記述にて回答した価格のデータが得られるため、顧客視点での価格設定に活用できる。

自由記述形式なので回答バイアスがかかりづらく、直接質問法と違って、実際の支払い意欲よりも低い価格で回答が集まるリスクが低いです。

②設問数が少なくて済む。

4つの決まった設問文で実施できます。

③調査結果に基づいて根拠のある価格設定が可能。

勘や感覚ではなく、購買者の支払い意欲に基づいた数値やグラフで判断できます。

2-2. PSM分析のデメリット

PSM分析を活⽤するデメリットは2点あります。

①⼀般的なPSMで求める4つの交点の実⽤性が低いため、分析⽅法に⼯夫が必要。

先述した通り、4つの交点はあまり参考となる数値ではなく、顧客セグメント等と掛け合わせて分析することが⾮常に重要です。

実際、上限価格以上でも「購入が検討に乗る人」はいますし、同様に下限価格以下でも「品質が悪いと思わない人」が存在します。最適価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は「安すぎて品質が低いと思う人」と、「高すぎて検討に乗らないと思う人」が最小となる価格であり、必ずしも交点と一致するとは限らないのです。

②原価等コストを加味しないと、実現性の薄い価格が算出される。

顧客視点での支払い意欲を調査しているため、コスト的観点からの価格は考慮されていないです。最終的な価格決定の際には、コスト的観点から実現可能かどうかを確認する必要があります。

3. PSM分析の実施プロセス(自力で行う場合)

早速PSM分析の実施プロセスについて解説していきます。全体の流れとしては7つのステップで進んでいきます。

  • ステップ1:目標設定・価格仮説立案
  • ステップ2:調査仮説の策定(顧客像と価格体系の仮説)
  • ステップ3:アンケートの設問を考える
  • ステップ4:調査対象の選定
  • ステップ5:調査実施
  • ステップ6:分析結果の⾒⽅
  • ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の加⼯の仕⽅

今回は、全体の流れをご理解いただくことにフォーカスしていますので、ステップごとの細かな業務内容については、「実施プロセスの具体的な業務内容(第2部)」(4/21公開予定)をお読みください。

4.PSM分析を活⽤した価格変更の事例 

成功事例1:SaaS (SurveyMonkey)

SaaSの成功事例として、SurveyMonkeyの事例があります。
SurveyMonkeyはアンケート配信ツールを提供していることで有名なSaaS会社です。
価格を変えたことで、顧客数や売上が増加しました。

SaaSは価格体系の選択肢が多岐に渡るので、PSM分析のみで価格を決めるのは非常に難しいです。PSM分析とあらゆるアプローチを組み合わせて考えていく必要がありました。

SurveyMonkeyは、この価格変更の際に調査方法として「顧客セグメンテーション」「質的インタビュー」「PSM分析」の3つの手法を実施しました。

ここから言えることは、SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分ということです

SurveyMonkeyの場合、顧客セグメンテーションと質的インタビューを行うことでPSM分析の精度を高めて価格を決めることに成功したと言えます。

成功事例2:サブスク(ネットフリックス)

サブスクの成功事例として、Netflix(ネットフリックス)が2021年2月に実施した値上げの事例があります。

Netflixは当時、ベーシックプランの月額料金を従来の880円から990円に、スタンダードプランの月額料金を従来の1320円から1490円に、それぞれ値上げしました。
一方、プレミアムプランについては1980円の価格を維持しました。

この件を受け、弊社独自で調査データを用いてシミュレーションを行いました。
料金プランごとに、料金がいくらで何%の顧客が増減するのかを可視化したところ、今回の値上げでは、いずれのプランにおいても、ユーザー数を維持できる範囲内で売り上げを最大にできる価格を選択していたことが分かりました。

この結果からも、Netflixは適切な調査方法に基づき、プランごとに適切な価格変更を行うことで、大幅な解約もなく売上も向上に成功しています。

<アンケート調査の概要>

  • アンケート対象:実際にお金を支払って利用しているネットフリックスユーザー
  • アンケート実施期間:2021/02/06~2021/02/07
  • サンプル数:106件
  • 調査内容:現行のプランの月額料金に対する支払い意欲、顧客属性情報(性別、年齢、居住人数、オリジナル作品の視聴有無、月間視聴時間、視聴デバイス、など)

成功事例3:⾷品(マクドナルド) 

食品の成功事例として、かつて日本マクドナルドのCEOを務めていた原田泳幸氏が行ったマクドナルド改革の施策の1つ、2007年の「地域別価格」の導入の事例があります。

「地域別価格」は同じ商品であっても、東京都・神奈川県・大阪府・京都府では値段を上げ、宮城県・福島県・鳥取県・島根県では値下げをするという施策です。実は、海外ではこのように地域ごとに価格を変える施策は珍しくありません。

地域別価格の賛否について議論する場合、当然のように論点に上がるのがコストです。地域によって人件費や地価などの必要コストは変わりますし、特に飲食業態のような人件費や地価が利益率に大きく関わっているビジネスにおいてはなおさらです。コスト(原価)ベースプライシングという「コスト」を起点として価格を決める手法であれば、理にかなっているといえます。

しかし、当時のマクドナルドでは、少なくとも「コスト」を起点としたコスト(原価)ベースプライシングの発想でこの施策(地域別価格)を決めていなかったようです。

この施策は、どういう価格を設定すれば、最大の顧客が得られて、最大の利益につながるかという観点から導入したものだそうです。導入にあたっては、顧客の支払い意欲、原田氏の言葉では「プライス・センシティビティ(価格への受容性)」を考え、各地域の購買傾向を分析した末に1年がかりで各地域の価格を決定したということです。

これは居住する地域によっても、顧客の支払い意欲に差が出る可能性がある。少なくともマクドナルドの顧客においては、支払い意欲に差が出ているということです。この支払い意欲の差を基に、うまく価格設定をしたのが当時のマクドナルドです。

5.実際に寄せられたPSM分析に対する質問

  • 【質問1】BtoBとBtoCで調査結果のあたりやすさやズレなどの差はあるか?

【回答】BtoCよりBtoBのほうが必要になるサンプル数が少ないケースが多いです。

理由としては、BtoBでは、担当者が予算を上申していたり決済をとりにいく関係で価格相場を覚えている⽅が多いため、少ないサンプル数でも妥当な回答が得られやすいためです。

  • 【質問2】PSM分析をBtoBにて実施する場合、気をつける点は?

【回答】会社として払う⾦額なのか、個⼈で払う⾦額なのか、という点をしっかり明確にして聞く必要はあります。

  • 【質問3】PSM分析をBtoCにて実施する場合、気をつける点は? 

【回答】BtoCは⾊々な価値観の⽅が多く、回答される⾦額の幅が広いため、回答数が多く必要になります。

【補足】アンケート回答の精度と必要となるサンプルサイズについて

回答の精度が高い場合、必要なサンプルサイズは比較的小さくて済む可能性があります。

逆に回答の精度が低い場合、必要なサンプルサイズは比較的大きくする必要がある可能性があります。

これは、回答の精度が高いと、同じ程度の誤差率を許容した場合でも、統計的に有意な結果を得るために必要なサンプルサイズが減るためです。

逆に回答の精度が低い場合は、同じ程度の誤差率を許容した場合でも、統計的に有意な結果を得るために必要なサンプルサイズが増える傾向があります。

6.まとめ

今回はPSM分析について、基礎から実施方法の全体像を解説しました。

PSM分析は、製品・サービスの適正価格を導くために⽤いられる分析⼿法です。
顧客のアンケートにもとづき、顧客価値 から価格を算出することで、しっかりと根拠を持った適切な価格決定が実行できます。

続いて「実施プロセスの具体的な業務内容(第2部)」(4/21公開予定)を読み進めて頂くことで、より業務レベルでのPSM分析の実施プロセスについて理解することが可能です。

PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。

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プライシング戦略の基本

プライシングは、商品やサービスの収益化に直接的に大きな影響を及ぼすものです。

日本では今でも、勘や相場だけで決めている企業が数多く存在しています。そういった状況から、合理的な調査や分析のもとでプライシングの計画や方策を立てるプライシング戦略の重要性が高まっています。

そこで本記事では、プライシング戦略の基本からアプローチ方法・戦略手法・分析手法まで、網羅的に解説します。

プライシングとは?

プライシングとは、企業が製品・サービスの価格を決めることです。

価格によって収益化できるかどうかが決まるので、言うまでもなくビジネス上非常に重要な意思決定となります。収益化できれば、より事業投資を加速させ、事業成長できますが、収益化の見込みがつかなければ、投資ができず、事業成長は鈍化していきます。

事業を通じて顧客へ価値提供を行う観点からも、事業に投資し、成長させることは必要不可欠であり、そのための収益化を決定づけるものこそが価格なのです。

価格の3つの観点と事業特性に合わせたプライシング

事業に適したプライシング戦略を考えるために、まず価格決定で重要な3つの観点について説明します。
価格を決める際、考慮すべきことは、コスト(Cost)、競合(Competitor)、顧客(Customer)の3つの観点(3C)です。

  • コスト:販売するほど生まれるコストはいくらか、販売量によってコスト構造は変わるかを検討します。
  • 競合:誰が競合なのか、競合はいくらで提供しているか、競合との価値の違いは何かを把握する必要があります。
  • 顧客:顧客は誰か、顧客は自社の製品の何に価値を感じるか、顧客セグメントによって支払意欲は変わるかを把握します。

どれか1つだけで価格を決めるわけでなく、3つの観点(3C)を考慮して複合的に価格決定することが理想的なプライシングになります。

プライシング戦略における3つの価格設定アプローチ

前述した3Cの考え方をベースに、「コストアプローチ」「競合ベースアプローチ」「ニーズ志向アプローチ」の3つから、自社が属する業界や製品・サービスの特徴を踏まえて価格を決定していきます。

1.コストベースプライシング

コストベースプライシングとは、名前のとおりコスト(原価)に対して、利益を上乗せして価格を設定する方法です。

多くの企業は、商品・サービスを販売する際に、このコストベースプライシングを利用して価格を決定しています。例として、飲食業界では原価率30%が慣例的だと言われています。

2.競合ベースプライシング

競合ベースプライシングは、競合他社の価格をベンチマークとして、独自の商品・サービスに対して価格を設定する方法です。

競合ベースプライシングは、顧客価値や生産コストではなく、競合他社の価格に関する公開情報のみに焦点を当てています。

3.バリューベースプライシング

バリューベースプライシングとは、顧客が商品・サービスに感じている価値に基づいて価格を設定することです。

バリューベースプライシングにより、商品・サービスの価格を原価や競合の価格にとらわれずに、値段を決められます。

プライシング戦略で採用できる2つの手法

プライシング戦略を練る際に、事業戦略や成長戦略も合わせて考える必要があります。

先を見据えたプライシングを抜きにしては、事業の成長が見込みづらくなります。その際に用いる代表的な戦略手法として「ペネトレーションプライシング」と「スキミングプライシング」があります。

1.ペネトレーションプライシング

ペネトレーションプライシングとは、新製品を市場に送り出す初期段階で価格を低価格に設定し、ある一定の期間でシェアを高める価格戦略です。

以下で流れの一例をご紹介します。

ステップ1:初期段階の価格を製造原価と同じかそれ以下に設定する

ステップ2:市場でのシェアが増えることで、製造量が増える

ステップ3:徐々に価格を上げる

ペネトレーションプライシングは、中・長期的に利益を上げていく価格戦略になっています。

2.スキミングプライシング

スキミングプライシングは、初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する価格戦略です。

以下で流れの例をご紹介します。

ステップ1:新しい製品を早期から受け入れてくれる顧客を探す。

ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、製品の改善をする。

ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する。

ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する。

プライシング戦略の策定で用いられる分析手法

プライシング戦略の策定の際に用いられる主な分析手法は4つあります。

1.PSM分析

2.CVM分析

3.EVC Analysis

4.Split Testing Pricing

1.PSM分析

PSM分析とはバリューベースの価格設定を実現するために、顧客が商品に対して、どれくらいの範囲で価格が受け入れられるのかを調査するために使われる手法です。

PSM分析を応用することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受けいられるかを把握でき、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算できます。

2.CVM分析

CVM分析は、「さまざまな種類の生態系や環境サービス等の経済的価値を明らかにする」ことを目的とし、仮想的な市場を描いたシナリオの元でのサービスに対する被験者の支払意思額を推定する分析手法で、支払い意欲調査の一種です。

3.EVC Analysis

EVCとは、Economic Value to the Customerの略称で、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、その要素の価値を勘案した上で、販売する商品の価格決めをするための指標を指します。

価格付けの際には、EVCから数%割り引いた値を販売価格とします。そのため、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、有効な値付けの手法となります。

4.Split Testing Pricing

Split Testing Pricing(スプリット テスティング プライシング)は簡単にいうとABテストであり、スプリットテストの考え方をもとにしています。

スプリットテストとは、商品に関する様々な変更内容に対し、顧客セグメントがどのような反応を示すのかを確認することで、顧客体験を効果的に最適化する方法を把握するための方法です。

スプリットテストは、プライシングの領域よりも、ホームページの設計などのために使われることが多いです。

プライシングに活用する際の、実施方法としては、以下の4つの種類が挙げられます。

1.Lastminute Discount:実際の価格よりも高い範囲でデータベースまたは価格表に格納されている価格をランダムに表示し、購入を確認する直前に値引きを実施し、すべての顧客に実際の価格で販売する方法です。

2.Anchoring in Action:異なる価格で製品を提供するのではなく、複数の価格で複数の製品を提示し、それぞれの価格設定が他のプランの価格に対してどのような相対的な意味を持つかを調査します。

3.価格表示を変える:例えば年額ではなく、月額表示にした方が、登録者数が増加する効果が知られていますが、このように単純な価格表示の変化によって、販売数や利益がどのように変化するかを判断することができます。

4.時間によって価格を変化させる:通常スプリットテストでは同時に異なる顧客に対して異なる価格を提示しますが、時間によってすべての顧客に対して提示する価格を変化させ、どのように販売数や利益が変化するかを調査する方法です。

プライシング戦略の策定の際の方法

プライシング戦略を策定する際にどのような方法があるのでしょうか。

下記では大きく2つの方法をご紹介します。

1.プライシングの専任部署・プロジェクトを立ち上げる

1つ目のポイントは、プライシングの専任部署やプロジェクトを立ち上げることです。

価格の決定により、事業の収益やブランド価値などが左右するため、専門の部署を作って、その分野に長けた人が意思決定をする必要があるのです。

プライシングは、市場浸透やブランディング・差別化など、事業戦略によって価格設定の考え方が大きく異なります。そのため、プライシング戦略の策定には経営判断のできるメンバーが関与していることが求められます。

2.プライシングのプロに相談する

自社にプライシングに長けた人がいない場合や、自社のプライシングに根拠や自信がない場合はプライシングのプロであるコンサルティングサービスを利用することも可能です。

サービスを利用したい方や、サポート内容の詳細が知りたい方は以下リンクからプライシングスタジオの公式サイトをご覧頂けますと幸いです。

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松竹梅効果を使った客単価アップの方法

(この記事は、松竹梅効果を使った客単価アップの方法の解説記事です)

【この記事の結論】
・松竹梅効果によって「真ん中の価格の商品」が買われやすくなる!
・松竹梅効果を活用した2つの価格戦略がある!
・松竹梅効果は捨てたもんじゃない!が、注意点もある!

本日のテーマは「松竹梅効果」です。この記事を読んでいる方で「松竹梅」を知らないor見たことない方はいないのではないでしょうか。一方で、言葉は知っていても「これをどう価格戦略に活かしていけばよいか」までは知らない方が多いと思います。今回は松竹梅効果を活用した価格戦略について解説していきます。

松竹梅効果とは

3,000円・5,000円・10,000円の3つのコースが提示されたときに、5,000円のコースを選んでしまった経験はありませんか?これこそが松竹梅効果です!

「一番安い商品」「真ん中の価格の商品」「一番高い商品」の3つを提示したとき、「真ん中の価格の商品」が最も選ばれやすい現象を松竹梅効果と言います。これは、真ん中のマジックと言われることもあります。

松竹梅効果を活用した価格戦略

松竹梅効果を使ってできることとして、次の2つが挙げられます。

1.客単価を上げる
2.自社のブランド力を上げる

1. 松竹梅効果を活用した客単価UP

松竹梅効果を用いることで、現在よりも高い商品を選んでもらえることがあります。これにより客単価UPが見込めます!

飲食店を例に考えてみましょう。今、お店で最も売れているワインは3,000円のものだとします。このとき3,000円のワイン・5,000円のワイン・10,000円のワインと3種類用意してみると、松竹梅効果によって急に5,000円のワインが売れるようになります。購入されるワインが3,000円から5,000円のものに変わるため、客単価UPが見込めます。
客単価は上げたいけど、今までの価格は上げたくない」というとき、これはおすすめできます。別の商品を松竹梅効果によってうまく売ることで、客単価UPが見込めます。

2. 松竹梅効果を活用した自社のブランド力UP

普段20万円のスーツをメインに販売しているブランドで1つだけ90万円のスーツを用意してみましょう。「90万円のブランドだ」とお客さんに認識してもらえ、ブランド力UPに繋がります!

スーツブランドを例に考えてみましょう。普段、このブランドはスーツを1着20万円で売っているとします。このブランドが90万円のスーツを1つ、目立つように販売してみるとどうなるでしょうか。この90万円という価格を見てお客さんは「このスーツブランドはいいブランドなんだな」と意識するようになります。ここで、90万円のスーツ・20万円のスーツ・10万円のスーツと3つ販売してみましょう。ブランドへの安心感を持ってもらった上で、90万円のスーツは高くて検討に載らなくても20万円のスーツが売れるようになります。1番高いスーツが20万円の場合、お客さんに「このブランドは20万円のブランドなんだ」と認識されてしまいます。自社のブランド力を上げたいときには、松竹梅効果を検討してみても良いでしょう。

松竹梅効果を活用する際の注意点

活用する際の注意点として「自社の価格のレンジをお客さんに誤解される可能性がある」というものが挙げられます。

前述の通り、高すぎる商品を置くと「ブランド力があるように見せられる」というメリットを享受できます。一方で、その商品だけを見て「手の届かないブランドだ」と思われてしまうこともあります。この場合、お客さんは20万円のスーツを見る前に帰ってしまいます。つまり、松竹梅効果を活用することでターゲット層を店から遠ざけてしまう可能性があるのです。
そのため、松竹梅効果を活用する際には「どういうターゲットに売りたいのか?」を明確にした上で、そのターゲットがちょっと高いなと思うくらいのプランを松に持ってきましょう
PSM分析でターゲットが「高すぎて検討に乗らない」と分かった金額のものを松においてしまうと、先ほど説明したような誤解を招く恐れがあります。松竹梅効果を活用する際のポイントは極端ではない松竹梅のバランスを作ることです。

まとめ

今回は松竹梅効果について解説しました。松竹梅効果のような心理テクニックを用いた価格戦略も捨てたもんじゃないので、是非検討してみてください!

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専門家が解説するマクドナルドが頻繁にクーポンを出す意味

(この記事は、マクドナルドが頻繁にクーポンを出す意味はあるのか?値付けのプロが解説しますの解説記事です)

【質問】
マクドナルドでやっている10円などのクーポンって意味あるんですか?
【回答】
意味のある施策だと考えられます。値下げによる販売促進の効果も勿論ですが、それ以外にも「定価を分からなくする」という効果があるでしょう。

マクドナルドがクーポンを出す理由

高頻度でクーポンを出しておくと定価のイメージを持たれにくいです。これはいざ値上げする時に役立ちます。

マクドナルドがクーポンを出す理由として、値下げによってお客さんの数を増やす販売促進もあるでしょう。ですが、マクドナルドの狙いは別のところにあるのではないかと私は考えます。それは「定価を分からなくすること」です。
食品系の会社では、原材料費の高騰からやむを得ず商品の値上げに踏み切ることも多いです。ですが値上げはお客さんから反発を受けることも多く、炎上のリスクがあります。他にもお客さんの購買意欲低下が見込まれることから、値上げした商品は小売店で扱ってもらえなくなることもあります。値上げした花王の商品がスーパーで取扱中止になった事例も存在します。
一方で、マクドナルドが値上げした場合について考えてみましょう。普段はクーポンを用いて支払うため、お客さんの多くが定価を覚えていません。定価を覚えていないため、店側がしれっと値上げをしてもお客さんは気付きにくいのです。プライシングには様々な要因が関係してくるため、一般的に値段の見直しは頻繁に迫られます。その度に毎回毎回値上げしていると、いつも値上げしている会社として良いイメージが付きません。その際に有効な手段として考えられるのが高頻度のクーポン配布です。高頻度でクーポンを出しておくと定価のイメージを持たれにくく、値上げが成功しやすくなります。いざ値上げしないといけないときに備えてクーポンを配布し、価格変更を成功させるという方法もあるのです。

まとめ

マクドナルドが実際にこのような狙いでクーポン配布を行っているか定かではありません。ですが、販売促進に繋がらないレベルの安いクーポンにも定価を覚えにくくすることで値上げを成功しやすくするというメリットがあります。この観点からマクドナルドのクーポン戦略は大変意味のあるものだと私は考えています。

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SaaSビジネスのサービス開始時は無料にすべきか、有料にすべきか?

(この記事は、SaaSビジネスのサービス開始時は無料にすべきか、有料にすべきか?の解説記事です)

【質問】
SaaSビジネスを始めようと思っています。無料と有料、どちらで始めるべきでしょうか?
【回答】
ケースバイケースですが、ほとんどの場合有料で始めるべきです。

無料で始める際の注意点

無料で始めた場合「お金を払う気は無いが、とりあえずやってみた」というユーザーが増えます。このようなユーザーからのフィードバックには注意が必要です。

無料で始めた場合「お金を払う気は無いが、とりあえずやってみた」というお客さんが増えます。このような「本来ユーザーにはならない人」からのフィードバックを基にサービスの改善を行うとサービスの方針を誤ってしまう恐れがあります。
サービスの方針を間違えないためにも、まずは有料でサービスを開始し、有料でも来てくれる少数のお客さんに徹底的に向き合いながらサービスを作っていくことをおすすめします

無料で始めてもよいサービス

「ユーザーがいないと価値を出せないサービス」では無料で始めてもよいと考えます。ビジネスマッチングアプリなどが例として挙げられます。

上述のビジネスマッチングアプリなどでは、そもそもユーザーがいないとサービスの価値が出せません。求人掲載企業が少なければサービスの価値が出せないでしょう。このようなサービスでは「どれだけ最初にユーザーを集められるか」が勝負になってくるので、無料でサービスを始めてユーザーを確保することも戦略の1つとして考えられます。無料で始めた後で、サービスの価値を高めてから有料化を検討してみましょう。

有料の場合の価格決定の考え方

有料ではじめる場合の価格は、正直なところ適当でいいと思っています。まずはシンプルな価格で販売して「このサービスは売れるんだ」ということを明らかにしましょう

サービスを始める段階では、ニーズがあるのか無いのか明らかではありません。この状態で複雑な価格設定にしてしまうと、売れなかった場合の原因が「ニーズが無いから」なのか「価格設定のミス」ないのか分かりにくくなってしまいます。お客さんが買ってくれる最低限の価格でも良いので、まずはシンプルな価格で販売しましょう。そして、サービスにニーズがあるのか無いのか明らかにしましょう。
誰でも買ってくれるシンプルな価格設定で始めると、そのうち様々なタイプのユーザーが得られると思います。同じサービスでも、個人と法人、中小企業と大企業など財布の大きさが異なるユーザーに対しては提供できる価値も異なるでしょう。ユーザーのタイプが増えてくると「大企業向けのプラン」「中小企業向けのプラン」「個人向けのプラン」など価格のテコ入れが必要になってきますが、それまでは割と適当な価格設定で大丈夫だと思います。
一方で例外もあります。既存ビジネスのお客さんに追加でクロスセル商材として新しいSaaSを始める場合や、大企業の新規事業で売り上げ目標が重要な場合、1年目から成果を要求される場合などが例外として挙げられます。このような場合はマーケットを慎重に選ばないといけないため、ターゲットの仮説を立てるときにプライシングも一緒に考えるときがあるでしょう。

まとめ

本日は「SaaSビジネスのサービス開始時は無料にすべきか、有料にすべきか?」について解説しました。ケースバイケースですが、ほとんどの場合有料で始めることをおすすめします。これからSaaSを始める方で、ニーズが不明な場合は適当な価格設定でまずは売りましょう。売れる価格で販売して、ニーズの有無を明らかにすることがまずは重要です。